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なろう系チートハーレム主人公になれなかった転生者のどうしようもない冒険譚  作者: 風のたより
第二章

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第三十三話 教会について②

ダイヤと教会に行ってからというもの、定期的に孤児院に行くようになった。

別にこれと言った理由があるわけでは無いのだが、暇だから行く。

そんな感じ。


行けば子供たちはすごい喜んでくれるし、ダイヤも心なしか嬉しそうにしてくれる。

宗教の勧誘があるような場所でもなかったため、落ち着く場所としても教会は有用かもしれない。

ダイヤが怖い宗教家みたいな人じゃなくて良かった。


だがこれから、自然に宗教に勧誘されることがあるかもしれない。

あのシスターメラとか言う人、ちょっと怖いし。

気を引き締めておくか……。



今日は珍しく早起きしたアズと、二人で朝食を食べていた。


パンであることに変わりはないが、種類は毎日違っており飽きさせない工夫が施されている。

懐が潤っているし特段ギルドの食堂で済まさなくてもいいのだが、安いし不満はないので食堂で食事をするのがつね

欲しい武器も無いし、しばらくは余裕のある暮らしが出来そうだ。


ふところに余裕があると、精神的にも余裕が出て来る。

今の僕の心は非常に清らか。毎日教会に通っているからかも。


しかし……アズの心持ちは余裕があるようには見えなかった。

ちょっと機嫌悪そう。僕のこと、何か睨んできてるし。


「ねえ、フォス。」


「はい。」


「あんたこの頃、教会に通ってるわよね?」


「そうだね。」


「まさか宗教にはまったとか、言わないでしょうね?良くあのエルフと一緒に話してるとこ見るし、もしかしてあの女にたぶらかされて入信でもしたの?」


なるほど……教会に通ってるのを見て宗教にはまったと勘違いされていたらしい。

確かにいきなり教会に通い出したら、普通そう思うか。

僕だってアズが通い出したら、そう思ってしまう。ここは訂正しておくか……。


「いや、違う。教会の中に孤児院があってさ、そこで…まぁお手伝い?みたいな感じのことしてるんだよね。」


「孤児院?へぇ、あそこの教会、孤児院があるのね。」


どうやらアズも知らなかったらしい。


「ふ~ん、孤児院ね……。」


アズは何か思うところがあるようで、手にパンを持ったままぼーっとしていた。

彼女にしては珍しい。


何か孤児院に思い入れでもあるのだろうか?


「どうした?」


「いや……何でもないわ、驚いただけ。けど……そうね。まぁ、そういうことならいんじゃない。」


意外にもアズはそう言ってくれた。

普段なら孤児院なんて奴隷みたいな人たちがいるとこ、近づくんじゃないわよ!

くらい言ってきそうな印象だ。


「分かってくれたか。そうだ、アズも今度一緒に孤児院に行ってみないか?」


「え、何でよ。」


「アズが来てくれたら、子供たちも絶対喜ぶよ。どう?」


孤児院の子供たちは、シルフギルドの冒険者と言うだけでとても楽しそうに接してくれる。

アズが行っても、喜ばれることは間違いない。


「嫌よ。私、子供嫌いだし。色々面倒くさいでしょ、あれ。それに言うこと聞かないで騒いだりしたら、手出ちゃうかも。」


「そ、それは止めた方いいな……。」


うん、孤児院にアズを近づけるのは止めよう。


日本でも電車とかバスに乗ってるときに赤ちゃんが泣きだしたりすると、明らかに気分悪そうにする大人いるもんな。

たとえ思ったとしても、表に出すべきではないと思ったりする。


ただ、アズは考えてみればそういうタイプだ。

雰囲気悪くしそうだし、向いてないかもしれない。

子供たちが喜んでくれても、シスターたちに迷惑をかけるわけにはいかないだろう。


ダイヤから話を聞いた感じ、やはり孤児院は資金繰りについてかなり困っている様子。

椅子や机、服などは全て貰い物であったり、寄付してもらったものなのだとか。

中にはゴミ捨て場から無断で持ってきたものまであるらしい。

そこまでの苦労を強いているのに、さらにアズの負担を与えるわけにもいかないだろう。


僕も着ない服とかあったら寄付しようかな……。


ドンっ


ん?

唐突に食堂内に、大きな音が響いた。

何事かと目を向けると、ダイヤが食堂の入り口に立っていた。

どうやら勢いよく食堂の扉を開いた音だったらしい。


かなり焦っている様子。額には汗が浮かんでいた。

一つ一つの動作が丁寧なダイヤには、珍しい行動のように思える。

何かあったのだろうか?


その心配は的中していたようで、ダイヤは僕のところに一直線で向かってきた。

足取りといい、仕草といい、かなり焦りが見られる。


「フォスさん!ムーン見ませんでしたか?」


ダイヤは開口一番そんなことを言ってきた。

ムーンと言うのは別に月のことではなく、孤児院のシスターのことだろう。

シスター三人組の一人で、中学生くらいの見た目の少女である。


「見てないけど、何かあったの?」


「じ、実はムーンが昨日から帰ってきていないんですよ!何か知りませんか?」


帰ってきていない……!?

一瞬で血の気が引いた。


「僕は何も。昨日、普通に会ったんだけどな……」


「そうですか……話によるとフォスさんや私が帰った後、買い出しに行ってから姿が見えなくなったとのことでして……。今教会の皆で探しているのですが、全然見つからなくて。はぁ、本当にどうしよう……ムーン大丈夫かしら。」


「そっか。分かった。僕も今からシルフ街歩き回って、探してみるよ。」


「え!?いいんですか?」


「そりゃ、当然だよ。僕もムーンが心配だし。」


数日間ではあるが、ムーンとは色々とおしゃべりもしたし仲良くもなった。

今や年の離れた可愛い妹みたいな感覚だ。彼女が行方不明になったと聞いて、探しに行こうと思わない訳がない。


「あ、ありがとうございます。」


「けど行方不明か……アズも探してくれないか?」


ジーっと僕とダイヤの様子を見ていたアズの方を、瞬時に振り向く。


「は、はぁ?なんで私も?行方不明つったら考えられるのは人さらいか、魔物に襲われたりしたら……とかそこらへんでしょ。正直、見つからない確率の方がでかいわよ。」


「そうだけど……探さない選択肢はないだろ!お願い、アズ!頼むよ……。」


アズは直感が高くて、勘が良い。

頭も回るし、これほどに人探しに長けた人物はいない。

彼女がいるだけで、人探しの成功率は格段に跳ね上がるはずだ。


「な、何よ……そんな悲しそうな顔しないでよ。も~分かったわよ。そのムーンとかいう子を探せばいいのね?」


「良かった、ありがとう。」


アズは性格が良いとは言えないが、こういう時は力になってくれると信じてた。

流石アズだ。略してさすアズ。


「アズさんも探してくださるんですか?ありがとうございます!」

ダイヤはアズの助けに、素直に礼を言って頭を下げた。


「別に……私は、フォスのお願いだから聞いただけよ。それでそのムーンって子の特徴を教えてくれる。探すつっても誰か分かんなかったら意味ないでしょ。」


「は、はい。えーと、性別は女性で身長は155cmくらい。髪はロングの青色で、私と同じシスター服を着ていると思います。年齢は十四歳くらい。捨て子なので詳しくは分かりませんが……。あと……」


捨て子だったんですか……。

もしかたら他のシスターの二人も、そういう出身なのだろうか。


「ふーん、別にそこまで焦らなくていいわよ。大体わかったし。それでいく先とか目星はあるの?例えば良くあの場所にいるだとか。」


さすがアズだ。

焦ってやみくもに探そうとした僕と違い、いつだって冷静に状況を判断出来ている。

質問も的確だし、見習わないと。


「買い出しに行ったので、商店街の方でしょうか?あと考えられるのはお花が好きなので、外れの花屋の方かも……。今は教会の皆さんが、商店街の方は探してくれているのですが……。」


「そ、花屋ね。まあ人さらいを考えるなら、貧民街の方かもしれないわ。となると人手が足りないわね……って、へぇ、あそこに暇そうな人たちがいるじゃない。」


アズ目線の先には、黒髪の少年がいた。

またまたウルツである。

彼はカイヤの防衛にも協力してくれていたらしい。感謝。


しっかし仕事もしないで、いつも昼から何をしているのだろう。

全く同じ僕らが言えたことではないが。

どうやら朝からアルコールを摂取しようとしているようで、高そうなワインを開けようとしていた。


アズは一瞬でウルツの座っている椅子にまで近づくと、彼からワインを取り上げる。


「うお!?何すんだ!?ってアズ!?」


アズがあまりにも早い行動だったので、僕とダイヤは少し遅れるようにしてウルツの周りまで駆け寄った。


「っておいおい、フォスにダイヤ……だっけか?なんだよ、また揉めごとか?俺を巻き込まないでくれねぇか?」


「にゃは~、アズとフォスが他の人と絡むなんて珍しいにゃ。意外だにゃ。」


ウルツの向かい側には、首に金等級の徽章をかける少女が座っていた。

オレンジ色の髪色をしており、尻尾は二股の獣人。

彼女はシルフギルド金等級冒険者、アイ。

ウルツのパーティに所属しており、ウルツとアイが一緒にいることは比較的多い方だ。


所謂猫の獣人らしいのだが、体が人間と獣人の継ぎ接ぎみたいな体をしており、普通の獣人とは見た目が大きく違う。右手は人間の手なのに、左手は獣人の手。左右の耳の形が違ったり、目の色が違ったりとそんな感じ。

正直、キメラみたい。


アイ曰く人間と獣人のハーフだからと言っていたが、そうはならんやろっと叫んだ思い出がある。


人見知りの僕ではあるが依頼や仕事の関係上、シルフギルドの金等級冒険者とは全員交流がある。逆に言えばそれだけ。銀等級以下の冒険者とは全く交流が無い。


シルフギルドに所属している金等級冒険者は、僕を含めて十人。

白金等級とはもちろん全員話したことがあるので、六十人近くいるシルフギルドの冒険者の内交流があるのはダイヤを入れて十三人だけ。

うそっ、僕の人間関係狭すぎっ。


「あんたたち暇でしょ!人探しして欲しいのよ!」


アズはそう切り出すと、先ほどダイヤが言っていたことを一通り説明した。

しかしウルツは渋い表情を浮かべる。


「分かった。分かりはしたぜ。だがな俺らはシルフギルドの冒険者なわけよ。依頼を受けるならそれ相応の対価ってのが必要だと思うんだよなぁ。」


「なに、生意気なこと言ってんのよ。シルフギルドは冒険者の見本にならなきゃいけないって、入団したとき聞かなかったの?人が困ってて助けないとか、冒険者の風上にも置けないわね。」


先ほど人探しを渋ったとは思えない人間の発言である。

それとも僕がどう頼もうとも、受諾する気ではいたのかもしれない。さすアズだ。


「たはっ、冒険者の見本になんねぇ女がよく言ったもんだぜ。って痛!?」


アズはウルツのスネに蹴りを入れた。

痛そう。


「すぐ手出してんじゃねぇよ、短気野郎!大体俺が間違ったこと言ったか?冒険者は依頼を受けて金稼ぐ仕事だぞ、報酬も貰わずにホイホイ依頼受けてたら意味わかんなくなるだろが!」


「にゃは~、ウルツの言ってることも正しくはあるにゃ。報酬を払ってる依頼者に対してこれじゃあ、不公平になっちゃうにゃ。」


アイはそんな風にウルツにフォローを入れると、暴力を振るおうとするアズを静止させた。

本来なら僕がすべきだった……申し訳ない。


アズは思い通りにいかないと、手出すからな。

もしかしたら孤児院の子供たちより、精神性がガキなのかもしれない。


「た、確かに……それはそうですよね。」


ダイヤはしゅんと、下を向く。

ほとんどの報酬を孤児院の寄付に当てているダイヤにとっては、お金を払う余裕など無いのだろう。


ただ、ダイヤは勘違いしている。

別にこの問答は金を払えと言っているのでは無い。

これは言ってしまえば屁理屈。言葉によってはどうにでもなることだ。

あまり使いたくないがしゃーない。


僕の交渉術を見せてやろう。


「なあウルツ。親友のよしみで、協力してくれないか?」


必殺、親友カード。

いつも拒んでいるが、こういうときは逆に利用するに限る。

使えるものはなんでも使う、これぞ冒険者の心意気だ。


「フォ、フォス……。しゃーねぇな~、そう言われちゃ拒否することは出来ねぇ。やるぞアイ。」


「切り替え早すぎだにゃ!?ま、うちは最初から受ける気だったけどにゃ。」


無事、成功。

拒否られたら、親友を撤回すると言えばオールOKだったのだ。これぞ逃げ場のない交渉術。

ウルツ限定だけどね。


「フォスさん、ありがとうございます。」

ダイヤは僕にそう、耳打ちしてきた。

見ると、安堵したような笑顔。ふつくしい


とりあえず親指を立てて小さくグッドマークをした。


「はぁ、そうなるなら最初から言いなさいよ!」


「うるさいうるさい。それで人探しは、人数多い方が良いよなぁ。アイ、クォーツたちはどこだ?」


「何を寝ぼけたこと言ってるにゃ。クォーツたちは夏休みのバカンス中だにゃ。」


「あれ、そうだったっけか?他の奴らは……いねぇか。」


ウルツはパッと周りを見渡す。

だが食堂にいるのは一般客ばかり。

今は平日の昼だ。ほとんどの冒険者はちゃんと仕事をしている時間である。


ちなみにウルツが出していたクォーツと言うのは、予想だがウルツのパーティーメンバーのことだと思う。話したことは無いが、名前を聞いたことはある。


ウルツは5人のパーティーを作っており、彼がパーティーリーダー。副パーティーリーダーがアイなんだとか。

僕は逆だろって言ってあげたい。


「にゃにゃ、ダイヤはもう騎士団には報告したのかにゃ?」


「まだ言ってはないです。ですが……対応してくれるものでしょうか?」


前にも言ったが騎士団は、この世界の警察みたいなとこ。

ただこの世界は治安が悪く、強盗や食い逃げなんてのはざらだ。毎日何件という依頼が騎士団に行くため、手一杯で対応してくれないこともある。


「シルフギルドの冒険者からの依頼となれば、対応してくれるにゃ。」


「な、なるほどそういう権力の使い方があるのですね……。」


アイの言う通りシルフギルドの名誉と地位はかなりのものだ。騎士団もその立場の人間からのお願いとなれば無下にはできないだろう。

逆に言えば立場も地位もない人間からの依頼は、対応してくれない可能性があるってこと。

いつだってこの世は不平等で不条理だ。


「よし、じゃあ俺が騎士団に報告しに行くわ。騎士団には知り合いも多いし、けっこう人員を割いてくれるはずだぜ。」


「ウルツの顔の広さも、案外役にたつんだな。」


「案外とは酷いぜ、親友!」


親友呼びは嫌だが、さっきの手前今日くらいは許してやるか。

そう今日くらいだけ。


「んじゃ騎士団には外れの方と、商店街の方を捜索させなさい。私たちは貧民街よ。」


「貧民街かにゃ!?にゃにゃ……行きたくないにゃ~。」


「あそこは酷い環境ですから、私も無理に行かせるつもりは……」


「にゃ!?別に行かないとは行ってないにゃ~。騎士団も絶対嫌がるし、一般人が行けるような場所ではないしにゃ。うちらが行くしかないにゃ。」


「ま、そういうことね。」


「俺も騎士団に報告次第、貧民街に向かうことにするぜ!よしじゃあ、さっさと行こう。人の命がかかってんだ、時間が惜しいぜ!」


「出発にゃ~!」


アイの掛け声で皆、貧民街に向かおうと食堂を出ようとする。

しかし何故かダイヤだけがその場で、動かずに突っ立っていた。


「ダイヤ?」


そう声をかけるが、反応はない。

見ると目元には薄らと涙が浮かんでいるのが見えた。


あ……そうか。


ダイヤは知らなかったのだ。仲間の存在の価値を。


ダイヤはあまり冒険者と交流を持っているところは見ないし、パーティーは組んでおらずソロ。

冒険者と協力して何かを助けてもらうということを、してもらったことがないのだろう。


昔ソロだった僕にも分かる。

ソロでは見えなかった景色も、仲間の輪があると見えてくるものがあるのだ。


「ダイヤ、行くよ。」


僕はダイヤの正面まで戻ると、手を差し出した。


「は、はい!」


ダイヤははにかむような笑みを浮かべると、僕の手をとって歩みを始めた。



読んで頂き感謝感激雨あられでございます。

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