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第七十三話 賊について②

風の盗賊団か……

数日前のアイとウルツの会話を何故か思い出しながら、僕は一人、シルフ街を歩き回っていた。日は天高く登っており、秋だと言うのに暖かく、半袖でもいいのではと思えるくらいだ。


あと約一週間も経てば、ギルド入団試験。

カイヤも修行に気合いが入ってるようで、毎日クリスタと最終調整を行っている姿を見る。

邪魔しても悪いと思い、この頃は声をかけないようにしていた。是非とも合格して欲しい、その思い一心である。


それに僕にはカイヤのためにやらなければならないことがあった。

デート準備だ。


合格した暁には、カイヤとデートをする。

その約束を忘れているような僕ではない。

勉強しているときでも、報告書を書いているときでも、常に頭の中にはデートのことがあった。


だが……デートって何だ?

僕は前の人生含め、女性とデートしたことなど1ミリたりとも無い。前のアズとの夏祭りがデートと言えばデートだったのかもしれないが、明確には違う気がする。


何より僕がエスコートして欲しいと言う、カイヤからの依頼なのだ。行き当たりばったりのようなデートでは無く、しっかりプランを考えなければならない。そしてそのためには……僕の経験が乏しすぎる。


どうしよう……。

マジでちゃんとしたデートって何だ?

ずっと考えてはいるが、まるで分からん。

下見とかいるのか?あとプレゼント……とか?


プレゼント……デート云々以前に、このデートは合格祝いなのだ。

絶対にプレゼントがあった方が良いとは思う。

だが女性への贈り物……更にはデート中にとなると、何を贈っていいのか皆目検討がつかない。


けど絶対に何か考えて、形にしなければ……。

デートもプレゼントも、カイヤに喜んで貰うためには必要だ。

それに依頼をこなすのが冒険者、このくらいの依頼をシルフギルド冒険者である僕が出来ないでどうする。


来年の夏の戦争が近い以上、カイヤは合格したとしても休みなく修行の毎日だろう。

せめてこのデートだけは、カイヤにとって楽しくて、嬉しくて、息抜きになるような、そんなデートにするべきだ。完璧なデートプランを考えなければ……。


そんな思いで贈り物を探しつつ、デートプランのヒントを得るべく、シルフ街を歩いているのである。



時に何の思いも無く街をぶらついていることはあるのだが、いざ集中して歩いてみると、こんな所にこんな店あったっけ?ってなる。


あの花屋とか、マジであったかな?って感じだ。

花に興味を抱いたことが無かったので、気付かなかっただけなのかもしれない。


花屋……花……プレゼント……

花のプレゼントって、重くない?あと処理面倒そう。けど何かのヒントになるかもしれない……とりあえず入ってみるかな。

そんなデートへの勉強2割、興味本位8割みたいな感情で僕は花屋に入った。


店頭の屋台にも色とりどりの花が置いてあるとは思っていたが、中に入ってみると想像以上だ。

日本のように品種改良とかが進んでいる訳では無いと思うのだが、土地も環境も違うのだろう。見たことの無い鮮やかな花々が僕を出迎えてくれる。


金色の花とか……どこに生えてるんだろう。

ここまで青白い美しい色の花何て、日本でも見たことない。

花屋は驚きで満ち溢れていた。

つい感心して口をぽかんと開いてしまう。


ただそんな状態の僕に、聞き覚えのある声が聞こえて来た。


「あ、フォスお兄ちゃん!」


ん?声の聞こえた方に振り返ると、青髪の背の小さなシスターが僕の元まで小走りで走って来た。

ムーンである。


「あれ!?ムーン、花屋に来てたのか?」


「うん!超来てた!あっ、私だけじゃないよ!二人も!」


ムーンは嬉しそうな満面の笑みを浮かべて、後方を指刺す。すると見覚えのある二人のシスターがそこに居た。確かブルーとストーンだったかな……。

孤児院に行く時は、いつもお世話になっている二人だ。


「あ、フォスだ!フォスが花屋にいるなんて意外。てかっぷぷぷっ…フォス花屋似合わなすぎ!フォスが入ってくるだけで、花が枯れそうなくらいには超似合わなーい!」


「イレギュラー……異常事態……特例……異色……。」


ブルーとストーンは子供らしい笑顔を、僕に見せてくる。正直ストーンが何を言ってるのか、いつも分かり辛いのだが……ブルーはかなり辛辣なことを言ってる気がする。傷つきそう。


「3人とも花屋に、何をしに来たの?」


「孤児院のお花の調達に来ただけ~。フォスこそ何でここにいるの?」


ブルーはそう言って、僕に迫ってくる。

そう言えば孤児院にはお花が飾られていたな。あの花はこの花屋で調達してたのか……。


「実はシルフギルドの合格祝いにカイヤって言う後輩と、デートする予定があってね。それで花あげようかなーって。」


僕は、そう素直に返答することにした。

すると……



3人の顔が固まっていた。

数秒間微動だにしないくらいに、驚いている様子である。そして時が動き出したかのように、3人は動き出した。


「んえ、え!?デ、デデデデート!?フォスってデートする相手いたの!?ダイヤは!?ねえ、ダイヤは!?」


「その…デートってことは……つまりそのカイヤって子は超フォスの彼女…なの?」


「ダイヤとの関係は……遊び…?」


「ちょっと待て、違う違う。修正したい点がいっぱいある!先ずカイヤは彼女じゃない!あと遊びの関係以前に、ダイヤとはそう言う関係でもない。」


「その子が彼女じゃないってことは……嫁?それとも許嫁とか!?うち頭が混乱でいっぱいになってきたんだけど!?」


「大丈夫だよ、ブルー。私も超頭混乱してる。それに…なんだろう……超裏切られたような気分……。」


「……落ち着いて、つまりNTRしろってこと…じゃ……ないかな?」


混乱を止めようと発した言葉が、更なる混乱を呼んでしまったらしい。

三人のシスターは、僕では制御できないほど好き勝手に意味の分からないことを喋り出した。NTRとかマジで何言ってんだ、コイツ……。


「あー分かった。ごめん、説明不足だったよね。全部説明するから……。」


このままでは良からぬ勘違いをして暴走しそうなので、こと細かに説明することにした。

カイヤが僕の弟子だったことから、デートを合格祝いでして欲しいって言われたことまで……本当に全部説明することになったのである。何で中学生の女子三人に、こんな話をする羽目になっているのだろう。自分でも良く分からなくなってきた。

ただかなり長い話にはなってしまったと思うのだが、三人は予想以上に大人しく最後まで聞いてくれた。


しかし……彼女たちの表情は不服なままだ。

特にカイヤがデートして欲しいと頼んできた……と言う最終盤で、表情がより険しくなっていったような気がする。話し終えると、三人は僕から隠れるようにこしょこしょ話をし始めた。


「ねえねえ、明らかにカイヤって子、フォスに気があるよね。」


「うん、超そうだと思う。ダイヤ超大丈夫かな……。」


「何か……このままだと…先越されそう。ダイヤって奥手だし……。」


三人がなにを言っているかは聞き取れなかったが、あまり気の良い話ではないのだろう。

誤解をまだ完全に解けていないのかもしれない。ただ……これ以上弁解の余地が、僕にはないのだけど……


「あのぉ……何かお悩みでしょうか?」


「あ、フォス、店員さん来た!」


どうやら花屋の店員さんが近付いて来たらしい。

茶髪の髪が腰にかかるぐらいの長髪で、顔立ちが整った女性。

そりゃ店でいきなり長話始めたら、来ますよね……。邪魔だろうし、うるさいだろうし……。


「す、すいません!すぐ出て行きますので!」


このまま居たら、迷惑でしかない。僕は花を見に来ただけで、購入すると決めている訳でもないし……営業妨害すぎる。さっさとここから立ち去ろう。

そう思い、店員さんから背を向けて帰ろうとすると……


「フォス……もしかして、あなたがシルフギルドのフォスさんですか!?」


予想外にもその店員さんから声がかかった

僕は驚きで、バッと店員さんの方に振り返る。


「超そうだよ!この人がフォス。」


僕の代わりに、ムーンがそう返答する。

いきなり名前を呼ばれた驚きと、言葉を奪われた動揺で、僕はその場で頷くことしかできなかった。


どうやら店員さんは僕のことを知っているらしい。

僕の知り合いだろうか?いや、こんな顔は僕の記憶には残っていない。

一応僕はシルフギルドの金等級冒険者。冒険者としてはかなり高い位置にいるし、知っている人がいてもおかしくはない。それにここはシルフ街。尚更多いはずだ。


ただ……その店員さんは、僕の予想を遥かに上回る回答をした。


「あなたがフォスさんですか!?あ、す、すいません勝手にはしゃいでしまって……お恥ずかしい。先日ウルツと結婚させて頂きました……ルリと申します。」


女性はそう言って、僕に綺麗な礼を見せた。


「……え、あ、ウルツと結婚……って、え!?ええええええ!?」


僕はその少女の発言が信じられず、つい大声をあげてしまった。

花屋にいた他の客だけでなく、外にいた人々までが一斉に僕の方を向いて来る。

恥ずかしい……。


「ウルツから聞いてますよ。フォスは俺の親友なんだってよく言ってました。」


「そ、そうですか……。」


あいつは奥さんにもそんなことを言っているのかよ……。

さっきの恥ずかしさが倍増したような気分だ……。これでは親友ではないと否定するのも、申し訳ない気がしてくる。


「す、すいません、僕何も知らなくて……えっと、結婚おめでとうございます。」


「ありがとうございます。フォスさんが知らないのも無理ないと思いますよ。結婚式はあげてないので……。」


「あ、そうだったんですね。けど結婚式しないなんて……何だかウルツらしくないですね。あいつはこう目立ちたがりと言うか……こういうときは全員に祝って欲しいと思う人なので。」


「ふふっ、そうですね。何でも最初はそのつもりだったらしいんですけど、他の冒険者に言ったら、結婚式には誘わないでって必死に言われたらしくて……ショックを受けたみたいです。」


「な、なるほど。えと同僚が、すいません。」


「いえいえ大丈夫ですよ。」


誘わないで……なんて誰が言ったのだろうか?

そこまではっきり言う人なんて、アズとか……だろうか。

いや、僕でも言われたら言うな。


結局……その後30分ほどシスターたちとともに、花屋にいることになった。

正直そんなに居た覚えは無かったのだが、予想以上に会話が弾んでしまったらしい。どうやらウルツは素晴らしい女性を見つけたようだ。個人的感情にはなるが、かなりいい人だと思う。


「ありがとうございましたー。」

店員さんはそう言って頭を下げる。

僕らはその笑顔を背にして、花屋の外に出た。


気付けば空は、もう夕暮れ。

やはり秋ってのは夏より、日が落ちる時間が早いらしい。


「フォス、花のお金払ってくれるとか太っ腹やね!」


「超助かった、おかげでいい花を買えた!ありがとうフォスお兄ちゃん。」


「ありがとう……けど…浮気は駄目。人間の三大悪は浮気、暴力、SEX……。」


三人はそう言って、大事そうに袋に入った花を抱えている。

ん、何か最後に聞いてはいけない汚い言葉が聞こえた気がする。

きっと空耳だろう。


「いいよ。僕にはこれくらいしか、やってあげられないからさ。」


花に詳しくないので、その花がいかに価値があるのかは分からない。

だが彼女たちには世話になっているし、このくらいのお金は僕が払ってあげたのだ。孤児院は資金繰りに困っているだろうし、これぐらいのことはむしろして当然だ。


「けど、プレゼントの花買わなくて良かったんか?」


「もしかしてダイヤのこと超思い出して、デートしないことにしたの?」


「改心?会心、快新、回心する?」


「え……あっ、忘れてた。あと、ダイヤは関係ないからな。」


どうやら会話に熱中しすぎて、本来の目的を忘れていたらしい。

まあプレゼントのヒントをもらおうと思っていただけだし……いいかな。

何だか、今から戻るのも恥ずかしい。


「フォス、愚かやな~。」


「超どんまい。」


「戒慎させないと……。」


三人はそう言いながらも、花を買ってくれたのが嬉しいのか笑顔をこぼしている。

三人で花を嗅ぎ合ったりしており、その仲良しさも伺えた。


僕はそのままシスターたちとともに、帰路につくことにした。

何か情報が得られた訳じゃないが、まあデートまで時間はあるし焦るようなことでもない。

のんびり考えていれば、良い案が思いつくこともあるだろう。


そう思って少し薄暗くなった大通りを歩いていると、すぐに教会にまで着いた。

ただ……その時、教会の近くにある武器屋の建物が目に入ってきた。

大きくもないが、建物としては立派な外装。教会に通っていたのに、今まで目に留まることすらなかった。こんな場所に武器屋があった何て、ちょっと驚きだ。


シスターたちはその武器屋を見つけると、何故か僕の前に出てきて立ち止まった。

何だろうと思いながらも、僕も歩みを止める。


「花買ってくれたし、この恩は返さないとな。うちがデートのアドバイスしてあげる!フォスがプレゼントあげる相手って冒険者でしょ~。なら、武器が無難にいいと思うんだけど!」


「あんまり言いたくなかったけど、私たちなりの超有効なアドバイスだよ!」


「デートに困ってるようだったから……そんなフォスへの回信……。」


三人はそう言って、武器屋を指さした。

三人の顔は暗くなっているというのに、明るく見える。


武器…武器か……。たしかに冒険者にとって武器は有用性の高い道具だ。

無くて損することはあっても、あって損することはない。デートで渡すとなると……何だか味気ない気もするが、シルフギルド合格祝いのプレゼントとしてならこれ以上に有能な物は無い。


「ありがとう……すごく助かった。」


「へへっそうでしょ~。あとダイヤにはフォスがデートすること伝えておくから!ばいばーい!」


「フォスお兄ちゃん、またね~。」


「この報告を…起点にして……ダイヤとの関係が開進する……。」


少女たちは口々にそう言って、手を振りながら教会の中へと走っていってしまった。

僕だけが武器屋の前に置いていかれた形になる。


一気に雰囲気が静かになる中、僕は一人武器屋の建物を見つめる。


シルフ街は、シルフギルドがあったり、多くの人々が行き来する大都市であるため、武器屋の数は多い。冒険者として武器を買うことは多いし、シルフ街の武器屋は網羅しているつもりだったのだが……。教会はシルフ街の端の方にあるので、店の場所としては立地が悪い気もする。武器を買いにここまで来ることは無かったし、気付かなかったのだろう。


薄暗くて、分かりづらいとこにあるしな……。

ただこういう場所にこそ、いい武器があったりするものだ。


高くても、生憎今はまとまったお金もある。

どうせ暇だし、ここは素直にシスターたちのアドバイスに従ってみるとするか……。


そう考え、僕はその武器屋の扉に手を伸ばすことにした。


読んで頂き、感謝申し上げます。この話に出て来るルリという人物ですが、実は第二十二話で名前出てるんですよね。

評価、ブックマーク登録して下さい。モチベに繋がるので……。

感想もお待ちしてますので、お気軽に送ってください。

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