第五十三話 奇襲について④
ラリマーは、南門に向け飛ぶように屋根の上を走っていた。下の大通りでは、スケルトンやダークフェアリーが津波のように中央街へと押し寄せていく姿がある。
かなり調教なされているようで、格上の相手には戦わず逃げるのに徹する模様。俺を見ても、相手にすらしない。
面倒な兵隊たちだ。
敵わない相手に歯向かうのは勇気ではなく、愚かと言う。それをしっかり踏まえているあたり魔王軍の者たちは優秀と言わざるおえない。それに対して帝国軍の騎士団が、そこまで教育が行き届いていているのか不安が残る。
数にものを言わせて、無理やり戦争に勝っている。
それが戦場に出向いて感じた、俺の第一感だ。それに騎士団は優秀な者と無能な者の差が激しい。
もちろん冒険者だって差は大きい。
ただ少なくとも世界四大ギルドの冒険者に、完全な無能は存在しない。試験があるのに加え、師弟関係の教育が行き届いているから。
しかし騎士団は上官でも、無能は奴は無能。
あいつらがもっと上手くやれば、師匠だって生きていたかもしれない。歯がゆい気持ちでいっぱいだ。
そんな彼ら騎士団を現状頼らなければならないのは癪だが、シルフが言ったならきっと問題は無い。
彼は本物の天才だ。
師匠も認めていた、だから間違いない。
俺は何度も冒険者を止めようと思ったが、彼がギルドマスターでいるうちは冒険者を続けてもいい……何となくそう思える。
数分もしない内に見えてきたのは、このイーグル街の主な貿易門である南門。襲われていた人々を助けると言った道草をとっていないので、早く到着できた。
非道な行いのように思えるが、冒険者は与えられたミッションをクリアするのが一番大事。一般人を助けて、それが原因で魔力切れなんてなったら、恥さらしもいいとこだ。
道徳的でなくても、冷淡に依頼を達成する。
それがあるべき姿。
だからこの行動は冒険者としては、間違っていない。
そう心から思える。
「あれがこの南門のリーダーか……。」
南門の目の前に立っているのは、白い髭を蓄えた杖をついている男。黒い軍服のような服を着ているが、背中が曲がっておりかなり歳を召していることが伺える。
あの杖が無かったら立ってられないんじゃないか?
そう思うほどに、男の姿は不安定。背中から生えた禍々しい羽すら、重荷になっているように見える。
それでも感じる気配は一級品だ。
感じる禍々しい魔力量は、離れた距離からでもひしひしと伝わってくる。見た目からして、生粋の魔術師。
あんな姿で接近戦が得意だったら、俺はビックリして転げ落ちる自信がある。
ただ何らかの対抗手段は持っているだろう。
そうじゃなければ、そこにたっているとは思えない。
警戒は怠るつもりは無い。
ただ……俺にはまだ気づいていなようだ。
ボケてて感覚が鈍ってるのか、ワザと気づいてないように振舞っているのか……。
どっちにしてもそれなら、早速先制攻撃と行こうか。
青緑色の魔力を手のひらから溢れ出すと、弓矢の形に変形させる。そしてそのまま弓矢を構えると、ギッと弦を引いた。
「御形!」
ラリマーは呟くように言霊を乗せ、弓矢を放った。
青緑の矢は、弧を描くような美しい軌道で、髭を蓄えた男に1寸の狂いなく向かっていく。
だが……キンっと言う甲高い音と共に、その矢は弾かれた。
魔力の壁……だろうか?
男は自身を中心とした、球体のような魔力の壁に包まれて攻撃を防いだようだ。矢を何の苦労もなく弾いたあたり、かなりの強度。
厄介な防御魔法、これがこのじーさんにとっての近接戦闘における対抗手段。あれでどんな魔法だろうと、守りきるつもりだな……。
その気付きを得たのと、男が俺を捉えたのは同じ瞬間であった。
「ほっほっほ。そこにいたのかのぉ、老眼で気付かなかったわい。では仕留めせさせてもらおう、此土!」
男は地面に魔法陣を展開したのかと思えば、土の槍を何本も作り出し、ラリマーに向けて放ってきた。一本一本が大きく、纏っている魔力量も目を張るものがある。
受けきろうとは、とてもじゃないが思えない。
ラリマーはギリギリまで槍を引き寄せた後、屋根から地面に落ちることでその攻撃を見事にかわす。地面に着地すると共に、槍が屋根にぶつかる衝撃音。
さっきまでいた場所は、蜂の巣が如くボコボコになっていた。それでも男は避けられたことを悟り、攻撃の手を緩めない。
「これで死ぬのじゃ!厭離穢土!」
次は莫大な量の魔弾を、構築し発射してきた。
魔法陣の構築が早く、それでいて何個もの魔法陣が複雑に絡み合う高度な術式。これはかなり魔術について研究が施されているな……。
それに……何より常識外れの魔力量。
何だこの魔法は?ただの魔弾攻撃にしては量が尋常じゃない。日が沈んだからか、魔弾が壁のように迫ってきてるが見える。避ける隙間すらない……。
「菘一線!」
素早く腰に付けていた入れ物から、剣を取り出し大量の魔力を込める。
そうして青緑色に染め上がった剣で、飛んでくる魔弾に向け振るった。
ドンっと言う魔力がぶつかり合う爆発音。
相殺には成功するも、突風が生じ、光が視界を包んだ。まともに見ていれば暗闇であった分、目に多大なダメージを与えたことが予想される。それは二人も分かっていたので、互いに目を逸らしていた。それでも気配を探って位置関係を見逃さないようにしている。
魔力の衝突による、光源の発生。
それは暗い場所であればあるほど、二次的被害を生じさせやすい。
中には魔力が強すぎて失明したなんて、話があるほど。
回復魔法で後からどうにでもなるのだが、戦闘中にその痛手を負ってしまったら、負けも当然。気配を探りあえるとは言え、やはり視覚からの情報は大きく結果に作用してしまうのだ。
戦闘する者なら、セオリーに等しい知識。それを互いに知らない訳がない。
ただ……逆にこの状況を利用しない手もない。
この視界が使い物にならなくなる隙、これを互いが互いに利用しようと動き出す。
ラリマーは剣を構えたまま、一気に距離を詰めようと走り出す。
髭を蓄えた男もまた、その動きを機敏に察知し対応した。
「蹂躙せしは、土の息吹じゃ!土竜!」
石畳の地面がいきなり隆起し、唐突に表れたのは三体もの謎の化け物。
四足歩行でネズミのような見た目をした何かなどだが、二メートルはあるほどの巨大生物。該当するような生き物などなく、赤い鋭い目が一斉にラリマーを捉えた。
そして車輪のように丸くなると、回転しながらラリマーに向けて突進してきた。
これは生き物のように見えるが、魔力によって生み出されたことを考えるとゴーレムとかの類に近いだろう。回転する当たり、術者のこだわりを感じるが……。
巨大なこともあり迫力は相当なもの。
それでもここで避けて周り道何てこと、してはいけない。
魔術師の戦闘の基本は、近づかせずに距離を保ち続けること。この爺さんもそれが狙いでこの魔法を使ったはず。ならば俺は、最短ルートで突っ走るのみ。
剣に先ほどの魔弾を払ったときに循環させた魔力そのまま、力強く足を踏み出す。
そしてまるで空に飛び立つ鷲のように、前方に向けジャンプした。
剣は魔力を伴い、青緑の光を放ち続けている。体は空中に浮き、一切の減速無く、突っ込んでくる化け物に直進した。
「剣技、蘿蔔!」
剣を下から天へと、突きあげるような一線。
目の前の化け物は真っ二つに切り裂かれ、バっと視界が開けた。他の二体もその剣の衝撃波で吹き飛ばされ、横の民家へとぶっ飛んで行ってしまった。
俺はそのまま風に乗り、爺さんに突進するように突っ込む。
振り上げた剣の刃を空中で切り返し、頭上から叩きつけるように振り下ろす。剣の軌道は青と緑が混ざり合って、虹のように華麗な弧を描いた。
「沈め!仏の座!」
かなり本気を出した、魔力の一撃。
剣はオリハルコン製で、その威力は本来なら防御魔法陣ごと地面に埋めるほどの威力があるはず。
ただ爺さんは、一切の傷を負っていなかった。
バリアの魔力の壁すら、傷一つついていない。
参ったな……とんでもない防御能力の高さだ。
「ふぉっふぉっふぉ、こんなものでは意味をなさんぞ!」
「くっ……、」
反撃を察知し、ぱっと2m程の距離をとった。
接近しようと思えばすぐに出来る、ギリギリの間合い。剣士の有利が崩れそうで崩れない、完璧な位置。
俺はそういう立ち位置について、詳しい。
その理由は単純、俺は魔術師だから。俺は、ラリマーは魔術師であり剣士。敵に合わせて弱点を突くスタイルを基本としている。
魔法剣士ではなく、魔術師であり剣士。
合わせるのではなく、どちらかになる。
「この防御魔法は、我が族長の防御魔法を真似したものじゃ。完璧な模倣とはいかなかったが結構なものじゃろ?ほっほっほ。」
「ダークフェアリー族長の防御魔法……。」
そう言えば、そんな話の報告書を目にしたことがあった。確かフォスやダイヤ、クリスタが参加した魔術協会の研究施設調査の依頼。
そこでクリスタがダークフェアリー族長をガーネットと共に倒したという話だったはず。
あれほど世間を賑わせていたこともあり、俺は報告書を見てどんなことがあったのか大体把握している。
さっきの防御魔法は、族長の模倣……
と言うことはクリスタはこの壁、いや模倣では無い本物の壁を破ったと言うことか。
俺は入った時期はクリスタと近く、昔はどっちが先に白金等級になるか!?なんて言われてたこともあった。
今や完全に抜かされてしまったが、クリスタが破れたのだ。その弱体化版の防御魔法を俺が壊せない訳が無い。
「なんじゃそのやる気に満ちた目は?族長を倒せたからと言って、我らも倒せる気でおるのじゃろ?そう簡単にはいかんぞ?」
「ふっいや、そんなことを思ったつもりは無い。ただ、戦うのに不満のない相手だと思っただけど。貴様、名前を何という?」
「おかしな奴じゃのぉ。わしはダークフェアリー族、四天王が一人、チャロアイトじゃ。」
「チャロアイト……見た目によらず、可愛い名前じゃないか。」
「貴様……死にたいのか?」
「ふっ、いや死にたくない。笑ったのは謝ろう。俺はシルフギルド金等級冒険者、ラリマーだ。死んでこの名を冥土に知らしめるんだな。」
「その言葉そっくりそのまま返してやろう、小童!」
再び接近し、剣を振るう。
だがやはり傷は付けれず、剣の水属性の魔力が周りに飛び散るだけ。
「この近距離避けることは不可能じゃ!此土!」
再び地面が変形し、何本もの土の槍に変形する。
近くでは避けれないため、素早く離れようとするも避け切るまでは無理……、
放たれる巨大な槍が眼前にまで飛んできた。
土煙を伴った槍は恐ろしいまでに回転し、体を抉りとって来ようとしてくる。
走っている体勢のため、姿勢も不安定。近距離が有利のはずなのに、逆に利用されるとは俺も戦闘感が鈍ってんのか……。
「防御魔術、繁縷!」
魔力の壁を形成し、さらに剣で受け止めることで防御力をさらに上げる。そして魔力の壁と土の槍は衝突した。
再び轟く魔力がぶつかる爆発音。
視界を塞ぐ閃光。
勢いが殺しきれず傷は無くとも体は吹き飛ばされた。
民家にツッコミ、壁に穴を開ける。
距離は開いてしまったが、これは上々。
あれでダメージをくらうよりマシだ。無理に耐えてでも近距離に持ち込む手段もあったが、この結果だけ見ればこっちの方が断然良い判断だった。
戦闘感はやっぱり鈍っちゃいない。
「ふぉっふぉっふぉ、また距離が開いてしまったのぉ。わしの勝ちじゃな。」
「ふっ、勝ちだと思ったら負けだぞ!覚えておくといい。御形!」
再び弓矢を一瞬で構築すると、放った。
水属性を纏った矢は、またもバリアに弾かれて地面に飛び散る。
「その程度じゃワシには敵わんと言っておるじゃろ、全く……。これだから理解の遅い若造は嫌いなんじゃ、ザクロを思い出したわ。」
「ザクロ?知り合いか?」
「西門を指揮しとる奴じゃ。あやつは実力も無いのに、口だけは達者でな。貴様とよー似とるのじゃ。」
「似てる?それはお門違いって奴だな。俺は無能では無く優秀だ。師匠もよくそういってくれた。」
「何をバカなことを……にしてもシルフギルドの金等級がこの程度ならば、他の門の防衛も問題なさそうじゃな。魔力増強剤を使わなくても済みそうじゃ。」
「魔力増強剤……?聞きたいことは色々あるが……他の門に行ってる奴らは、強いのか?」
「強い、ワシよりの。おっとザクロは論外じゃよ。雑魚じゃ。けど北門も言わずもがなじゃが、東門を守っとるやつもワシより強い。なんせ実力は族長にも劣らんと言われたほどじゃ。」
「魔王軍幹部と同じ……。」
東門を防衛してる奴は、かなり強いらしい。
向かったのは確か……ヒスイか。金等級の中ではフォスやアズと同じくらい若い世代なので、一緒に仕事したことは無い。実力も今一分からん。
金等級である以上、それなりだろう。ダイヤが戦うことになってないだけマシか。
けど……少し気になるな。
「それならさっさと倒して、東門に行かないとな。」
「倒す?この壁を破壊する手段も無いというにかの?笑える冗談じゃ。」
「いや、壊す必要は無い。それくらい俺はもう気づいてるぞ、そんな立派な羽があるのに何で飛ばないんだろうな〜とかな。」
「何を知ったような口を!やはり貴様のような小童はしょうに合わん!さっさと地獄送りにしてやろう、土竜!!!」
「もうお前に、そんな暇はない。」
チャロアイトの足元が、唐突に光り出す。
それは彼の魔法によるものではなかった。青緑色の華麗な魔法陣が、足元一体を完全に覆っていたのだ。
光り輝く五芒星、その中心に慌てふためく老人の姿がそこにはあった。
「な、なんじゃこれは!?」
目を丸くする様子は、滑稽のようにも思える。
俺が無謀に攻撃していた訳じゃない。足元の周りに魔力を散らばせることで、そこを俺の魔力影響下に無理やり落とし込んでいたのだ。
そしてあの防御魔法のカラクリにも気づいた。
あくまで模倣品。その実は足元にある。
彼が何故一切動かないのか?立派な黒い羽があるのに飛ばないのか?
その理由は、何となく見てるだけで分かった。
足元には展開していないんだろ?その防御魔法。
「爺さんはさあ、自然魔法って知ってるか?」
俺の言葉に呼応するように魔法陣から現れた緑色の蔦が、突き上げるようにチャロアイトを縛り上げた。
「ぐ!?自然魔法じゃと!?まさか……希少属性!?」
「正解。」
蔦が気道を締め上げるように絡まり、防御魔法が消える。その隙を逃さず一瞬で接近した。
「薺一刀!」
俺はその体を、真っ二つに切り裂いた。
崩れる体、溢れ出す血……ん!?血が出ない!?
どういうことだ。
今俺は完全に殺す一刀を放った。
現にチャロアイトの体は崩れ落ち、見るも無惨な姿になっている。なのに……なのに……気配が消えない!?
感じる。
殺したはずなのに魔力を感じる。
「ふぉっふぉっふぉっ、いや〜愉快じゃ〜。まさか倒されたのは意外じゃったが、それが本体とは一言も言ってない所じゃろ。」
いきなり声が聞こえたかと思えば、土の中からチャロアイトの姿が現れた。
いや1人だけじゃない。何十人と言うチャロアイトがまるで俺を囲むように土の中から現れたのである。
「これはさすがに驚いたな……。」
ラリマーはその状況に、ついそう言葉をこぼした。
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多分誤字多いと思うんだよなぁ……。




