第七十九話 真・勇者パーティ
「――我ら魔導帝国サダルアは他国と比較し魔法、特殊能力の優れた者たちが非常に多いことは周知の事実である。その我らサダルア帝国の中から人類を代表する勇者を選出するのも、また当然の流れと言えるだろう」
皇帝の演説を受けた民衆は、皆息をするのも忘れるほど夢中で聞き入っている。それほどまでに皇帝が繰り広げる演説には惹き付けられる何かがあった。
話す際は体全体を使った身振り手振りを交えつつ、重要な部分は声を張るなどして声の強弱を付けるなど、見る者を、聴く者をこちら側へと引き込んでしまう……それほどまでに皇帝の演説は求心力にあふれていた。
「偉大なる帝国国民諸君!本日は勇者を騙る弱者共へ裁きの鉄槌を下す。それと同時、我が帝国から新たな勇者達を選出することとした!」
「――刮目せよ!弱き勇者共のその末路を!そして喝采せよ!偉大な勇者のその誕生を!」
皇帝の声が処刑場全体に響き渡ると同時、民衆が狂喜に満ちた地鳴りのような歓声を上げる。
空気がビリビリと震え、どんなに鈍い者でも分かってしまうほどの肌を刺すような殺意と狂喜の感情は、処刑を待つばかりの3人に向けられる。
「……やっぱりこの国の奴らはイカレてるわね」
ダリルが侮蔑の感情に満ちた言葉を吐き捨てるように呟いた。
その言葉が届くのは同じ処刑台にいるヴェルデとデイモスのみである。
「こりゃ想像以上だな……国の頭が狂ってるとその下も自然とこうなっちまうんだろうよ」
「はわわわ……」
そうしているとひとしきり騒いで満足したのか、民衆の喧騒も徐々に収まってくる。
その様子を見ていた皇帝は頃合いかと再度、口を開く。
「今日は我ら魔導帝国サダルアにとって記念すべき日となるのに加え、皆もこうして集まってくれたことだ。今後の人類史に未来永劫名を残す彼ら――真の勇者一行を紹介しておこう」
そう言って後ろの扉を振り返ると、そこから4人がゆっくり歩いて皇帝の隣まで前に出てくる。
「――では紹介しよう。魔法使い『ぽへぽへ』、戦士『すますま』、賢者『てぬてぬ』。そして、勇者『とむとむ』だ」
皇帝の紹介を受けた勇者一行は、民衆へと視線を向けた。
「……なんか、どいつもこいつもえらく気の抜けた名前だな」
デイモスがジト目を向けながら言うが、当の勇者たちは気にしたそぶりを見せない。
「さあ、真の勇者よ。貴殿より国民に一言掛けてやれ」
皇帝は、不思議な紋様が刻まれた剣と盾を装備した青年――勇者に言った。
「……………………」
しかし、勇者は仏頂面で民衆をジロリと見ると、すぐに視線を逸らし遠くを見つめる。
そんな勇者の様子を隣で見ていた、大きなとんがり帽子を被り人の背丈ほどもある杖を手にした女性は、呆れたような表情を浮かべる。
「相っ変わらず何も喋らないわねッ!こんな時くらい笑ったり、大声出したりしてもいいのよ?『ワッハッハ!俺が勇者だー!』くらい言ってやりなさいよッ!」
そう言って勇者の背中をバシバシ叩く。
その様子を見ながら、胴を覆うアイアンプレート以外目立った装備を身につけておらず、不安になるほどガリガリに痩せた軽装の男が、オドオドしながら話す。
「む、無駄ですよぽへぽへ……。そいつの声帯と表情筋は絶賛ストライキ中ですので……」
「そうは言っても、せっかくの大舞台なのよ!すますま、何とかしなさいよッ!」
「ど、どうして僕に振るんですか……てぬてぬにも頼めばいいじゃないですか……。ん?てぬてぬ?いったいどこを見てるんです?」
「あらぁ?もしかして、そこにいるのはダリル?」
青を基調とした法衣を身にまとい、片手には聖書を握り締めた『てぬてぬ』と呼ばれた賢者はおっとりとした視線を、処刑台にいるベリルへ向けた。
一方のダリルはあまり興味がなさそうな顔で答える。
「……てぬてぬ?随分と懐かしい名前だね。元気してた?」
「私は元気よぉ。あなたも”今のところは”元気そうだけど」
互いに面識はあるようだが、それほど仲が良いというわけでもなさそうな雰囲気を醸し出す両者。
デイモスはダリルに小声で尋ねる。
「……知り合いなのか?」
「まぁね、私が賢者だった時の同僚だよ」
「ええ、でもそれは昔の話。今のあなたは死刑囚。それももうすぐ刑が執行される、ね……。いったいどこで道を違えてしまったの?」
「……私は、自分が歩んできた道が間違っているとは思っていない」
「……そう」
それ以降、お互い睨み合うものの言葉を交わすことはなかった。
◆◆◆◆
「さて、ではそろそろここにいる偽物の勇者の仲間たち3人の処刑を――」
皇帝がデイモス達に視線を向け、死刑の執行を行おうとしたその時だった。
「――強者が弱者の生命を軽んじ、弄ぶ……。実に不公正な世の中だ」
いまだ騒がしい空間であったにもかかわらず、どこからともなく聞こえてきたその声はやけにはっきり聞こえてきた。
周囲は静まり返り、異様な緊張感が張り詰める。
「何者だ、姿を見せろ」
皇帝が全身から殺気と魔力を放ちながら、周囲をゆっくりと見回す。
瞬間、処刑場のちょうど真上、皇帝や勇者達のいるテラスと同じくらいの高さに禍々しい空間の歪みが生まれる。
その歪みは徐々に大きさを増していき、やがてその中から異形の者を含む5人が姿を見せた。
彼らは足場などない空中を静かに歩き、皇帝たちの目の前まで近づいてくる。
勇者たちは既に臨戦態勢を取っているが、それ以上動くことができなかった。
……それは恐怖によるものではない。
勇者たちは戦闘という面において、紛れもなく世界の中でもトップクラスの実力を持つ。
それ故、目の前に現れた5人がどれほど凄まじい力を秘めているのか、直感的に感じてしまったのだ。
――下手にこちらから仕掛ければただではすまない、ということに。
そして、それは相手も同じであることも。
……互いに警戒し合っていたが、とうとう勇者たちの間合いに入った5人。
そのうち、真ん中に立つ痩せぎすの男が静かに口を開く。
「――僕は魔王軍最高幹部が一人、【社会不公正】を司るエキターだ。この帝国の長……皇帝に用がある」




