【第5話】敗者の日常
朝の教室は、いつも通りやった。
騒がしくもないし、静かすぎもしない。
ただ——
一つだけ、違和感がある。
ナオキの席が空いてる。
別に仲良かったわけでもない。
話したことも、ほとんどない。
ただ、
毎日そこにあったものが無い
それだけで、妙に気になる。
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カツヤは来ていた。
いや、
「来ている」って言い方が変やな。
居座ってる、に近い。
机に足をかけて、
誰かのスマホを勝手に触って、
笑いながら言う。
「それ、使いにくくね?」
前からこんな奴やったか?
思い出そうとしても、
思い出せない。
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ユウタは、俺と目を合わせない。
前より、
もっと黙ってる。
勝ったはずやのに、
どこか疲れた顔をしてる。
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リナは、いつも通り。
友達と笑って、
スマホをいじって、
何も変わってない。
——ように見える。
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俺は、自分のスマホを見る。
特に変わった通知はない。
せやけど、
なぜか、
文字が打ちにくい。
予測変換が、
微妙にズレる。
小さな違和感。
でも、確実にある。
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ナオキは、結局その次の日も来なかった。
誰も話題にしない。
まるで、
最初から居なかったみたいに。
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俺は思う。
負けたら、
こうなるんか。
何かを失って、
でもそれが何か分からへんまま、
日常だけが続く。
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それでも——
カツヤだけは、
明らかに違った。
昼休み。
カツヤが、急に俺の席に来た。
「なぁ」
距離が近い。
前なら、
ここまで踏み込んでこんかった。
「お前のスマホ、
使いにくそうやなぁ?」
笑ってるけど、
目が笑ってない。
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カツヤのスマホが鳴る。
一瞬だけ、
画面が見えた。
バッテリー
98%
昼休みやぞ?
朝から触り倒してるはずやのに。
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「最近さぁ」
カツヤは、楽しそうに言う。
「スマホ調子ええねん」
「何してもサクサクやし」
「動画も止まらんし」
「なんか全部上手くいくねんよなぁ〜」
——あぁ。
なるほどな。
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ユウタが、遠くからそれを見てる。
視線を逸らす。
後悔か、
恐怖か、
もう分からん。
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リナが、俺の横を通る。
一瞬だけ立ち止まり、目が合う。
何か言いたそうやったけど、
何も言わへん。
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その日の放課後。
ナオキの机は、
もう片付けられていた。
担任の机の横に、
段ボール一つ。
誰の物か、
説明はない。
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俺のスマホが、震える。
短く、一度。
画面を見る。
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「対戦可能状態になりました」
⸻
俺は、思った。
このゲーム、
勝つと何かを得る。
でも——
負けた奴は、
日常ごと削られる。
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カツヤは、強くなっていく。
ナオキは、消えた。
ユウタは、黙った。
リナは、まだ踏みとどまってる。
俺は——
まだ、選べている。
⸻
でも、次は?
次に通知が来たら、
俺は——
何を差し出す?
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スマホの画面が、暗くなる。
教室には、
もう一つ空席が増えそうな
そんな予感だけが残っていた。




