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第五十四話 奇襲について⑤

ヒスイは東門を、大通りを逆走するように進んでいた。

現れるスケルトンやダークフェアリーを、まるで舞うかのように手元の剣で切っていく。


まさか、せっかくの夏祭りがこんなことになるなんて……。今でも少し信じられない。

ここは魔王軍領とはかなりかけ離れている、奇襲なんてできる位置関係には無い。


理解できない。

けれどその状況的確に判断し、咄嗟に指示できるあたりマスターはやっぱりマスター。私は深く考えずに行動をすべきだ……。


にしてもせっかくアンさんとも仲良くなれてきたところだったのに加え、ギルドマスターとあんなに喋るのも久しぶりだったのにこんなことになるなんて……。結局アンさんが何者かは分からなかったが、北門を任されたあたり実力者であることくらい分かる。北門の気配は特に強烈だったから。


ホントに奴隷だとは思ってない。多分あれはギルドマスターの嘘。魔力の乱れが無いのはさすがにマスターだったけど、何となく分かったから。

あの子は普通じゃない。けどいい子。

だから仲良くしたい。


あとフォス様のことも心配だ。きっと彼のことだからすぐに北門に向かったんじゃ無いだろうか?

いっつも暇そうで何に対してもやる気を出さないように見えるけど、こういうときは一番的確に行動する人だから。


あのときだってそう、そうやって私は助けられた。


私が金等級になって初めて魔王軍との戦場に行ったとき、私はしくじった。全力で戦いすぎた挙句、仕留め損ねた。死んだと思った。殺されると思った。


そのとき一番に駆けつけてくれたのは、まだ銀等級だったフォス様だった。彼はこの戦場で私の場所が一番危ないと判断し、駆けつけてくれたのだ。

アズさんも彼に続いて駆けつけてくれて、それで倒してくれて……彼女への恩だって忘れていない。けど最初に気づいて助けてくれたフォスさんへの恩の方が、強く印象的だったのかもしれない。


結局その成果を受け、フォス様とアズさんは金等級になった。けど彼はずっとこれは僕の成果でなく、直前まで弱らせてくれた皆のおかげだと言い続けていた。


それがきっかけだったか分からないけど、私はフォス様を気になるようになった。助けられたことへの感謝が恋に変わるなんて不思議な気もするけど、そうなったものはしょうがない。それにこれは純粋な恋心じゃない。


だってフォス様が1番幸せになるなら、私なんてどうでもいいと思ってるから。彼が誰と恋仲になって、結婚してもいい。その相手が私ならもちろん尽くして幸せにするけど、今は多くの素敵な女性に囲まれている。


きっと彼女たちと一緒になった方が、私より幸せになるんじゃないか?そんな風にこの頃の様子を見て思っていた。だから私は不幸にならないよう、見守り続ける。

誰よりも幸せになって欲しいから。


魔族に殺されるなんて言語道断。北門で殺されたりしないだろうか?あの気配相手に、勝てるのかは疑わしい。

心配だ。今すぐ進路を変えたいくらい心配だ。


アズさんもいるしどうにか守って欲しい。

すぐに東門を制圧して、北門に行きたい。

いや行こう……そう決意しながら走り続けた。


そしてようやく見えてきのは、東門。

大きな竜車でも軽々通れそうなほどに大きく、尊厳な雰囲気を醸し出している。


その前に一人立っている、禍々しい雰囲気を纏った少女。スケルトンやダークフェアリーさえ彼女には、一切近づこうとしない。これでは指揮してると言うよりは、陣取っていると言った方が的確だろう。


黒い軍服のような服を着ているが、袖が余っているのか両手が見えない。何より特徴的なのは、地に着くのではないかと思うほどの長い黒髪。顔もかくれており表情も確認できない。


お化け屋敷にでも出てきそうな印象。普通に怖い。

気配も相当だが、雰囲気がおかしい。今までにあったことないタイプと言うか……実力が分からないと言うか……。


とにかく彼女が、ここのリーダーであることに変わりはない。ならば即刻攻めるべし。

先を制する者は、試合を制す。私は剣を構えて勢いよく駆け出した。


剣に風属性の魔力を流し込み、剣は白く発光する。

視覚から消えるほどに激しい風を纏い、走り出すだけで地面の塵やゴミが吹き飛ばされた。


「暴れるは剣、乱れるは風、輝くは一撃、この一刀は返り咲く花の如く舞い散る剣技、風蘭(ふうらん)!!」


詠唱を口にして少女の首目がけ、剣を横に振るった。髪の間から光る彼女の赤色の目が、私を捉えたような気がする。そしてどこからか出てきた、漆黒の斧で私の一撃を受け止めた。


瞳孔が定まってないような様子にも関わらず、正確に受け止める。それに小さい少女の体には似合わない、ドクロのような装飾が成された気味の悪い斧。

ただ……これは一撃だけの技じゃない。


剣を横に素早く翻し二撃目、足を踏み出し下からすくい上げるような三撃目。そして振り下ろす四撃目。

まるでダンスを踊るかのように、流れる剣技。その全てを正確に受け止めることは叶わず、少女の華奢な体は、後方へと飛んで行った。


大量の風魔力を灯った剣舞。その一撃でも不完全な姿勢で受け止めれば、吹き飛ぶのは必至。大きな門に体を叩きつけ、その衝撃で大きな門が開く。少女の体は叩きつけられても勢いそのまま、イーグル街外の草原に転がった。


ただ……そんな攻撃をくらっての少女はゆらゆらと立ち上がる。そして小さな口を開いた。


「酷い……酷いです。私まだ何もしてないのに……、ひっく、ひっく……。」


少女は泣いている様子だった。目元からはぽたぽたと水滴を流している。どうやら演技ではないらしい。

ちょっとビックリ。


「おっとヒスイちゃんやりすぎちゃいましたかね?けど立ち上がってくるあたり、あなたもやる気十分ですよね?」


「あなた……じゃないです……。ジェットって言います。」


「ほほう、ジェットさんですか。私はヒスイと言います。この可愛い名前、脳に焼き付けといてください。」


「わ、分かりました……焼き付けときます。」


少女は素直に、小さく頷いた。

やり辛い……。まさかここまで素直に承諾される何て……。

何、この少女?全く考えていることが読めない。

弱く見せて隙を伺っていると思ってたけれど、そういう訳でも無いようだ。

観察しながら探りを入れてみるかな……。


「ではジェットさん、何故イーグル街を襲撃しているのですか?ヒスイちゃんあまりにも唐突すぎて理解が追いついていないんですよ。」


「そ、それは……言いたくありません。」


「そうですか。では理由は言わなくてもいいので、今すぐこの場から消えて下さい。このままでは多くの人が死んでしまいます。」


「……それはもっと…できない……です。シルフギルドのギルドマスターを……殺さないと…いけないから。」


「マスターを?あなたマスターを殺すのが目的なんですか?」


「そうです。族長のためにも、ギルドマスターを殺し……ます。きっと彼が死なないと、アメトリン様も安らかに成仏できません。」


「ん〜、敵討ちしたいのはわかりましたが、それならマスターでは無くクリスタさんを倒すべきではないですか?ダークフェアリー族の族長を殺したのはクリスタさんとガーネットさんなんですから。」


「もち……ろん。その2人も殺します。これは前哨戦にすぎません。その……ギルドマスターを殺した方が……その2人も苦しみ悶えるかな…と。」


「ほほう、悪趣味ですね……。確かにクリスタさんは恐ろしいほどに怒るでしょう。ですがマスターを殺すのは、普通に考えて無理ですよ。諦めて下さい。」


「いえ……できます。そのためのこの作戦を実行したんです…から。」


どうやら冗談では無く、本当にマスターを殺すためにこの奇襲作戦を行っているらしい。もしかして既に刺客がマスターのいる場所に?大丈夫かな……。


マスターが強いのかは、実の所私も知らない。けど白金等級だったって記録を見たことはあるし、クリスタさんの師匠と言う話も知っている。弱いとは思えない。

このジェットという名の人物が、どんな悪どい作戦を考えてようとマスターなら対処してくれると信じよう。


「私は……別に…戦いたくありません。」


「それは嘘ですね?ヒスイちゃんの目は誤魔化せませんよ。」


「ご、ごめんなさい……けど、あなたとは戦いたくありません……。本気出すの面倒だし……それに、一般人を殺す方が楽しい…から……。」


「大人しい様子で、エグいこと言いますね。マスターを殺すのが目的なら、一般人は見逃して欲しいとヒスイちゃんは訴えます。」


「それは……嫌…です。だって…だって帝国の人をいっぱい殺せるなんて……えへ、へへへ、ふふふ最高に楽しいじゃないですか。」


「ほうほう、やはり悪趣味ですね。まあヒスイちゃんも魔族を殺すのは楽しいので、何とも言えませんが……。」


「魔族を……殺すのが…楽しい?キチガイ……ですよ…怖いです。」


「その反応、ヒスイちゃんビックリなんですけど!?自身がやっていることを私たちに置き換えて発言して下さいと、ヒスイちゃんは引き気味に進言します。」


「置き換える……?私が帝国に属するなんてありえないから……そんなこと……できない…です。」


「ものすごい自己中ですね、ヒスイちゃん呆れちゃいます。」


怪しげな少女はその場から動かないで、ゆらゆらと不安定な様子で立っている。どうにか会話が牽制に繋がると思ったが、あまり効果はないらしい。

隙を伺いつつ、距離をじりとじりと迫る。


「怖い……です…近づかないで下さい。」


「気づいてたんですね。では私の質問に答えてくれるなら、止めても良いですよ?」


「何…ですか?」


「何故魔王軍領から離れたこの場所に、あなたたち魔族がいるんですか?」


「そ、それは……ダメ…です。言えないです。」


「では殺してもいいですか?」


「そ、それは止めてくだ…さい。わ、分かりました、私たちは移動魔法陣を使ってきました。」


「移動魔法陣……?」


移動魔法陣とは高度な空間魔法の一つで、単純に言えばワープ。ただ構築するには何百年はくだらないと言われほど、時間がかかる魔法。


もはや都市伝説に等しいと思っていたが、そんなものを帝国領に設置していた?ヤバすぎる……つまり魔王軍は帝国領内に自由に出入りできると言うこと。


そんなのスパイもやりたい放題だし、情報集めも簡単。

とんでもないことだ。今すぐ国王に報告するレベル……。


「どこに……どこに、その魔法陣はあるんですか?」


「それは…本当に言えま……せん。」


「それは困ります。絶対に教えてもらわないといけない……とヒスイちゃんは脅すように訴えます。」


「これはトップシークレット……ですから。」


「では殺してもいいんですか?」


「こうなったらしょうがない……かもしれません。」


「そうですか、では生け捕りにして拷問してでも聞きだします!」


私は勢いよく駆け出し、素早く駆け寄った。

そして剣に再び魔力を灯し、全力で振るう。


「暴れるは風、輝くは剣、滅するは一撃、この一刀は返り咲く花の如く舞い散る剣技、霞草!!」


詠唱と共に、またも一撃。

剣は風を纏い、振るうだけで衝撃波が生じた。


それでもジェットは斧で、魔法面から受けきる。

それでもやはり私の一撃の方が強力で、吹き飛ばし奥へとさらに押し込んだ。

攻撃の隙を逃さないよう、連続攻撃を繰り出そうとする。


そのとき……目の前からジェットが消えた。

いや違う、しゃがんだのだ。

華奢で小さな体で潜り込むように、私の横振りの剣をかわした。


「殺されたく……無いので…反撃します!斧技、奈落!」


少女が体を芯として、コマのように回った。真っ黒な魔力が、吹き出すように斧を纏っていた。

魔力と遠心力から繰り出される強力な一撃。瞬時に反応し防御魔法で守るも、体を大きく吹き飛ばされた。

ジェットを追って門の外まで出ていたのに、イーグル街の中まで吹き飛ぶ。


民家の壁を何枚も突き抜け、気づけば東門から50メートルは離れていた。起き上がると、体にズキズキとした痛みが走る。


何とか反応して守ったものの、剣を振った状態では完全に守るのも難しい。そのため不完全な状態で、強力な一撃をくらってしまった。

出血や骨折などはしてないようだが、無理やり魔力を動かしたことにより体の疲労が大きい。


斧は近距離の武器。こっからは魔弾などで遠距離に務めた方がいいかも……と思った瞬間、突風が吹いた。


「えへ…えへへ……逃しません…よ。」


斧を構えたジェットが私に向けて、走ってくる。

一瞬ですぐ目の前にまで到達して来た。なんて魔力量……その小さな体で、大きくて重い斧を持ったままこのスピード。化け物か!?


「風の加護、私に恩恵を与えよ。風知草(ふうちそう)!」


言霊が反応し、体を風魔法が覆う。身体能力が急上昇し、体が空気のように軽くなったように感じる。

剣を持っているのに、持ってないようなそんな感覚に包まれた。


「ふへ、あはっ、地獄落とし!」


笑顔がこぼれるジェットから繰り出されるのは、斧を乱暴に叩きつけるような一撃。まるでさっきとは別人。

私とは戦いたくないとか言ってたのに、戦うことを喜々としてるようなそんな様子。


私はパッと横にステップを踏み、横に避けた。

私の魔法『風知草』は、風を知り体の動きを最大まで、避けに特化させるもの。

この状態に入れば、当たることはない。


「あは、あははははは、避けるの上手いねぇ、奈落!」


再びコマのように回る一撃、それを再び後ろにジャンプしてかわす。ただジェットは全く避けられたことに怯まず、迫ってくる。


「ふは、あは、あははははは、あはは、ねえねえこれはどう…ですか?あへっ、固有魔術、地獄道!」


彼女がそう唱えた瞬間、自分の目の前に道が見えた気がした。まるでその道は私がこれから避ける道筋を指し示しているかのよう。

そしてそれは同時に、ジェットの攻撃位置に一致する。


何を言っているか分からないかもしれない。

私だって分からない。

彼女が呪文を唱えた瞬間、何かが起こったのだ。私の行動が全て読まれているかのような、そんな感覚に襲われた。


まるで私は一本道の先に立っていて、向かい側がジェットが向かってくるような衝動……。

避けられないそう悟る。

風知草をかけたにも関わらず、斧は眼前に迫っていた。


「ふひ、地獄絵!」


燕子花(かきつばた)!」


瞬時に魔法を唱えて、剣で斧の振り上げるような一撃を受け止める。ただやはり相殺とはならず、体は後方へと吹き飛んだ。

威力が……威力が…違いすぎる。


魔力量なのか、技術なのか……両方なのかもしれない。

ジェットの攻撃は受けずに、避けるべき。そうは分かってるのに避けることが出来なかった。

体が風を切るように、宙を飛ぶ。それでも立て直そうと、空中で剣を構え直し着地を意識する。


だが……


「えへっ、ふひ、逃がさないて……言ったじゃん。」


「え?」


笑みを浮かべる少女が、目の前にいた。

私はまだ空中にいる……なのに何故、ジェットが目の前にいるの!?

吹き飛ばされた反動で飛ぶ体は、走って追いつけるような速度じゃない……なのに…どうして!?


「あは、あははははは、いひひひひひひ、ふぇへへへへへ、あは、地獄変!」


「がふっ……、」


斧の一撃を再び受け、体が飛ぶ進路は直角に変化する。

空中で防御を完璧に成立することができる訳もなく……自分でもよく分からない程のスピードで建物に突っ込んだ。


ドォン!

耳に響く破壊音。それが自分が打ち付けられた音であることすら、知覚できなかった。


体は勢いが止まらず、地面に力強く体を打ち付ける。

肺から空気が漏れ出る。口の中に血の味が広がる。

それでも収まらずバウンドして3回ほど体を打ち付けて、やっと止まった。


痛みは無かった。驚きと訳の分からない衝動で、感覚が麻痺していていた。瞬時の出来事すぎて思考が追いつかない。


だから遅れて気付いたのだろう……多分左腕の骨が折れている。きっと地面に打ち付けたときだ。

肩がピクリとも上がらない。


魔力で覆えば体を地面に打ち付けた程度、怪我などしない。その防御力をもってしてこの怪我。

あの少女は、本当に化け物かもしれない。ホラーに出てくるお化けの方が、まだ可愛いと思えるほどに。


動く左手で剣を地面に刺し、それを支えに何とか立つ。

体が倒れそうになるも力を入れて無理やり支えた。筋肉が思い通りに動いてくれない。ただ骨折したのが左腕だけなのは不幸中の幸いと言うべきか……。


足を骨折してたら、それこそ死んでいた。

周りには建物の残骸。そして目に映る人影。


「そ、その……ごめんなさい……、け、けど、私死にたくない…から。あはっ、いひっ、えへへ……。」


あれほどの威力を放っておきながら、ジェットからは全く疲労を感じさせない。それどころか気配は一層大きくなったような気がした。禍々しい真っ黒な魔力が、真っ赤な目から雷のようにバチバチと音を鳴らして漏れ出ている。


体が……震える。

ジェットに恐怖を覚えてしまっている……。

勝てる気がしない……。北門に助けに行こうとか思ってたのに情けない。


「あーあ、これヒスイちゃん、大ピンチってやつですね……。」


かすれる声で私は、そんなことを口にしていた。


読んで頂き感謝申し上げます。

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