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【BL】終の先の住処(全年齢)  作者: しあわせ千歳


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【第7章】森の中でポツンと暮らすおじいちゃん半妖受けが若い青年に絆されていく、約束の恋愛小説。

 




 気が付けば紡久は信大の腕の中でしゃっくりをしながら大泣きしていた。

顔が涙でぐちゃぐちゃだ。


「嫌だ、もう嫌だ」と泣き続ける紡久の涙を、たまに信大が甚平の袖で拭ってくれた。


「紡久さん、俺もあんたが好きなんですよ」


 次第に泣き疲れ涙も止まり鼻を啜っていると、紡久の背中を後ろから抱きながら信大が言う。

まだ紡久を好きだと言ってくれる信大をそっと振り向き、見上げた。


「ココに、紡久さんを好きだって気持ちをココに持ってる限り、あんたを御神木になんかさせない」


 紡久の好きな信大の芯の強い瞳がこちらを見下ろし、握った拳を胸に当ててはっきりと、だが落ち着いた声音で励まされる。


 御神木にさせない、信大のその言葉は彼の本心なのだろう。だが紡久がどれだけ土地になりたくない、嫌だ、と叫んでもこの運命は変わらない。それを分かっていて、紡久は頷いた。


「ああ、そうだな」


 信大を信じていないわけじゃない。信大の気持ちを疑ってもいない。だけどどうにもならない事はこの世にはある。それはどれだけ願っても叶わぬ夢だ。


「俺が紡久さんを守ります。何があっても紡久さんを独りにしません。一緒に戦いましょう」


「戦う……?」


 信大の言葉をそのまま返す。最初から叶わぬと分かっていて、戦うことなどしたことが無い。


そもそも小さな人でしかない信大が土地を相手にどう戦うというのか。


 紡久の気持ちを汲んだらしい信大が、視線を合わせたまま口角を上げて笑う。それは不思議と、こんな時なのに紡久に少しの勇気を芽生えさせた。


「具体的にどうするんだ。私はこの痣に縛られて土地から、この山から出られないんだ。それでも戦えるか?」


「逃げるだけじゃダメです、こちらから攻めていかないと」


 膝に落としていた紡久の手を信大が拾い、力強く握る。例え悪あがきでも信大の気持ちが嬉しくて紡久のもう片方の手で彼の手に応えた。


 独りきりじゃないというのはこんなにも心強いのか。


「そんな事を言われたら、私まで戦おうと思えてくるじゃないか」


 初めから望みはないというのに、土地へ歯向かい戦えば何かが変わるだろうか。


「思ってください、戦って自由になるんです。あんな胡散臭い御神木なんかより俺を信じて」


 心の篭った言葉に、紡久はクッと喉を鳴らす。何もできないただの人のくせに信大は自分に何かができると信じている。かわいらしいと思った。


「いいだろう、信じる。何の力も無いただのお前を信じよう」


 好きになった男は無鉄砲だが情があり心の深い優しい奴だ。信大が手伝ってくれるなら、今だけほんの少しの間だけ、土地に歯向かい足掻いてみようと本気で思えてきた。


心変わりをできるのは目の前で紡久を抱き締めている信大のお陰だ。あとは紡久の覚悟が固まるのを待つだけだ。


「戦って紡久さんが自由になったら、俺のお願いを聞いてください」


 紡久の背中を抱き締め直し、信大が耳元で囁く。こんなにくっついて傍で話していて、急に紡久の鼓動がどきっと反応する。


信大の願い、それは弟の心の病を治す事ではないだろうか。紡久が自由になったら信大はきっとここを出て行くことだろう。


 胸に大きな寂しさがこみ上げる。だが、これ以上は甘えられない。信大は十分に紡久に尽くしてくれている。


「紡久さんを抱きたいです」


「……っ」


 耳元で響いた信大の声に驚き紡久の肩が跳ねる。それから逃すまいと、信大の両方の腕が紡久の身体を拘束するように強く抱き締めた。


 咄嗟に答えられず、紡久は息を飲む。背中に感じる信大の体温と鼓動を意識してしまい、紡久は逃げるでもなくただ背中を丸めた。


「ダメですか?」


 うなじに信大の息がかかる。鼓動がうるさい。誰かと肌を重ねた経験はないが、それが何を意味する言葉なのかは分かる。想像して、自分の身体に熱が篭っていくのを感じた。


 紡久は喉が詰まり声を出せず、代わりに首を横に振る。


「じゃあ、抱かせてくれますか?」


 うなじにかかる吐息に、今度はしっかりと頷いた。


 紡久だって好きな人には触れたい。紡久を好きだと言ってくれる信大も同じなのだと知れて、嬉しいとさえ感じた。


「はあ……やったあ。約束ですよ」


 頭の後ろでゆっくりと息を吐き、信大も嬉しそうな声を出す。抱き締められる腕にまた力が篭った。


 きゅっと、紡久の胸が甘酸っぱく締まる。信大の体温と香り、腕の強さ、甘い吐息、その存在の全てが愛おしい。


明日になったらこの身体は土地に支配され動かないかも知れない。ならば今夜のうちに抱いてくれ。そんな想いを隠して、紡久は信大と一緒に戦う決意をする。独りじゃない、隣には信大が居てくれるんだ。


「……ん」


 自由になったら信大と肌を重ねるその時を夢に、紡久は首を回して彼を振り向く。


信大の頬に手を当てて目を瞑れば、紡久の意図に気付いた彼が唇を重ねた。誓いの口づけには程遠いこの古い日本家屋で、紡久は信大と一世一代の大覚悟の「きす」をした。







 




 

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