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真理の誓い 〜ハンミルの伝説〜   作者: カーディナル
第一巻 その名は。
9/16

新しい出会い。




 ーーどこだ、ここ。



 目を覚まして最初に見えたのは、見覚えのない天井だった。

 右を見た。

 ランはいなかった。

 左を見た。

 リナはいなかった。

 悪夢だったのだと思いこみたかった頭に残る光景が、夢ではなく現実だったのだと主張している。

 灰になったサオリ。

 リンを不安にさせないように最後まで笑顔で逝ったラン。

 ランに託されたのに見つけられなかったリナ。

 走馬灯のように勢いよく頭を駆け巡り、グルグルと渦巻く記憶が受け入れられなくて、ぐらり、と頭が揺れた。

 混み上がる吐き気に堪えきれず、右手を口許に宛がう。

 寝起きにも関わらず、起き上がれるほどの気力も体力も残ってはいなかった。

 不意に、扉の開く音がして、リンは口許を覆ったまま音の方へ視線を向けた。

 そこには、白い髭を豊かに蓄えた老人の姿があった。

 老人は、自分の方を向いたリンを見て少しだけ驚いた顔をしてから、ゆったりと頷く。


「ようやく、目が覚めたのか。……吐き気があるのか?」


 リンの手が口許にあるからだろう、そう確認した老人は、リンの背を支えながら体を起こすのを手伝ってくれた。

 床に足を下ろしてベッドに腰かけると、少しだけ、渦巻くような吐き気がマシになる。

 リンは口許から手を離し、体を支えるためにベッドに手をついて、静かに部屋を見回した。

 木でできたベッド。

 棚も窓枠もテーブルも、すべてが木製だ。

 サオリでは石造りが多かったから、新鮮に感じる。


「おまえは、一週間も眠っていたんだ」


「いっ……週間、ですか」


 リンは声に落胆が混じるのを抑えきれなかった。

 もしサオリから逃げ出せた者がいれば合流することもできるかもしれない、という思いもあったのだ。

 一週間も経っていれば、もしも逃げ延びた者がいても追いつくことはできないだろう。


「ここは武俠の森。ナンソル山脈の一角だ」


 武俠の森という名も、ナンソル山脈という名も、リンには覚えがなかった。

 少なくとも、サオリの傍にそんな場所はなかったように思う。

 同じ山も国によって呼び方が違うこともあるから、確実にそうとは言えないけれど。


「ワシの名はジャックダル。ここに五十年住んできた者だ。おまえはサオリの子だな。名はなんと言う?」

 リンは素直に名前を答えた。

「サオリは壊滅した。ヨウガント……ゴーレムによって。ジャックダルさん。サオリの住民たちがどこに避難したかご存知ですか?」


 ジャックダルはすぐには答えなかった。

 部屋には沈黙が流れて、リンが生唾を呑む音が妙に響いた。


「……サオリの民は、行方不明という扱いになった。残念なことだが……国は惨いほどに壊滅していて、死者の数もおおよそしかわからない。灰になりきっていない遺体も、黒く焼け焦げて個人の特定はおろか、性別すらも曖昧だ」


「そんな……」


 リンの胸に残っていた最後の希望の芽が、無情にも刈り取られた。

 今、リンの胸に残っているのは、業火のように燃え盛る復讐心だけだ。


「ジャックダルさん。俺は、俺のサオリを壊滅させたやつらを、殺してやりたい」

 あえて強い言葉を選んだリンの目を見て、ジャックダルは静かに頷いた。

 殺意と戦意と復讐と絶望で爛々と輝くその目は、六歳の子供の目ではない。

「だから、行かなくちゃ」


 リンはベッドから降り立った。


「待ちなさい。力も持たぬおまえが、どうやって復讐を成し遂げるつもりだ」

「少なくとも、ジャックダルさんよりは強いはずです」


 リンの目に映るジャックダルは、腰の曲がったヨボヨボのおじいちゃんだ。

 ベッドの横に置いてあった自分の靴を履いて意気揚々と部屋を出て、案内されるまま裏口から外へ出たリンは、目の前に広がった予想外の景色に面食らった。

 リンの目にまず最初に飛びこんできたのは空だった。

 あるべき地面が見えないのだ。

 地面を探して俯いたリンが見たのは、建物を出てほんの十歩ほどの場所にある、断崖絶壁だ。

 建物が断崖絶壁の下にあるわけではない。

 断崖絶壁を上った先に、この建物があったのだ。


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