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予備校にて  作者: に*か
13/16

拾参

 +++

 プール脇のちょっとした部屋に連れて行かれた。

「冷たーい! 気持ちいい―――!」

「おい…騒ぐな。おとなしくしろ」

 詩螺歩は瀬臥に筋肉を冷やすスプレーをしてもらって、予想以上の気持ちよさに思わずはしゃいでいた。

「うわぁ、これ家に持って帰りたいなー暑いときプシューってやれば一発で天国に行けるのにー」

「…その言い方だと、解釈の仕方によっては、すごい恐ろしいことになるぞ」

「あ、じゃあ貰っていいですか?」

「…駄目だ! 何がどうなって『じゃあ』だ! お前は使う目的が違うだろう。それにこれは俺が買ったやつだ」

「あ、そうなんですか。な、なんか、…ごめんなさい」

 そ、そない真面目にキレんでも。(誰やねん) 使う目的が違わなかったらくれたのか?

 急に沈んだ詩螺歩に瀬臥は頭をポンと叩いた。

「謝るな。お前が頑張ったんだろう。よく頑張った」

「…あたし、そんなこと言うと…」

「なんだ?」

「―――調子にのりますよ」

 ずぃっと顔を近づけた。真顔だった。

「…自分で言うな。怪我さえしてくれなきゃ何でもいい」

「…………」

「よし、もう行け。大丈夫だろう。早く着がえろ」

「あっ…はい。瀬臥さんありがとう」

 そう言うとゆっくりとだが詩螺歩は歩き出した。

 優しい人だ。詩螺歩は出ていく瞬間、再びそう思った。


 +++

 まずい、芹崎どうしよう。助けろ――!(本日三回目)

 パンツ忘れた。忘れた。忘れちまった。忘れちまったよ。何だこのベタすぎる展開。あたしは馬鹿か。ああ、馬鹿さ。…いや、一人こんなことをしている場合ではない。そもそもスクール水着を着てきたのが失敗だった。

 …やるか? あれをやるか? 高校生にもなってあれを?

 ノ―!!! 

 …ぱん 無理だ。幾らなんでも情けなさすぎる。でも他に方法はナイ。ケータイもナイ。連絡して芹崎に持ってきて貰えナイ。…どうしろと!?

 詩螺歩は本日二回目の涙を我慢していた。

「おい! 津笈! 遅いぞ! 大丈夫か?」

 ぎゃあああああああ。瀬臥の少し焦った声が聞こえてきた。そうか、ここの管理も瀬臥さんか!

 どうしよう! ピンチだ! ピンチだ!

「おい! …返事がない …まさか」

 ―――ガンッ、ガンッ。声に加えドアをたたく音がして、ボソッとつぶやく声が聞こえた。

「…開けるか」

 うわっ、それはまずい。

「瀬臥さん! いるから! 無事だから!」

 ようやく詩螺歩は声を出した。

「はぁー。お前…俺に早死にをさせたいのか…」

「…うっ…そんなつもりは全く…全然…」

「で…どうした…女子の着替えは遅いだろうが、もっとかかるもんなのか?」

「…いっ…いいえ」

 うわ、どうしようどうしよう。あたりをうろうろしてみるも何もない。いや、パンツを探していたわけではない。断じて。

「早くしろ」

「はいっ…」

 ――――数分後

「…まだか」

「…まだです」

 まだ迷っていた。

「お前…まさかとは思うが…」

 うわ、とうとう気付かれたか。そんなことになるならノーパンの方がまだまし…。

「忘れたか…?」

 ノ―――――――――――!

 何も返事をしない詩螺歩をどう思ったのか、図星だと解釈したのか、瀬臥はしばらく黙った。

 そして、しばらくすると何やら声が聞こえた。

「…あぁ…頼む…悪いな…あぁ…くし…」

「…?」

 …電話か?

 どちらにしろ、詩螺歩は涙目で固まっていることしかできなかった。


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