第85話 六体の鬼
捕まえたいところだが、村人の命を救う事が第一優先だ。ここは鬼を殺すしかない。
「"水の斬撃"!」
真っ直ぐ伸ばした右腕から超高圧の水を発射し、鬼の体を腹の部分で上下真っ二つに切断した。鬼は剣を衝撃で落とし地面に倒れ伏す。
「グギャアアア!」
鬼は地面に這いつくばったあとも、黒い煙が断面から出始めたのにも関わらず、上半身、下半身とも動き続けている。まるで妖怪「てけてけ」のように腕を使って動き、長い爪で村人に襲いかかる。
「まだ生きてるのか!」
前に出会った鬼も腕が切断されたあとも執拗に俺を襲おうとしていたので、コイツも自分が完全に黒い煙と化して消滅するまでは人に対して攻撃を続けるはずだ。
――ならば、追い討ちして確実に倒し切ってしまおう。
「"放電"!」
「グギャアアア!!」
強い電撃に襲われた鬼は、黒い煙へと変わる速度が早まってすぐに消えてしまったものの、完全に消えるまでずっと人に向かって動き続けていた。
相変わらず、あまりの殺意の高さにゾッとする。
「あぁ、ありがとう!」
助けた村人をよく見ると、その手には斧を持っていた。きっと森の中で何か作業をしていた時に襲われたのだろう。
「この鬼……。ええと、化け物はどこから来たんだ?」
鬼という概念がこの世界にはないので伝わらない事を思い出し、先ほど男が用いていた化け物という言葉に言い直した。
「森で薬草を取っていたら襲われたんだ。戦ったけど俺じゃ歯が立たなかったから必死に逃げてきた」
「それはどの辺りだ?」
「あっちだよ。ほら、あっちの方角」
男がある方向を指差した。この方角に進めば他の鬼とも出会えるかもしれない。
「なるほど。……ん?」
その時、森の方に人影が見えたが、そのシルエットには非常に既視感があった。
頭に尖った二つの物があり、手には武器を持っている。 ――ま、またか。
「鬼だ!」
ゆっくりと歩きながら鬼が木陰から現れた。
しかし、村には入って来ずに、村の前でいきなりピタリと立ち止まった。
「止まった……?」
鬼に対して、死ぬまで動いて人を襲うというイメージを持っていたのだが、今回の鬼の行動はそのイメージとは大きく違っている。……なにか妙だ。
その時、周りのあちこちからもガサガサと同時に、草木の揺れる音が鳴ったので辺りを見渡す。
すると、別の方向からも鬼達が同時に現れた。
その数、なんと五体。
同じように等間隔で村の周りで立ち止まったのだが、手に持っている武器は剣や金棒、槍に斧、鎌などそれぞれ違っていた。
「ウソだろ。こんなにたくさん居るのか……」
「う、うわあああ!?みんなに知らせなきゃ!おーい、みんな!非常事態だー!」
村人は怯えて家が集まる住宅地に行き大声を上げ、家で食事をしていると思われる他の村人達に危機を知らせた。
「こんなに居たのか……。そして、なぜコイツらはピタリと静止しているんだ?」
鬼達は今まで通り本能に任せて人を襲うのではなく、まるで規則に従うかのように、等間隔で並んで止まり続けている。
まるで、何かを待っているかのように。
その時、森の方からピーッと大きな笛の音が鳴った。
「「「「「グギャアアアア!!」」」」」
それを合図に鬼達が一斉に村に向けて走り始めた。
「今の音は一体?それより、鬼と戦わなきゃ!」
笛の音の事も気になるが、村を守る事が最優先だ。
「どうしたんだ!?な、なんだアイツらは!?」
先ほどの村人の声を聞きつけて、家の中から筋肉ムキムキで見るからに頼り甲斐がある村人達が出てきた。
服の上からでもわかる惚れ惚れする肉体美だし、どう見ても強いはずだ。
別々の方向にいる鬼達と同時に戦うのはキツいので、ここは彼らに協力を仰ぐ。
「君達!俺は先にこっち側の三体の化け物と戦うから、そっち側の二体は任せたぞ!」
「お、おう!わかったぜ!」
村人が先ほど歯が立たなかったといって居たので倒せるかはわからないが、俺が三体の鬼を倒して戻ってくるまで耐えてほしいところだ。
村にはフォイユさんといったお年寄りや子供も居るから、自身の住む村を守る為に頑張れ。




