第九十四話 監禁について③
「奴隷ちゃん、私と脱衣将棋しよっか。」
「脱衣将棋?何そのパワーワードすぎるゲーム……。」
オーラが僕の夕飯を用意するため席を外している間、この部屋には僕とサキュバスの少女しか居ない。
さらにその少女が僕に接近してくるため目のやり場に困ることに加え、良い匂いがして来たりと、もう僕自身どうしていいか分からなくなって来た。そして更にこの発言である。
どういうこと?
「将棋だよ。知らないの?」
「いや、知ってるけど……逆に何で知ってるの?将棋って日本のゲームだよ。」
「にほん?あ、さっきちょっと聞いてたけど、奴隷ちゃんが前世に住んでた国なんだっけ?」
「そう。」
「将棋はね〜、悪魔族が皆に広めたゲームなんだ。奴隷ちゃんの前世が住んでた国で、なんで知られてたかアウインは知らないけど、魔族では昔から人気なんだよ。サキュバスの村でも結構人気だったの。まあ私は友達いなかったから人とやったことないんだけど……。」
「そ、そうなんだ。」
「うん……。オーラちゃんもやだってやってくれないし……だから奴隷ちゃんとやるの!」
もしかしたら、このサキュバス……結構可哀想な感じなのでは?
サラッと友達いなかったとか聞こえてきたし……もしかして僕と同類の陰キャなのではなかろうか。
スタンド使いがスタンド使いと引き合うように、陰キャは陰キャ同士で引かれ合うものだ。
なんかちょっと優しくしてあげたくなって来た。
けど……絶対に確認しなければならないことが一つだけあった。
先ほどあまりにも聞きなれない文言があったのである。これだけは優しさ以前の問題だ。
「それで脱衣ってなに?」
「それはもちろん、駒が一つ取られる度に服を脱ぐってルールだよ。」
「さぞやるのが当たり前みたいな感じで言わないで欲しいんだけど……何その脱衣麻雀みたいなノリ。もしかして魔族の将棋はこれが一般的なの?」
「ううん、多分サキュバスだけのノリ。けど奴隷ちゃんに拒否権はないからね。なんだってオーラちゃんの奴隷なんだから!オーラちゃんの奴隷ってことは、アウインの奴隷!つまりそういうこと!」
アウインはそう言って指を指してくる。どうやら僕の拒否権は無いらしい。
一応将棋のルールは知っているし、出来なくはないのだが……やはり意味が分からない。
「脱衣して何の意味があるの?」
「それはもちろん、服がどんどんはだけていく臨場感を楽しむの!そしてどんどん裸に近づいていく私に、奴隷ちゃんは欲情。そのままベットインしてメロメロって作戦。」
「とんでもない作戦だな……。」
想像以上に刺激の強いゲームらしい。
裸になって行くアウインを見て欲情するかは知らないが、心の負担は想像の何倍も大きそうだ。
「けどそのルールなら、僕わざと負けるよ?魅了される訳にはいかないし……。」
「ええ!?私の裸見たくないの!?」
「い、いや、どう反応するのが正しいのかは分からないけど、わざわざ自分から魅了される危険のある行為をする訳ないじゃん」
「た、確かに……。じゃ、じゃあ、奴隷ちゃんが負けたら私に、強制的に襲われるってルール追加ね。」
「え、ええ!?」
こいつ何言ってるんだ……。
「襲われたかったら、ワザと負けてもいいわよ。」
「い、いや、じゃあ僕が勝ったら、なんかくれるの?」
「ん〜私を好き勝手に出来る…とか?」
「それ勝っても負けても一緒じゃん!?……え〜と、じゃあ僕が勝ったら、拘束から解放してくれるってことにしてくれない?」
「そ、それは流石に無理!奴隷ちゃんは奴隷ちゃんだけど、アウインの奴隷ちゃんじゃないんだから!勝手に決めてしたらオーラに怒られちゃうよ。」
うーん、ゲームに乗じてどうにか逃げれるかもと思ったが、さすがに無理らしい。
こうなれば……
「じゃあ僕が勝ったら、アウインは僕への誘惑行為禁止。これならいい?」
「えぇ……それは……うぅ、まぁ……分かった。」
「やった。」
「よし……じゃあやるわよ!」
アウインはどこからか将棋盤を取り出すと早速駒を並べ始めた。
もしかしたら将棋と言う何か別のゲームかと思ったが、良かった……駒の形や書いてあるコマの名前が多少違うもののルールは何も変わってはいなかった。
アウインがどれほど強いかは分からないが、襲われる訳にはいかないので全力でやってみるとしよう。
★
「王手。」
「ひ、ひい、ゆ、許して。」
「将棋に許すも何もないと思うんだけ……。」
「や、ヤダ!ここで駒取られたらアウイン、裸になっちゃうから〜。合駒もしたくない!」
「はいはい。けど合駒しないと負けるよ?」
「い、いやぁ……と言うか私下着も何もかも脱がされて、ドレス一枚だってのに躊躇とかないの?」
「ないね。」
アウインは僕を魅了するとか言っておきながら……どうやら裸を晒すのは恥ずかしいらしく、駒を僕に取られる度丁寧に中から脱いでいた。そのため下着から脱いでいくこととなり、今アウインは1番外側のドレス以外履いていない。
スカートが短いと言う話はしたと思うのだが、そう……もうほぼ丸見えの状態なのである。
ただ将棋で集中しているためか、不思議なことに全く気にならない。
将棋ってすごい。
言っておくが、別に僕は将棋が上手いわけではない。
圧倒的にアウインが下手なのだ。おかげで1番上のTシャツしか脱がないだけで済んでいる。
まあ……初めて人と勝負をするらしいので、それはしょうがないのかもしれない。よくもまあ逆に…なぜあんなにも自身満々に勝負を挑んで来たのかは、理解に苦しむが……。
「アウイン、忠告。残念だけど、もういわゆる詰んでる状態。諦めた方がいい。」
「うう……いやぁ、諦めたくない。」
「残念だけど、奴隷君がミスでもしない限り負けることは確定。もう勝つ確率はゼロ。」
僕の食事の準備をしてくれていたオーラも、いつの間にか戻って来ていた。
どうやら将棋のルールは知っているようで、飯の乗ったお盆を両手に持ちながら将棋盤を上からじっくりと観察している。
そう。実は彼女の言う通り詰んでいる状態。
ここから僕がミスでもしない限り、負けることは無い。
「うぅ……ダメだ。どう頑張っても勝ちのビジョンが見えない。うぅ……しょうがない!確たる上は!」
「え!?」
アウインは唐突に叫んで駒を置いたかと思った瞬間、なんと将棋盤を飛び越えて僕に抱きついて来たのだ。
座っていて避けれない状態だったこともあり、僕はそのまま彼女に押し倒される。
「勝てないなら、相手に駒を動かせなくすればいいのよ!ふふ、私天才だわ!」
完全に僕が、アウインに馬乗りにされている状態。
やばい…ヤバすぎる……。
アウインは今、下着を着ていないのだ。
そう!感覚が、触感が、温もりが……直に伝わってくるのだ。
不味い不味い不味い……
まだサキュバスの虜になってないとはいえ、僕だって男だ。
さらに押し倒しされ将棋盤がない今、僕の視線を定める場所もない。集中を向ける対象もない。魔力が練れないためアウインを押し戻す力もない。逃げ道がなすぎる。
「あれ、顔赤くなってる。あ、もしかしてアウインに抱きつかれて興奮してるの?ふふふ〜、ほーらもっと抱きついてあげる。あ、キスもしてあげようかな。ほーら降参しないと、もっといけないことしちゃうよ〜、ほーら……」
アウインの僕の締め付ける力が強くなる。彼女から感じる感触が、匂いが、鼓動がより明瞭なものとなる。
さらにアウインは意気揚々と、顔を僕の顔へと近づけて来のだ。
視界がどんどんとアウインに埋め尽くされ、鼻が当たるほどまで近づいた。
彼女の吐息が肌をくすぐる。
ヤバすぎるなんてものじゃない。
これで欲情しなかったら、それはもう男じゃない。
ダメだ……このままじゃ、確実にアウインに魅了される。
キスなんてされたら最後、僕は晴れてサキュバスの下僕に仲間入りだ。
心を落ち着かせろ、煩悩を振り払え。
心頭滅却心頭滅却心頭滅却心頭滅却心頭滅却心頭滅却心頭滅却……
考えろ考えろ考えろ考えろおおおおおおおおおおおお!
皆の元へ、アズの元へ帰るために……考えろ!
今僕がすべきことはなんだ?
何とか暴れて、脱出を試みるか?いや……ダメだ。それで振り解けるなら、苦労しない。
馬乗りされて、体を完全にガッチリと固定されているのだ。サキュバスと言えど全く魔力が使えない訳じゃない。アダマンタイト性の錠を足に嵌められた今の僕では、サキュバスに対してすらフィジカルで勝つことは出来ない……。
くそっ……どうすればいいんだ。
今の僕ができることなんて、足を動かすことくらい。
こんなんじゃ僕は……い、いや待て…違う。足は動かせるのだ。
まだ諦めるときじゃない。
さっきの盤面を思い出せ。
最後、アウインはどう駒を動かした?
指したとほぼ同時に抱きついて来たので、よく覚えていないがあの盤面から動ける場所は限られていたはず。
それに合駒も使わなかった。なら……そうだ!
そう……王様を下に動かしたはずだ。なら僕は手持ちのコマから金を打って勝ちのはず!
この勝負に勝てば、アウインの誘惑行為は禁止できる。
キスされる前にこの将棋に勝つしかない!
今の足の位置、手駒の位置、盤面の位置、把握しろ。
正確に、一寸の狂いなく!
いけぇぇえええええ!
「ふふふ、奴隷ちゃん。私が優しく……え!?」
そのとき、パチンと音が部屋の中にこだました。
アウインがパッと後ろを振り向く。オーラは表情一つ変えず、僕らではなく将棋盤を見ていた。
そう。
僕の足が金を指している、その盤面を……。
「嘘…なんで……。」
アウインがそう言葉をこぼす。
さすがの彼女も思わなかっただろう。僕が足で将棋を指して、ゲームに勝利するなんて……。
「オーラ、僕の勝ちでいいか?」
「肯定。奴隷君の勝利。アウインの敗北。」
「う、嘘。ま、負けたのアウインが……。私が負けたって言うの!」
「肯定。」
「い、いやああああああああぁぁぁ、うわあああああん。」
アウインはいきなり泣き出した。
そして何故か、僕の服に顔を擦り付けて来たのだ。
僕に抱きつく力が一層強くなる。
「なんでぇ、足で駒を打つなんて聞いてない!聞いてないもん!うわあああああん」
「あの……勝ったから、もう誘惑禁止ってことで離れてくれない?」
「うわあああああああああああああぁぁぁん。」
あ、ダメだこれ。全然聞いてない。
僕の服が瞬く間に、彼女の涙で濡れていく。寒くなってきた。
けどそのおかげか頭が冷静に戻って来る。
危ない危ない。
これで魅了されたりしたらたまったもんじゃないからな。泣いてくれて良かったかも……。
一番は離れてくれることなんだけどね……。
「奴隷君、謝罪。アウインは泣き虫のところあるから、こういうことよくある。しばらくそのまま抱きつかせてあげて欲しい。」
「う、うん。よしよ〜し、好きなだけ泣いていいからね。」
「うわあああああああああああああぁぁぁん。」
「よしよし……。」
僕はゆっくりとアウインの頭を撫でる。
もう涙と鼻水でアウインの顔はくしゃくしゃだ。僕の服もびしょびしょを通り越してぐしょぐしょである。
ここまで来ると、興奮などと言う感情はどこかに行ってしまった。
「命令。奴隷君、試しに私の頭も撫でてみて。」
「へ?」
「頭撫でられるの気持ち良さそうだから、私の頭も撫でてみてと言っている。」
何故かオーラまで、僕の側まで近づいてきた。
間近でオーラと真正面から目が合う。彼女とここまで接近したのも初めてだ。
目が美しいとか、肌が透き通るように綺麗とか色んな情報が…一瞬にして頭の中を駆け巡った。
「な、何でかな?」
「命令。」
「は、はい。え、ええっとよしよし。」
「うわあああああああああああああぁぁぁん!」
「ええ!?よしよし。」
「命令。」
「よしよし……」
「うわあああああん!」
「よしよし……何で!?」
二人の頭をよしよしする作業が、何故かこの後数分間続くことになったのである……。
何で……。
読んでくれてありがとう。今回の話は、ストーリーの中では過激だったような気もする。
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本当に読んでくれてる方いるのかなって不安になったりするので、感想くれるととても嬉しいな。
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