第7.5話:幕間——縁板にて——
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おかげさまで、日間歴史カテゴリランキングへのダブルランクインを達成いたしました!
今回は、歴史カテゴリランキング入りを記念して、
第7話『小牧長久手――冷淡なる正論』
の、後日談をお届けいたします。
天正十二年(一五八四)の初冬。長く続いた小牧・長久手の戦いは、織田信雄と秀吉様との講和をもってようやく終結を迎えていた。
張り詰めていた全軍の緊張が解け、尾張の陣地を引き払う慌ただしい喧騒の中、雲間から射し込む冬の陽気だけが妙に冷たく穏やかだった。
そんな陣所の黒光りする縁板に、ドカッと行儀悪く腰を下ろしていたのは、福島市松(正則)であった。手には盃を持ち、不満げに眉間を寄せている。
縁板のすぐ脇では、一輪の紅い寒椿が凍てつく土と冷気に耐えるように、冷たく鮮烈な花を咲かせていた。
「ふざけやがって、佐吉の野郎め……!」
市松はぐびっと酒を飲み干し、勢いよく盃を板張りに叩きつけた。
「戦が終わって、よりによって論功行賞のこの時期にこれだ! 配下を遠島に処し、俺には知行の一部没収と謹慎だとよ! 一連の小競り合いなんてどの陣でも起きる些細な揉め事じゃねぇか。少しは大目に見やがれってんだ、血を流して戦った俺たちに対して冷たすぎるだろうが!」
隣の縁板では、同じく一息ついていた加藤虎之助(清正)が、苦笑いを浮かべながら鉛色の空を見上げていた。手にした盃を軽く揺らし、落ち着いた声で市松をたしなめる。
「まあ、そう怒るなよ、市松。お前が腹を立てる気持ちも分からんではないが……しかし、佐吉の言うことも一理あるぞ」
「はぁ? どっちの味方だお前は!」
「味方じゃねぇよ、現実を見ろってことだ。長久手で大敗を喫し、織田の旧臣どもや他家が俺たち子飼いの若造どもをいつ引きずり下ろそうかと虎視眈々と狙っている。そんな戦後のピリついた引き締めの時期に、身内だからと法度を曲げてみろ。それこそ秀吉様のお耳に入れば、お前だけでなく羽柴家全体の統率が揺らぐんだ」
「ぐっ……それは……」
「あいつはな、羽柴家全体と、そしてお前自身を守るために、あえて誰よりも厳しい『鬼の役目』を背負ってやがるんだよ。……まあ、やり方が不器用すぎてお前が怒るのも無理はないがな」
虎之助の穏やかな言葉に、市松は歯噛みしながらも押し黙った。
足元に散る寒椿の赤を見つめながら、胸の奥で渦巻くのは、怒りというよりも、かつての友に突き放されたような言いようのない寂寥感だった。
「……同じ羽柴家の仲間同士だ。今はそれぞれ立場が変わってぶつかることもあるが、いざとなれば、佐吉ともまた腹を割って話せる時が来るさ。……ほら、せっかくのいい天気だ。吹き抜ける風が心地いいじゃねぇか。そんなむくれた顔してねぇで、酒でももう一杯空けようぜ」
見上げる冬空はどこまでも青く、冷たい風が二人の若者の髪を軽やかに揺らしていく。
(……まったく、虎之助の奴め。なんで佐吉なんぞの肩ばかり持つんだか……)
文句を言いつつも、市松はふっと息を抜き、吹き抜けた風の心地よさに思わず苦笑いを漏らした。
あの時はただの気休めにしか思えなかったその言葉を、のちにどれほど切なく思い出すことになるとも知らずに——。
(次回へ)
ご覧いただきありがとうございました。
本作は今後も、本編の進行に合わせてこのような【幕間】を不定期で投稿していく予定です。
本編の裏側にある彼らの息遣いや関係性も、あわせて楽しんでいただければ幸いです。
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