40話 バイバイ! ブルジア王国危機一髪! 前編
質量感知トラップによる警報は遠くまで響き、そのけたたましい音は会場にも届いた。
「なんだ!? この音は!」
「警報みたいだぞ!」
会場はまさにパニック状態でお披露目会どころではなくなっている。
「皆様、落ち着いてください!」
「ここは安全なのでどうか……!」
宰相と兵士が落ち着かせようと試みるが、梨の礫だ。そのなか、イミテーションが設置された台座の横で国王、ガメッツイ・ブルジアはぷるぷると身を震わせている。
「わ、わしの魔鉱石が奪われたというのかえ……!?」
ぎりぎりと歯噛みし、丸々と太った手をぎゅっと握り込む。
「わしのものはすべてわしのものじゃ! すぐに賊をひっ捕らえよ!」
兵士にまくし立てると国王は踵を返し、そのままどこかへと行った。
◇◆◇
その頃、馬車で待機していたヴェルフェとテンも警報音にびくっと身を震わせる。
「なんじゃ!?」
「警報の音みたいだヨ!」
次にティアからの念話が頭に響く。
『トラップが作動した! 馬車をこっちへ!』
『承知!』
『ウチもここからおさらばするよ! 回収たのむで!』
ヴェルフェが手綱を取り、ぴしゃんと馬の尻を叩く。
「よし行くぞ!」
二頭立ての馬車はいななきを上げた後にがらがらと音を立ててその場を離れた。
◇◆◇
ティア、真壁、リリアの盗賊団は一目散に馬車との合流地点までがむしゃらに駆けていく。
途中、何人かの警備兵から呼び止められるが、無視して先を進む。
「貴様ら待て……!」
振り向きざまに真壁が麻酔弾を命中させる。
「真壁さん前にもいます!」
「しつこいな!」
前方にいた兵士にも命中させ、次に弾丸の排莢を。改良されているのですぐに排莢できた。
「やべぇ! あと四発しかねぇ!」
ガンベルトからすばやく弾丸を取り出し、装填。半分に折れた銃身をぱちんと元通りに戻す。
『まだかい!?』
『もうすぐじゃ!』
三人が駆けるなか、次第に馬車の音が近づいてきた。
◇◆◇
一方、会場は依然として興奮のるつぼだ。そのなかでただ一人、シルヴィーは冷静そのものだ。
そこへ入場者のチェックをしていた兵士が疑念の眼差しを向ける。
「そこの貴様、この騒ぎはお前の仕業か!?」
会場の人々の視線が一気にシルヴィーに向けられた。
「とんでもない。私は無関係ですわ」
あっけらかんとして言う。
「とぼけるな! 招待状を持っていないから怪しいとは思ってたんだ!」
「衛兵! すぐにあの女を捕らえよ! それと出入口を塞げ!」
宰相の命令の下、数人の衛兵がすぐさま彼女を取り囲む。出入口にもすでに屈強な兵士たちが槍を手にしながら立ちはだかる。
「もう逃げられないぞ! 観念するのだな!」
宰相の言葉にシルヴィーははぁっと溜息をつくのみだ。
「ここらへんが潮時やね。美味い酒や料理にありつけると思っとったのに」
扇子をくるりと回したかと思うと、煙管に変化し、彼女の姿は令嬢から魔女へと装いを変えた。
「そんじゃウチはおさらばするで。アホの王様によろしくな」
煙管を咥え、片手に持っていたものを床に叩きつける。一瞬にして辺りは煙に包まれた。
ティア特製の煙幕弾で兵士たちはごほごほと咳き込みながらもシルヴィーの姿を探す。すると煙幕から一羽の黒鴉が飛び立った。
『脱出成功やで』
念話を終えた黒鴉はそのまま窓から外へと出た。
◇◆◇
「よし! シルバーは無事脱出したみたいだね!」
シルヴィーから念話を受け取ったティアが頷く。依然として三人は兵士に追われているところだ。
リリアは肩で息をしながらも懸命に走る。だが、よろめいて転倒してしまう。
「きゃっ!」
「大丈夫か!? リリア!」
「だ、大丈夫です……!」
真壁に支えられながら立つが、追っ手はすぐそこまで来ていた。
「急いで! すぐそこまで来てるよ!」
リリアの腕を引きながら、片手はベルトに取り付けたポーチへ。そこから取り出したものを地面にばらまく。
ひとりの兵士の腕がまさにリリアの肩を掴もうとしたとき――
「うわっ!」
「痛っ! なにか踏んだぞ!」
見れば兵士たちの靴の裏に棘状のものが刺さっていた。
「撒菱だよ! 置き土産さ!」
兵士たちが呻いているあいだに三人は距離を稼いでいく。
そこへいきなり横から一台の馬車が急停車を。
「みな、待たせたな!」
「早く乗るネ!」
三人はすぐさま荷台に乗り込み、ヴェルフェがふたたび手綱をぴしゃんと叩きつけるとその場を後にした。
◇◆◇
その頃、国王であるガメッツイ・ブルジアは早足で王城の石造りの廊下を進む。
やがて頑丈な扉の前まできた。
「おのれ……賊どもめが! わしのものを盗むとは許さんぞ!」
ポケットから鍵を取り出し、鍵穴に差し込む。両手で両開きの扉を押すとぎぎぎと軋み音を立てながら開いた。
部屋の中は暗いが、王はその奥にいるものを確認してにやりと口を歪める。
「わしのものを盗んだらどうなるか、思い知らせてやるえ!」




