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【第四話】 「写真は覚えていない」

昼休みの教室は、うるさかった。


笑い声。

机を叩く音。

スマホのシャッター音。


俺は窓際の席で、それを聞いていた。


スマホを触っていないわけじゃない。

ただ、触っても、前みたいな気持ちにならないだけや。


⸻


震えた。


短く、一度だけ。


画面を見る前から分かった。

これは通知じゃない。


⸻


「対決が選択されました」

「ランダム対戦」


逃げ道はない。


⸻


相手の名前が表示される。


ユウタ


クラスメイト。

メガネ。

大人しい。

授業中も、ずっとノートに何か書いてるタイプ。


正直、コイツなら勝てると思った。


⸻


目が合う。


一瞬だけ。


ユウタは、すぐに目を逸らした。


その仕草で分かった。

こいつ――初めてじゃない。


⸻


画面が切り替わる。


「対戦内容」

「ランダム写真対決」


続けて、小さく注意書きが出た。


「使用した写真に紐づく記憶は、対戦終了後に消去されます」


⸻


息が詰まった。


写真。

記憶。


「記憶が消される?!!」


⸻


アルバムが自動で開く。


食べ終わった後のカップラーメン

路地裏の猫

自分で作ったご飯

どうでもいいスクショ。


どの写真もたいして大切な写真はない、

ただ、記憶から消されると思うと簡単には選べない


そして――

一枚、指が止まった。


忘れたくないやつ。


昔にしたゲームのお気に入りの敵モンスター

まぁ強そう、多分勝てる。


ただ、、、

⸻


向かいを見る。


ユウタは、画面をじっと見ていた。

表情はない。


でも、手が震えてる。


⸻


「3枚選択してください」


⸻


ユウタが、先に動いた。


一枚。

二枚。

三枚。


最後に選んだ写真が、一瞬だけ見えた。


ガラスケースの中の――

フィギュア。


⸻


あ。


理解した瞬間、胸が痛くなった。


あれ、

間違いなくユウタが一番大事にしてるはず。


⸻


バトル開始。


写真が擬人化される。


ユウタの写真は、どれも完成度が高い。

派手で、強くて、迷いがない。


観客なんていないはずやのに、

空気がざわついた気がした。


⸻


俺の番。


指が動かない。


強い写真は分かってる。

勝てる一枚も、ある。


でも――


その写真を選んだら、

もう二度と思い出せへん。


⸻


俺は、弱い写真を選んだ。


どうでもいい景色。

なんとなく撮った空。

意味のない一枚。


⸻


結果は、分かりきってた。


ユウタの勝ち。


⸻


「対決終了」


画面が暗転する。


⸻


ユウタが、立ち上がった。


勝ったはずなのに、

嬉しそうじゃない。


むしろ――

戸惑っている。


⸻


「……なぁ」


声をかける。


「お前さ……」


言葉が続かない。


「お前、

あのフィギュア1番大切やった奴ちゃうんか?」


⸻


俺は、結局何も言えなかった。


⸻


チャイムが鳴る。


日常が、戻ってくる。


でも、

確実に何かが失われた。


⸻


ユウタは勝った。


俺は負けた。


それでも――

俺の中には、まだ残っている。


忘れたくない記憶だけが。


⸻


スマホを見る。


次の通知は、まだ来ない。


けど、分かってる。


このゲーム、

勝ち続けた先にあるのは――

強さやない。


⸻


空っぽや。

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