第四十一話 修行について⑤
教会の3階部屋が見つかってからと言うもの、僕は毎日のように通い魔術の知識を深めている。
置かれている魔術本は絶品。勉強嫌いの僕でも、つい夢中になって勉強してしまほうほど興味深く、面白い。
やっぱり人間、理解して成長してるなって様を感じると俄然やる気が出るものである。
テストとかでいい点数とると、勉強のモチベが上がるのと一緒。僕の魔法も日々進化の連続だ。
ただ今日は残念ながら、日曜日。
唯一3階部屋に足を運べない曜日だ。
シスターメラに見つかっちゃうからね。
ちなみに今のところ、シスターメラに見つかるようなヘマはしていない。3階に行くときは孤児院にも顔を出さず、秘密裏に行くのが日課。
冒険者である以上、気配を消すことは十八番だ。シスターメラどころか、他のシスターにも一切見つからない。ときどき入ってくるダイヤやムーンが、僕がいることに驚くほどだ。
とりあえず今日は魔術本の内容を思い出しながら、シルフ街外の平原で魔法の試し打ちをしている。
何度も試して調整して魔術本の内容を噛み砕いて理解し、自分の中に落とし込む。
そうしているうちに分かってきたが、どうやら僕は大量の魔法陣を一気に扱うより、小さい魔法陣を細々と組み合わせるのが得意なタイプらしい。
クリスタなども同じタイプなのだが、本当にここまで似てくるとは思わなかった。
逆にアズやローズなどは、大量の魔法陣を展開し合成したりして扱う魔法を得意としている。
まさに魔法の適性は人それぞれ。
気づけば朝から始めたのに、既に空が暗くなっている。
この頃はいつもこんな感じ。
楽しかったり集中してたりすると、時間はスグに過ぎ去ってしまうものだ。
逆に退屈なときほど時間が長く感じることもないが。
この現象、誰か名前付けてくれないだろうか……。
心理学とかなのかな?
大人になると時間が短く感じるジャネーの法則ってのがあるのは、知ってんだけど。
魔力の研究は生命エネルギーを消費していることもあり、疲労がえぐい。
筋トレとかより何倍も疲れた気持ちになる。
帰って夕飯食べたら、さっさと寝よ。
フラフラになりながら、シルフギルドまで帰った。
そして夕飯を食べに、食堂に足を運ぶ。
そう言えばこの頃はアズと一緒に夕飯を食べていない。
互いに研究に没頭してることもあり、時間が合わないのだ。
ただ……今日はタイミング良かったのかアズがいた。
何故かカイヤと一緒に……。
「フォスせんぱーい!コッチですよ!」
呼ばれたままアズとカイヤの座っている席に近づき、そのままカイヤの横に座ることにした。
向かい側にはアズが座っている。
「こんにちは~、フォス先輩!」
「うん。こんばんはだけどね。あれ、クリスタとの修行はどうしたの?」
「それが今日は事務作業の助っ人に呼ばれたようで、休みなんですよ!だからアズ先輩とフォス先輩と一緒にご飯が食べたいな~と思って、来ちゃいました。」
カイヤは非常に上機嫌な様子だ。
耳や尻尾がフリフリと動いている。
あー、僕もクリスタの修行が休みって聞いたときはこんな感じだった気がする。
マジで嬉しいんだよな、これ。
大雨とかで学校休みになる5倍くらい嬉しい。
「はぁ、よく言うわね。狙いはフォスだけでしょ。」
「いえいえ~、アズ先輩とも、ですよ!」
「うざ。」
カイヤとは反対に、アズは疲れきった様子である。
研究を頑張っているのだろう。
お疲れさまだ。
「それでフォス、魔法の勉強の方はどうなの?」
アズは夕飯を口に入れながら、ふと質問をしてくる。
僕もいただきますと心の中で叫びながら、夕飯を口にした。
今日はグレートボアの角煮定食だ。バリ美味い。
「かなり順調だよ。ダイヤに色々と教えてもらってるしね。」
さすがに教会の三階で勉強してるなんて、夜の人の多い食堂で言ったら大変だ。
風のうわさでシスターメラの耳まで届いてしまうかもしれない。
ここは中途半端に誤魔化しておく。
魔術本で分からないところがあるときは、ダイヤに教えてもらってるし嘘じゃない。
さすが研究科の卒業生だけあり、本当に博識。
毎回ダイヤには感心させられる。
「へぇ、ダイヤ……ね。」
アズは何故か、ばつの悪そうな顔をする。
そしてじろっと僕の顔を見て来た。
「ん?何か気になることでもあった?」
「いや……この頃、あんたそのダイヤって子と仲良いと思ってね。大丈夫?本当に宗教に勧誘されてるとかじゃないわよね?あれって本当に自然に勧誘してくるらしいわよ。」
「いや、大丈夫だよ。前も言ったように、勧誘はされてないから。」
「ふ~ん、そう。なんか仲が良すぎる気がしてね。前、夕飯も一緒に食べてたでしょ。」
「え!?う、うん。帰りが遅いときはね。えっと……本当に何かあった?」
「いや、なにもないわよ。」
つい魔術の研究に没頭してしまうと、ダイヤに言われたギリギリの時刻である八時半まで教会にいてしまうことも多い。そうなるとギルドに帰ったら、もちろん既にアズは食べ終わっている。
それで丁度帰りの時間がダイヤと同じだったりすることがあるので、一緒に食べることはあるのだが……そこまでアズが気にすることでは無い気がするけど……。
心なしかアズの気分が、良くない気がする。
「あ~フォス先輩!あのエルフとよく一緒にいますよね!確か私のために、フォスさんと一緒に研究施設に行ってくれた方ですよね。」
「そうだね。」
「あのことは感謝してますが……フォスさん!言わせていただくと、あの方とはあまり親密な関係にならない方がいいかと。」
「え、えっと何で?」
「何でと言われると困りますが……何となくそう思うんですよね。獣の感って言うんですか?あの人って、いっつもニコニコしてて何か気持ち悪いんですよ。あれは間違いなく裏があります。もしかしたらフォスさんと仲良くなることで、何かを企んでいるかもしれません。」
「あ~私もそんな感じしてるのよね。フォス、本当に気を付けなさいよ。」
「そうか?そんな感じは全然しないんだけどな……まぁ、二人が言うなら気を付けては見るよ。」
アズの直感はとても信用してるし、カイヤの感だってバカにはできない。
本当にダイヤになにかあるのだろうか?
いっつも優しいし、すごい良い人なんだけどな。
「それにあのエルフ、多分香水つけてるんですよね。フォスさんの服から匂いがします。」
「え?匂いする?」
「しますよ!フォスさん、もしかしてあのエルフと距離が近いんじゃないですか?」
確かにダイヤからは、気持ちが和らぐような甘い匂いがする。
ただそうだとしても、匂いが僕に着くほど距離を縮めたたことなんて……いや、あるな。
めちゃくちゃあるな。
ダイヤに質問すると、横に座って教えてくれることがほとんど。
そのとき距離が近くて、腕が当たったり髪に触ってしまったりすることがある。
元々ダイヤの距離感はバグってるので、ちょっと慣れてきてる自分がいた。
ただ……あの距離間のせいで、胸を触りそうになってしまうときがあるのだ。あれは気をつけたい。
もし触ったものなら、即騎士団行きだ。何だかダイヤなら、許してくれそうな雰囲気あるけどね。
もしラノベの主人公とかなら、会ってすぐラッキースケベで触ってんだろうな……って僕は何を考えているんだ。
「あっ!やっぱり近いんですね!今やらしい妄想をした感じがしました!許せません、今すぐ匂いを上書きします!」
カイヤは早口でそう言うと、僕に勢いよく抱きついてきた。そのまま頭を体にゴシゴシと押し付けてくる。何だか本当にネコとか犬とかに体を擦り付けられてる気分だ。癒される。
「あんた何してんのよ!」
「ぐへっ……。」
カイヤはアズに首根っこを掴まれて、無理やり僕から剥がされた。
もうちょっと堪能したかったとは、言わないでおこう。
「酷いですアズ先輩。私はマジめに話をしているんです。」
「真面目の何が、抱きつく行為に繋がんのよ。」
「めちゃくちゃ繋がりますよ!ボディーランゲージはいつだって、大事なんです!人間の基本の意思疎通ですよ、知りませんでしたか?」
「はぁ……前から思ってたけど、絶対それボディーランゲージの意味履き違えてるわよ。」
アズは大きなため息をつく。
疲れからか、激しく反論するつもりも無いようだ。
それほど魔法の勉強に力が入ってるのかな、少し気になる。
「アズはどう?魔法の方は?」
「私?私はまぁ、問題ないわね。夏祭りまでには、キリの良いところまで仕上がるんじゃないかしら。」
夏祭りか……なるほど自然に言ってはいるが、アズとしては一つのタイムリミットとして夏祭りを指定しているらしい。
どんなことであっても、この日までにやり遂げんだ!って目標があった方が努力しやすいもの。
受験勉強とかテスト勉強とか、試験の日が決められてるから必死に努力できるのだ。
僕も夏祭りまでに、魔術理論を構築させるスケージュール管理で努力してみるかな。
「え!?ちょっと待ってください、アズ先輩夏祭り行くんですか?」
「ええ、フォスとね。」
「うわあああああああああ、ズルいズルいズルいズルい!私も連れてって下さいよ!」
アズは机をドンドンと叩き、ダダを捏ね始める。
日本のレストランでやったら大変なマナー違反なんだろう。
「あんたはクリスタとの修行があるでしょ。大人しくシルフギルドに入るために努力してることね。」
「1日休んでも何も変わんないですよ!うう、けど絶対クリスタ師匠は許してくれない。うわああああん。」
カイヤは喚きながら、机に突っ伏した。
そんなに行きたかったのか?ちょっと驚いた。
こんなに残念がられたら連れて行きたくはあるが、夏祭り何かよりシルフギルドに入ることの方が何倍も大事。
合格できなきゃ、カイヤはギルドマスターの奴隷になるらしいからね。
誘う選択肢は取らないのが懸命か。
「カイヤその来年はって来年は戦争があるから……再来年は一緒に行こうよ、な?」
「再来年…テラ遠い……。」
耳がしおれるほどぐったりしている。
ちょっと可哀想だ。
「あんたは合格祝いで、フォスとデート行くんだからいいでしょ!」
「う~、それはそうですけど……。」
「デート……?」
「あれ、フォス先輩のその反応……もしかしてアズ先輩、デートのことまだ伝えてないんですか!」
「あ……言うの忘れてたわね。」
「酷いです!鬼畜!貧乳!ぬりかべ!」
カイヤが悲しむような表情で、そう叫ぶ。
「マジでぶっ殺すわよ。はぁ……フォス、カイヤと合格祝いにデートしてくれない?どういう経緯か忘れたけど、そう言う決まりを作ったのよ。」
「え?……えっと、良いけど。カイヤはそんなんでいいのか?せっかくの合格祝いだし、もっと壮大なことでも良いけど。」
デートしてくれと言われればもちろん断る理由は無い。
ただ僕ごときとデートなんかして、楽しいとは思えないんだけどな。
「全然いいです!むしろ合格祝いだからこそのデートですよ!けどその……わがまま言わせて頂けるなら、デートプランとか全部考えてくれると嬉しいな~みたいな。」
「そっか、分かった。頑張ってみるよ!」
「わーい、フォス先輩大好き!」
「ほら、くっつかない!」
「ぐへっ。」
カイヤはまたアズに止められていた。
分かったとは言ってしまったが、デートプランなんて人生で一度も考えたことないぞ……。
どうすんだこれ。
大体デート自体したことないってのに……ん?考えてみれば、アズとの夏祭りも考えようによってはデートなのでは?
男女二人きりだし、性別だけ並べればデートに見えなくも無いじゃないか。
もしかして人生初のデート?
僕も男として成長しているということか。
なんか嬉しい。
夏祭り純粋に楽しみだしな。
カイヤとデートの予行練習も含めて、楽しんでくるか。
「いや~、アズとの夏祭りデート楽しみだな。」
ついそんなことを口にしていた。
「デ、デート!?そ、そうね。デートね。」
「ぐわあああああああああああああああ!」
カイヤの絶叫が、食堂内に響いた。
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