第九十三話 監禁について②
「えーとこの遣唐使ってのが、確か……630年から始まってね。あ、唐ってのはここ。」
僕は何故か魔王軍幹部相手に、日本史の授業をしていた。ちなみに日本史も世界史もちゃんと勉強してないので、割と曖昧である。けど想像以上に、オーラと名乗る少女は真剣に聞いてくれている。
「確認。疑問。先ほどまで遣隋使がいた。隋から唐から変わったのはなぜ?」
オーラはそう言って、僕が手書きしていた世界地図を指さす。
こいつ……めちゃくちゃ詳しく聞いてくる。
勘弁して欲しい。勉強してから何年経っていると思っているのだ……。
元々あまり勉強自体得意じゃないし。
けど真剣に教えないと何されるか分からないので、そっちも怖い。どうにか必死で記憶をこねくり回して探る。
「ちょっと記憶が曖昧なんだけど、確かこの隋って国の王様だった煬帝って人が、無理な土木事業とか、遠征を繰り返して民たちの反乱を招いたんだよ。それで李淵って人がその反乱を利用して隋を滅ぼして、新しく唐を建国……って感じ。」
「理解。奴隷君、博識。」
「結構曖昧な記憶だから、もしかしたら間違えてるかも。」
「それはしょうがない。それで続きは……?」
「えっとそれから……、」
そのとき
グ〜
とお腹の虫が鳴った。
思えば捕まってから何時間経っているのかも分からない。地下だから太陽の光とかもないし……お腹がすいた。
「あの……食事は頂けないのでしょうか?」
「食事?奴隷が文句を言わない。」
「そ、それ確かにご最もなんだけど、お腹が膨れないと頭が回らなくなるから、教える知識が鈍る可能性があるんだよ。それでもいいの?」
「……理解。では奥の手を使う。」
「え!?奥の手……?」
奥の手とは何だろうか?まさか拷問?
そう疑問を抱いていると、オーラがパンパンと二回手を叩いた。何かの合図だろうか?
すると数秒後、僕を監禁する扉が開く。
そして入ってきたのは、一人の少女だった。
ピンク髪でお尻辺りまで髪を伸ばしている少女。くせっ毛なのか、髪先がクルっと曲がっている。ただ何よりも僕の目が行ったのは、背中から生えるギザギザとした羽。そして大きな胸。
まるで男の理想の体型かと思われるほど、完璧なスタイル。そしてそのスタイルを強調するかのような、胸元がパッカリと開いたドレスのような服。更にスカートの裾の部分が恐ろしいほどに短く……何だこれ?もはやスカートでは無い。中の黒色のレース下着が丸出しだ。
「オーラちゃん、いきなり呼び出して何?」
「アウイン、奴隷君がご飯を食べたいと駄々をこねるから魅了して黙らせて。」
「えぇ!?もう!人使い荒いよ〜しょうがないな〜。」
露出の激しい少女が、ふわふわと空を飛びながら僕の傍まで近付いてきた。すごい……視線の置き場所に困る。
少女の服があまりにも露出が激しすぎるのに加え、スタイルも抜群、ルックスも超絶美少女。これは……僕には刺激が強すぎる。
「こんにちは、奴隷ちゃん。アウイン、奴隷ちゃんにご飯食べるの我慢して欲しいんだけどダメ?」
「え、えっとその前に……その服装、どうにかならない?」
「ええ!?この服装可愛いでしょ?あ、照れてるだけでしょ、もぉ。」
何だこのモテない男を、全員骨抜きにしそうな笑顔は。
ここまでの美少女、僕は見たことがない。あ、いや、嘘をついた。ルックスだけならアズも引けを取らない。
けどこの全てを包み込みそうな暖かい雰囲気や、スタイルは、誰の追随も許さない圧倒的美貌だ。
日本にいた頃の僕なら、秒で惚れてる。
会話出来ただけで一生の思い出になるくらい、メロメロになっていたことだろう。
「それでご飯、我慢出来る?出来るよね?」
「そりゃ我慢は出来るけどさ。その分他に支障が出るというか……。」
「もう、ダメ!我慢して!じゃあ私がおまじないをしてあげる。」
「おまじない?」
「そう。いくよ?奴隷ちゃんは、お腹が減らなくなーる。減らなくなーる。減らなくなーる。は!」
少女がそう言った瞬間、彼女からピンク色の光線のようなものが僕を貫いた。
相手にダメージを与える魔法ではないらしく、外傷は特にない。何だ!?今の魔法どういった意味が?
もしかして本当に、空腹じゃなくなったのか?
……いや普通に空腹だな。腹減った。
「どう、奴隷ちゃん。お腹減らなくなったでしょ。」
「え!?いや、ごめん。全然。」
「え、もう!冗談言わないでよ〜。アウイン分かってるんだから〜。」
「いや、本当なんだけど……。」
「もう奴隷ちゃん。アウインにかまって欲しいからって、嘘はダメ!」
「いや、ホントに嘘じゃないんだけど……。」
「またまた〜。」
「アウイン、誤認。奴隷君、嘘ついてない。」
「またまた……え?オーラ、本当なの?」
「肯定。」
「う、嘘……、」
少女が驚いたような表情を浮かべる。
そんなに驚くことなのだろうか?あんな魔法でお腹が膨れる方がおかしいだろ。だが少女はまるで僕がおかしい……みたいな目で見てくる。
「あれれ〜、魔法が聞いてないのかな〜。もう一回いくよ、減らなくなーる、減らなくなーる、減らなくなーる、は!……どう?」
「ごめん。変わんない。」
「減らなくなーる、は!」
「ごめん。」
「は!」
「ごめん。」
「はあああああああ!」
「ごめん。」
「はああああああああああああぁぁぁ!」
「ごめん。」
それから何分もの間、この謎の魔法が休むことなく僕に放たれ続けた。しかし待てど待てでも変化しない。
ずっと空腹のままだ。
最初笑顔だった少女もどんどんと笑顔が薄れ、今ではゲッソリとした表情を浮かべている。
「何で…何で……私の魔法が効かないの?私のこと可愛いとか、押し倒したいとか…思わないの?」
「押し倒したい?それは置いとくとして、可愛いとはもちろん思ってるけど……。」
「じゃあ何で聞かないのよぉ〜。うわあああああん。」
とうとう少女は泣き出してしまった。地面にバタッと倒れ込む。あれ、これ僕が悪いのだろうか?
よく分からないけど申し訳ない。
「驚愕。サキュバスの魅了にかからない人を始めて見た。」
「え!?サキュバス!?もしかしてこの子、サキュバスなの!?」
サキュバス、それは男性にとって最大の天敵と言って差し支えない魔族である。男性を魅了し、誘惑し、恋に落とされたら最後。サキュバスの従順な下僕へと変えてしまう狂気の魔族。
更に男性の精を主食にしていたりと、詳しく言うのはさすがに避けるがお色気要素満点。日本に住んでいる男性諸君なら必ずサキュバス物を1つは目にしたことがあるのではなかろうか?その妄想の相手がまさにこの少女という訳である。
……初めて見た。サキュバスがいることはこの世界でも知られているが、あまり数が多くなく遭遇することは滅多にない。更にサキュバスは致命的な欠点を持つ。そのため表舞台にはあまり出てこないのだ。
その欠点、それはサキュバスは女性に対して全くもって無力であると言うこと。サキュバスは全ての能力を男性の魅了に特化させているため、女性に対して一切の有効打を持たない。また扱える魔法も全て誘惑魔法に特化しており、戦闘能力は皆無と言っていいほどない。
そう男性に対する最強の種族であると同時に、女性に対して最弱の種族。それがサキュバスなのだ。
「うぅぅぅ、サキュバスなのに男性を魅了出来ないなんて、私のプライドが……。何でぇ、ほかの捕まえた人たち皆魅了できたのに……。」
サキュバスの少女は、瞳から流れ出す涙を何度も腕で擦って拭き取っている。ただそれと相反するように、横にいる金髪の少女は嬉しそうに、口角が僅かではあるが上がっている。
「奴隷君。何故魅了にかからないの?」
「そう言われても、僕には何とも……。」
「アウインのこと、犯したいくらい可愛いと。そう思わいないの?」
どうやらアウインとは、このサキュバスの少女の名前らしい。
「おか、犯す?い、いやもちろん十分に可愛いと思ってるよ!けど……なんて言うんだろ。僕にとってはこの世界の女性全員可愛く見えると言うか……。」
「可愛く見える?」
「そう。日本から転生してきたって言ったよね。この世界の人たちのルックスね、日本で言ったら平均がアイドル級なんだよね。」
「アイドル?偶像のこと?」
「違う違う、そっちじゃない。アイドルっての可愛いってことの比喩で……つまり全員日本の人々に比べたら、可愛すぎるってこと。」
「つまりにほんじんは皆、ブスだと?」
「う、そう言われるとちょっと嫌だけど、この世界の人たちに比べれば99%の日本人、いや地球人はブスだと言えるかもしれないね。だから僕にとってはアウインも可愛いと思うけど、オーラも十分可愛いって言うか……」
「可愛い?」
「そう。僕はオーラのことも、めっちゃ可愛いと思ってる。」
「疑問。この私が可愛い訳はない。なのに何故、嘘をついている雰囲気がない?」
「だから可愛いんだって!僕にとってはこの世界の女性全員可愛く見えるだんよ。」
「……そう。初めてそんな真っ直ぐな目で言われた。なるほど。悪くない感情。」
そう言うとしばらくオーラは黙ってしまった。
何か僕も必死で可愛いとか言ってる自分のことが、恥ずかしくなってきた。けどホントなのだ。
この世界の女性だけではない男性も含め、ルックスが皆高すぎる。
僕も自分のことを見たら、あれイケメンだな。これが本当に僕なのか?って疑問に思うくらいだ。
アズにはイケメンでも何でもないって、言われたあの時を思い出す。つまり僕のルックスへの価値観は、この世界の常識とズレているらしい。
ただ……うん。このサキュバスの少女、アウインは確かにその中でも美少女とは言わざるおえない。一度見たら釘付けになるくらいには可愛いと思う。
けど僕にとってはオーラのことも十分に魅力的に見える分、魅力が薄れているのかも。
あと多分だがいつもアズと行動しているので、アズレベルのルックスに慣れたってのもあると思われる。
アズは性格がどうであれ、ルックスはこの世界でもトップレベル……言ってしまえばサキュバスレベルの持ち主。僕が魅了されないのも、慣れと言う観点から見れば納得できるのかもしれない。
結局、真相は謎だ。
正直僕は魅了にかかってもおかしくないとは思ってる。かかってない今の状況こそ不思議すぎる。
「承認。理解。奥の手、失敗。食事、用意する。アウイン、奴隷君の監視、よろしく。」
「うぅ、はい。」
アウインが泣いて掠れた返答を聞くと、オーラは扉を開け外へと出ていった。
どうやら食事を用意してくれるらしい。ありがたい。
「ねぇ……奴隷ちゃん。」
気付くとアウインが泣いて赤くなった目で、僕を上目遣いで見てきた。更にグッと接近してくる。
さすがサキュバス。一つ一つの小さな仕草が、全て男性を魅了させる行為へと繋がっている。
「な、何かな?」
「奴隷ちゃんにとって、私は魅力が足らないってことだよね?女性としての魅力が、足りないってことだよね?だから、だから私の魅了にかかってくれないってことだよね!」
その声には迫力が感じられる。
けどサキュバスからは噂通り、莫大な魔力のようなものを感じない。戦闘能力が高いとは、直観的にだが思えない。けどこの弱さほど、安心を与え魅了にかかる心の隙を与える。
今は魅了されてないとはいえ、魅了されたら最後。
僕は人生を彼女に捧げ、下僕へのルートを辿る以外の道は無くなる。それは避けねばならない。
皆の元に……アズの元に……帰るために。
しっかりと気を引き締めなければ。
ただ……アウインの顔は覚悟の決まった顔だ。
その決めた固い意思。それは僕の希望とは真逆を意味する。
「私、絶対奴隷ちゃんを魅了させるから!サキュバスの種族にかけて!」
少女はそう高らかに宣言するのであった。
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