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第八十五話 試験について④

月日は流れ、ギルド最終試験当日。

初めは六千はいたであろう受験生は既に10人。1次試験2次試験3次試験と難関の試験を超えた、選りすぐりの猛者たち。ここまで残れた時点で、冒険者としての実力は保証されたも同前と言える。

例え合格できなくとも、他ギルドがこぞって入団させようと勧誘してくるので、これからの冒険者生活に困ることはないだろう。


ただ、シルフギルド所属の冒険者になれるのか……それはまた別の話だ。

例え十人に残ったところで、この4次試験に合格できなければ意味は無い。これからの人生において大きな帰路となるシルフギルド入団最終試験。

その内容は毎年恒例、シルフギルド冒険者と一体一のタイマンである。シルフギルド所属の金等級以上の冒険者と模擬戦闘を行い、受験者の実力をその場に居るシルフギルド冒険者全員が評価して書類をギルドマスターに提出。その後ギルドマスターが皆の意見を尊重する形で、合格者の決定をするのだ。


ただもちろん、僕、アズ、クリスタは試験管を除外されるのだが……最終試験は見学しろとギルドマスターから御達しが来たので、評価はできないものの参加する運びとなった。

ちょっとでも空いた時間を風の盗賊団の調査に使いたかったのだが……まあしょうがない。そう言えばジェットの活躍で、調査はさらに進展したのだとか。


何でも風の盗賊団をシルフ街の貧民街で目撃した受験者がいたらしい。その情報を掴んだ騎士団含め調査メンバーは、貧民街に潜伏調査を決行することになった。

ただ……貧民街は前に言ったと思うが、広さも明確に分からなければ立地状況も不明。地図があるはずもなく、さらに治安は最悪。調査の難航は明らか。


ちょっとでも調査を助太刀したいと思う気持ちは山々なのだが、ギルドマスターからの命令より優先する事柄なのかと問われれば否である。騎士団たちの活躍を祈って、僕は試験会場であるシルフギルドの修練場に足を踏み入れた。


……雰囲気が重い。すごい緊張感だ。

シルフギルドの冒険者ほぼ全員が、この修練場に一同に集まっているのである。

感じる空気は普通のそれとは話が違う。受験者でも何でもない僕が緊張してしまうくらいには、その空気が重いものだ。息苦しい。


シルフギルドの冒険者がほぼ全員が集まるのは、毎年この試験のときのみ。コハクやパールみたいにこの機会でしか顔を合わせない冒険者も多い。

ほぼ全員……と言っているのは、遠方でどうしても抜け出せない任務を遂行している冒険者などは戻ってきていないから。ただ最終試験に立ち会うのはシルフギルド冒険者の義務みたいなもので、ギルドマスターも強く推奨している。ギルドマスターが推奨……すなわち命令と言ってもいい。

そのため今年は、全員集まったはずだ。この雰囲気も納得である。


とりあえず僕はアズとクリスタと一緒に、修練場の隅に立っていることにする。

修練場は二階にも足場があったりとかなりの人数が入れるようになっているので、ここにいれば邪魔にはならないだろう。学校の体育館みたいな……そんな印象で持ってくれれば分かりやすいはずだ。


「へえ、やっぱりここまで残れる奴は程々強そうね。普通の冒険者ギルドならエースなんじゃない?」


アズは僕と違って落ち着いた様子だ。壁を支えにするようにして、立ちながら僕の顔をちらっと見て来る。


「間違いなく金等級にはなれるだろうね。」


そう返答すると、クリスタがじろっと僕らを見て来た。


「一般ギルドの金等級だとしても、簡単に死ぬけどな。」


「いきなりブラックなこと言わないでくださいよ。」


「真実だろ?さて……そろそろ受験者の相手をする冒険者の発表だな。よかったな今年はアズもフォスもこの一番面倒な仕事が無くなって。それとも万が一、選ばれたりするかもな。」


クリスタはクスっと、ちょっとした笑みを浮かべる。

こういうときだけクリスタは、髪も整えてるし服もきっちりしている。

背筋も真っ直ぐだ。部屋の中ではあんなだらけ具合だと言うのに、外面だけは完璧だな。


「私たちは選ばれないでしょ。カイヤに譲歩する可能性考えたら普通ねえ……。ま、私だったらボコボコにするけどね。」


アズのこういう時の笑顔は、一番寒気がする。

心から楽しそうなのがまた……


なんて思っている内に、とうとう試験開始の時刻となった。

最終試験、スタートである。


「んじゃ、最終試験始めるよー。一人目345番!前に出てきてね。そうだな……んじゃ、こっちからはアイかな。よろしく。」


ギルドマスターの一言により、サラッと一人のシルフギルド冒険者が指名される。

どうやら今年はアイらしい。


「にゃにゃ!?うちかにゃ!?頑張るにゃ!」


アイが元気よく修練場の中央に出る。

毎年思うのだが、この仕事が精神的には一番しんどいと思ってる。

受験者の相手をすると言うことは、相手をする冒険者もまたシルフギルド全員の冒険者の注目の的になるのだ。何かをやらかして、受験者に一撃でもくらってみろ。

何か月かは笑いの的である。しんどすぎ……。


「試合はーじめっ!きらっ。」


ローズの合図で、さっそく一人目の試験がスタートする。

アイは一人目の受験生の攻撃を、ステップを踏みながら余裕で交わしている。


まあ、実力差は歴然なのだが、別にこの受験生が弱い訳では無い。

ただ、僕に言わせてみれば攻撃の腕はイマイチかな。


「にゃにゃ!?緊張してるのかにゃ?気楽にやるにゃ~、リラックスにゃ。」


アイは豪快に笑っている。

シルフギルドの冒険者皆が見てるというのに、あの自信と余裕。流石である。


「はぁ、よく笑ってられるわね。あの獣。転んだりしないかしら。」

アズはそう言ってため息をついている。


このタイマン中、僕たち3人以外の冒険者は必死に受験生を評価している。

受験生の人生を決める以上、皆も真剣だ。


「よーし、カウンターにゃっ、にゃははって……あ!?大丈夫かにゃ!?」


アイのカウンターパンチが決まり、受験生がぶっ飛ばされた。

というかこっちに飛んできた。


「うわ……マジか。」


僕はそう言いつつも、体に土属性の魔力を流し込む。

そして、見事お姫様抱っこでキャッチ。


「おー、ナイスキャッチだな。」

横にいたクリスタがそう声をあげる。


どうせクリスタは動こうとしないし、アズも動くとは思えない。

起点を回して、僕がキャッチしたまでだ。


気付くと受け止めた受験生は、目をくるくる回して気絶していた。パンチの衝撃で服が破れたようで、見える脇腹には黒いアザができていた。

痛々しい。


クリスタはその様子を見て、ローズに戦闘不能の合図を送る。


「はーい、試合しゅうりょー」

ローズの声とともに、一人目の最終試験が終わった。


この子には残念だが、あのカウンターを避けられないようじゃ合格は難しい。

緊張していたのかもしれないが、冒険者とはいついかなるときでも戦えることが望まれるのだ。


僕は受験生を地面に寝させつつ、目に入ったダイヤに声をかける。

負傷用に回復魔法を得意とする冒険者は、腕に緑色の腕章をつけている。なので目に入りやすいのだ。

僕もあれ貰って、ジャッジメントですのってやりたい。


「ダイヤ、頼める?」


「もちろん、大丈夫ですよ。この子は私が治療するので、試験続行するように言ってくれます?」


「りょーかい。」


僕は素直に、ローズに合図を送った。

ローズも理解したようで、二人目の受験生が出てくる。


「この怪我で、攻撃に躊躇しないといいけどね。」


「躊躇するようだったら、シルフギルド失格だな。」


気付くとダイヤが受験生に回復魔法を使う。

そして痛みで歪んだ受験生の顔が、徐々に和らいでいくのが見えた。


「ふう、これで大丈夫です。フォスさん、この子を受験生控え室まで持っていってくれませんか?」


「あー、ちょっと僕には無理かな。控え室にカイヤ多分いるし。」


控え室行くついでに助言する可能性は否定できない。

疑わしきは罰せよ、って感じになったら困る。


「あっ、そうですよね。ごめんなさい。私も試験の評価しないといけないし……しょうがないからここに置いときますね。」


「分かった。意識が戻ったら控え室に戻るように言っておくよ。」


「そうですか?ありがとうございます。」


ダイヤはそう言うと、立ち上がり評価の用紙を持って元いた場所に戻って行った。


その後、最初のトラブル以降試験は順調に進んでいく。

気絶してた受験生も、無事控え室に戻って行った。


見た感じ、一人は合格しそうだなと思う人はいた。9人目の試験が無事終了する。

そして、最後の一人の番号が呼ばれた。


「6001番ー、どうぞー。」


ギルドマスターの声が響き、狐人の少女が前に出てきた。手には漆黒の槍を持っている。

一瞬、ちらっと自分に向けて手を振ってきた。


「んじゃー、最終試験は~じめっ!」

ローズの合図で、今日の最後の試験が始まる。


「よーし…最後……って、すんごい魔力にゃ!?」

アイは目の前の少女から放たれる魔力量に、そう言葉を漏らす。


「ふっふっふ、フォスさんが見てるのに変なマネはできません。最初っからフルパワーっです!」


カイヤはそう叫ぶと、一気に魔力が溢れだし彼女の体が真っ黒な魔力に覆われる。

そして、漆黒の甲冑の姿になった。


「はぁ!?あいつもうあんなに魔力扱うの上手くなったの!?」

アズはその様子を見て、そう声をあげた。


「クリスタあそこまで、もうしあげてたのか。」

僕もそう声を漏らし、クリスタを見る。


「ああ。と言ってもあれしかまだ出来ないけどな。けどこれは皆驚いただろう。ふふ。」

クリスタはそう言って、ニヤニヤしている。


どうやら漆黒の甲冑をまとうことしかできないようだが、それだけでも防御力は凄まじいはずだ。

グリフォンと戦った記憶が鮮明に蘇って来る。あの雰囲気に比べれば恐ろしさや雰囲気こそ控えめではあるものの、他の受験者とは雰囲気が違いすぎる。

この場にいた冒険者全員が、目の前の少女に驚いている。


「にゃ~、面白いにゃ!」

アイはそう言うと、体に魔力を巡らせている。


「行きますよ?」


そう言うと、カイヤは勢いよく飛び出しアイに素早く槍のひと突き。

アイは身軽に交わすと、回し蹴りをカイヤのお腹目がげてぶち込む。


だが、漆黒の甲冑に纏われたカイヤはビクともしない。


「にゃにゃ!?めちゃくちゃ硬いにゃ!?。ちょっと本気出すしかないにゃ!」


アイはカイヤから距離を置くと、両手の爪をたてた。

そして風属性の魔力を全身に覆う。


カイヤは構え直すと、再び距離を縮め槍を勢いよく振るう。

だがアイはステップを踏んでその攻撃避け、再び回し蹴りをした。

カイヤも素早くその蹴りに反応して交わすと、一度距離を置く。


「一度見た攻撃は、くらいませんよ!」


「にゃはは!中々やるにゃ!」


二人とも笑みを浮かべて、とても楽しそうだ。

その後の戦いは……けっこうな熱戦であった。


と言ってもカイヤの攻撃はほとんど当たらず、当たっても完全に受け止められた。

そこは実力の差なので、さすが金等級といったところか。

だがアイの攻撃もまた、漆黒の甲冑によりほとんどダメージを防がれる。

本気出せば粉砕できるのだろうけれど、下手したら死ぬので出し切れないのだろう。


おかげで試合はかなりの長時間となった。

最後はアイの攻撃がやっと体にまで響いてノックアウト。

それでもカイヤの槍捌きは元々洗練されているし、クリスタの修行でより上手になっていることは目に見えて分かった。これは試験合格には十分の実力だろう。


試験が完全に終わり、試験の撤収作業が始める。

僕ら3人がギルド内にいても邪魔なので、自分の部屋に帰ろうと試験会場を出ることにした。

ただそのとき僕とアズの前に現れたのは、ラリマーだった。彼は少し慌てた様子で、僕の目の前にまで迫って来る。


「アズ、フォス、今すぐ騎士団シルフ街本部に来い!」


「今すぐ来い?何かあったの?」


「要件は向かいながら話す。とにかくすぐにだ!いいか?」


「え、ええ!?は、はい、分かりました。」


そう言って僕ら二人は訳も分からず、騎士団シルフ街本部へと向かった。

読んでくれてありがとうございます。

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