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月下の王城  作者: 香住
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第三十九話:命あればこそ

 ヤンを追う足音はそれきり無く、オフォスのアジトにたどり着くことが出来た。ロサードは今回は前回よりも深追いしなかったようで、各所のアジトはさほどダメージを追わなかった。

 逃げる『アンシアン』メンバーを追っていた国王軍は追い詰めた廃屋へと仲間を集め、一網打尽にしようとしたところを突然の崩壊と炎上で多くの死傷者を出したと聞く。そのために救われた『アンシアン』メンバーも多かった。



 二度の決起の失敗は『アンシアン』を解散させた。ヤンは仲間たちに多くを語らず、ただ伝令をしただけで姿を消した。『アンシアン』メンバーはそれをリーダーの責任放棄だとか散々言い、もしかしたらローレンシアをヒューイに取られたからじゃないかという憶測による中傷や、今回の決起で実は全員死んだのではないかなどという無責任な話までが飛び交って建て直すのは不可能だった。


 真実を知っているのはテリーとリンティアだけだった。しかし彼らはそれを訂正するつもりは無く、ただただ、ヤンに言われたことを考え続けていた。

 ヤンが姿を消したのは、二人のところに訪れた翌日だ。傷は癒えてはおらず、動くのが精一杯だった。それでも彼は幼子を見てまなじりを下げた。

 テリーとリンティアには事実だけを告げていた。ローレンシアとヒューイがどうなったか、だけを。リンティアはふらりと倒れそうになってテリーに支えられていた。そしてそのショックから立ち直ると今度は大粒の涙をぽろぽろと零していた。

「オマエらは……どーする?」

「どうするって……」

 既に『アンシアン』が機能していないことはその時点でテリーにもわかっていた。この機会にリンティアと暮らしたいと思うことも無かったが、ローレンシアたちのことを聞くと今更自分たちだけというのは憚られた。

 口篭ったテリーに、ヤンはふっと笑って肩を叩く。

「普通の生活をしろよ、リンティアと……それとガキとな」

「うん……」

 気の無い返事のあと、ちらりとテリーの視線が幼子へと向かう。しかしそれをヤンは「ちげーよ」と遮った。

「リンティア、言ってねえのか?」

「何を?」

 きょとんとしたようにテリーが訊ね返す。リンティアは困ったように顔を伏せる。

「産むつもりなんだろ?」

 ヤンの言葉にテリーの表情が止まる。どうやら何も聞かされていなかったらしい。ヤンは彼女の様子からそれを敏感に感じ取ったが、テリーはまったく疎かった。瞬きをしながらヤンと、それからリンティアを交互に見ながらテリーはやっとその意味を知って当惑していた。

 その日はとりあえずは休もうという話になったあと、翌朝もうヤンはいなかった。幼子も一緒に姿を消していてリンティアはまたも涙にくれた。ヤンの思いがどうか、穏やかな方向へと向かってくれるようにと彼女は泣きながらも祈っていた。


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