【22話】いつ始まるねん。
目を開けた瞬間、
一番最初に思ったのは――
思ったより、普通やな。
空は明るい。
でも、眩しすぎない。
色は多いのに、
どれも喧嘩していない。
「……いや、普通ではないか」
自分でツッコむ。
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声を出すと、
少し遅れて返ってくる。
反響、というより、
世界が一拍考えてから返事してきた
そんな感じ。
「ここ、どこやねん」
返事は、ない。
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地面に手をつく。
冷たい。
ちゃんと冷たい。
石の硬さも、
土の湿り気も、
ごまかしがない。
ゲームっぽくない。
でも夢でもない。
「リアルすぎやろ……」
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立ち上がる。
足に、ちゃんと重さがある。
変な浮遊感もない。
ジャンプ力が上がってる感じもない。
(……能力アップ系、なし)
ちょっと安心して、
ちょっとガッカリする。
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反射的に、スマホを取り出す。
通信マーク、なし。
時刻表示も、出ない。
アプリは開ける。
でも、どれも反応が遅い。
ガチャ画面を一瞬開きかけて、
すぐ閉じた。
「ちゃうちゃう」
「その前にあるやろ」
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周囲を見回す。
道っぽいもの。
建物っぽい影。
遠くで動く、何か。
人かもしれない。
モンスターかもしれない。
区別は、つかない。
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しばらく待つ。
ほんまに、
何もせずに待つ。
(……そろそろやろ)
頭の中で、
勝手に予想が始まる。
「チュートリアルを開始します」
「操作方法を確認しますか?」
とか。
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来ない。
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「……え?」
もう少し待つ。
立ち止まったまま、
キョロキョロする。
UI、なし。
説明、なし。
ポップアップ、なし。
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「いやいやいや」
思わず声が出る。
「異世界やろ?」
「普通、最初に説明あるやろ」
「武器とか、職業とか、
最低限あるやろ」
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何も起きない。
風が吹くだけ。
草が揺れるだけ。
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頭の奥で、
半年間押し込めていたものが、
ゆっくり浮かんでくる。
ユウタ。
リナ。
あの背中。
あの笑顔。
「ぽしゅ」
⸻
(俺、戦いに来たんちゃう)
心の中で、はっきり思う。
(冒険したいとか、
強くなりたいとか、
そんなんちゃう)
ただ――
(会いたいかどうか)
それを、
考えに来ただけや。
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足元を見る。
道っぽいものが、
一本だけ伸びている。
整ってない。
舗装もされてない。
でも、
進めと言われてる気がする。
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恐る恐る、一歩踏み出す。
……何も起きない。
「……あれ?」
もう一歩。
やっぱり、
何も起きない。
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「減らへんのかい」
思わず小さく呟く。
「いや、それはそれで怖いけど」
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主人公は、立ち止まった。
スマホを見て、
周囲を見て、
もう一度、道を見る。
「説明」
「チュートリアル」
「どれか一個でええから来てくれや……」
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世界は、
相変わらず何も言わない。
ただ、
遠くで何かが動いた気配だけが、
確かにあった。
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主人公は、息を整える。
「……まだや」
小さく、独り言。
「俺、
まだ何もしてない」
⸻
つづく。




