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第七十五話 賊について④

僕とメノウは人影を追って、暗い夜の中を駆けていた。

細い路地裏を走り、屋根を何個も飛び越える。どれだけ離れようと、どれだけ先を走っていても、決して逃さず追う。視界から消えてもあり得る知識と、魔力の残り香を嗅ぎ取り、正確に後を走った。


シルフ街は僕らの庭。どんな裏道があるのか、どんな建物の配置をしているのか、全ての立地状況を僕とメノウは理解している。人影が走るこのルート……これは南の非常門に行くつもりだ。


南の非常門はシルフ街の中で一番小さな門。馬車や竜車が出入りすることすら難しいほどの小さな門なので、基本的に徒歩で来る旅行客用の門だ。


シルフ街は平原に囲まれた場所に位置しているため、門から出れば隠れられる場所は一つもない。どこの門から出るかさえ把握できれば逃すことはないだろう……。

ただ……こいつ、早いな。


追っている人影、そのスピードが妙に速いのだ。

シルフギルドにいると感覚が麻痺しやすいのだが、僕とメノウも世界四大ギルドの金等級冒険者。世界人口から見れば、僕らほど魔力の扱いに長けている人間は一%もいないはずだ。そんな僕らが簡単に追いつけないほどのスピードを出せると言うことは、かなり魔力の扱いに長けている……?


一度冷静に…足だけでなく目にも多くの魔力を流し、人影を観察する。

そして……ん?あの人影が履いている靴。その靴から異様に高度な魔方陣が浮かび上がっているのに気付いた。あの人影が異様に感じたのは、あの靴が原因か……。

どうやら僕だけで無く、メノウも気付いていたようで僕の方をチラッと向いて来た。


「フォス、あの靴すごい面白そうな雰囲気が、バンバンするよ。僕、欲しくなってきちゃった。」


「倒したらあげますよ。」


「太っ腹~。街内で攻撃したら被害大きくなるから、門から出ると同時に足止めね。」


「了解。」


イーグル街のときと違い、シルフ街は平穏の日常が流れている。こんな街中で魔法を打ち合うような戦いになっては、酷い被害を出してしまうことになるだろう。

ここは相手を焦らせず、ある程度の距離を離しながらも魔法の攻撃範囲に入れる。メノウが考えていることを即座に理解し、行動に移すことにした。


ピョンピョンと屋根を飛び、宙を舞う。魔方陣を展開し、呼吸を正確に整えた。

メノウもまた微笑を浮かべながら、魔方陣を手の平に展開する。

そして……人影が門を出た姿を捉えた。メノウと僕は門をくぐると同時に、魔力を大量に流動させる。


「鳥影!」


メノウが走りながら、叫んで魔法を発動させた。鳥の形をした青色の魔弾がスーッと人影へと飛んで行ったのが見える。そして「きゃっ……。」と静かな野原に響く声。


あの人影の声だろう。靴が足から外れ、転んだ姿が見えた。僕は土で作った手を飛ばすことで、その人影を地面に固定する。これで逃げることは叶わないだろう。


「流石、フォス。やるね~。」


「ありがとうございます。メノウさんも素晴らしい、魔法でした。」


「もうっ、褒めても何も出ないからね~」


メノウは愉快に笑っている様子。ただ遠くにいる人影を正確に捉え、靴を狙い撃ちする正確性。

謙遜しなくても良いほどには、素晴らしい魔法だと思った。こんな強いのに一切調子に乗らず、そのような仕草や言動を見せない。そういう所も、彼女の人間性の大きさを感じる。


数秒で僕とメノウは、人影の元へと到着した。見ると黒いマントを着ている女性であったらしい。

腰につけているポーチからは、金色に輝く高そうな物が零れ落ちているのが見える。

訳も分からず、騎士団に言われたために追って捕まえたが……窃盗だろうか?


「はーい、もう逃げられないよ。騎士団の詰所まで、僕と一緒に行ってもらうからね。」


メノウはそう言って、マントを剥ぎ帽子を脱がす。茶色く長い髪が、マントの中からだらりと垂れた。ギロリと殺気の纏った目が、僕らを睨みつける。


「離…せ……。離しな…さいよ!」


バタバタと何とか、僕の拘束から逃れようとしている。ただそんな簡単に解けるほど、僕の魔法は弱くは無い。

必死に足掻く女性を片目に、僕は脱げた靴を拾い上げた。


これは……ただの靴ではないのは分かっていたが、それにしても少しおかしい。靴と言うより……ゴーレムと言った方がいいと思えるような魔法陣が、靴に刻まれている。


つまり……この子は自身の意思で足を動かすのでは無く、靴に動かされていた……そう表現するのが正しい。

こんな不思議な靴があるとは、少し驚きだ。これがあれば魔力を流し込む技術さえあるだけで、誰もが早く走ることができる。


まさに夢の道具。ただ足が動かされる状態になるので、制御するのが難しそう……。それでも非常に興味深い。

ちょっと気になるけど…メノウが欲しいって言ってたし、あげることにしようかな。


そう思ってメノウの傍に寄ろうと思ったとき……多くの気配が僕らのいる方向に向かってくるのに気付いた。

14人くらいだろうか?平原の奥から、走って素早く僕らのいる場所に近づいてくる。


「うわ~、お仲間さんかな?」


捕まえた女性と同じ黒いマントを被った集団。そして……その全員が、不思議な靴を履いているのである。

こんだけあるなら1個くらい僕も欲しいな……何て思っているうちに彼らは素早く僕らを丸く囲んだ。


「我らは風の盗賊団。そこの同胞を今すぐ解放すれば、命だけは助けてやろう。」

リーダーと思わしき男の、野太い声が野原に響いた。やはり捕まえた女性の仲間らしい。


って、え!?こいつ今、風の盗賊団って言ったか?


「あぁ、君たちが風の盗賊団なんだね。最近巷を賑わせている、謎の組織。こんなところで会えるなんて、僕は幸せ者だね~。」


風の盗賊団……最近世間を賑わせている貴族を狙う賊の集団。確かウルツやアイによると、シルフ街の貴族を襲撃する予告が入っていたと言っていたが……まさか今日?


捕まえた女性のポーチから金品が見えていたし、既に襲撃した後だったということか。


なるほど全貌が、ちょっと見えてきた。

今日の夜、風の盗賊団はシルフ街の貴族邸宅を襲撃。窃盗に成功するも騎士団に見つかり、集団はバラバラに。そのうちの一人がちょうど、僕らに見つかる……多分こんな感じだ。


うーん……どうでもいいと思っていたのに、まさか風の盗賊団と関わることになるなんて…人生何あるか本当に分からないな。


「命だけは助ける…だっけ?僕らから君たちが命を奪えるなんて、とてもじゃないが思えないかな。魔王軍幹部くらい連れてこないと、冗談にしか聞こえない。ね、フォス。」


「えっと……そうですね。けど油断はしませんよ。」


「流石、フォス!その通りだね!」


メノウは腰に下げている鞘から剣を抜き、拘束している女性を背に構えた。僕も剣を抜き、メノウと反対側の方向を見て構える。命を奪うとは言ってるものの、彼らの狙いはこの女性の強奪。戦闘だけに集中せず、周りに気を配ることが大事だろう。女性を捕られる隙を与えてはならない。


風の盗賊団に所属している人間の確保。これはこれからの風の盗賊団の調査において、非常に重要なカギとなる。そこまでは流石に僕ら冒険者の仕事ではないけれど、騎士団に無事届けるまではしてあげるべきだ。きっと報酬も、もらえるし……。


カイヤのプレゼント購入で、マネーが心もとないのだ。お金を理由にするなんて汚いような気もするけど、絶対に成し遂げる。


絶対に守り切ってやろうとそう意気込んでいる……そのとき、リーダーと思わしき男が、あることに気付いたらしい。

そう……僕らが首からかけている金色の徽章に……。夜で視界が狭いとは言え、僕らの徽章は月光に反射して、キラリと光ったのだ。


「む……貴様ら…シルフギルドの冒険者!?」


「リーダー!」


「分かっている。貴様ら、撤退するぞ!」


あれれ……僕らを囲んでいた集団は一斉に、きびすを返すと草原の奥へと走って行ってしまった。

予想外にも彼らは賢かったようで、実力の差を理解した瞬間逃げる選択を選んだらしい。さすが今まで捕まっていない謎の集団なだけはある。引きの判断まで、統率がしっかりしているようだ。


「え~、これから暴れられると思ったのに……。」


メノウはそう愚痴をこぼしながら、景色の奥へと消えていく人影を見送る。追撃する手もあるが、ここはこの捕まえた女性を騎士団に届けるのが先決だ。


「……何だったんでしょうね?」


「何か忙しい集団だったね。風のように現れて、風のように消える。あははっ、まさに風の盗賊団ってね。」


気付くと、拘束されていた女性が気絶している。どうやらいつの間にかメノウが手を加えていたらしい。戦闘に意識を向けているようで、捕虜にもしっかり意識を向ける。


すげぇ……参考になる。

周りに意識を向ける所まで意識してるが、メノウは更に上。痒い所に手が届くとは言ったもので、細部にまで意識が回っている。そして更にはその仕草を、相手に悟らせない。味方に気づかれないほどに……。

金等級でも、やっぱりエースは格が違う気がしてくる。


メノウは女性を担ぎあげると、シルフ街へと戻っていく。僕も彼女の後を追うことにした。


「いや~、フォスがいて助かったよ。無事賊を捕まえられたことだし。」


「いえいえい、僕は何も。」


「え~そんなことないよ。フォスがいてくれて本当に助かった。なんて言うのかな、やっぱり金等級の冒険者って周りへの意識が広いから安心できるし……フォスのこともっと欲しくなってきたよ。」


「あはは、ありがとうございます。けどもちろん、パーティは入りませんよ。」


「分かってる分かってる。けどやっぱり金等級の冒険者が一緒に行動してくれる良さってのをひしひしと感じたな。ほら僕のパーティーって人数は多いけど、金等級は僕だけじゃん?僕がしっかり意識しないと、どうなるか分からないってプレッシャーがあって大変なんだ。」


「なるほど……。人数が多いと言うのは利点が多いと思ってましたけど、パーティーリーダーは大変なんですね。」


メノウは8人くらいのパーティーにおける、リーダーを務めている。ただメノウのみが金等級で、確か銀等級、銅等級の冒険者が多く入っているパーティーだった。


「そうそう。あーあ、僕も金等級冒険者のパーティー仲間が欲しいな~。同じパーティーに金等級冒険者が2人いるのが羨ましいよ。アズも、ウルツもマリンも……パールにいたっては白金等級だし!羨ましい!」


「そこまで…ですか?その…人数が多ければ銀等級冒険者とそんなに変わらない気もしますけどね。僕のパーティーはアズと二人だけの異質な状態なので、気づいてないだけかもしれませんが……。」


「フォスは、気づいてないだけだよ。やっぱり一人いるだけで明確な差ってものはある。僕のパーティーに入ってくれる金等級冒険者、いないかな~ちらっ。」


「えっと……ラリマーさんとかどうですか?あとヒスイとか?」


「え~ラリマーっていっつも1人行動してるし、ヒスイは何してるか分からない不思議ちゃんでしょ~。絶対入ってくれないよ。」


「なら……えっと、もういっそ銀等級冒険者を修行して、昇格させるのがいんじゃないですか?メノウさん。後輩の教育も上手ですし。」


「あー確かに…って、あははっ。何か会話に付き合ってくれてありがとね。何かフォスといると、なんでも話したくなっちゃうんだ。」


メノウは女性を担ぎながら、そう笑顔を僕に向けた。

その笑顔は心から喜んでいるような表情に見える。そんな姿を見ると、僕も笑顔が自然にこぼれた。


「フォスって不思議だよね。一緒にいるだけで、何でも話せちゃう。人に気を使わせない雰囲気って言うか……才能?そう言う空気を作り出す力があると思うんだ。僕もこんな楽しく会話したの久しぶりかも。」


「……そうですか?けど…そう思っていただけたなら、嬉しいです。僕も話せて楽しいですし。」


僕がそう言うと、メノウは一層喜びの表情を浮かべた。

そして僕の傍に、近寄ってくる。


「ありがとう、フォス。あっ、そうだ、フォスってカイヤとデートする予定があるんだよね?」


「はい……と言っても、準備はまだまだですけどね。」


「それなら僕、とっても良いデートスポット知ってるんだ。ギルドマスターをいつか絶対誘うって、決めてる場所。フォスにも教えてあげる。」


メノウが顔を、耳元に寄せてきた。

その仕草は少し可愛くて……少しドキドキしてしまった。なんて僕はチョロいんだろう……そう自分自身を咎めながら、僕は彼女の言葉に耳を傾ける。


「それはね……。」


そうして僕はある町の名前を、知ることになったのである。


読んで頂きありがとう。色々と知らない名前が出てきたと思いますが、直に出てくると思いますのでゆっくりお待ちください。評価、ブックマーク登録等、して欲しいな~。

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