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暑い。なんなんだ、このプール日和は。太陽の光が痛い。突き刺さるように痛い。焼けるし、皮膚ガンになったらどうするんだ。だいたいなんで日中に。熱中症になったらどうするんだ。あれだよ、最近は救急車で運ばれて…。もう、夜にやろうよ…。暑い。考える気も失せてきた。もう! これもかれも瀬臥のせいだ! 地球温暖化も、戦争が終わらないのも、核兵器が…(以下略)
詩螺歩はラジオ体操を適当にこなしながらこんなことを考えていた。
「おーい暑いのは分かるが、だらんとするなー」
ぐっ…お前は日陰でなにを…
こっちこんかーい!!
太陽の攻撃をちゃんと受けろ―――! 一方的なんて可哀想だろう!
などと馬鹿みたいなことを詩螺歩が頭の中で叫んでいると、それが伝わったのか瀬臥が声を張り上げた。
「津笈はもう一度最初からやりなおしだ―――」
「なんでよ!!」
詩螺歩は思わず反論した。
「適当にやりすぎだ」
「……うっ」
涙目になった。
それを見た瀬臥は、「やっぱり…」と言いかけたのだが、
次の瞬間には詩螺歩の目つきは闘争心に燃えていた。
やたら綺麗な、軍隊式か! とツッコミたくなるようなラジオ体操が開始される。
ラジオ体操というものは、真面目にやるとかなり面白いことになるもので、みんなに笑われながらも詩螺歩は最後までやり通した。
詩螺歩のこういうところを瀬臥は尊敬しないわけにはいかなかった。
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「お前、かっこいいなー」
詩螺歩が一人遅れてシャワーを浴びていると一人の男子が話しかけてきた。その様子を瀬臥はチラリと横目で見た。
「は? あたしが、かっこいい? 逆でしょ」
「いや、あの状況でああは出来ないって」
「うーん。そんなもんかなぁー、怒りが先だってたからよくわかんないや」
「お前…確か…。津笈、詩螺歩だよな」
「え、なんで知ってるのさ」
「たぶん誰でも知ってるぞ。初日であんな面白いことしたんだし…最近もしょっちゅう放送で…」
「…うっ、それは言わないで」
「おい――――! そこの二人! 早くしろ!」
「あっ、やばいよ。君は誰だっけ?」
「俺は、須邏希 連」
「ははっ、変わった名前」
「お前に言われたかねえよ詩螺歩」
うわっ、いきなり呼び捨てか。ビックリしながらも、
「行こう連」
詩螺歩も呼びすてた。
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この予備校は別に苦手だからという者だけを対象にしているわけではない。得意な者も対象である。実際のところは、通ってくるのは得意で、本気でその能力を伸ばしたいという者がほとんどであった。詩螺歩は前者であるのに対して須邏希は後者の者になる。何故クラスを分けないのかというと、うまい泳ぎを見るのも勉強だからだそうだ。
「…それにしてもなんで男女を分けないんだろう」
詩螺歩が疑問に思って呟くと須邏希が答えた。
「さぁ。なにか意図があるわけでもねえんじゃねえか」
「あたしは別にいいんだけどさぁ。他の女の子は抵抗あるんじゃないかと…」
そう言うと既にグループができ始めた女子の集まりをチラリと見た。
「まぁ…そんな気にしてねえよ」
須邏希も平然と座っている女子を見てそんなことを言った。
「お前ら、いつになったら黙るんだ」
と、ここで瀬臥が苛立ったように言葉を発した。どうやら、会話が終わるのを待っていたらしい。
「すみません」
須邏希が謝った。
「よし、じゃあ二人組を作れ」
「「え、」」
「柔軟やるぞー」
他の人たちは女子は女子同士で、男子は男子同士で組み始めた。
「うわ、連、あたしらどうするよ」
「…やるか」
「…いいけど」
やっぱり、男女は分けた方がいいんじゃないか、詩螺歩はそう思ったが声には出さなかった。




