【20話1章ラスト】 ぽしゅ
「ぽしゅ」
音だけが、残っていた。
意味は分からない。
言葉でもない。
ただ、あの瞬間に確かに鳴った、
世界がひとつ終わる音。
それが、半年経っても
頭の奥から離れなかった。
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カーテンは閉めっぱなしだった。
昼か夜かも、正直どうでもよかった。
スマホは電源を切ったまま。
ニュースも、連絡も、
この世界の情報を全部遮断した。
異世界のことも、
現実のことも、
考えないようにしていた。
考えなければ、
何も失わなくて済む気がしたから。
⸻
夜中、ふらっと外に出た。
目的はない。
強いて言えば、
(死んでしまおうか)
それくらいの、
ぼんやりした考え。
本気でもない。
冗談でもない。
ただ、
そういう選択肢が
頭の片隅に常駐している感じ。
⸻
河川敷。
街灯の光が、水面で揺れている。
そこに、
先客がいた。
「……久しぶりやな」
カツヤだった。
タバコを咥えたまま、
こっちを見もせずに言う。
「生きとるとは思わんかったわ」
その言い方が、
妙に腹に落ちた。
⸻
しばらく、何も話さなかった。
気まずさもなかった。
説明する気もなかった。
カツヤが、ぽつっと言う。
「お前さ」
間。
「まだ、そっちにおるん?」
どっちのことかは、
聞かなかった。
異世界か。
過去か。
後悔か。
たぶん、全部だ。
⸻
少し間を置いて、
カツヤは続けた。
「ユウタとな」
さらに一拍。
「リナに――会いたいか?」
胸の奥が、
ぎゅっと縮んだ。
答えは、
すぐには出なかった。
⸻
「……分からん」
やっと、それだけ言えた。
「会いたいって言うたらさ、
また消えそうで」
声が、少しだけ震えた。
カツヤは、
何も言わなかった。
否定もしない。
慰めもしない。
ただ、
背中を向けて言った。
「ほな」
一拍。
「まだ、終わってへんな」
⸻
カツヤはそのまま帰っていった。
足音が消えて、
また夜だけが残る。
しばらくして、
ポケットの中の感触を確かめた。
スマホ。
画面は見なかった。
電源も入れなかった。
それでも――
電源は、切らなかった。
⸻
「ぽしゅ」
その音だけが、
まだ、鳴っていた。
――第1章・完
2章に続く?〜




