第三話 恋人について③
唐突だが、魔法について話そうと思う。
詳しく話すとそれこそ魔法学園で九年は通って学ばないと理解できないため、手短に説明する。
魔法には大きく2つあり言霊を扱う呪文と、特定の図…つまり魔方陣を扱って行使する図形魔法だ。
基本的に魔法は図形魔法を主軸に行使される。
呪文は一つ一つの音が密接に魔法に関わるため、かんだり言い間違えをしてしまうと魔法が発動しなくなってしまう…そのため魔法陣を扱った方が正確で安全だからだ。
この世界のほとんどの人が図形魔法しか扱えないため、魔法と言えば図形魔法のことをさすのが一般常識である。
だがこの世には複合魔法と言うものが存在する。
それは図形魔法と呪文を組み合わせる魔法のこと。これが魔法における理想形であり、ある程度の冒険者であれば扱えるのが当たり前になってくるのだ。
ちなみに、僕もアズも使えない。
僕は元々呪文の才能が皆無だったので扱えないが、アズは練習中なんだとか。
神様、呪文の才能くらい僕にくださいよ……。
さらに、魔法には属性が存在する。火、水、土、風の4つだ。
実は他の属性も色々とあるのだが、それについてはまた別の機会に説明するとしよう。
とりあえずこの4つが基本の属性とだけ覚えててくれればよい。
属性には適性というものがあり、誰もが生まれた時点で扱える属性は決まっている。
普通の人間は一つの属性にしか適性がないのだが、稀に二つや三つ扱える者もいるのだ。
アズは風属性に適性があり、僕には風、土属性に適性がある。
そう、つまり僕はまさにその『稀な者』なのだ。
転生者ポイントがあるとしたら、たぶんここ。
「あぁ、やっとあったわね。フォス!ここよ!」
名前を呼ばれて、草をかき分けながらアズの元につく。
今アズと僕は、山に入りグレートボアの住処を絶賛殲滅中なのだ。
すっかり日が昇っており、高く生えた木々が眩しいほどの日光を遮る。
生い茂る草々は根強く、そして逞しく生い茂っていた。
森深くということもあり、木々は視界をひどく遮る。
「ここか。これで17個目だね。」
僕はそう言いながら、汗を腕でふく。
グレートボアの住処は50cmほどの入り口をもつ、地面を掘った洞穴である。
洞穴の長さは巣によって様々だが、長くても10メートルほどだとか。
夜行性であるため、今はこの巣穴の中でゆうゆうと寝ていることだろう。
僕はその入り口の地面に両手をつくと、深く深呼吸する。
体の中に流れる魔力を感じ取り、手のひらに集まっていくように操作を始めた。
魔力というものは視覚では認知出来ないが、血流と同じように体を循環している。
自分の意思と感覚で感じ、操作することで魔法は成り立つのだ。
良く分からないかもしれないが、慣れれば手足のように魔力を扱うことが可能になる。
魔力自体がどういうものなのかは僕自身もよくわかっていない。
モヤモヤした煙のようなものだと勝手に思っているが、ようはイメージが大事なのである。
イメージさえしっかりと定着していれば、案外操作は容易いものだ。
僕は手から放出した魔力を扱い、魔方陣を描く。
すると魔法陣は光を伴うとともに、地面を隆起させ土の壁を出現させた。
その壁で洞穴の入り口を封鎖した後、洞穴の中に土を流し込む。
僕は土を自由自在に扱ったり、生み出したりする魔法を得意としている。
だからこんなことは、御茶の子さいさいだ。
「魔物とは言え、土で生き埋めにするってけっこうむごいわよね。簡単に死ねなそうだし、きっと長い時間の苦しみの末に亡くなるんだわ。」
「そう言われると、殺し辛くなるから止めてくれない?これが一番コスパがいいんだからさ……。」
僕が魔法を行使している間、アズは弓を構えて周りを警戒してくれている。魔法に意識が集中してる分、魔物に襲われたら一溜りもない。
「ふぅ、これで完了かな……。最後の一個は山頂近くだったよね?日が落ちる前に、終わらせようか。」
「そうね。明日も猪討伐なんてごめんだわ。」
アズはそう言って、僕とともに山道を駆け出した。
今回の討伐で、18の住処のうち17の住処の討伐が完了したこととなる。17個の住処は全て、同じように生き埋めにして撃滅してきたのだ。
早朝から山行を続けており、既に日は下りにさしかかっている。
日が完全に落ちるまでに、討伐を完了させ下山しなければならない。
夜の山は言わなくても分かると思うが、非常に危ない。
山中を走っていると、ハイウルフと呼ばれる魔獣が自分たちに向けて突進してきた。
体長50cmほどの狼である。
「また、出てきたわね。」
アズはハイウルフに向けて、矢を放ち瞬時に打ち取る。
矢をつがえたことすら見えないほどのスピードであった。
「お見事」
「シルフギルドの冒険者としては当然よ。けど流石にハイウルフの量が多いわね。ちょっと。疲れてきたんだけど……。」
彼女の言う通り、山に入ってからハイウルフに遭遇することが多いように感じる。
これまでの山行でハイウルフを三十匹以上は討伐してきた。
そして、それは今山道を走っている間も例外ではない。
再び、茂みの中から五匹のハイウルフが飛び出してくる。
「やっぱり、この数は異常ね。」
アズはそう言いながらも、さも当たり前のように五匹のハイウルフを一瞬で射貫く。
彼女の放った矢は全て吸い込まれるようにハイウルフの脳天に刺さり、自分たちに達する前に息絶えた。
「本当に量が多いね。アズってもしかして狼に好かれる秘めた力とか持ってる?」
「そんなものあるわけないでしょ。」
アズは吐き捨てるように言う。
だが、もちろん走る足は止めない。
「フォスがハーレム作りたいとか言ってるからじゃないの?きっとハイウルフたちが彼女になりますって走ってきてるんだわ。」
「スライムハーレムならまだしも、ハイウルフハーレムは流石に厳しいかな…。」
「けど、どうやらモテモテのようね。」
再度現れたハイウルフを、アズは走りながら片手間に仕留める。
「もしかしてこれが俗にいうモテ期ってやつかな?」
「そうね、皆あなたに告白しに来てるみたいよ。夢が叶ったわねおめでとう。次ハイウルフが来たら、殺さなくていいかしら?彼女できるわよ。」
「い、いや…そのハイウルフは彼女の皮を被った13日の金曜日だ。騙されちゃダメだよ。もしかしたら変身して美少女獣人になるかもしれなけいど、それでも殺さないと僕らが殺される。」
「けど、きっと自分を騙さないと得られないものあるわよ?」
「あるかもしれないけど、今得られるものはきっと死だけだよ。そんなもの僕はいらない、なんならもうすでに一回経験してるんだ。」
「一回死んだことあるって冷静に考えるとすごいわね。」
アズは何度目か分からないハイウルフを射貫き、山頂に向けて走り続ける。
僕も彼女の後を追うようにして、走り続けた。
魔力には魔法の媒体にするという効果の他に、流し込むことで…その流し込まれたものの性能をあげるという効果がある。
例えば武器に流し込めば武器の威力が上がり、体の部位に大量に循環させればその部位の身体能力が向上する。
つまり、魔力量が多いほど身体能力が必然的に高くなるということなのだ。
よって具体的に言うならば、目に魔力を多く流せば『見る』という性能があがりより遠くの物が見えたり、普通では見えないものが見えたりする。アズのような弓矢を扱う冒険者なら必須の技術だろう。
このように一口に魔力と言っても多くの要素や用途は多岐にわたる。
現に僕らは脚に魔力を多く流すことで、尋常ではないほどのスピードで山を登っている。
日本人が見たらきっと、目ん玉が引ん剝くくらいには異常な光景に写るだろう。
ただ、もちろん体力の消費も馬鹿にはならない。
魔力は生命エネルギーとも言い換えることができるほど命と密接な関りがあり、魔力を使い果たせば生き物は死ぬ。つまり魔力を使えば使うほど疲れるし、自分なりに使用量の限度をしっかり把握していないと一歩間違えればこの世からおさらばするわけだ。
ちなみにこの世に魔力が無い者などはおらず、生きている限り魔力は体の中を生成し循環している。
ただ魔力の少ないものは魔法を使ってしまうと死んでしまうために、魔法が使えない人はかなりの人数存在するのだ。
そういう者への差別があるのもまた事実で、こういう問題をどうするかと言うのはこの世界の課題と言うべきだろう。
「ねえ、そう言えばフォスは奴隷はどうなの?奴隷ならお金があればどうにでもなるし、ハーレムも簡単に作れそうよね。」
アズは唐突にそんなことを言ってくる。
奴隷と言うのはまさにその差別の対象で、魔力がなくて捨てられたりした人々の行きつく先である。
それか犯罪を犯して、奴隷落ちした者たちだ。
「奴隷は正直言ってめちゃくちゃにありだね。異世界で奴隷ヒロインなんてありふれすぎて、逆に普通くらいには思ってるんだけど。」
「うわぁ、気持ち悪。奴隷でいいとか本当にフォスって頭おかしいのね。」
ほら……、まさにこれが差別である。
魔力もなく才能もない者は奴隷になるしかなく、奴隷になれば人間として扱われない。
ただ言ってしまえばこれがこの世界の当たり前、奴隷は人とすら思われず言いなれば物の感覚に近い。
彼女たちにとっては『僕奴隷と結婚する』は『僕TEN〇Aと結婚する』と言ってるのと同じなのだ。
この意味が分からなかった良い子はぜひ、親や友達に聞いてみてね。
僕は一切の責任を負わないけど……。
「奴隷も良くてスライムも良いのに、ハイウルフはダメって私ちょっと納得いかないのよね。」
「ハイウルフは人じゃないし、人型にもなれないからね。それはもちろん恋愛対象にはならないよ。」
「人型のハイウルフなら良いの?」
「獣人みたいな感じならいいかな。けどケモ度百パーセントの獣人は無理だよ。ケモ度レベルが0~5あるとしたら、1が僕のストライクゾーンだね。ケモナーじゃないし。」
ケモ度と言うのは獣の度合いの略みたいなもので、つまり人の特徴と獣の特徴をどれぐらいの比率で併せ持つかと言うことである。
先ほどのレベルで言うなれば、0は完全な人間、5が完全な獣……1と言うのはまあ獣の耳を持ってたり、尻尾が生えてたりするほぼ人間みたいな獣人のことだ。
「へぇ…結局、ある程度人っぽければなんでもありなのね。私は恋愛対象にするなら完全な人間以外考えられないわ。フォスも、できればってだけで彼女が人間でもいいんでしょ?」
アズはチラッと顔を見てくる。
「それはもちろんそうだね。彼女ができるってだけでそれはとても素晴らしいことだと思うよ。」
「ふ~ん、そう。」
アズはそういうと、より早いスピードで駆け出す。
彼女の顔は少し嬉しそうに微笑んでいるように見えた
僕もおいて行かれないように、走るスピードを上げる。
山の傾斜は急で道は舗装されておらず、凸凹としていて足場が悪い。
冒険者として今まで多くの経験をしてきたので慣れてはいるが、スピードを出している足がもつれでもしたら大怪我をしてしまう。
気を付けて走らなければ……
と思った途端、いきなりアズが走るのをやめて急停止する。
「うわ!?危なっ!?」
言ってる傍からこれである。
転びそうになる体を、風魔法を当てることで立て直す。
危うく大けがするところであった。
ただ、アズがどれだけゴミ人間と言えどいきなりこんなことをする人間ではない。
そう思って見ると、彼女は林の間から見える山頂に指を指していた
「フォス……、あれ!」
そう言われても、指す方向が抽象的過ぎて何が言いたいのか分からない。
「なんかあったか?」
「はぁ!?あんた、見えないの?魔力目に流して見てみなさいよっ!」
そう言われて、魔力に目を流して見るもやはり木々しか見えない。
せめて山頂のどのあたりなのか言ってほしいものだ……。
「アズは目が良すぎるんだよ。何かあるのか?」
「もう、なんで分かんないのよっ!早く行くわよ!」
そう言って、アズは自分の手を掴んで再び駆け出す。
「だから、何があったんだ!?」
「人がハイウルフに食われてるのよっ!」
「……っ!?」
僕はその言葉を聞いて、絶句した。
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