拾参
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プール脇のちょっとした部屋に連れて行かれた。
「冷たーい! 気持ちいい―――!」
「おい…騒ぐな。おとなしくしろ」
詩螺歩は瀬臥に筋肉を冷やすスプレーをしてもらって、予想以上の気持ちよさに思わずはしゃいでいた。
「うわぁ、これ家に持って帰りたいなー暑いときプシューってやれば一発で天国に行けるのにー」
「…その言い方だと、解釈の仕方によっては、すごい恐ろしいことになるぞ」
「あ、じゃあ貰っていいですか?」
「…駄目だ! 何がどうなって『じゃあ』だ! お前は使う目的が違うだろう。それにこれは俺が買ったやつだ」
「あ、そうなんですか。な、なんか、…ごめんなさい」
そ、そない真面目にキレんでも。(誰やねん) 使う目的が違わなかったらくれたのか?
急に沈んだ詩螺歩に瀬臥は頭をポンと叩いた。
「謝るな。お前が頑張ったんだろう。よく頑張った」
「…あたし、そんなこと言うと…」
「なんだ?」
「―――調子にのりますよ」
ずぃっと顔を近づけた。真顔だった。
「…自分で言うな。怪我さえしてくれなきゃ何でもいい」
「…………」
「よし、もう行け。大丈夫だろう。早く着がえろ」
「あっ…はい。瀬臥さんありがとう」
そう言うとゆっくりとだが詩螺歩は歩き出した。
優しい人だ。詩螺歩は出ていく瞬間、再びそう思った。
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まずい、芹崎どうしよう。助けろ――!(本日三回目)
パンツ忘れた。忘れた。忘れちまった。忘れちまったよ。何だこのベタすぎる展開。あたしは馬鹿か。ああ、馬鹿さ。…いや、一人こんなことをしている場合ではない。そもそもスクール水着を着てきたのが失敗だった。
…やるか? あれをやるか? 高校生にもなってあれを?
ノ―!!!
…ぱん 無理だ。幾らなんでも情けなさすぎる。でも他に方法はナイ。ケータイもナイ。連絡して芹崎に持ってきて貰えナイ。…どうしろと!?
詩螺歩は本日二回目の涙を我慢していた。
「おい! 津笈! 遅いぞ! 大丈夫か?」
ぎゃあああああああ。瀬臥の少し焦った声が聞こえてきた。そうか、ここの管理も瀬臥さんか!
どうしよう! ピンチだ! ピンチだ!
「おい! …返事がない …まさか」
―――ガンッ、ガンッ。声に加えドアをたたく音がして、ボソッとつぶやく声が聞こえた。
「…開けるか」
うわっ、それはまずい。
「瀬臥さん! いるから! 無事だから!」
ようやく詩螺歩は声を出した。
「はぁー。お前…俺に早死にをさせたいのか…」
「…うっ…そんなつもりは全く…全然…」
「で…どうした…女子の着替えは遅いだろうが、もっとかかるもんなのか?」
「…いっ…いいえ」
うわ、どうしようどうしよう。あたりをうろうろしてみるも何もない。いや、パンツを探していたわけではない。断じて。
「早くしろ」
「はいっ…」
――――数分後
「…まだか」
「…まだです」
まだ迷っていた。
「お前…まさかとは思うが…」
うわ、とうとう気付かれたか。そんなことになるならノーパンの方がまだまし…。
「忘れたか…?」
ノ―――――――――――!
何も返事をしない詩螺歩をどう思ったのか、図星だと解釈したのか、瀬臥はしばらく黙った。
そして、しばらくすると何やら声が聞こえた。
「…あぁ…頼む…悪いな…あぁ…くし…」
「…?」
…電話か?
どちらにしろ、詩螺歩は涙目で固まっていることしかできなかった。




