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第三十八話 修行について②

いつも通りの、アズとの昼食。

教会に行くときは孤児院で子供たちと食べたり、ダイヤと食べたりしているが、もちろんいつも行っている訳では無い。

むしろこっちの方が、当たり前だ。


寝起きのアズと、意味もない会話をしながら昼食を頬張る。

これぞ僕の日常。


あ、そう言えばクリスタが戦争があるだとか何とか言ってたな。

いい機会だしアズに伝えるとするか。周りにも人はいないし、魔力の反応も無いため聞かれている恐れもない。


「なあアズ、昨日クリスタに伝えとけって言われたことがあるんだけど……。」


「何?エロ本のこと?」


「いや違……って、え!?は?」


「数日前、これがフォスのお気に入りのエロ本だぞって、クリスタに見せつけられたことがあったのよ。衝撃的だったわ……。」


あいつまじで何してんだ。

人のエロ本勝手に広めるとか、重罪なんてレベルじゃないんだけど。テロだよテロ。

1発顔面を殴りたい。


「その…フォスも男だし……エロ本を持つのは分かるわよ。けど…その……後輩物ってのは頂けないわね。せめて幼馴染物とか…どう?」


「いや別に幼馴染物だって好き……って、何でエロ本談義をこんな昼から、しかも食堂でしてるんだよ!とりあえずその記憶は忘れてくれ!」


「それは無理よ。内容全部一コマ一コマ思い出せるくらい記憶に鮮明に残ってるんだから。」


そう言えばアズって暗記力すごいんだった……。

暗記力が良いことがこんなデバフになることってあるんだな。つか、何でアズは本の内容まで知ってんだよ。


「くそ、悔しいが一旦この話は置いておこう。実は近々大きな戦争があるって話らしいんだ。詳しく言うならちょうど来年の今くらい。」


エロ本の話を続けても僕の傷口が広がるだけなので、さっさと本題に持ってく。

ただ戦争の話を聞いても、アズは割と驚くような反応は見せなかった。


「ふーん、そう。まあこんな大層なギルドに所属してるんだもの。いつか巻き込まれるぐらい思ってたわよ。」


「意外とあっさりしてるな。覚悟してたのか?」


「まあ例の一件で魔王軍幹部をクリスタが倒したでしょ。それでより遠かった魔王の存在が現実味を帯びてきたなって感じね。戦争だってあってもおかしくないわ。」


確かに言う通り、魔王という存在がより身近に感じるようになったと言うのはある。

今まで表に出てこなかった魔王軍幹部の存在。

それを倒したと言うのは歴史的にも全くと言っていいほどなく、それほどの大きな偉業だ。


雑誌や新聞にはもちろんデカデカと掲載されたし、クリスタとガーネットの名はより世界に知れ渡った。そんな瞬間にその場にいただけでなく、魔王軍幹部と相対した僕は非常に貴重な体験をしたのかもしれない。


「それに大きな戦争があるってのは私たちにとって悪いことだけではないわ。むしろチャンスよ。」


「チャンスってもしかして……」


大きな戦争がある。それはポジティブに考えれば、大きな成果を挙げられる機会でもあるってこと。

それはクリスタやガーネットのような大きな武功を挙げる可能性があることを意味する。

つまり……


「私たちの夢である、白金等級になれるチャンスってことよ!」


アズはそう言いきって、ニカッと笑みを浮かべた。


白金等級冒険者。

それは僕がなろう系チートハーレム主人公になるための道標であり、アズの冒険者としての到達点。


僕らは毎日仕事している訳では無いし、他の冒険者と比べれば依頼も全然受けてない。そのため積み重ねてきた功績はほとんど無いと言っても過言ではないだろう。

しかし大規模な戦争で、大きな功績を挙げることが出来ればそれくらいひっくり返る。僕らが夢に到達するための近道は、もしかしたらそこなのかもしれない。


ただ……僕には一つ大きな懸念があった。

それは僕自身が本当に白金等級冒険者に相応しいかどうか。


ただの精神的な問題。意味わからないほど小さな問題。

それでも僕はムーンとの一件で、気付かされた。

それが今まで心の中に引っかかっている。


「ねえ、僕ってクズなのかな?」


「え?は?いきなり何?怖いんだけど。病んでる?精神病?」


「違う違う。その…僕って人間の命を尊ぶ主義なんだ。どんな悪人だって出来るなら殺したくはない。アズだって僕が人間相手に峰打ちするのをよく見るだろ?」


「そうね。」


「けどさ、ムーンを助ける際、つい賊を何人も殺しちゃったんだよ。それであー言ってることと違うことをしてしまう僕って、白金等級には相応しくないクズだなって……そう突きつけられてね。ずっと悩んでる。」


「何、その意味の分からない悩み。襲ってきたとこを殺したんでしょ?なら正当防衛なんだから当然よ。」


「いや、僕の腕なら殺さずに峰打ちすることだって出来たはずなんだよ。だけど感情に流されて殺ってしまった。」


「じゃあ何?あんたは私が悪人を弓矢で殺しまくってるのを見て、殺さなくて良かったかもって毎回心を痛めてたわけ?」


「いや、そういう訳じゃない。すごい自己中的な思想なんだけど、僕が救えるのに殺ってしまったのが問題なんだ。魔物に対してとか…殺す手段しか残されて無かったグリフォンとか…それらに対しては何も思わななかったんだけどね。僕が僕自身を裏切ってしまったこと……それが酷く心に引っかかってる。」


「は~面倒くさ。じゃあその解決方法教えてあげるわよ。」


「本当?」


「ええ。その解決方法は……今すぐそんなこと忘れろってことよ!」


アズはいきなり身を乗り出すと、僕のおでこにデコピンしてきた。


「痛!?」


痛くもないのに、反射的にそう声が出た。


よくあるよね、ゲームとかで自分の使ってるキャラクターがダメージを食らった時とかに言っちゃうやつ。まさにそんな感じ。


「過去は後悔だけせずに、反省しそこから学ぶのが大事って言うけど、あんたのその過去は反省する価値すらないわ!今すぐ忘れなさい。」


「そんな簡単に一蹴しないでよ。」


「一蹴するわよ。蹴り飛ばしてM78星雲まで飛ばす勢いだわ。いい?冒険者たるもの常に最悪を想定しなさい。あんたの最悪な事態、それは峰打ちに失敗して殺されることでしょ。」


「まあ、そうだね。けど……」


「あんたが失敗しないほど手加減が上手いことくらいわかってるわ。けどもしもは起こるのよ。殺すだけなら力任せにぶった斬るだけで簡単だけど、峰打ちはそうでは無いんだから。」


「マーフィーの法則ってやつか……。」


「だからあんたのその思い出は反省する意味もないし思い出す価値もないわ。エロ本の話、頑張って私も忘れてあげるから、あんたもその思い出忘れなさい。分かった?逆に引っ張られて峰打ちしようものなら、私がぶん殴るからね。」


「ぶん殴る……分かったよ、そうだね。あ~何かアズにバシって言われるとスッキリするよ。ごめんね、ちっちゃいことだし自分でも理屈で分かってることはあるんだ。けどこうしてアズから言われると心に響くって言うか、納得できちゃうんだよ。ありがとう。」


「もう、当然でしょ。私はあんたのパーティーリーダー。小さいことでくよくよ悩まれたらこっちが困るんだから、いつでも頼りなさいよね。」


「かっけえ……。これからも着いてきます!」


僕の笑顔を見ると、アズは嬉しそうに胸を張って見せた。


中々頼りになることを言ってくれる。

さすアズだ。

もうさすアズを通り越して、ASAだ。

アルティメットさすアズ。


「はぁ、さて……話を戻すわよ。次に起きる戦争が私たちにとって大きなチャンスになる。それは覚えてるわよね?」


「もちろん、ばっちり。」


「そう。もっとチャンスについて詰めるなら、そうね……やっぱり分かりやすいのは魔王軍幹部を仕留めることよね。けど……それには私たちじゃ圧倒的に足りないものがあるわ。分かる?」


「やっぱ一番大きな差は戦闘能力かな……。」


「そうね。私もあの意味わかんない漆黒の鎧と対面したときに痛感したわよ。ここまで実力に差があるんだってね……。だから戦争に向けてこれからやることは一つだけよ。強くなる。以上。」


「そんな簡単に出来たら、もう強くなってるよ。」


「そんなこと分かってるわ。よし、じゃあとりあえずそれ食べ終わったら外行きましょう。」


「え?何で?」


「いいからいいから。」

アズはそう言ってパンを頬張り、飲み物をガっと飲む。


よく分からないが、しょうがないので指示通り動くことにするか……。

そう思いながら、僕も昼食を食べ終えた。



夏だ。暑い。

僕とアズは、何故かシルフ街外の野原に来ていた。

強い日差しを避けるため、カイヤが真っ黒に染め上げた例の木の下で休む。


「それで、何でここに連れて来たんだ?」


「は?あの話の流れでわからなかったわけ?」


「う、うん。」


「はぁ、相変わらず理解するにがとろいわね。ここで強くなるためのヒントを探そうって話しよ。」


「ヒント?」


「ええ。強くなるとは言っても、私たちはシルフギルドの金等級冒険者。既にある程度の実力はあるのよ。だからこそこっから上げるためにどうすれば分からない、違う?」


「ご名答。けどこんな場所で掴めるのか?」


人気(ひとけ)がなくて、心の内を躊躇わずに言える場所ってのが大事なのよ。個人で成長の鍵を見つけるのには問題がある。けどフォスと私、互いに見つけ合うってのはどう?5年も一緒にいたのよ。弱点くらい何となく互いにわかってるんじゃない?」


アズの口から想像以上に、まともな提案が来た。


1人では気づけなくても、他者からの提案が気づきに繋がることは、戦闘スキルの向上に関わらずどんなジャンルにだって起こること。

それも5年付き添ったパートナーからの意見だ。

僕もアズの弱点と言われれば思う点があるし、これは非常に有効な判断な気がする。


僕は首を縦に振ることにした。


「よし、じゃあ先ずは私が思うフォスの成長できる点について言うわよ。フォスの成長すべき点は私が考えるに一つね。」


「あ、1つなんだ。もっとボロクソに言われるかと思ったよ。」


「逆にいっぱいあったら金等級成れてないんじゃないかしら?」


「それもそうかも……。」


「そうよ。それで……あんたの欠点は、魔法の知識への欠如だと思うわ。」


「結構勉強したはずなんだけどな。」


「確かにあんたは操作とかの小賢しい技術は高い。けど威力はどうかしら?もしまたあの甲冑と相対したとき、あなたは一発でもってける魔法はある?」


「うーん、悲しいけど無いね。」


今は全然勉強してないし……。


グリフォンとの戦闘でも、僕はダイヤのサポートをしたに過ぎない。もしダイヤと僕の立場が逆だったとしたら、グリフォンを倒す超強力魔法は僕の術にあっただろうか?いや……無い。


複合魔法のおかげである程度の威力は保証されているが、そこに甘えてしまっているという懸念はある。


「なら、とりあえずそこを伸ばすべきね。勉強でもしたら?」


「めちゃくちゃ正論。異世界チートハーレム主人公になるためだよね……やるべきか。けど魔法の勉強って、自分に合ってるかとか、既存の魔法陣とどう組み合わせかとかの研究でしょ。かなりの時間を有するよね。」


「そうよ。何?やりたくない言い訳?」


「ぐっ……そうです。」


僕ははっきり言って勉強がとても嫌いだ。

ただ何で嫌いなのかと言われると、僕も分からない。

言葉の響きっていうか、しなければならないって感じが……辛い。

これが学歴社会の怨念か。


「時間がかかるなら、早くやらないと間に合わないでしょ。馬鹿?」


「はい、その通りです。勉強します。」


正論パンチのカウンターはやはり無かった。

屁理屈述べるならいくらでもできるが、意味が無すぎる。重い腰を上げて勉強するしかないか……。


ただ魔術の向上における勉強は、中学とか高校とかのテスト勉強とは大きく話は違う。

答えなんて無いし、どこまでの範囲をどのレベルまで高めるかに終わりはない。研究って言うべきかも。


教科書とか参考書とかに当たる本は魔術本になる訳だが、本屋とかで気軽に買える雑誌とかとは訳が違う。入手するだけでも困難なことに加え、購入するとなれば何百万はくだらなかったりするのだ。あの莫大な量を持っているクリスタは率直に言っておかしい。


マジでどうやって勉強しよう……。


僕だって自分なりの魔術理論や構築は完成させている。

そうじゃないと土属性と風属性の複合魔法なんて使いこなせない。

それを更に上の次元に進めるとなれば、もっと高度な魔法陣を勉強する必要があるのだろう。


三次元的構築魔法陣、多情報連動型魔法陣、多重構築型魔法陣など……

説明は省くけど名前だけで、難しさが伝わってくるような魔法陣の構築技術だ。


それも人によってこの構築技術は得意だけど、これは苦手……だとか、これはできないけどこれとこれを合わして使えばいける……だとか適性は個性に富んでいる。


とりあえず学んでやってみて、確かめるしかないかな……。


「とりあえずフォスの方針は決まったわね。それで、私はどうなのよ?」


手のひらの上で魔法陣を展開してちょこちょこいじっていると、アズから声がかかった。


「アズか……。」


アズの改善し向上すべき技術。

性格とかかな。あと飲みすぎ癖。

ってこれは技術云々ではないな。


……やっぱりパッと思いつくには、接近戦闘能力の低さか?

弓を武器にしている都合上、接近戦をする経験は少なく技術も乏しい。


それに逆に僕の課題は、アズに当てはまらないのって話もある。グリフォンを倒すように強力な一撃をアズは持っているのだろうか?


「言っとくけど呪文とかは止めてよ。今勉強してる途中なんだから。そこに加えてって話だからね。」


「分かってるよ。」


呪文を習得すれば、今の僕よりは高度な一撃を生み出す可能性は十分あるか……。

接近戦ってのも、弓を使うならあまり有効性は低い気がする。これからも僕と行動していくことを考えると、その点についてはカバーできると思うし。


ちょっとばかり過去を回想してみる。

アズが危険な状態に陥った戦闘……できるだけ最近な上に僕もその場にいたのは、やはりキンググレートボアの一件か。


あのときアズは死んでもおかしく無かった。僕が助けられたからどうにかなったものの、もう一度助けられるかと疑問を持たれれば、その再現性は低いと言わざる負えない。


あのときアズの足りなかった能力。

それは……、


「ちょっと外だし、体動かさない?」


「いきなりどういうことよ。今は私の向上すべき技術について確かめているところなんだけど?」


「それを確かめようかと思ってね。アズ、ちょっと今からさ……、」


僕はパッと立ち上がって、陽の当たる野原に数歩出る。

そして振り返り剣を鞘から抜き、アズに剣先を向けて構えた。


「僕と本気で勝負しようよ。」


読んで頂き感謝申し上げます。

評価、ブックマーク登録等して頂ければ幸いです。

モチベに繋がりますので、感想下さると嬉しいです。

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