第八十三話 試験について③
風の盗賊団の調査の件、ラリマーが情報を得たことのより進展したかのように見えたが……残念ながら調査は一行に進まなかった。
僕やアズも色々と聴き込みをしやものの有用な情報はなく、騎士団側もお手上げ状態。一般人の嘘を見抜くこと…くらいはできるので、知っているけど言わないなんてことはない。
まさかここまで情報統制がなされているとは……。
騎士団がずっと捕まえられていないのも理解できる。
これ…団員は、賊を抜ける際……暗殺などを確実にしてるな。絶対に情報が漏れないよう、システムから違う気がする。
膠着状態のまま、いつの間にか日にちは飛ぶように過ぎ……いつの間にかシルフギルドのシルフギルド入団試験、当日になっていた。
世界中のシルフギルドに入りたい人々が、こぞってこのシルフ街に押し寄せる。
その数は実に五千人を超え、シルフ街の人的被害を予見したシルフギルドは、受験生をシルフ街外の平原に集めた。
おかげで草原には、溢れるほどの人、人、人……。
この中からたった片手で足りる人数しか入団できないというのだから、恐ろしい話である。
なんで、僕は受かったのだろうか……。今でも疑問だ。
言ったように今年の試験にはカイヤがいるため、カイヤの関係者である僕やアズ、クリスタは不正防止のため試験に関わることができない。
そのため仕事が一切無い……かと思いきや、会場を間違える人がいないように、誘導看板を持つ仕事があった。おかげで日が昇っていない朝方から、僕とアズはシルフ街の門前で、立ちっぱなしである。超絶疲れた。
あと眠い。
「なんか、昔の受けたときの記憶を思い出すわね。」
アズは受験生の列を眺めながら、そんなことをつぶやく。その言葉で僕の頭の中にも、昔の記憶がドバっと溢れ出てきた。あー、試験は二度と受けたくないな……。
「そう言えば、僕らのときもこのくらいいたよな。」
「ええ。あのときは……まあいろいろあったわね。今年の試験もどうせ、一日目の試験でごっそり落とすんでしょう。カイヤが落ちたりしたら見ものね。」
「そんなことあったら、これからどう話していいか分からないよ。」
シルフギルドの試験はかなり長期スパンで行われるため、大学受験などとは全然違う。何日にも渡って、体力的にも精神的にも疲労のえぐい、驚くぐらいきつい試験だ。
まあ……あの何千人の中から冒険者の原石を見つけなければならないのだから、そのくらいやつのは当然かもしれない。
試験の内容は毎年全然違うため、試験のミスが無いように試験運営側は大忙し。採点ミスなどがあれば、それだけで人の人生を左右してしまう以上、そのようなミスは許されない。
ただ予想ではあるけど試験としての内容自体は、大まかに変わりはしないのだろう。
僕もふと、昔のシルフギルド入学試験のことを明確に思い出す。
約8年前、僕はこの試験会場に一人、剣だけを持って訪れていた。
遠くの街から馬車を乗り継いで来ていたために、試験開始時刻ギリギリで到着。
そして一日目の一次試験が始まった。
試験内容は
『ハイウルフの死体を三体、シルフギルド玄関に持ってくる、先着250名が一日目の試験合格者』
という、簡潔にして恐ろしいもの。
何千人の受験者がいるにも関わらず、先着250人しか次の試験に進めない過酷な試験内容。
試験開始が宣言された瞬間、ほぼ全員が我先にとギルドから飛び出し、ハイウルフを狩りに行ったのを覚えている。
ただこの試験には恐ろしいことに、あることが抜けているのである。多くの者はハイウルフを討伐し持ってくる…そう考えたことだろう。だがこの試験、ハイウルフの死体をどうやって得るのかの手段について、何も明記されていない。
そう、つまりハイウルフの死体を得るための手段は一切問われていないのだ。
略奪も、買収も、何でもあり。とにかく目標だけを達成せよ……という今思えば非常に冒険者らしい試験である。
僕はすぐ、そのテストの真意に気付くと、シルフ街から出ずにシルフギルド近くに隠れることにする。他にも、この試験の穴に気づいた者は100人くらいいただろうか。
他のギルドに死体を買いに行く人まで現れたほどだ。
ハイウルフ三体は倒すのが簡単とはいえ、この人数となると得るのは難しい。
購入するのは利口な判断と言える。
だが、僕は購入ではなく略奪の手段を選んだ。
先着250人と言うならば、早く来たやつから奪ってしまうだけで、間違いなく先着人数に入ることが出来る。
もちろん人間として推奨されるべき行動ではないし、返り討ちにされる危険性もある。他の同じ考えの人と取り合いにもなるだろう。僕もそれは考慮している。
きっとなろう主人公なら空間魔法とか使って、「僕何かやっちゃいました?」と言わんばかりに、誰よりも早く帰ってくることだろう。
だが僕にそんな能力はない。そんな僕が勝ち上がるためには、汚い手だろうとやらない余裕は無かった。
250人というのは受験者数に比べればとても少ない数字に見えるが、冷静に考えればかなりの人数である。いち早く帰ってくる人間は間違いなく強者であるし、僕と同じ考えの輩に間違いなく襲われるだろう。
そのため僕は150番目ぐらいの人間に狙いを定める。そして背後から一瞬で近づき、剣で峰打ち。
そのまま死体を奪って、邪魔されることも無く、無事合格。
クリスタに修行される前とは言え、実力は平均に比べればある程度あったのである。
そして……一日目の試験は終了。
2次試験は、何とかして合格した250人のみが受けられる。だがもちろん試験の難易度が下がることは無い。より過酷に、より厳しく試験は進むだけ。
また落ちた受験生から、逆恨みで夜襲されたりとけっこう散々である。
次の日の朝、ギルドに行くと番号の紙が貼り出されていた。
そこには10人ずつリストが分けられており、パーティが組まされていたのだ。
試験の内容は、
『組まれたパーティで、それぞれ指定された地点にあるゴブリン集落の討伐。一日目にグループで話し合いをしてもらい作戦を立案。二日目にそれをギルドに提出後、討伐へ向かうこと。全ての活動は、シルフギルド冒険者の監視の元で行われ、総合能力を評価するものとする。合格者は一週間後の朝発表。』
というものであった。
合格者が総合能力判断で決まると言うのだから、なかなかに曖昧である。
一次試験のような簡潔さや、分かりやすさはまるで無い。それでも挑む以外に道は無く、思考がまとまらないまま、僕はシルフギルド内の仕切られたスペースに通された。
そして、そこにいた9人と話し合うこととなる。
パーティのリーダーを決めたり、副リーダーを決めたりと、初めは非常にスムーズに話し合いは進行した。僕は特に意見することもなく発言もしなかったため、要職に選ばれることも無かった。
だが……問題は作戦決めで起こった。
リーダーとメンバーの一人の少女とで、意見の食い違いによる衝突が起こったのである。
「俺がリーダーなんだから、俺の命令に従え。当然だろうが!」
「は!?あんたの馬鹿な作戦になんで従わなければいけないのよ!ばっかじゃないの!?もっと頭使いなさいよ!この猿!」
「猿!?お前、俺はパーティリーダーだぞ!」
とまあ、こんな感じで取っ組み合いの争いが起こったのだ。
常に監視されている試験中だってのに何してんだろ……二人が言い争う様子を見てため息が出る。
パーティーリーダーは求心力が高く、すぐに周りと打ち解けるまさにリーダーに相応しい才能の持ち主であった。ただ……接するうちに分かってきたが、どちらかと言えば自己中。さらにあまり頭が良くないのか、立案能力は低い。
逆に言い争っている少女の方は賢いのか、立案する案はもっともなのだが協調性がない。
こちらも自己中。似た者同士のようで似た者同士ではない。
この場合、パーティリーダーの指示に従うのが常識だろう。だが作戦を聞く限り、リーダーでは無く、少女の方が意見が正しい。ここは冷静に僕がパーティーリーダーをなだめて、この少女の意見に納得してもらう他ない。
そう思い固く閉じてた口を開いて、言い争う二人の間に入る。
「リーダー、君が怒るのは分かるけど冷静になって欲しい。落ち着いて作戦を鑑みれば、この方の言ってることの方が正論だ。パーティの皆も少し深呼吸して、考え直して欲しい。」
「なんだ、君もリーダーの俺に従わないのか!」
残念ながら、僕には無理でした。ありがとうございました。
この頃の僕はもちろん今の僕よりも若くて幼い。故に仲介するレベルのコミュニケーション能力を、まだ得てはいなかったらしい。
結局日が沈むまで口論は続いたのだが、多数決でリーダーの意見を主軸にすることになってしまった。さらにリーダーに味方しなかった僕とその少女は完全に敵扱い。
パーティーである以上、もちろんその指示に従いはするが不満の残る一日となってしまったのだ。
その日の夜、僕は思うように寝付けなかった。何だかすごく胸がざわめくような感覚が終始、僕の心を締め付ける。これじゃあ寝れそうにない……。
夜は任務の一環としてギルドで寝泊まりすることとなっていたのだが、そう思い僕はこっそり抜け出した。シルフギルドの屋根上に上がり、夜風を浴びる。
ただ……驚くことに外に出ていたのは僕だけではなかった。
例の言い争いをしていた少女が、僕より先に屋根に陣取って座っていたのだ。
そして自然と、彼女と目が合う。
「パーティのやつら、本当に馬鹿よね。理解出来るのはどうやらあなただけみたい。」
少女は僕をちらっと見た後、再び空に浮かぶ月へと視線を送っている。
彼女の声は小さくはあったものの、夜の静けさからかはっきりと聞こえた。
「そんなことないよ。きっと冷静になれば皆、君の案の方が正しかったって気付くと思うんだ。」
そう返答すると、少女はバっと立ち上がって僕の傍まで寄って来る。
金色の髪が月光に反射して、きらりと輝いたのが見えた。
「あんた、それ本気で言ってんの?はぁ……まあ、いいわ。それで明日の作戦、あんたはどう思うわけ?」
そう問われ、一瞬無言になる。
ただ……もちろん僕の答えは決まっていた。
「正直言うと……ちょっとまずいと思う。それに君と僕は今回の件で、リーダーに嫌われている。明日。どんな無理難題を押しつけられるか分かったもんじゃないよ。」
「そうね、その通りよ。感情で作戦を失敗に導くリーダーほど、無能なリーダーはいないわ。まさに、あれは無能なリーダーよ。なんであんなやつがこの試験を受けてるのか信じられない。」
少女はそのまま、僕の横に並んできた。
彼女の赤く鋭い目が、僕の顔をちらりと覗く。
そして……
「ねえ、あんた名前なんて言うのよ。」
少女は唐突にそんなことを聞いてきた。
「僕の名前?フォスだよ。」
「そうフォスね。私の名前はアズよ。将来、シルフギルドで白金等級になる冒険者の名前何だから、その脳に刻みつけときなさい。あんたの名前も他のやつらよりは、頭が冴えるらしいから……一応覚えといてあげるわ。」
「えっと……ありがとう。じゃあアズ、明日とりあえず頑張ろうね。」
「ええ、あんたもどんなに過酷でも諦めんじゃないわよ。じゃあ、寝るわ。明日の地獄、どうにか切り抜けましょう。」
彼女はそう言って、ギルドの中に戻って行った。
考えて見れば……これが僕とアズが初めて会話した瞬間であった。
その次の日、ゴブリン集落の討伐が始まった。
作戦は、少人数が囮として、まず集落に攻撃を仕掛け注目を集める。その隙にほかのメンバーが背後から奇襲をする……という作戦である。アズが考えた、数匹をおびき出してメンバー全員で倒し、それを繰り返して時間をかけて殲滅する…作戦とは大きく異なる。
さらにこの作戦は、囮役の負担が大きい。囮役がミスればこの作戦は一瞬で崩壊する。
そして案の定……僕とアズの2人が囮役となった。
アズは弓を射抜き続け、僕も剣を振るい続けた。
僕は当時、魔法を使えなかったし、アズの弓の精度も現在と比べ大きく劣るため、その戦いはまさに死闘。到底二人で抑え込めるゴブリンの数ではなかったのだ。
そして何故か主力軍が攻撃タイミングをミスる。おかげで僕らの頑張りも、奇襲も、ほぼ意味をなさず、挟み撃ちも上手く決まらない。
何とか僕とアズが持ちこたえ続けたため、どうにか集落の討伐に成功するも、メンバー全員大負傷という結果に終わった。アズはゴブリンの弓に射られて片目を潰され、僕も片腕が斬られたことで切断。回復魔法のない世界であったら、死んでいてもおかしくなかった。
さすがにあの大失態を起こしたため、試験に落ちたな……と思って一週間後発表を見たのだが、なんと何故か僕とアズは合格していた。ただ他のパーティメンバーは全員不合格であったらしい。
審査に来ていたシルフギルドの冒険者に、善戦してたとこを見られ評価されたのかもしれない。
そして……来るべき三次試験。
会場にいたのは、僕を含め50人のみであった。
内容はまさかの筆記試験。
『7時間の時間内に回答せよ。合格発表は翌々日の朝、発表。』
内容は、魔獣の生息地や特性。数学や国語に加え、魔法の知識、社会情勢などと幅広く出題された。
僕は魔法や社会の知識に関する問題こそ、欠片も分からなかったが、元々、日本の学生として生きてきた身。基礎的な学力はある程度、この世界で言えばトップクラスに持っていた。
数学の内容も日本に比べ遅れていたのが幸いし、修行のために世界を歩いていたため魔獣の知識はたらふくある。そのため、どうにかあがくことはできた。
結果は合格。
何でも後で聞いた話だと、魔法と社会以外完答だったらしく、ギリギリで合格だったということらしい。危なすぎだろ……。
最終試験は、三次試験で合格した10人のみに行われた。
内容は、
『シルフギルドのメンバーと1体1で戦う。総合評価にて、一週間後合格者発表。』
という、一番恐ろしい内容。
何でも毎年の試験において、最終試験の内容は変わっていないらしい。
つまり今年も多分一緒。
さらにタイマンする相手は、金等級以上の冒険者。
戦闘中ずっとギルドマスターを含めた多くのシルフギルド冒険者が、鋭い目で観察しているのである。僕がその試験で戦ったのは当時、白金等級成り立てであったクリスタであった。
戦闘の結果はもちろんボコボコに負けたのだが、長時間粘り続ける善戦はした。
クリスタが手加減してくれていたこともあり槍を正確に見切って、回避に全力を尽くす。隙を見つけてちょっと攻撃して、また守りに徹するという小賢しい戦法のおかげである。
そして一週間後、結果が発表。
結果は、僕ともう一人の二人のみが合格。
もちろんそのもう一人とは……アズのこと。
合格発表会場にて、アズと鉢合わせする。
「あら、フォスも合格だったのね。おめでとう。たしかに私以外に合格するとしたら、あんたしかいなかったわね。」
「あはは、たまたまだよ。アズもおめでとう。」
そう言い合って、二人で互いに褒めたたえ合ったのである。
その日から僕とアズはシルフギルドの銅等級冒険者となり、シルフギルドで生活を送るようになった。そのまま、クリスタの元で地獄の修行を送ることとなる。
ギルドマスターは僕が魔法を使えないことや基礎体力の無さを鑑みて、魔法の扱い含め戦闘能力の高いクリスタを師匠につけたらしい。
その後数年間は、クリスタの元で修行に明け暮れた。
修行が終わった後、一人で活動することになったのだが、やはり一人の限界はある。
それで、丁度自分と同じようにソロで活動していたアズと再会した。
アズはそのときすでに、すぐに手が出ることや、すぐ問題を起こすことが知れ渡っており、評判は良くなかった。だが、僕は一緒に試験に挑み、その能力の高さを身をもって知っていた。
それで自分から誘い、パーティとなったのである。
こうして今に至る。
「思えば、あのとき私とパーティを組もうって言ってくれたのはフォスだけだったわ。だから、けっこう感謝してるのよ。」
第一試験が始まったらしく、冒険者たちがシルフ街の草原を走り出していくのを眺めながら、アズはそんなことを口にする。
どうやら今年も、何らかの魔獣の死体を持ってくる試験らしい。
「え、何か言ったか?」
「……あんた絶対聞こえてたでしょ。殴るわよ。」
アズはそう言って、僕の胸ぐらを掴んでくる。
「いや、アズにしては意外な発言で、空耳だったかなと……。」
「はぁ?まあ、いいわ。いい機会だし言っとくわよ。ありがとう!どう?聞こえたわよね?」
アズはそう言って、襟元に入れる力を強くする。
だが顔は恥ずかしそうに、赤面している。
「き、聞こえたよ。僕もありがとう。アズがいてくれたからここまでこれた。」
そう言うと、恥ずかしそうにアズは手を離した。
「ったく、当然でしょ。私は将来、白金等級になる冒険者なんだから!一緒のパーティであることに感謝しなさいよね!」
アズはそう言って、顔を赤くしながら腕を組む。
「これは典型的なツンデレというやつか……。」
「あんた何か言った?」
「いや、何も。」
僕はそう言って、笑みを浮かべた。
するとアズも、笑みを返してきた。
そして……アズと僕は、二人で向かい合い笑いだした。
なぜ笑えるのか分からない。だが、嬉しい気持ちになったことだけは確かであった。
読んで頂き感謝申し上げます。今回は二人の馴れ初めの会でした。
実はこの話は小説を投稿する以前から既に書き上げていたものなので、今の小説の雰囲気よりも明るいかもしれませんね。評価、ブックマーク登録、お願いします。
すいません多忙により、次の投稿は金曜日になります。




