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203.水面の海に沈む誰かの声
気が付けば、自分は真っ青な水面の上に立っていた。
誰一人も、そこにはいない。
誰一人も、そこにありはしない。
泡沫の夢と評しても違和感のない、脆い空間。
心に罅が入ったように、心臓が握りつぶされた感覚になる。
ここは、一体何なんだ?
「…………っ、ああ、」
女の声がする。
気高く脆い、君の声がする。
俺は、この人をどうしなくてはいけなかったんだっけ。
どうしないと、俺はいけないんだったっけ。
俺は一歩一歩進んでいく。
青白い半透明のヴェールは、辺り一面の水面に揺られたまま。
か細い声が、俺の耳から離れてくれない。
なぜ、だろう。
俺は、この子を×××なきゃ、いけないのに。
「……大丈夫?」
俺がようやく口にできた言葉に彼女は見向きもせず、俯いて泣いている。
見ていられなくて、手を取りたいのに、何かが後ろから俺の邪魔をする。
『ミーツケタァ』
俺は声もなく目の前の赤い目を持った黒い影に絶望する。
ノイズ交じりの声が、やけに生々しくて。
やけにその声の気持ち悪さが、心臓の音を誤魔化せなくて。
俺は、まっすぐ影を見つめると、影は俺を飲み込んだ。




