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9.作戦会議、開始


 次の朝、客間に私を呼びに来たのはラファエルでも小姓でもなく、見知らぬ美女だった。青みを帯びた長い黒髪をポニーテールにし、たんぽぽの黄色をしたおしゃれなローブをまとった彼女は、猫を思わせる金の瞳でこちらを見つめ、仁王立ちになり腕組みしたまま高圧的に言い放った。メリハリの利いた体つきをしているせいで、そんなポーズが良く似合っている。

「起きてるわね? 一階の食堂に集合よ。あたしが案内するからさっさと付いて来なさい」

 それだけ言うと、彼女はあっけにとられる私とナタリアを置き去りにしてすたすたと歩きだした。慌てて追いかける。

「あー、名乗ってなかったわね。あたしはモニカ、見て分かるだろうけど魔術師よ。あたしも今回の魔物討伐に参加するから」

 あれ、そうなのか。もういちいちゲームとの細かな違いを考えるのが面倒になってきつつあるが、確かゲームではぱっと魔術都市に来て、さっさと大森林に出て、つつがなく白の浄化どーん、とテンポよく進んでたはずだ。当然モニカも知らない子だ。

 とにかく朝ご飯を食べてからにしよう。腹が減ってはいくさはできぬ。




 案内された食堂はにぎやかで、様々な色合いの黄色いローブを着た魔術師がめいめい食事を取っていた。

「ここは給仕はいないから、自分で食事を取りに行くの。献立は日替わり一種のみ」

 モニカがぶっきらぼうかつ端的に説明してくれる。そうして食事を取ってくると、三人で話しながら食事をとった。モニカは偉そうではあるが、こちらの質問には素直に答えてくれる。

 曰く、モニカは攻撃魔法を得意とすること。曰く、ラファエルは魔法陣の扱いに長けていること。モニカとラファエルは魔術師の塔の若手の中ではエース級であること。モニカとラファエルは幼馴染であること。モニカは独身で恋人なし「ちょっと、なにを聞いてるのよ! うっかり答えちゃったじゃない!」聞いたのは私ではなくナタリアです。一応弁明しておく。

「さ、食事も済んだし、さっさと打ち合わせに行くわよ」

 優雅なしぐさでモニカが立ち上がった。私たちもそれに続く。私はこれから打ち合わせで、ナタリアは客間に戻って留守番だ。

「打ち合わせは五階の会議室。道順がややこしいからはぐれるんじゃないわよ」

 モニカによると、この塔は三階までは普通の建物であり客人でも普通に行き来できるが、四階から上は基本的に魔術師以外立ち入り禁止で、立ち入る際は必ず魔術師の付き添いが必要なんだとか。その理由が、「歴代の魔術師たちが色々と実験しまくった結果、空間がゆがんでる場所がある」とか「トラップ型の魔法を研究してるやつがその辺に仕掛けたまま解除し忘れてる」とか「いたずらで強制転移の魔方陣が仕掛けられていることがある」とか「実験用の獣が脱走して棲みついてる」とか。ほぼ魔境じゃん、この塔。なので窓に面した部屋であれば、昨日のラファエルのように外を飛んで移動する方が早いのだそうだ。

 はい、私絶対にモニカのそばを離れません!




 からくり屋敷のようになっていた四階と五階をモニカの案内で突破し、無事会議室にたどり着くと、そこには既にアルフレッドとウィリアムおじさん、そして彼らを案内してきたであろうラファエルがいた。三人とも大きな円卓に着席している。ウィリアムおじさんの顔が心なしか青い。まあ、ここまでの道のりが道のりだったしね。

「全員揃ったか。では打ち合わせを始めよう」

 私たちが円卓の空いた席に座ったのを見届け、アルフレッドが宣言した。ラファエルが円卓に刻まれた魔法陣を操作し始める。すると、私たち全員の目の前の空中に、光る地図が現れた。これ知ってる、近未来ものとかSFもので出てくる空中ウィンドウだ! アルフレッドは興味津々と言った顔で、対照的にウィリアムおじさんは若干引いている。

 ラファエルは魔法陣を操作しながら解説を始めた。

「今出したのが魔術都市周囲の地図です。今回の目的地は北西の大森林ですね」

 ラファエルがさらに手を動かすと、地図の一部の色が変わった。面白い。

「この大森林では魔石が採れるのですが、このところ魔物が増えてきて困ってるんです。このまま増えるとこちらまで押し寄せてくるかもしれません」

「あたしたち魔術師は戦いは苦手なのよ、あたしは例外だけど。しかも魔術都市には騎士や戦士があまりいないの。普通の獣とかなら、獣除けの結界でなんとかなるんだけどね。さすがに魔物の群れはどうしようもなくて」

 モニカが口を挟む。

「ですので、本格的に魔物が増える前に何とかして欲しいな、と王都に頼んでたんですよね」

「そうしたら、少し前から王都に滞在してた『聖女様』が白の浄化を成し遂げたって知らせが入ってね」

「これはすぐ来てもらうべきだ、聖女様に助けてもらおう! と上層部が盛り上がってしまって」

「ま、そんな訳であなたたちに急に来てもらうことになっちゃったの」

 途中からはラファエルとモニカが交互に喋ってた。テンポよく進む説明はまるで夫婦漫才だ。

「現状は理解した。ではここからどう打って出るかを考えるべきだな」

 アルフレッドが答える。

「大森林に入るのであれば大人数による行軍は難しいでしょう。隊をいくつかに分けるべきかと」

 ずっと黙っていたウィリアムおじさんが発言した。忘れてたけどこの人騎士団長でした。

「ああ。数人一組で移動し、魔物の出る範囲を調べながら魔物を一か所に追い込み、そこで聖女殿にまとめて浄化してもらうのが早いだろう。その後、浄化し損ねた魔物を個別撃破する。これでどうだろうか」

 うえー、やっぱり私が命削る前提ですか。昨日ラファエルの話を聞いて希望が芽生えちゃっただけに、また命削るのかよーと少し落胆してしまう。私が追い求めるのはあくまでハッピーエンドです、聖女が命を落とす悲恋エンドではありません。

 と、そのラファエルと目が合った。意味ありげに目配せしてくる。何か作戦があるのかな? 後で聞いてみよう。

「ねえラファエル、通信の魔法具をいくつか借りてくればいいんじゃない? 分けた各隊に持たせるの。魔物の位置をいちいち戻って報告する手間が省けるわ」

「じゃあそれは後で僕が取ってくるよ。他にも準備することがあるし、騎士団の人たちに少し休んでもらわないといけないし、ええと……決行、いつにしますか?」

「とりあえず数日休みをもらえれば何とかなるだろう。強行軍とはいえ、私たち騎士団員はそこまでやわではない」

 ウィリアムおじさんが断言し、それを受けてアルフレッドが話をまとめる。

「では今日を含めて三日間を休息に充て、四日後に作戦実行でいいだろうか」

「はい、僕の準備は間に合います」

「あたしもそれでいいわよ」

「私も問題ありません」

 今回の会議で私が発言できたのこれだけです。とんとん拍子に進みすぎて口を挟むすきがありませんでした!!




 会議が終わった後、またモニカに連れられて阿鼻叫喚の五階と四階を抜け(行きと道が変わってた気がする)、なんとか客間に戻ってきた。待ちくたびれた様子のナタリアに迎えられる。

 しかし、案内の終わったモニカがなぜかすぐに帰らずに入り口でもじもじしている。偉そうなモニカにしては珍しく、何か言いたげにしつつも何も言わない。これはこちらから聞くべきなのか。

「モニカ、何か気になることでもあるのでしょうか?」

 そう聞くと、モニカはうっすらと頬を赤らめながらさらにもじもじした。蚊の鳴くような声を絞り出す。どうした、随分しおらしいぞ?

「あ、あのさ、あんたさ……ラファエルと……その、どうなの?」

「はい?」

 予想外すぎる質問に、思わず素の声が出た。危ない危ない。

「どうなの、というのは一体どういった……」

「そういう意味よ! あなた、昨日ラファエルの研究室に招かれてたでしょ!? それに今日もラファエルが意味ありげに目配せしてたし、何かあったのかって気になるじゃない!」

 あー色々見られてたのね。そしてやっぱりモニカさんはラファエルが気になりまくっていましたか。朝ご飯の時突っ込んだ質問をしたナタリアの女の勘が大当たりでした。

 しかし今のところラファエルを攻略する予定はないし、モニカのためにも否定しておいてあげよう。……これでこのあとうっかりラファエル個別ルートに入っちゃったら、私すっごく嫌な女になるな……よし、ラファエルルートも回避していこうか。

「ああ、それはラファエルが聖女の力について気にしていただけです。ラファエルは本当に研究熱心なのですね。それに私は立場上、その……そういうのは一応駄目、なのです」

 教会の頂点たる大司教は純潔を保たなければならない。そして私は一応大司教候補なので、今のところ好いた惚れたはご法度なのだ。まあ何だかんだいいつつ乙女ゲームだし、最終的には大司教候補の座は放り投げる可能性が高いが。

「あ、そっかあなた大司教候補か……なんか可哀そうになってきたわ、あなたも年頃なのにそういうの駄目だなんて」

 だがモニカはそれで納得したようだ。というか心の距離が近づいたような気がする。ナタリアは意外とそういう話が好きな方だけど、モニカも結構恋愛脳なのかな?

「ねえセレスティナ、だったら明日あたり遊びにいかない? 作戦開始まで割と暇でしょ?」

 そして物凄い急角度の方向転換。どうしたモニカ?

「だってあなた、そういうの駄目なら、せめて年頃の女の子らしく遊ぶのもありかなって」

 うわ、モニカいい人だった。第一印象で偉そうとか言ってごめんなさい。いや実際偉そうなんだけど。

「女の友情は禁止されてないんでしょ? だったらあたしとお友達になるっていうのはどうかしら? もちろん、ナタリアも」

「もちろん、喜んで。お友達ができて嬉しいです、モニカ」

「私もです!」

 こうして、晴れて私たちは友達になり、モニカは晴れ晴れとした顔で帰っていった。




 その日の夜、青い小鳥が丸めた手紙をくわえてやってきた。一人で窓辺にいたらいきなり飛び込んできたのだ。こんな時間に小鳥とは珍しい。手紙を開けてみるとラファエルからで、改めて話したいことがあるから明日からの三日間で空いている日を教えてほしい、というものだった。手紙の下に返事を書く欄がある。会議の時の目配せはこのことだったのか。

 明日はモニカとの約束があるから、その後の二日間ならいつでも、と書き込むと、小鳥が器用に手紙を丸め、きっちりくわえ直して窓辺から飛び出していった。上手いことしつけてあるなあ。



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