第九十五話 監禁について④
僕はゆっくりと ベットから体を起こす。多分朝だ。
日が入らず窓もない部屋のため正確な時刻は分からないが、体の感覚的にそんな感じがする。
どうやらわけも分からず監禁されて、1日が経過したらしい……。
未だにここがどこなのかも分からず、情報も少ない。
地下であることは分かっているが……僕らが突入したはずのアジト、正確にはアジトではなかったらしいが、あの建物は下では無く上へと続く構造をしていた。ここが地下と言うことは、あの建物の構造は錯乱させるためのもので、どこかに地下に続く階段があるということなのだろうか?
ダメだ……分からないことだらけ。
せめて部屋の外の様子を見れればいいのだが、僕の足にはめられている錠は部屋の角の壁に固定されているチェーンに繋がれている。部屋の外に出ようと思ってもギリギリ届かない。
おかけでどこでも寝れる僕が、足の違和感で中々寝入ることが出来なかった。
これでは僕がどこにいるのか正確な情報がない。
本当にここはどこなのだろう……。
フローライトさんたちは、助けに来てくれるのだろうか?せめて位置を伝えられるように音や振動などを伝えられればいいのだが、それも拘束された僕では叶わない。魔法や魔力で伝えるのももちろん無理。
アダマンタイト性の錠のせいで、最低限の生命活動に差し支えない程度の魔力以上を扱えないのだ。
フローライトさんほどの実力者なら、近くに来ただけで魔力の気配に気付くことだってできたはずなのだが……そのせいでそれさえ叶わない。
くそ……こんないつ死んでも何らおかしくない状況に閉じ込められ続けるなんて、まっぴらごめんだ。
早く外に出て日の目を浴びたいものだ……。
ただ、運の良いことにまだ殺される可能性は少ない。
オーラは僕の日本の情報を欲している。情報を全て開示しない限り、僕を殺す可能性は低いと言えるだろう。アウインも昨日、将棋に勝ったおかげで誘惑してくることは無いと……思われる。
それに何より……あの2人は推測だけど、根っこは優しい心の持ち主なのだ。
捕虜となった僕を拷問したり、暴力を振るったりせず、一人の人間として接してくれる。
敵である僕なんて、本来なら奴隷のような扱いを受けたって文句は言えない。それなのにオーラもアウインも、優しく接してくれる。僕の言葉もしっかり聞いてくれる。
本当に彼女たちは悪者なのだろうか?倒すべき対象なのか?
ついそう思えてしまう。
もちろん分かっている。オーラは魔王軍幹部で、アウインはサキュバス。
話によれば、僕以外に捕まった騎士たちも僕と同じように監禁されているのだとか。それに昨日、誘惑されて人として殺されかけたばかりでは無いか……。気を許すべきじゃない。
それに僕にはどうしても、無視できない大きな負担がこの地下生活にはあるのだ……
それは……そう食事である。
ガチャと言う音が、不意に部屋の中に響き渡る。
そしてまるで人形のように美しい、金髪の少女が部屋の中に入ってきた。
「驚き。奴隷君、起きてたのね。時計がなければ何時かも分からないと言うのに、よくもまあ……こんなにも時間ビッタリに起きてたものだわ。」
「いつも規則正しい生活を送ってるからね。」
「疑問。冒険者は生活習慣がだらしないと聞いたことがある。それは嘘?」
「いや、一般的にはそれが正しいかな。」
「理解。奴隷君だけが特別なのね。」
「まあ……そういうことになるかな。」
「奴隷君、やっぱり不思議。」
「そ、そうかな?え〜と、もしかしてそれが朝ごはん?」
「肯定。」
オーラは両手に持っていたトレーを、僕の前の床に置く。
僕はベットから出ると、朝ご飯の前に正座して座った。
そしてまじまじと、今日の朝食を見る。
うん……黒い。
「今日の献立は、昨日と一緒で何かどこかで捕まえた魔物の肉。」
「な、なるほど。」
朝から肉は重いだとか……献立が肉しかないのかとか……それはまあ良しとしよう。
問題はこの黒さ……肉が焦げているのだ。
真っ黒だ。昨日も見たときは、木炭かと思ったくらい。
そりゃ生ものを食えとか言われるよりは良い。わざわざ僕のために作ってくれた……それも分かる。
けどこれはどうにかならなかったのだろうか?
火加減を変えるとか、色々と簡単な対象法はあったはずだろう。
「い、頂きます。」
実に何十年ぶりかの頂きますを口にして気合いを入れると、僕はその肉を頬張る。
うん……苦い。固い。不味い。
歯ごたえが、まるで土を食べているみたいだ。果たしてこれをご飯と言っていいのか、まる1時間会議を開きたいくらい不味い。
「どう?」
「正直に言っていい?」
「承認。」
「めちゃくちゃ不味い。」
「そう。なら食べるのを止めてもいい。」
「いや、わざわざ僕のために作ってくれた物を、残しはしないよ。オーラが作ってくれたんだろ?絶対食べ切るに決まってるじゃん。」
「……そう。」
僕は何回か意識を失いそうになりながらも、その真っ黒の固形物体を何とか口に流し込んだ。
不味い……不味すぎる。
けど人間とは不思議なもので、途中から一気に食べやすくなったのだ。
頭が狂ったのだろう。おかけで何とか感触することに成功する。
「驚愕。本当に完食した。」
「う、うん。当然だよ。」
無理やり笑顔を作ってみるが、正直吐きそうである。
オーラはそんな僕の様子を見ると、小さく項垂れる。
「謝罪。私は料理が得意では無い。私には食事を、単なる空腹を紛らわすだけの手段としか捉えてない。だから美味しいとか、よく分からない。」
「そ、そうだったのか。いや、謝らなくていいよ。僕は捕虜なんだし、本当ならこんなわがままを言う権利はない。」
「……。否定、私のミス。」
「い、いや……」
どうやら想像以上にショックを受けてるらしい。項垂れたまま動かなくなってしまった。
別に捕まえた奴隷である僕のわがままなんて、無視しておけばいいのに……。
やっぱりオーラって、感情を表に出さないだけで良い人なんじゃないか?
「あの……じゃあ僕が作ってもいいでかな?ご飯?」
「……作れるの?」
「人並みではあるけど、一応けっこう料理が上手いって自負はあるんだ。良ければ料理教えてもいいし……。」
「なっ……魅了的。けど私だけでは決められない。アウインにも聞く必要がある。」
「アウインって、オーラの部下では無いの?それなら……」
「否定。友達。」
「あ、そうなんだ。」
てっきりアウインはオーラの部下なのかと、勝手に思っていた。
けど確かにオーラに会ったとき、魔王軍幹部だけど部下はいないと言っていたな……。
パンパン
オーラが二度、その場で手を叩く。
すると案の定、アウインが部屋に入ってきた。
「どうしたのオーラちゃん、今下僕たちにご飯あげてるとこなんだけど……あ、奴隷ちゃんおはよう!」
「お、おはよう。」
「魅了しちゃいけなくなったとしても、アウイン絶対奴隷ちゃんのこと諦めないんだから!今日も脱衣将棋付き合ってよ!」
「ええ!?またやるの?」
「当然!次アウインが勝ったら、誘惑禁止、撤回だからね!」
たんぽぽのような笑顔を浮かべながら、アウインは僕を指さしてくる。
勘弁して欲しい。
「提言。オーラ、奴隷君がこれからご飯を作りたいらしい。」
「え、ご飯?奴隷ちゃん、ご飯作れるの?」
「まあまあね。」
「そっか〜、確かに私もオーラちゃんも料理ド下手だもんね。アウインは精気さえ食べれれば、ご飯は割とどうでもいいんだよね。」
「やっぱ、サキュバスって男の精が主食なんだ……。」
「その言い方、アウイン不満!精気ってのは男性が常時出している生命エネルギーのこと!男を貪ってるみたいな言い方はやめて!」
「つまり男性が出してる魔力を食べてるってとこ?」
「そうそう。だからサキュバスは男と一緒にいるだけで、食事してるとも言えるのだ〜。今も奴隷ちゃんの精気パクパクしてるの!もちろん直で食べた方が、美味しいしお腹いっぱいになるんだけどね……。アウインは下品なサキュバスじゃないもん!」
「昨日馬乗りされたのに、そんなこと言われても……。けどサキュバスってそんな便利な特性、持ってたんだ知らなかった……。じゃあさ、食事は取らなくていいの?」
「うーん、本当はいいんだけど……娯楽みたいな?だってほら、口寂しくなるし。けどどんなもの食べても、精気より美味しくはないし……だから奴隷ちゃんが料理することになっても、私はどっちでもいいよ。」
アウインは振り向いて、オーラの顔を覗く。
オーラは一度、手を顎に乗せて考えるかのような姿勢をとる。
当然だ。僕はアウインやオーラにとっては敵。
そんな敵の提案に裏があるのではと勘ぐるのは何らおかしいことでは無い。
けれど予想以上に早くオーラはバッと顔を上げると、僕の側まで寄ってきた。
「採用。」
そう言って、僕の両手を握ってくる。
「ええ!?」
そんなに早く決めていいことなのだろうか?僕は敵である、帝国に属する人間だぞ……。
そんな簡単に信用してはいい相手とは思えない。
敵だと言うのに、心配になってきた。
「えっと……いや自分が言うのも何だけど、本当に良いの?」
「問題ない。」
「もしかしたら僕が、体に良くない物とか入れるかもしれないんだよ?それでもいいの?」
「問題ない。私は奴隷君がそんな人ではないことを知っている。」
オーラは偽りのない真っ直ぐな目で、僕のことを見てくる。
そこまで堂々と言われると、僕もどう言葉にしていいのか分からなくなってきた……。
「分かった。」
僕から出たのは、その言葉だけ。
何故かオーラは、僕のことをそんなにも信用してくれているらしい。
それは……もちろん、悪い気はしなかった。
★
「……美味しい。」
「うっま!ちょっと待って!そこら辺の精気より美味しいかも!?」
僕らはキッチンと、大きな机や椅子が並んでいる部屋に来ていた。
晴れて僕は、食事を作るとき限定ではあるが、部屋の外に出ることを許されたのである。
足から錠が外れたわけでは無いのだが、固定されていたチェーンを一時的に外してくれたのだ。
部屋の外は廊下が広がっていて、いくつかの部屋への扉繋がっていた。
どうやらかなり広い構造をしているらしい。
もちろん自由に動き回って良い訳ではないので、まだ全体像を把握できた訳ではないのだが、部屋にこもっていることに比べれば大きな進歩だ
「同じ食材のはずなのに、不思議。何をしたの?」
「何をしたの……って、火加減を変えたりとか、ちょっとした調味料を加えてみたとかその程度だよ。けどここには素材も少ないし、香辛料の種類も少ないから出来栄えはまだまだってとこだね。」
「驚愕……。」
「奴隷ちゃん、料理上手すぎない!?こんな美味しい料理、食べたの初めてかもしれない……。」
「そんなに!?店とかで出てくる料理の方が美味しいよ……。」
「いやいや、サキュバスの村で出てた料理屋のどこよりも美味しいよ!奴隷ちゃん、冒険者じゃなくてコックにでもなった方がいいんじゃない!?」
「いやいや……。」
2人は目を疑うようなスピードで、僕の作った料理を食べていく。
お世辞とかではなく、本当に美味しいらしい。
そんな嬉しそうに食べてくれると、作った僕も不思議と嬉しくなってきた。
けど言ったように、この料理は僕にとってはまだまだって感じの完成度だ。
あと本当に僕はすごく料理が上手いとか、そういう訳じゃない。
冒険者は魔物を討伐したり、ダンジョンを攻略したりするのが仕事である以上、どこでも生きていけるための術を持たなければならない。そのため料理スキルはほぼ必須と言える。おかげでシルフギルドに入った後、僕はクリスタに料理の1から10まで全てを叩き込まれたほど……。つまり僕の料理スキルは冒険者程度のものしかない。コックなんて比べるのもおこがましいくらいだ。
ここから分かるように……少なくともシルフギルドの冒険者は皆、料理であるのだ。
そう考えると冒険者って女子力高くね。
ただ料理したのなんてクリスタとの修行ぶりくらいで、めちゃくちゃに久しぶりだ。
アズは基本的に食料を自ら確保しなければならないような、面倒な仕事を受けるのを嫌がる。そのため泣きながら覚えた料理スキルも、今まで披露することがなかった。
本当に何で料理できるようなったんだろうと思ったくらいだ。
けど……
「奴隷君、おかわり。」
「奴隷ちゃん!二倍追加して!」
彼女たちの笑顔を見てると、頑張って良かったな……とそう思える気がした。
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