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第七十四話 賊について③

僕はゆっくりとドアを開け、武器屋の中へと足を進めた。


豆電球によって照らされている武器屋は少し薄暗く、夕方と言うこともあり何だか不気味な感じがする。部屋の中には限界まで武器が積み上げられた棚の数々。壁や天井にまで武器が飾られており、落ちてきたらどうするつもりなのだろうか……何て邪推してしまった。


「いらっしゃい。」


唐突に、低い男の声が店の奥から聞こえる。

棚の陰から声のした方向を覗くと、カウンターの奥にドワーフの男がいた。

背が低く非常に筋肉質であり、顎と口元に白い髭。何と言うか、貫禄がある。


唐突に声をかけられたことに驚きつつ、僕は小さく会釈をする。そして武器を物色しようと、部屋奥へと歩みを進めた。


すると……奥の棚の影から、白色のベレー帽のつばが見えることに気づく。誰かいるのだろうか?そう思って近付くと、水色髪の少女が僕の前に顔を出した。

少女の首にかかる金色に輝く徽章が、ゆらりと揺れる。


「あれ、フォスだ。ここに僕以外のシルフギルド冒険者が来るなんて……何か意外だな~。」


少女はそう言って、同心上に波が揺らめくような目をギラりと光らせた。


「え!?あ、メノウさん!?えーと……こんにちは。」


「あはは~、そんなお化けみたいな反応しないでよ。僕は立派な人間だよ。」


ベレー帽を被った少女はそう言って、ニヤニヤと笑みを浮かべている。彼女の名はメノウ。

シルフギルド所属の金等級冒険者であるため、僕も面識はある。


シルフギルドの金等級冒険者は僕を含めアズや、ウルツ、ラリマーなど10人が所属している訳だが、メノウはその中でも特に目立つ存在である。


その理由は、一目瞭然。

彼女は何と、シルフギルドの長い歴史の中で、最速で金等級冒険者となった天才。現状一番白金等級に近い冒険者とも言われており、まさにシルフギルドのエース的存在なのだ。


僕とは年が数歳程度の差しか無いと言うのに、誰もが届くことのない圧倒的功績。僕は心からメノウのことを尊敬している。あとボクっ娘最高。

ただ……アズとは仲が悪いらしい。何故かは僕も知らない。


「あの……カイヤの一件では、アズと一緒に食堂で戦って下さったようで…えっと、ありがとうございます。本当に助かりました。」


「いやー、感謝されるようなことはしてないよ。僕はギルドマスターの指示に従っただけだからね。」


「そう……だったんですか?」


「そうそう。いや~けど、やっぱりフォスって礼儀正しいよね。敬語を使ってくれるし、数カ月も前のことなのにきっちりお礼言うし……うん、アズとは本当に大違い。」


「えっと、ありがとうございます。」


「んふふ~、まあ、アズもこの頃はマシになってきた気がするな~。あれってフォスのおかげだよね?アズの性格を変えさせちゃう何て、さすがフォス!すごい!」


「いえいえ、別に僕は何も。」


僕が何か及ぼした訳では無いと思うけど、アズは確かに変わった。

そしてなお今、変わってきている。

そう感じてはいたが、僕のようにそのことに気づいてくれる人がいたなんて……ちょっと嬉しい。


すぐに手が出ることはあっても、加減するようになってきた……そして何よりパワハラ対策を知った僕は殴られなくなった。こうなったのはアズが変わってきているからだろう。


「それで……フォスは何で、この店に来たのかな?もしかして武器買いに?あ、そうだよね、絶対そうだよね!そんな雰囲気を感じ取ったよ!何か僕が、オススメしてあげようか?」


メノウは唐突に嬉しそうに声色を高くすると、目をキラキラ輝かせた。

職業病と言うべきか、冒険者は魔物と武器に対して詳しくなりすぎるため、軽くオタク化する。今のメノウはまさに、そんな状況だ。


「えーと実は、カイヤの合格祝いにデートすることになりましてね。そのときにプレゼントをあげようと考えてまして……。何かオススメとかありますか?女性にオススメ…みたいなのとか……。」


僕は特に誤魔化すことも無く、素直に話すことにした。

メノウはとにかく僕に武器をオススメしたいと、目と仕草が訴えている様子。ここは断るのも悪い気がするし、彼女にあやかることにするかな……。


「合格祝いって…はやっ!?まだ試験すら始まってないよ!?そりゃクリスタが教えてる以上、受かるとは思うけどね。ま、そういうことならしょうがない!僕がいろいろアドバイスしてあげるよ。これでもギルドマスターに対してのプレゼントは数知れずの、スペシャリストなんだから。」


そう言ってメノウは、ポンっと小ぶりな胸を叩く。

あーそう言えばメノウって、ギルドマスターにゾッコンだったっけ。


多分だけど、ギルドマスターに好意を抱いている女性は、表に出さない者は多かれど多いように感じる。お金もあるし、地位も高いし、ギルドマスターの正妻争いは非常に過酷なものになるんだろうな……。うらやま。

大変だとは思うが、メノウには勝ち抜いていけるよう…僕は祈っている。


「ただ自分で言っておいてはなんなんだけど、プレゼントに武器かぁ……。カイヤの持ち武器って確か槍だよね。けどその槍は彼女自身が選んだ方いいと思わない?使いやすいとか、使いにくいとかあるだろうし。」


カイヤはそう言って、壁にかけられていた槍を手に取る。そして槍先を僕の顔に向けて、構えて見せた。


「言われてみれば、その通りですね……。やっぱり武器はやめた方いいですかね?」


「いやいや、そんなことないと思うよ~。持ち武器じゃない武器ならいいのさ。ほら、これとかね。」


メノウは手に持っていた槍を元の場所に戻すと、すぐ側の壁にかけられていた短剣を手に取って、僕に見せてきた。


「短剣だったら、槍使いだろうと何だろうと必要でしょ?懐に短剣を忍ばせておくのは、冒険者の常識だよね。」


「確かに……。短剣なら何個あっても困らないし、貰って困ることも無い。さすがメノウさんですね。」


メノウの言う通り、短剣を持っておくことは冒険者としての基本である。それは手元に武器が無くなったときに、すぐに臨時の武器として使うことができるからだ。

現に僕も剣の傍に、短剣を備えている。


中にはアズのように短剣を投げて攻撃に絡めるような戦闘スタイルもあるし……何個あっても損にはならない。理想的なプレゼントなのかも……。


「あはは、でしょでしょー。さすが僕だよね。よしじゃあ、買うからには良いの買おうよ。フォス、金はあるんでしょ?まさか女の子のプレゼントに、チンケな短剣でもあげようと思ってないよね?」


「そうですね…いっぱいと言う訳ではありませんが、ほどほどはありますよ。」


「そのほどほどって……何か心配なんだけど。フォスっていつも、貧乏だし。まあ、最悪分割払いで払ってもらえばいいよね。ドワーフのおじさーん!」


メノウはそう大声をあげて、カウンターにまで歩いていく。

僕も素早く、彼女の後に続いた。


カウンターにいたドワーフは、僕らの方をギョロっと鋭い目で見つめてくる。しかしメノウは臆する様子も無く、彼に話しかけた。


「この店自慢の短剣を見せてよ!それか、オーダーメイドでも良いけど。」


「短剣か……?分かった、待ってろ。」


ドワーフは低い声で言うと、カウンターから出て店内を歩き始める。そして数秒後……数本の短剣を持って帰ってきた。そのままカウンターにずらりと短剣を並べる。


「うちのは、こんなもんだ。何か注文があれば、作ってもいい。値段は張るがどこの店よりもいい短剣を作ってやる。」


「さすがドワーフの兄貴だね。フォス、どうする?やっぱ、僕的には作ってもらった方がいいと思うかな。」


「そうですか?ここに並べられている剣も、けっこういい物に見えますけどね……。」


カウンターに並べられている短剣は、オリハルコン製の物など一級品ばかり。剣に詳しい僕から見ても、かなり良い代物に見える。


「いや、確かにそうなんだけどね。いい?女の子へのプレゼントとして喜ばれるもの、それはなんだと思う?」


「それは…….なんでしょうね?」


「答えはね、特別…だよ。その人のためだけに作ってくれた、唯一無二の短剣。それを意中の相手からもらう!それこそ超宝物になるプレゼントってモノだよ!」


「えーと…カイヤにとって、僕は意中の相手では無いと思いますけど。」


「まあまあ、そういうのは今はいいからさ~。金、ほどほどあるんでしょ?なら作ってもらおうよ。ここは女である僕を信用してよ。」


「そ、そうですかね?まあ、分かりました。」


メノウの意見が正しいかどうかは僕にはサッパリだが、彼女がそこまで言うのだ。なら受け入れるしかない。


僕らの話し合いを聞いていたようで、ドワーフの男は嬉しそうに口を開いた。


「ほお、女性への贈り物に短剣ときたか。そりゃいいもんを作らんとな。身長とか、体重とか、手の大きさとか、いろいろ教えてくれるか?」


「はい、分かりました。身長はですね……」


カイヤの修行を指導していたため、カイヤの身長など基本情報は大体把握している。実戦技術を教えるために毎日戦っていたので、自然と頭に入っていたのだ。


何かカイヤの体重まで知ってるのって、変態みたいじゃなかろうか……。けどしょうがないのだ、分かってしまうのだから。言わゆる冒険者の(さが)、戦闘で相手の情報を瞬時に把握するのは戦闘の基本。くせなのだ、許して欲しい。


結局その後ドワーフと話し合い、オリハルコン製のカイヤ専用の短剣を作ってもらうことになった。

時間がかかるが、デートまでには完成するように作ってくれるらしい。非常にありがたい。

ただ……もちろん金は吹っ飛んだ。


全部スッカラカンでは無いし、報告書の収入が入ってくることを考えればあまり痛くはない。

そう痛くは無いのだ…うん……。


あとメノウは、わざわざ僕の短剣購入相談に最後まで付き合ってくれた。いろいろとアドバイスをくれたし、彼女にも感謝の気持ちでいっぱいだ。


「メノウさん。今日はありがとうございます。助かりました。」


僕はギルドに向かう帰り道をメノウと歩きながら、すぐ感謝の言葉を口にした。

日はいつの間にか沈み、空には星や月が爛々と輝いている。


「いやいや~先輩として、当然のことをしただけだよ。」


メノウはそう言って笑みを浮かべ、手を後ろに回しながら僕の横を歩いている。

夜風がビューっと吹き、服がバタつく。メノウの髪と僕の髪が小さくなびいた。


「そう言えば、フォスは戦争の話は聞いたのかな?」


「はい、聞きましたよ。クリスタから。来年の夏頃に戦争があるんですよね?」


「そうそう。来年の夏なんてまだまだではあるけど、だらけてはダメだよ。しっかりと準備して、自身のピークを合わせなきゃ。そうじゃないと、死んでもおかしくない……今回の戦争は今までとは一味違うらしいからね。」


「そうらしいですね……もちろん、分かってますよ。」


「そう?なら、いいや。デートとかするって言ってるから、ちょっと浮かれてるんじゃないかと思ってさ~。余計なお世話だったね。」


「いえいえ……言ってくださったおかげで、気がさらに引き締まりましたよ。」


「ふふっ、先輩を立てるのが上手いのね。も~何でこんないい人が、アズと一緒のパーティーなんて…本当に疑問だよ。アズはけっこう面倒くさい性格だからね~?大丈夫?会話とかちゃんとできてる?」


「できてますよ。アズは…まあ性格的に難があることも多いですが、僕は誰よりも信頼していますから。」


「あはは~、そこまで言えちゃうなんてアズは幸せ者だね。僕はさ……はっきり言ってアズのこと嫌いなんだ。」


「恐ろしくド直球ですね。」


「嘘ついても意味ないからね~。アズがまだ入りたてのとき、色んな人とパーティーを組んだり止めたりを繰り返してたこと、知ってるかな?」


「はい、僕がソロだったときですね。」


「うん。それで、そのとき僕がアズに忠告したことがあるんだ。そのキツい性格を直した方が良いってね。」


「よく……そんなこと言ってあげましたね。」


「あの性格は尖りすぎてるからさ……先輩として言ってあげるのが責務かなって思ったんだ。そしたら、あいつどう言ったと思う?」


「それは…逆ギレでもしましたか?」


「さすが、よく分かってるね。本当に逆ギレされたよ。私は強いから、ついてこれないパーティなんかいらないってさ。あのときはイラッときたな~。何であんな性格したやつが試験に合格したのか、信じられないってさ。」


「あ~、一応擁護しておくと…アズは文句は言いますが、行動はしますよ。」


「後で僕も、もちろん色々と気付いたよ。けど……その後さ、僕のパーティが、アズが死にかけたときに救ったりっていろいろしたんだけど、それでも全然忠告を聞かなかったんだよね。だから…今でも超嫌い。」


「そうですか……その、なるほど…そんなことが……。その……アズが一人で死にかけることなんてあったんですね。初めて聞きました。」


「そう?まあ、自分から黒歴史を語る人はいないからね~。アズはけっこう無理して戦いに挑むのが茶飯事だったよ。師匠のローズの影響なのかな?」


「ローズさんの影響……?」


僕の知っているローズもアズも、戦闘になると冷静で無茶をしない人だと思っている。

ただ、確かにときどきアズが、本能のまま動く場面はよく見て来た。だがそれで負けた所を見たことはないし、僕自身アズの本能は信じている。


そんなアズが、無茶な行動をしていたのか……。

正直信じられないが、もしかしたらアズ自身…口ではメノウに反抗しながらも、パーティを組めないことに焦りを感じていたのかもしれない。


「ローズって魔法オタクだからさ、魔法の実験のためならって命を省みない行動を繰り返してたらしいよ。ま、けど、どうであれアズは気づいたらフォスとパーティ組んでたからね。あんなやばい人間とパーティ組む人は、どんな変態なんだって思ってたさ。」


「…つまり僕が、変態に見えてたんですね……。」


「あははっ、ごめんね。けど接していく内に、変態でも無ければ、さらに性格が良くて強いときた。正直、驚いたよ~。」


「それは、流石に言い過ぎですよ。」


「いや、そんなことないよ~。二属性の魔法が扱えて、近中距離で臨機応変に戦えるなんて、冒険者としては十分すぎる実力さ。それにあのアズと一緒にパーティを数年組んで解散もしないだなんて、普通ならできない。想像を超えるメンタル、いや協調性と言うべきかな。今となっては、アズを手懐けているしね。」


「いやいや、手懐けてはいませんよ。うちのパーティのリーダーはアズですから。基本的にアズには頭が上がりません。」


「えーそうかな~?と言うか何で、あいつがリーダーなの?普通、フォスだよね。」


「いや…えっと、パーティ組むときに、したいって言ったので譲りましたね。それに僕がリーダーだとしても、命令したらアズが機嫌を損ねそうですから。」


「ああ、それはたしかにね。けど…あいつにフォスは勿体ない存在だと思ってるよ。どう?フォス、僕のパーティに来ない?僕ならもっと君を尊重するし、生かせると思うんだ。これは冗談じゃない、本気で勧誘してる。どうかな?」


メノウはくるりと回って僕の前に立つと、上目遣いで僕の顔を見て来た。

その目は真剣そのもので……何も言わなくとも熱意が伝わって来る。


メノウのパーティーへの加入。

メノウのパーティーは、シルフギルドのエース筆頭パーティー。世間にも広く知られている知名度のあるパーティーで、本来なら誘われたことに僕は喜ぶべきなのかもしれない。

けど……僕の答えは決まっていた。


「……ごめんなさい。それはできません。メノウさんはアズが嫌いかもしれませんけど…その……僕は案外、アズとのパーティー…嫌いじゃないんです。今まで何のいろどりも無かった人生ですけど、僕に色を与えてくれたのはアズなんです。だから…僕は、彼女のパーティーから抜けてそっちに行くことはありません。すいません。」


僕はそう言って、頭を下げた。

パーティーを両立する…なんて方法もあるにはあるけど、そんなことをするつもりはない。僕は今の生活を気に入ってるから……。いつか変えなければならないときが来るのかもしれないけど、今はまだ……変えたくない。今でありたい、そう思う。


僕の答えを聞くと、メノウは優し気な微笑みを浮かべた。

そして僕の目を、真正面から見て来る。


「……そっか。あはは、何か振られたみたいな気分。だけど…うん……そう言われるとは、何となく思ってたよ。そうじゃないと、5年もパーティ…組まないよね。分かった、勧誘するのは止める。けど僕はいつでも待ってるし、何か辛いことがあったらいつでも相談してきてね。だって僕は、フォスの先輩だからさ。」


そう言ってメノウは、僕の肩を優しく叩いた。少し名残惜しそうに……。



……と、そのとき。


「そいつを捕まえてくれ!」


そうどこかからか声が聞こえた。どうやら巡回中の騎士団の兵士が声をあげたらしい。

気付くと僕らのすぐ傍にある建物の屋根を、一人の人影が走り去ってい行くのが見えた。

闇夜に紛れていることもあり、顔も性別も僕らからは分からない。


ただ……


「フォス!追いかけるよ!」


「はい!」


僕とメノウは走り出していた。


読んで頂き感謝申し上げます。

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