閑話 旅について⑤
僕はスピネル、ヒスイと共に竜車でシルフギルドに向かっていた。
経路を再び簡易的に表すなら、
シャーク街→モンキー街→スワン街→イーグル街→シルフ街
今はスワン街を出て、イーグル街に向かっている所。
けっこう早いでしょ?実に順調なペース。
ただこのスワン街→イーグル街の道のりが割と長い。
それに何か、道路が混んでる。
雨だからかな?
窓から空を覗けば、空は曇って小雨が降っているのが見えた。
きっと夜には、すっかり晴れてるんだろう。感だけど。
にしても空ってのは、恐ろしく広大だ。
大人になっても、つくづく実感する。
小さいときは手を伸ばせば、一つくらい雲を掴めるんじゃないか……なんて思っていた。
空に浮かぶ雲に向けてよく、魔法を発射していたものだ。
今考えれば、めちゃくちゃ危ない行為。
誰かに当たったらどうする気だったんだろう。
コトコトと竜車は振動し、飯を食べた後だからか体はポカポカ。
ん……眠くなってきた。
一定間隔で振動されると、何でこんなにも眠くなるんだろう。
ゆりかごとかと、関係性でもあるんだろうか?
どんどんと、瞼が重くなる。
ただ…どんどんと閉じていく瞳が捉えたのは、スピネルとヒスイの姿であった。
二人は何やら大量のパンフレットを机の上に広げ、獲物を狙うワニのような目で見漁っている。
思い出してみれば、二人は昨日経由したスワン街で何かをこそこそと集めていた。
あのパンフレットを集めていたのか……。
それにどれも種類が違うようではあるが、内容は同じのようだ。
表紙にはどれも花火であったり、浴衣であったりが描かれている。
何かの催し物?
しかしこんな量のパンフレットって、いる物なのかな。あれって一枚二枚あれば十分な感じがするけど。
そんなことを考えていると、するっとヒスイが近づいて来た。
どうやらパンフレットを見つめていたものだから、興味を持っているものだと思われたらしい。
「マスター!どうやらイーグル街で、夏祭りが開催されるようです。それも丁度私たちがイーグル街に到着する日に!これは行くしか選択肢は無いと、ヒスイは興奮気味に説明します!」
よほど興奮しているようで、その語気には迫力すら感じる。
なるほど夏祭りか。あの表紙の絵にも納得がいく。
「そうですわ、ご主人様!我は一度も夏祭りなるものに、行ったことがありませんわ!絶対行きますわよ!」
スピネルも僕に近づきながら、そう訴えて来た。
メイドとしてそれはどうなんだろ?やっぱりメイドってのは何も言わずに、ご主人様の指示に従うって存在なんじゃなかろうか?知らんけど。
まぁ、だけど断る意味はないかな。
夏祭りとか、ちょっと気になるし。
「分かった、じゃあ行ってみよっか。」
「やりました!」
「やった~ですわ!」
「やってやりました!」
「やった~ですわ!」
「やれるべくしてやりました!」
「やった~ですわっ!」
二人は互いに、ハイタッチを何度もして喜びをかみしめている。
既にお祭り気分だ。テンションが高い。
イーグル街は、あの色々とあったグリフォンギルドのあるグリフォン街の隣の都市。
シルフギルドからもいけない距離ではないが、わざわざ行くほどの距離でもないと言ったところ。
夏祭りが毎年開催されているという話は何度も聞いたことがあったものの、足を運んだことは無かった。
僕はどちらかと言えば、こういう地方の祭りは大好きだ。
その土地の特色だったりとか、歴史だったりとかが自然と現れるから。
僕が旅をしている目的だって、普段訪れることない場所を訪れて、その土地の人柄であったりとか生き方であったりを自分の目で見て感じ学ぶこと。
祭りに参加することだって、その目的に沿っている。
帰り道だって旅であることに変わりはないしね。
「アンさんは、夏祭りでしたいこととかありますか?」
「そうですわね……やりたいことといえばやはり、型抜きですわね!」
「型抜き!?型抜きを選ぶとは、中々変わってますね。祭りの目的が型抜きの人、初めて見ましたよ。」
「そ、そう?じゃ、じゃあ紐くじですわ!」
「あー、あの絶対豪華な景品と、紐が繋がってない系のくじですか。いや、あれが目的の人も絶対いないですよ。断言します。」
「じゃ、じゃあ、焼きとうもろこしを食べますわ!」
「なるほど。いや、なんでやねんと流石のヒスイちゃんもここまで来たらツッコミますよ。祭りで1番楽しみにして食べるものが焼きとうもろこしは、今までの挙げられたものと比べればマシですが……大概です。」
「も~、じゃあ祭りのメインの楽しみはなんなのですわ!」
「おっと、そう言われると困りますが、食べもので言えばやはり、わたあめだとかかき氷じゃないですか?することで言えば……金魚すくい?あと花火を見ることとか。」
「花火!?見たいですわ!」
スピネルは興奮気味に、鼻息を荒くする。
花火なんて、ローズに言えばいくらでもみせてくれる。
所詮、火属性魔法と風属性魔法の応用に過ぎない。
スピネルとヒスイの会話を聞き流しながら、何となく一番近くのパンフレットを開いて中を覗く。
『最後に祭りのフィナーレとして五千発の花火を打ち上げます。帝国でもめったに見ない量の美しい花火。ぜひご覧ください。』という文言。
どうやら本当に花火はあるらしい。
ただ花火を見るとなれば、場所取りであったりだとか色々と問題がある。
僕が権力を振りかざして無理やり確保することも可能だけど、あんまりしたくないな。
あくまでも一般人として、祭りごとには参加したいし……。
旅でギルドマスターであることを主張することだってほぼしたことはないし、する気もないのだ。
それも全てただの一人の人間として、街に溶け込むため。そうしないと見えない景色だっていっぱいある。
ただ権力のある者であるとバレないと言うのも、割と難しい。
今乗っている竜車だって、見るものが見ればかなりの金持ちであることが一瞬にしてばれる。
気配だって、強者と見られない工夫が必要だ。
おかげで竜車を隠したり、気配を感じさせないようにする工夫だって色々としてきた。
今一緒にいるスピネルも、持っている魔力量や気配はかなりのもの。
さすが魔王軍幹部。だからこそ僕が開発した気配を感じ辛くする魔法をかけて誤魔化している。
この魔法は何となく旅の途中で開発したものだったが、僕にかける必要はなかったので完全に用途を失っていた魔法。使い道ができて良かった。
名前が無いので、とりあえず感覚錯覚魔法とでもつけとこうかな。
きっと魔術協会とかにこの技術を売ったら、大量のお金がもらえた代物。
もう金いらないし、どうでもいいけど。それにきっとこんな高度な魔法、僕以外使えるわけがない。
「マスターは夏祭りで食べたい物とか、あるんですか?」
気付くと、ヒスイがそんな質問をしてきた。
どうやらいつの間にか二人の女子トークが拡大し、僕のとこまで飛んできたみたい。
食べたい物といわれても、そこまで考えて夏祭りに行ってはいない。ゲリラ的に食べたいなと思ったものを食べる。あとは人間観察、そんなもの。
けどそうだな……食べたい物……食べたい物。
今食べたい物……。
「そうだな~、焼きそばかな。」
「焼きそば?焼きそばなんていつでも食べられるではないですかと、ヒスイちゃんは信じられないと言う顔でマスターの顔を覗きます。」
「ご主人様、夏祭りのなの文字もわかってないですわ!あははあはは。」
なんて言い草だろう。
焼きそばを作ってくれる方々に謝って欲しい。
あとスピネルに言われる筋合いはない。
「君たちこそ分かってないさ。いつも美味しい焼きそばを祭りの場で食べても、美味しいに決まっているだろう?さらに祭りの雰囲気はスパイスのように、焼きそばをさらに美味しくするんだ。」
「言いたいことは分かりますが、それは惑わせられているだけです。ただの焼きそばであることに変わりはありません。」
「スパイスって言葉の使い方がも~ぷ~くすくすくす。」
スピネルが頬を膨らませて笑っている。
中々に僕のメイドは、煽り性能が高いらしい。
ただ僕が煽られて怒っているとか、そういう訳ではない。
怒りとか、煽りだとか、正直どうでもいい。怒りと言う感情はそれだけで人から冷静な判断を鈍らせ、魔術をも正確性を失わせる。
人の上に立つ者なら、何よりもコントロールしなければならない感情だ。それができない上司など二流以下。
まあそれがほとんどなのが、このご時世なのだが。せめて僕を次ぐ人は、そういう人でないよう注意したい。
それに怒りで暴力を振るう人はいるが、それは解決にならない。人を殴ってそれで冷静さを取り戻した人間がどこにいるのだろうか?怒りはそれだけで人をモヤモヤとさせ、さらに簡単に収まらず何十年も根に持つことだってある。こんな感情、できるだけ持ちたくないものだ。
ただ生きている以上、怒りを感じてしまうときはある。それはしょうがない。ただ怒らない努力は積み重ねていけば、数年後には人として成長できる。怒りを感じたならばそれを自覚し、改善する努力を尽くすこと。これがもしかたら人間として大切なことなのかもしれない。
けど……わざわざ怒らなければいけないことってのは、ときにあるんだよなぁ。人の成長を促すときや、行動を正さなければならないとき……戦闘で正確性よりも爆発力を必要とするときとか。
最後の例は例外だとしても、怒りの感情をぶつけられて成長できる人間もいるって話。誰でも怒られて成長するって訳じゃないのは大切だが。
そういう人を見極める力。それはとても難しい力だが、もし上の上に立たなければならない人間なら必ずいる。僕は白金等級となる冒険者を判断するときも、必ずこういった方面を注意するよう心がけているのさ。
ちょっと話が逸れたが、結局僕は別に怒りをむき出しにしたりは滅多にないってとこかな。
そういうことをできる人が増えれば、きっと戦争だってもっとマシな結果を生んだのに……。
「おっとマスター、ヒスイちゃんには聞かなければならないことがあったと、報告させて頂きます。」
「なにかな?」
「夏祭りにかかるお金って、ギルド経費で落ちませんかね?だって副ギルドマスターの命令でわざわざ呼びに来てるんですから、道中の食事などは経費で落ちるはずですと高らかに主張します。」
「そうですわ!経費で落ちますわ!」
「ですよね、ヒスイちゃん、感動!」
「感動ですわ!」
何故かスピネルが口を出して、結論を出していた。
普通の奴隷首輪とかじゃないから、スピネルの行動はかなり自由が効く。こんな感じに、命令されなきゃ自由に発言できるのだ。僕がワザとそうしてるんだけど。
そうじゃないと犬とかペットと同じじゃん。それってなんか面白くないと思うんだよね。
僕って人権的だな。
けどこの発言を無視はできない。
「ちょっと勝手に話を進めないでくれ……。う~ん、無駄な出費だし経費落ちは無しかな。」
「ええ!?予想外の返答ですね……。ヒスイちゃん失望……。」
「ご主人様、冷酷無惨ですわ!」
「冷酷無惨って……中々難しい言葉知ってるね。まぁ……しょうがないでしょ?クリスタに説明つかないし。だから……えっと、僕の奢りってことで。」
「え!?マスターがお金を出してくれるんですか!?」
「うん、いいよ。せっかくだし。」
「やった~とヒスイちゃんは感情を顕にします!」
「やりましたわね、ヒスイ!」
「やってやりましたよ、アン!」
「やりましたわ!」
「やり遂げました!」
「やりましたわ!」
「やってやりました!」
スピネルとヒスイは嬉しそうに、またハイタッチしている。本当にテンションが高い……呼び捨てになってるし。
つかスピネルは僕に払ってもらって、当然って感じだな。いいけどね、別に。
奴隷って言ってしまえば、ご主人様の物だし。自分の物が出す出費なんだから、僕が出すのが当然か。
こんな優しいご主人様は、そんなにいないよな……全く。
読んで頂き感謝申し上げます。
評価、ブックマーク登録等して頂けると幸いです。
感想くださるとモチベにつながりますので、頂ければ嬉しいです。
ここで第二章、前半パート終了になります。
ここまで読んで頂いた方々に、心から感謝を。




