表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/261

閑話 旅について①

シルフ街から港町である、シャーク街へと続く行商路。

その道のりは長く、大陸を端から端まで移動するほど。

魚介類などの海の幸が頻繁に運送されることから、いつもひどく賑わっていた。


その道のりを走る一つの竜車があった。

荷車の壁には風のマークが刻まれおり、様々な装飾が施されている。

貴族が所有しているものなのかと思えるほどに見た目が豪華で、内設備も十分。


ただその竜車は、突然ある小道に入り大通りから抜ける。その小道は近道で有名であったが、危険なことでも有名でもあった。

何故ならそう……


その道は、魔王軍領を通る道だからだ。


いつ戦闘に巻き込まれても文句は言えず、死んでもおかしくはない禁断の道。

竜車はその道を迷うことなく突き進んで行く。


周りの商人が止まるように声をかけるが、止まる気配はない。

「馬鹿だなぁ」「あれは死んだぜ」

見かけた人々は口々にそう呟いた。


だが……


「近道なんだから、この道使わない方が意味わからないよね。」

竜車の中にいた緑髪の少年は、そう独り言を呟いた。

それが見かけた人々への返答だったのか、自身への言い訳だったのか、誰にも分からない。


その姿は中学生のようで大人に比べれば幼く、筋肉もついていない。感じる魔力も無く、気配は非常に微弱であった。


そんな少年を乗せ、竜車は森の中へと迷うことなく進んでいく。

森が深くなり、木々が太陽光を遮って気温が低くなった。竜車内に射し込む光も弱まり、少年はうとうとし始める。


危険度を除けば、状況は睡眠をとるのに最適な環境。

ついついまぶたが重くなり、意識が遠のいていく。


だが、そのとき……


ギャウっと言う、悲鳴のような声が森に響いた。

突然竜車が急停止し、荷車は横転する。少年はぐるぐると壁を叩きつけながら回転すると、窓ガラスを割って地面に転がった。


「何かな、いきなり……,」


少し湿った地面の感覚を肌で味わいながら起き上がると、荷車を引いていた竜の首が無くなっているのに気づいた。荷車には竜の首から溢れた血飛沫がベッタリと着いている。


そして視界の奥に、映る人影。

感じる存在感と気配から、今の一連の出来事がそれの仕業であることを少年は瞬時に理解する。


スタ……スタ……


人影は徐々にゆっくりと、少年の方に近づいて来た。

竜を殺されては、荷車は動くことも出来ない。ましてやタイヤは既に凹んでおり、少年に逃亡と言う選択肢は残されていなかった。


「ここは魔王軍領ですわよ。それなのに帝国軍の竜車が入ってくるとは、どういうことかしら?」


数十メートルほど接近して、ようやく人影の正体が露となる。

それは……仮面をつけた悪魔であった。


背中には漆黒の羽が生えており、頭からは鋭い角が2本生えている。


雨が降っている訳でもないのに青色のカッパを着ており、帽子で頭までスッポリ。

合羽の隙間から長い薄紫髪がちらりと見えた。

手には赤色の傘。高度な魔法陣が何個も描かれていて、気色が悪い。


「君は何者かな?」


少年は当然の質問を投げかける。

すると少女は、仮面の中の瞳を不気味に光らせた。仮面で表情が隠れているにも関わらず、その少女が笑顔を浮かべているように少年は感じる。


「我の名は、スピネル。魔王軍幹部にして悪魔族の長。どう?驚いたかしら?」


「魔王軍幹部か、それは驚いたよ。」


「あら、そう言っている割には、驚いてないように見えますわね。はぁ……ちょっと息抜きしようかしら…と散歩してたら、とんだ少年に会ってしまいましたわね。」


「けっこう驚いてるんだけどな~。にしても魔王軍幹部か~、すごいや。僕、魔王軍幹部に合ったの初めてだから驚いたよ。握手してよ、握手。」


「……ん?握手?ちょっとまちなさい……あなた我の敵ですわよね?そんな親密的に来られると、気持ち悪いですわ。恐れるとか、怖がるとか、そう言う反応はないのかしら?」


「いや、全然。むしろ魔王軍幹部なんて言う大物に会えて、僕は嬉しいかな。」


「……調子が狂いますわね。まったく本当に変な少年ですわ。けれど残念。握手をしたいのは山々ですが、その前に我はあなたを殺さないといけないですわ。」


少女は薄っすらと笑みを浮かべると、手に持っていた傘の先端を少年に向けた。


「え?なんでかな?」


「当然ですわ。魔王軍領に、敵が入ってきたのですわよ。殺して当然。」


「怖!?うーんと、そんな血気盛んにならなくてもいいんじゃないかな?別に僕は侵略しに来たわけではないんだ。ただ近道したかっただけ、気に触ったなら謝るよ。」


「気に触る以前の問題と、思うのですけれど……。残念ながらあなたの死は、我と会った時点で確定事項ですわ。受け入れなさい。」


「うわー、ひど。僕を殺す気?」


「もちろんですわ。ほら逃げないと死んじゃいますわよ?いいのかしら?」


「逃げる…うーん……折角魔王軍幹部に会えたのに、逃げたくはないな。もっと会話してみたいし……ほら、戦闘じゃなくてさ、お話しようよ、お話。」


「……あなた本当に、状況が分かってるのかしら?あまりの危機感の無さに、呆れますわね。我は冗談抜きで、あなたを殺すって言ってるんですわよ。ご理解?」


「あはは、もちろん理解してる。それを踏まえた上で、お話しようって言ってるのさ。いきなり戦闘なんて猿がやること。言語があるんだから、先ずは会話して互いを知るべきだと僕は思うんだ。」


「あなたの意見など、どうでもいいですわ。良くて?理解してないようだから、もう一度教えてあげるわよ。あなたは今から我に殺される。そしてあなたは逃げることもできずに死ぬ。以上。言っとくけれど我は魔王軍の中で、トップレベルに強い。感じる魔力が皆無のあなたでは、勝ち目は無いのですわ。理解したかしら?」


「うんうん、つまり戦闘の意味なんてないってことでしょ?ならやっぱり会話すべきなんだ。異種族だって敵だって、話し合えば分かり合えるはずだよ。」


「はぁ、本当に理解力が無い。あなたみたいな人、初めてですわ。ここであなたは死ぬけど、我の心にあなたの存在は深く刻まれましたわよ。では、さようなら。」


少女は傘に大量の魔力を流す。

傘に描かれている魔法陣が白く光だし、禍々しい気配がそこから溢れ出した。

それと共に傘の先端から放たれる、黒と白が混ざりあったような魔弾。


その魔弾は少年に吸い込まれるように正確に、そして周りの木々を揺らし土埃をあげるほどの衝撃を纏って、直進する。


だが……魔弾は少年の体に衝突したと思われた瞬間に、消えた。

そう文字通り、その場から消えたのだ。


少女は何が起こったかも分からずに唖然とする。


確かに魔弾は、少年に命中した。なのに何もなかったように少年は立っている。

魔力の気配もなく、魔法が使えるとも思えない。

避けるような仕草も見せていない。

なのに何故……?


少女の頭の中で疑問が、右往左往する。

その様子を見て、少年は小さな笑みを浮かべた。


「うわ、本当に打ってきた。怖いな~。」


「あなた、今何をしたの?」


「いや特段何も。それより今の魔法すごいね、目くらまし?」


「……殺す。」


少女の目つきが、変わった。

今何があったかは分からない。

だがどうであれこの少年はここで殺さなければならない、そう直感で少女は理解した。


「闇時雨!」


少女が叫ぶと共に、バンっと傘が開いた。

傘は真っ黒い渦と共に回転し始め、輝きと共に大量の魔力を纏う。

白い光と青色の光が闇に吸い込まれ、傘を中心とした突風が吹き荒れた。


そして放たれる、漆黒の光線。

威力、スピード、全てが高水準で、普通の冒険者であれば魔法の成立にすら気付かずに撃ち抜かれていたことだろう。

魔王軍幹部の地位に恥じない、最高峰の攻撃魔法。


「おっと、これまたすごいね。」


ただ少年はその魔法に恐れおののくどころか、目をキラキラさせた。

そして片手と突き出すと、その手の平で飛んでくる光線を受け止める。


ドンっと言う、魔力同士がぶつかる音。

砂埃が舞い上がり、少女の視界から一瞬少年の姿が消える。


さすがに殺った……

少女はそう思っていた。


だが……砂埃の中から現れたのは、無傷の少年であった。


「いい威力だね。三属性の合成魔法に、詠唱との複合魔法。魔法の一つの完成系と言ってもいい。」


「何故……何故無傷ですの!?あなた本当に何を…いや待って、さっきの音…魔力の衝突音?何故魔力の衝突音が聞こえたの……。」


先ほど聞こえたのは、確かに魔法がぶつかり合う音であった。

少女はさらに思考を巡らせる。


おかしいですわ……。魔力がぶつかりあう音なんて聞こえるはずがない。

少年から感じる魔力は無く、魔法は使うことが出来ない。


いや……違う。

魔力を感じないなんて、常識的に考えてありえないのでは?


そうですわ!生き物は少なからず魔力を持ち、どんなに弱く魔法が使えないほど脆弱な者さえ、微弱な魔力なら感じるはず。


なら一ミリの魔力も感じない彼は何?

生きていない?いやそんなわけはない。


ということは……


そこで少女はある一つの結論にたどり着いた。


だがそれは、おかしくてありえないこと。

本当に有り得るのかと、全くもって信じられない結果。


そう、つまり……

魔力を感じないことは、生物が感じられる魔力のキャパを超えていることの証明。

前に立つこの少年は、魔王軍幹部なんて比ではない化け物であるという結論。

この少年は、我が感じ取れる量を超えた魔力量を持つ化け物だ。


「あれ、気づいちゃった?参ったな、僕弱く見られるの得意だったのに。けどさ僕から言わせてもらえばさ、君ごときが僕を殺せるわけないじゃん(笑)」


「化け物……、」


「化け物?酷いなぁ。あ、自己紹介してなかったっけ、僕の名前はシルフ。シルフギルドのギルドマスターさ。」


「シルフギルドのギルドマスターですって?」


シルフギルドと言えば、確か最近アメトリンを殺したとか聞いたとこ。

まさかこの少年が?


もしそうだとしても何の疑問もない。

だって我の足が震えるほどの敵なのだから。


こんな化け物、我じゃ勝てない。いや魔王軍幹部に勝てる奴はいるのかしら?

それこそ妖狐族や吸血鬼族くらいのレベルですわ。

魔力を足に大量に灯し、方向を180度回転して逃げ出そうと足を踏み込む。

だがその一連の動作を行ったとき、少年の姿は一切見えなかった。


どこに行った!?


そう思ったときにはすでに、我は宙を浮いていた。

何が起こったか何もわからない。

遅れてくる脇腹に感じる衝撃。それで自身が蹴られたことに気づいた。


地面を転がり、木に体を打ち付けられて何とか静止する。


目を開けば、壊れた竜車が酷く遠くに見えた。

どれだけ我は転がったのだろうか?そう思いつつ立とうとすると体を走る痛み。


どうやら脇腹の骨が粉々に砕け散っているらしい。

痛みの度を超えていたからこそ、蹴られたときに痛みを感じなかったのか……。


すぐにでも回復魔法を……

右手の手のひらに回復魔法陣を作り出し、脇腹を触ろうとする。

あれ?右手が無い。


見れば腕から、血がドバドバと吹き出していた。視界の隅の方に転がっているのは、我の右腕?

意味がわからない。これは悪夢か何かなのか?


次元が違いすぎる。攻撃力が高い云々より前に、知覚出来ない。

気づけば腕が無くなり、気づけば蹴られ、気づけば骨は折られる。

きっと気づけば死んでいる。


恐怖で歯がガタガタと震え、頭から仮面がとれた。

仮面をつけ直そうと左手を動かそうとするも、もう無かった。

気づけば震える足もなくなり、大量出血で血の気が引いていくのがわかる。


「や、どう?大丈夫?死なせたりしないから、安心していいよ。」


目の前に立っていたのは、笑顔を浮かべる少年。

いつから立ってたのかも分からない。もしかしたら最初から立っていたのかもしれない。


何でこんなことになってんのかしら……。

散歩なんかしなければ良かった。あの竜車に気づかなければ我は、いつもと変わらない日常を遅れていたはずなのに……


そうしてスピネルの意識は途絶えた。



少年は意識を失った少女に、回復魔法を施す。

切断された四肢は瞬時に戻り、大量に出血して消えていた血も全て問題なく増えて正常量に戻った。


「いやー久しぶりに運動したな。そうだせっかくだし、この子僕の実験に使ってみるか。」


少年はパチンと指を鳴らす。

すると空間が目の前に表れ、そこから一つの首輪を取り出した。


奴隷の魔法陣に似た酷く禍々しい首輪。

少年はそれを気絶して倒れているスピネルの首にカチッとはめる。


「よし、これでOK。んじゃ持ち帰ろっと。」


少年はそのまま担ぎ上げると、壊れた竜車まで瞬間移動かと見間違えるほどのスピードで戻ってきた。


再び指をパチンと鳴らす。


すると壊れていたはずの竜車は元通りになり、死んでいたはずの竜は、まるで最初から生きていかたのようにピンピンの状態で立っていた。


「トラブルで遅くはなりそうだけど、シャーク街まで夜までには着くよね。んじゃ竜ちゃんよろしく。」


少年を乗せた竜車は、何事も無かったのように走り出すのであった。



これから四回ほど二話毎に閑話が挟まります。

ご注意ください。


読んで頂き感謝申し上げます。

評価、ブックマーク登録等して下さると幸いです。

感想本当に嬉しいです。ありがとう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ