第四十五話 祭りについて④
「夏祭りいいいいいいいいいいいいいい。」
「夏祭りですわあああああああああああ。」
スピネルとヒスイの大声が、イーグル街にこだまする。
ただその大きな声すら、祭りの喧騒にかき消された。
それほどにイーグル街は夏祭りの熱気に包まれているのだ。
シルフとスピネル、ヒスイは丁度空が暗くなった時刻に、イーグル街に到着した。
一大イベントと言うこともあり道中が混んでいたため、予定よりかなり遅い時刻。
それでも夏祭りは夜からが本番。花火までもまだ時間はあるし丁度良い時間帯に到着したとも言える。
今日は夏祭りを楽しんだ後、竜車で寝ながらシルフ街まで行く予定。多く見積もっても明日の朝には午後には到着する予定だ。
急いでいるが二人がどうしても遊びたいと言うのだから、夏祭りに寄り道しても問題はないはず。
保護者のような気持ちで、夏祭りを堪能しようかな。
「ほら、マスター早く行きますよとヒスイちゃんはワクワクが隠し切れない様子で訴えます。むしろこの右腕を無理やり引っ張ってでも連れて行くことに何の躊躇も感じません。早くして下さい。」
「じゃあ我は左腕を掴みますわ!ほら、行きますわよ!」
二人のテンションは、めちゃくちゃにハイになってるらしい。竜車に乗っているときから全く変わらない。
僕の両腕をグイグイと引っ張ってくる。
「分かってるから、この体勢は止めて。歩き辛いし何より他の人に迷惑になるからね。」
結局僕はヒスイとスピネルの二人を、後ろからついていく形になった。
完全に保護者の立ち位置。悪くないだろう。
かなり混雑しているようなので、できるだけ距離を開かないように歩くことを心掛ける。
と言っても迷子になったりはしない。
僕の探知能力を舐めないで欲しい。
これまで何日もスピネルやヒスイと一緒にいたのだ。
魔力の波長や気配はとっくに覚えている。
このイーグル街内程度の範囲なら、探しだすくらい余裕だ。
僕は天才だからね、しょうがない。
楽しそうにスピネルとヒスイが会話しているのを片目に、ふと周りを見渡してみる。
身長が低いのであまり見えないが、それでも流れ見る色鮮やかな屋台や人々の笑顔には、胸惹かれるものがある。明確に言葉にするのは難しいが……何かいいな、こういうの。
街の中央からはドンドンと太鼓の音が響き、笛の陽気な音も聞こえる。
その音楽が一層、この場の者たちを陽気に楽しい雰囲気へと誘いこんでいる気がした。
「あ、かき氷ですわ。」
唐突にスピネルが足を止める。
彼女に合わせるように、僕とヒスイもその場で止まった。
「かき氷……食べたいのですか?」
「ええ、焼きとうもろこしも尊いですが……。聞いた話によるとかき氷はただの氷なのに、とても色鮮やかで美味しいと聞いたことがあります。ぜひ試しに、食べてみたいですわね。」
「そうですか。確かに色々な味を楽しめますからね。アンさんの夏祭りデビューも兼ねて、ここは一発初っ端からかき氷といきますか。」
「わーい、やった~ですわ。」
「喜んでくれてヒスイちゃんも笑顔になります。味はどうしますか?見た感じ、いちごにメロンにレモン、あとブルーハワイ何かもありますね。」
「ブルーハワイ?ブルーハワイと言うのはどういう味なのかしら?」
「味……、私にもどう説明していいか分かりませんね。ですが美味しいことに変わりありません。何でも色が違うだけで味は全て一緒、なんて話もありますし。」
「そうなんですの?ではどうせだし、ブルーハワイにしますわ。」
「えっと……マスターはどうしますか?」
「何でもいいよ。というか店頭でそれぞれ言えばいんじゃないかな?」
「何を言ってるんですか、マスターは理解力が皆無なのですか?あれを見てくださいよ。」
そう言ってヒスイが指さすのは、かき氷の屋台に並ぶ行列。
流石、夏祭り代名詞の食べ物の一つ。
人気も相当だ。
「私が代わりに並んできますから、お二人はあそこの木の下ででも待っといてくれてください。あとお金ください。」
「う、うん。ありがと。」
「いえいえ、お金を払わせているのですから、これくらいはやりますよ。それでは。」
僕からお金を受け取ると、ヒスイは長蛇の列へと加わって行く。
僕とスピネルは指示通り、近くの木の木陰で待つことにした。
イーグル街は自然が多いことで有名な街でもあり、このように街中に多くの木が生えている。
木でできたベンチや、街灯何かもあり街を上げてアピールしているだろう。
街中に生えた木もまるで一つの飾りつけのように、意図的な配置で生えていることが分かる。
自然豊かな街並みと言うのは、素晴らしいことだと思うな。
ただ……今、自然の多さに感心しているつもりではない。
何かが…何かが……起ころうとしている。
本能が警鐘を鳴らしている気がした。
「ねえ、スピネル。ちょっといい……かな?」
「……あまりその名で呼ぶのは、良くないですわよ。誰が聞いているのか分からないのですから、アンと呼ぶべきですわ。」
「大丈夫、周りに聞いている人はいないよ。それより僕は君に……アンとしてでは無くスピネルとして聞きたいことがある。」
「何ですの?」
「魔王軍がこの街を襲撃するみたいな作戦は、立てられていたかい?」
「この街の襲撃……?何を言ってるのかしら。そんな話、微塵も聞いたことないですわよ。大体こんな魔王軍領から離れた街を、どうやって襲撃するのかしら?」
「うーん、そうだよね。僕の気のせいかな?何か良くない気配を感じたからさ。」
「もう、気のせいに決まってますわよ!イーグル街の襲撃なんて、メリットもないし意味がわかりませんわ。せっかく我念願の夏祭りなのですから、不吉なこと言わないでください!」
スピネルは人差し指を立ててビシッと言うと、視線を僕から祭りの景色に移す。その目は少し、輝いているように見えた。
「ごめんごめん。念願……だったんだね。魔王軍では夏祭りとかないのかい?」
「ありませんわ。言ったでしょ、魔王軍はそれぞれの種族単位でしか行動しない。記念日などで祭りはあれど、夏祭りなどありませんわ。」
「ふ~ん、それにしては夏祭りに詳しかったよね。型抜きとかひもくじとか。」
「ある戦争で勝ったときに、人間を捕虜にしてたまたま話を聞き出したのですわ。その方に焼きとうもろこしが1番美味しいけどかき氷も捨て難いと教わったのです。あまりにも面白そうな話でしたから、その方は殺さずに死ぬまで面倒見てやったのですわよ。我、人道的すぎ!」
スピネルは当時を思い出すように、うんうんと喉を唸らせている様子。戦争の際に帝国の人間が、捕虜として捕まってしまうことはよくある。
と言うかそれが当たり前。僕らだって、魔王軍の人間を捕虜として捕まえることだってあるのだ。
「考えてみれば今のご主人様と我の関係と、同じような感じでしたわ。まさか逆の立場を味わうことになるとは……。しかしあの捕虜は、本当に面白かったですわね。確か名前は……サトウ?だったかしら。」
「サトウ……何か、どっかで名前を聞いた気がする。」
「なんでも自称、にほんじんなどと意味の分からないことを言ってましたわね。それに夏祭りの文化は、俺が伝えたなどと言ってましたわ。他にも服であったり多くのことを発明したらしく、その話は全て興味深いものでしたわね。」
「あー、思い出したよ。サトウってサトウ暗号を発明したサトウだよね……ってあれ?かなり前の人だったよね。それも歴史書とかに載るぐらい昔。スピネルって今、何歳なのかな?」
「な!?乙女に年齢を聞くなってご両親から、教わらなかったのですか!?今年で丁度500歳ですわ、ご主人様!……って何言わせるの!あ~も~、エッチ!ケダモノ!破廉恥!」
スピネルは少し涙目で、僕の胸をポカポカと殴ってくる。本気で殴ろうとしても、奴隷の首輪で思うように殴れないのだろう。もはや心地よい。
にしても500歳とは……途方もない数字だ。
人は長生きしても100歳あたりが限度。長寿で有名なエルフでも、500歳に到達できる人数は多くない。
帝国内でも謎が多い人物であるサトウと言う存在と話したことがあるスピネルは、非常に貴重な記録となる。
もっと詳しく聞いてみたい。
「サトウからは夏祭り以外に、何か聞いたことはある?」
「なんですの?サトウに興味があるの?そうですわね……確かよくパンツがアホって言ってましたわね。」
「パンツがアホ?」
「軍隊の号令とかに、パンツがアホって言うとかっこいいんだって言ってしまたわ。」
「えーと……どこがカッコイイのかな?」
「そ、そんなの我も分からないですわよ!あと俺は転生してスライムになる予定だったんだ……とか、赤と白の服を着て……俺がサンタだ!とかよく理解に苦しむ発言をしてましたわね。」
「中々……個性的だね。」
どうやら話を聞く限り、サトウと言う人物はかなり変わった人間だったらしい。
天才は性格や思考が逸脱している場合があると言う話を、聞いたことがある。僕じゃ違うけど。もしかしたらそのサトウも、そういう部類だったのかもしれない。
「ええ、他にも青髪ツインテールにはネギを持たせるべきだ……とか、デュフフって気色悪い笑い方したり……けど話はどれも面白かったですわよ。幼かった私には、かなり興味深く写った印象がありますわね……って、あ、ヒスイさんが来ましたわ。」
スピネルがパッと顔を向けた先には、3つのかき氷を器用に抱えたヒスイがいた。
人を避けながら、僕らの側まで歩いてくる。
「おっとっと、お待たせしました。ではアンさん、ブルーハワイです。」
「わ~ありがとうですわ!」
「いえいえ。あと、このメロンがマスターのです。どうぞ。」
「ありがと。」
「ふふ~ん、そして私がいちごです!どうせですし本当に味が一緒なのか、食べ比べて見ましょうかと意気揚々にヒスイちゃんは提案します。」
「賛成ですわ!」
「さすがアンさんです、分かってますね。あとマスターに拒否権はありません。甘んじて受け入れてください。」
「おかしいな、お金を払ってるのは僕なのに。」
僕のつぶやき虚しく、かき氷を交換会が始まった。
僕のかき氷は数秒で半分以上、2人に食べられてしまう。気づいたけどこれはかき氷の食べ比べではなく、僕の搾取が目的らしい。
全く腹黒い子たちだ。
「うがー、頭が……頭が痛いですわ。キーンとします。」
「勢いよく食べるからですよ。ちなみに雑学ですが、その頭痛の正式名称はアイスクリーム頭痛と言います。」
「うぐぅ……そんなことより、このキーンを抑える方法はないのかしら?」
「いきなり冷たいものが通過して喉の神経がビックリしてしまうことが、痛みの原因らしいですよ。つまり慣れさせれば治ります。」
「つまりもっと冷たいものを食べればいいのですわね!もっと食べますわ!……くぅ、キーンとしますわ……。」
「頑張ってとヒスイちゃんは、全身全霊のエールを送ります!頑張れ~ファイト~。」
「頑張りますわ!」
多分、対処法間違っている。
ゆっくり食べることさえ心がければならないのだから、慌てるほどのことでもないんだけどな。
そんなことを思いながら、残ったかき氷を口に運ぶ。
久しぶりに食べたが、案外美味しいものだ。けどこれって材料氷だけだから、めちゃくちゃ安いと思うんだけど。
絶対原価、めちゃくちゃ低いよね。
まあそれってわたあめとかも一緒か。気にしたら負けってことで。
にしてもサトウの話も気になるが、街から感じる嫌な雰囲気も妙に心を刺激してくる。
気のせいとは言ったが、多分何かあるな。この多くの人が集まる場所で何かあれば、大変な騒動になるのは間違いない。
とりあえず地図はしっかり頭の中に入れとこうかな。
「あー、アンさん舌真っ青ですね。」
「え!?真っ青!?そうなんですの!?って、ヒスイさんは舌が真っ赤ですわよ!」
「おっと、真っ赤になってましたか。となればマスターの舌は緑色ですね。」
「あー、ホントですわ!気色悪いですわ!」
「ふふ、気持ち悪いですね。」
僕は2人の会話を耳から聞き流しながら、パンフレットをジーッと見つめていた。
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