犯人の行方と鬼の対策
「了解した。それで、何を盗まれたんだ?」
トピエさんは剣を鞘に収めてから、店主の方に近付いてから店の被害状況を聞く。
「盗まれたのは炎魔法を増幅する魔道具です……一つだけで、それ以外はありません」
「一つだけか。状況を説明してくれ」
どうやら、盗まれたのは前の世界でいえば可燃性のガスのように、少量の炎魔法を増大させる効果を持つものだ。それだけでは何もできないが、悪用すると危険な代物ではある。
「男は店の物を順番に見ていき、その商品が目に入った途端にそれを盗み逃亡しました」
「ふむ。なら、最初からそれを取るつもりだったのだろう。計画的な犯行だ」
それなら、あの男はあの魔道具が必要だったから盗んでいったのか。でも、あれってそんなに高い魔道具じゃないけどな。金がないにしても、なぜわざわざそれを盗んだのか……。
ん、待てよ。金が無いのって、エイダも同じだったよな?アイツもこの世界に、金を持たずに飛ばされて来たのだとしたら盗んで物を集めるしか無いのかもしれない。なんだか、ヤツがマオウグンであるという線が濃厚になってきたな。
「マーレス殿にシェーナ殿、ご苦労様。なにか手がかりは見つかったか?」
トピエさんは次に、辺りを捜索していた俺達に話しかけてきた。俺だけ名前を呼ばれなかったが、素顔では初めて会うからしょうがない。
「いえ、全然見つかりません。人が通れる場所もありませんし。まさか、この狭い隙間を通って逃げたって事は……ないよなぁ」
この路地には家と家の間のほっそい隙間があるが、人は通れないほど細いのでここから逃げたとは考えにくい。それこそ、野良猫の通り道にしか使われないような場所だ。
「そうか。この路地裏を抜けたのではないのなら、犯人はどこに消えたんだ?隠密を使用したのか?」
「オレは隠密使ってる相手を看破できるんですけど見つかりませんでしたよ」
えっ、マーレスのやつそんな魔法も使えたのか。まぁ、俺だって黒曜の騎士の兜をつけて物を見ると、隠れている物も全てわかるのだが。
「そうか……。一体どうやって逃げたのか見当も付かないわね」
トピエさんも、突然消えた犯人にお手上げの状態らしい。マオウグンなら、エイダの時のように体を変化させたり特殊な力を使ったりできるので、能力が判明するまでは相手が何をしてくるか全然わからないのが怖い。
「犯人の特徴は?」
そう聞いたってことは、トピエさんは犯人を指名手配するつもりなのか?すると、その質問に店主が答えた。
「犯人は黒い髪で、年齢は二十歳前後の男性。東洋人のような顔をしておりました」
「東洋人か。わかりやすい特徴だな」
東洋人って……こっちの世界でも東の方に行けばアジアに行けるのか?この世界の日本って、武士とかいるのかな?
「……了解した。その男を指名手配しよう」
「ありがとうございます!」
指名手配されたら、犯人も表を歩きづらくなるだろう。でも、本当に青年がマオウグンだった場合、誰かが見つけたとしても返り討ちに遭うんじゃないか?……心配だ。できる事なら、俺が犯人を捕まえたいところだ。
「マーレス殿も、シェーナ殿も、捜査へのご協力に感謝する。あとは警備団に任せてくれ」
「「待ってください!」」
トピエさんがワープして帰ろうとするのを、マーレスとシェーナさんが同時に同じセリフを言ってやめさせた。流石は双子だ。こんなところまで息ぴったり。
「どうした?」
「先ほど、スービエ村付近の森で未知のモンスターに襲われ、撃破すると黒い煙になって消えたんです。なにか知りませんか?」
「なっ……!?」
その事を聞いたトピエさんは俺と同じで驚愕していた。「黒い煙になり消滅するのはマオウグンの特徴である」と以前に出会った際に伝えたので、またマオウグンが出現した事を悟ったのだろう。
「何か知っているんですか!?」
「コホン。いや、何も知らないな」
トピエさんも、マオウグンの正体が人間だというショッキングな事実をマーレスに伝えたくないらしく誤魔化していた。「今倒した敵が実は元人間だった」と知ったら、誰でも動揺するし、バカ真面目なマーレスなんかは特に、自責の念に駆られるだろうからな。
「全身が赤く角が生えていていて、倒すと床に落ちていた剣も消えたのだけど……一体なんだったのかしら?」
「全身が赤くて角が生えてるだと?またおかしなのが現れたな……」
そうか、この世界には鬼という概念がないから見た目のイメージがしづらいのか。また情報を飲み込むまでに少し時間がかかっている。




