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「ラーエウトは天候神だが、近頃は武神としての側面が強いからな。旗色が悪いと見て勝負を降りたのだろう」


 満月に近い月の光が煌々と寝室を照らし出す。蚊帳を吊った寝台の上で、マウヤとクナッハは膝を突き合わせるようにして正座をしている。


「そうだったんですか」

「それに加えて――まあ実際にやるかどうかは置いておくとしても、私には父親代わりのクナッハがいるからな。そちらに助力を求められては敵わないと見たのだろう」

「それで……」


 マウヤはクナッハを見た。白い薄絹の寝間着に着替えたクナッハは、いつもより緊張しているように見えた。ゆえに平素より多弁となっているのだろう。

 しかし緊張しているのはマウヤも同じだった。


「それで、その、婚姻……のことだがな」

「はい……!」

「お前が応えてしまったのは、致し方あるまい」

「あの……本当に? その、少し応えてしまっただけで、結婚したことになってしまうのですか?」


 マウヤから視線を外していたクナッハが、ちらりと彼を一瞥する。月明かりに照らされたクナッハの顔は、ほのかな朱色に染まっている。マウヤも似たようなものだった。


「神の言葉、というのは本来そういうものだ。たとえ思ってもいないことを口にしたとしても、それは事実となって実現する」

「思ってもいないことでも……」

「あ、いや別にお前を聟にするのが嫌だとか……いや、そのだからといって聟にしたくて言ったわけでも……!」


 ひとりあわあわと忙しないクナッハを見て、マウヤはどう反応すればいいのやら戸惑ってしまう。


 クナッハを好きかと問われれば、好きだと答えられる。けれどもそれは敬愛の情であって、恋愛感情ではない。

 けれども聟になるのが嫌かと問われれば、嫌ではないと答えられる。ではなぜ、と言われてしまうと、返答に困ってしまう……というのが今のマウヤの心情であった。


「初夜だ」クナッハは言う。「だれが言おうと初夜であるな。……どういう結果になろうと」


「はい」


 マウヤは姿勢を正した。


「マウヤ」


 そう言えばいつからか名前で呼ばれているな、ということにマウヤは気づいた。ずっとクナッハはマウヤを「お前」と呼んでいた。


「私は……お前のことは嫌いではない」


 クナッハの夜空を閉じ込めたような、その美しい瞳が、かすかに潤んでいるように見える。


「マウヤ。お前が私の聟になるのが嫌だと言うのならば、それでもいい」

「クナッハ様」

「それならば以前と同じく……侍者として、私のそばにいてはくれまいか?」


 マウヤの心臓が、どくりと鼓動を打った。そして、かーっと一度に熱が体を支配して、耳が熱くて仕方がなくなった。


「クナッハ様」

「ああ」

「クナッハ様の聟となること、それからおそばにいること……許してくださいますか?」


 クナッハの目がかすかに見開かれた。そうして何度か唇を開いては閉じるということを繰り返した末に、ゆっくりと首を縦に振った。


「マウヤ……私の聟殿。……これから、よろしく頼む」

「はい!」





 ――ダラムーニャのクナッハは、こうして聟取りを行った。

 この二柱は大変仲睦まじく暮らしているのだと伝わっている。

 のちの時代に残るダラムーニャのクナッハ像の足元には、その夫であるマウヤの姿が必ずあることからも、夫婦和合の神であるということが、よくわかるだろう。

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