50話 生徒会対抗祭開幕!
闇夜にひゅるるると音がしたかと思うと、たちまち大輪の華を咲かせた。
それを皮切りにして次々と花火が打ち上げられていく。
全校生徒たちや教師が続々とパンデモニウム女学園の敷地内にある会場――体育館へと。
むろんパンデモニウム女学園の本校と分校による生徒会対抗祭のためだ。
「ねーねー今回はなんの競技なんだろね?」
「聞いた話では『ばすけ』やるらしーよ」
「ばすけ? なにそれ」
「しらなーい。どっちが勝つと思う?」
「そりゃ分校っしょ? ウチのガッコ、いつも負けてばっかだし」
がやがやと群衆が盛り上がるなか、体育館内の選手控室では真壁コーチ、サポート役のクリス、顧問のシルヴィー、そしてジャージ姿のヴェルフェチームが控えていた。
真壁がおほんと空咳をしてから続ける。
「みんな、ついに今日が本番だ」
一同がこくりと頷き、真壁も頷く。
「みんな今日までよく頑張ったなぁ。誇りに思うで」
「ちょっ、先生! それ俺のセリフ!」
「悪い悪い。一度言うてみたかったんよ」
そう言って煙管を咥え、紫煙を吐く。
「まったく……とにかく、本番では練習したことを思い出しながらプレーするんだ。と、その前に」
ヴィクトリアのほうへ近寄り、額に装着していたゴーグルを外す。
「大会の規定でアウトだから外したほうがいいぞ」
「うっかりしてた! いつものクセで」
次にテンのほうへ歩み寄ると、頭に乗せていた帽子をピンで留めてやる。
「プレー中に外れるかもしれないから気をつけたほうがいいぞ」
「ラジャー!」
びしっと敬礼を。
「さて、あとは……っておい! それはなんだ!?」
見ると兜を被ったエリザがジャージの上に甲冑を装備していた。腰には剣を帯刀している。
「何って……これが私の戦装束だが?」
「ルール違反になるから外せっての! あと剣もいらないから!」
風紀委員長はむぅと顔をしかめながらも渋々と装備を外す。
「よし……あとはもうないな。リリア、あれを頼む」
「はいっ!」
リリアが用意した人数分のユニフォームを取り出して全員に配る。
「おお! これがわしらのユニフォームか!」
「いいねっ! あたしたちにピッタリのユニフォームだよ!」
「この戦装束もまた良いものですね」
チームの好反応に真壁が腕を組みながらうんうんと頷く。
「俺がデザイン、というか俺のいた世界のユニフォームをベースにしたんだけどな。カッコいいだろ?」
「すごくカッコいいよ! イタル!」
そうだろそうだろとふたたび頷く。だが、ヴィクトリアを除くチーム一同が困惑気味に真壁を見ていることに気づいた。
「どうしたんだ? みんな、なにか不満なところがあるのか?」
「あんたがいると着替えができないっちゅーねん! このボケェ!」
シルヴィーに蹴飛ばされ、そのままばたんとドアが閉められる。
◇◆◇
五分後。
「おーい、もういいかー?」
コンコンと控え室のドアをノック。するとシルヴィーから「ええでー」と返ってきた。
ドアを開けるとそこにはジャージからユニフォームへと装いを変えたチームメンバーが並ぶ。
「準備OKみたいだな!」
「真壁さんこれを」
リリアが上着を手にして歩み寄る。
「真壁さんだけユニフォームがないのは不公平だと思って作ってみたんです」
リリアから受け取ったそれはジャンパーだ。背中にユニフォームと同じようにチーム名の下に校章をバックに八つの星が円状に並ぶ。
「さんきゅリリア! おお! カッケーな!」
ジャンパーに袖を通すと、あつらえたようにピッタリだ。不思議と闘志がみなぎってくる。
その時、控え室に設置されたスピーカーから『そろそろ試合開始ですので入場お願いします』と流れてきた。
「そろそろか……みんな、試合に出る前に言っておきたいことがあるんだ。こんなこと試合前に言っていいのかわかんないけど……」
真壁がぽりぽりと頬を掻く。
「なんじゃ? 言いたいことがあれば聞くぞ」
「そうだよっ。ボクらみんな頑張ってきたんだよ! 遠慮なく言ったほうがいいよっ」
ヴィクトリアがずいっと前に出る。
「お、おお……実は俺」
全員がごくりと固唾をのむ。
「元の世界ではバスケ部にいたって言ったけど、俺ずっと補欠で試合に出たことないんだ……記録係とか球拾いばっかでさ」
ぽりぽりと頭を掻く。
「す、すると試合の経験はないのか……」
ヴェルフェの問いにこくりと頷く。文句を言われるのかと思ったらぷっと吹き出した。次に全員があははっと笑う。
「まったく……お主は無謀なことをするもんじゃな」
「大丈夫ですよ! 私たちいっぱい練習したんですから!」
「今までまともに終わったこと一度もないから何を今さらだヨ」
笑いがおさまり、緊張がほぐれたかのようにすーっと深呼吸をひとつ。
「んじゃ準備はいいか?」
チームメンバー全員がこくりと頷く。
「よし! さあ行くぞ!」
チーム一同からおうっ!と威勢の良い返事が返ってきた。
◇◆◇
試合会場となるバスケットコートの観客席はすでに観客で埋まっており、これから始まる試合をまだかまだかと待ちわびていた。
会場に設置されたスピーカーから『あーあー』とマイクテストの声が流れる。
『皆さま、本日はご来場ありがとうございます! 今回は放送委員である私、モナが実況を務めさせていただきます』
鳥の獣人であるモナがマイクを握りながらよどみなく実況を。
『毎年行われる生徒会対抗祭ですが、今回は本校の雑務係、真壁氏の提案によるバスケで行います! バスケとは真壁氏の地元では絶大な人気を誇るスポーツだそうです!』
観客席からおおっとどよめき。
『それではただ今より、選手入場です! まずはパンデモニウム女学園本校のヴェルフェチーム!』
ファンファーレが鳴り、入場口からヴェルフェを先頭にしてチームが現れると観客席から拍手と喝采が沸き起こる。
続いてクリスと真壁が入場し、コート上で横一列に並ぶ。
「スゲーな……まるでNBA並みだぞこれ。なんか俺までキンチョーしてきたぞ」
試合会場の熱気にあてられた真壁がどくどくと脈打つ胸に手を当てながら。
『続きまして! 生徒会対抗祭常勝のパンデモニウム女学園分校のアスタリーナチームの入場です!』
アスタリーナの名前が出た途端、どっと歓声が沸き起こった。ヴェルフェチームが出たときは比較にならない。
ファンファーレが鳴るなか、反対側の入場口からスポットライトが当てられる。そこから現れたのはアスタリーナだ。
金地のユニフォームを身に着けており、『アスタリーナチーム』と紫色で書かれ、チーム名の下にはやはりパンデモニウム女学園分校の校章が刺繍されている。
カールされた金髪を手でばっと靡かせると、あちこちから黄色い声が上がった。
「アスタリーナ様ァアアアア!!」
「素敵すぎますぅううう!!」
彼女を先頭にしてチームメンバーが続く。今まで姿を見せなかったチームが初めて露わになった。
アスタリーナの後に現れたのは上半身が人間、下半身が蜘蛛のモンスターだ。
『アラクネのラウラ選手です!』
ラウラが観客に手を振りながら八本の脚で進み出る。その次に現れたのは腕が十数本生えたモンスターだ。
『ヘカトンケイルのマーニャ選手!』
マーニャも同じく観客に十数本の手を振って応える。次の瞬間、いきなり体育館全体が響いた。
ずしんずしんと足音を響かせながら二名の選手が姿を表す。
一つ目の巨人とゴーレムだ。いずれも三メートルはあり、思わずヴェルフェチーム全員が見上げる。
「おいおい……デカすぎんだろ……」
真壁が見上げると一つ目の巨人がじろりと見下ろし、ゴーレムが「ゴルルル」と唸り声をあげた。
『サイクロプスのクロエ選手にゴーレムのゴラミー選手です! いずれも最高身長を誇る選手です! これで全員のようですね!』
「お待ちなさい! まだひとり残ってますわ!」
アスタリーナがぴしゃりと遮るが、残る一人の姿は見当たらない。
「え? どこにいるんだ?」
真壁ふくめ会場の全員があたりを見回す。
「あなたたちの目は節穴ですの!? よくご覧なさい!」
アスタリーナが指さす方を見ると、一見何もないように見える。
「あれ? なんかユニフォーム浮いてませんか?」
リリアの言うとおり、分校のユニフォームが宙に浮いていた。
「まさか……」
「そう! そのまさかですわ! 彼女が最後のメンバー、透明人間のビジーちゃんですのよ」
「よ、よろしくお願いします……」
姿は見えないが、どうやらお辞儀しているようだ。
『おおーっと最後はまさかの透明人間でした! これで両チーム勢ぞろいです!』
「ちょ、ちょっと待たんか!」
ヴェルフェが手を挙げながら。
「なんなんじゃそのチームメンバーは!? 生徒会のメンバーとまったく違うではないか!」
『ヴェルフェ選手からクレームだー! どうやらメンバーに不満がある模様です!』
観客席からどよめきがあがるなか、チームのキャプテンであるアスタリーナはどこ吹く風だ。
「やれやれ……試合開始前に抗議なんてはしたないですわ。生徒会一行から異動届けがありましたの。あたくしはそれを受理して代わりのメンバーを入れただけですわよ」
「嘘をつけぃ! 大会のためにメンバーを入れ替えたんじゃろ! 審判! これはルール違反ではないのか!?」
三名の審判が顔を見合わせ、ルールブックをぱらぱらと開く。
そして確認したのちにうんと頷く。
「ルール上、やむを得ない場合の入れ替えは違反ではありません」
「ぬぅっ!?」
「だそうですわよ。今日は良い試合をしましょう♡」
ヴェルフェが歯噛みするなか、アスタリーナを手を口に当てながらおーっほっほっほと甲高く笑う。
いまだに納得のいかないヴェルフェをリリア、エリザの両名がなんとかなだめようとするところへいきなりファンファーレが鳴りひびいた。
『おおっ! どうやら魔王閣下の御来場です!』
見ると観客席の玉座のほうへ甲冑姿の魔王が手を振りながら歩くのが見えた。
魔王の姿を認めるやいなや、全員が直立不動の姿勢をとる。
やがて玉座の手前――コートが見下ろせる位置までくるとくるりと正面を向く。
両チームを見渡すと真壁に気づいたのか、こくりと頷いたので真壁も頷き返す。
そして両手を高く上げながら良く通る声で開会の宣言を。
「みな、本日は御多忙のなか御来場いただき感謝する!」
観客席からぱちぱちと拍手が巻き起こる。
「今宵は本校と分校による生徒会対抗祭をここに行う! 両チームともに自らの肉体と能力を駆使し、良い試合が出来るよう励むがよい!」
開会宣言が終わるとたちまち割れんばかりの拍手が起こった。
魔王が玉座に腰掛けたのを確認してから実況のモナが続ける。
『つづきまして校歌斉唱です!』
ファンファーレが鳴りわたり、本校と分校の校章の旗がゆっくり掲げられていくなかチーム全員が右手を胸に当てながら校歌斉唱を。
ただ一人真壁だけはカンニングペーパーを見ながらの斉唱だ。
やがて両校の旗が上までくるとぴたりと止まり、音楽も同時に止まる。
「……あれ? そういえばシルヴィー先生はどこ行ったんだ?」
真壁があたりを見回すが、顧問の姿は見当たらない。
「アソコニイマス」
クリスが指さす先は観客席だ。
「さあ賭けた賭けた! 常勝の分校に賭けるか? 一発逆転の本校に賭けるか? いま賭けないと後悔するでー!」
賭け金の入ったカゴを手にシルヴィーが嬉々として啖呵を切る。
「だからノリノリだったのかよ!」
『いよいよ試合開始です!』
それぞれコート外に出たチームは円陣を組む。
「いいですわね? 今回もあたくしたちが勝ちますわよ!」
キャプテンの声に全員がおおー!と雄叫びに近い掛け声を。
一方、ヴェルフェチームは各自肩に手を回しながら円陣を組んでいた。
「よいか、この試合は絶対負けられん。真壁が元の世界に戻るためにもな」
「ああ、みんな今日まで頑張ってきたんだ。連戦連敗を止めるぜ! んじゃ掛け声いくぞ!」
「パンデモニウムファイオーッ! ファイファイ!」
掛け声をあげた後に円陣をほどき、スターティングメンバーであるヴェルフェ、ヴィクトリア、テン、リリア、ティアの五名がコートの中央へと向かう――




