15.闇の根源(5)
闇を持ったまま死んだ人間や魔物の意識と力は闇の根源に集まる。闇の根源は俺と同化しているから、俺の中には闇の根源と同化した無数の意識が存在している。
この意識たちは未練なんかを色々と抱えたままここに来たものも多く、常に恨み言を語っているのだが、ここ数日その声がやけに大きくなっている気がしていた。
また、闇の根源には今生きている魔物たちの意識とも繋がっており、特に強い感情、例えば命の危機に瀕した時に沸き上がってくる諸々をこちらも感じ取ることができる。
俺は今、そのような心の声を発した魔物の元へ向かっているところだ。
現在はこちらの防衛体制を整えているところだが、あちらは待ってはくれないようだ。光の精霊を宿した兵士が魔物への襲撃を繰り返している。
声の主であるカーバンクルと兵士の間に割って入った。
前と同じように壁で攻撃を防ぎながら回り込んで隙を突こうとした。しかし兵士は俺が回り込んで来るのを待ち構えていた。
この兵士、少しずつ学習しているのかも知れない。
加えて闇の根源からの声がやかましい。気になって戦闘に集中できない。
また強い感情を感じ取った。距離は遠くないが、こちらを片付けないことにはあちらに向かうことが出来ない。
焦るほどに根源の声は大きくなり、目の前の敵に集中できない。するとまた焦りが生まれる。負の連鎖に陥っていた。
「うるっせえなあ! ちょっと黙ってろ!」
とうとう我慢の限界が来た。それで何か変わるわけでもないとわかってはいるが思わず怒鳴ってしまった。
「黙っていていいのか」
根源からの声ではなく、耳から入ってきた声だ。聞き覚えはあるのに、誰なのか思い出せなかった。
それもそのはず、声の主は15年前に死んだ奴だったのだから。
「お前、魔王なのか……?」
「でなければなんだ」
そこにあったのは、闇の魔力を固めて作った等身大の人形のようなものだった。輪郭だけは再現されているが、それ以外の目や口なんかは判別できない。頭から生える角が無ければ、魔王だとは分からなかっただろう。
「なに、かなり難儀しているようだったのでな、力を貸してやろうと蘇ってみただけだ」
「そんなことが……、いや、それは後だ。任せていいんだな?」
「あの人形一つ壊せないと思うのか?」
「いや、頼んだ」
俺はもう一つの場所へ向かった。
こちらの魔物はもう姿を隠していたらしかった。標的を見失っていた兵士は俺に狙いを定めた。いつの間にか根源の声は気にならなくなっていた。
そのせいか、今度の戦闘は手間がかからなかった。敵の攻撃を避けて接近し、こちらの攻撃を当てる。
兵士が倒れたのを確認して、俺は魔王のところに戻った。