第79話 迅速に駆けつける警備団長
「ワープして逃げたのかな?」
突然消えたって事はワープを使ったのだろうか。そうすると犯人はかなりの実力者という事になる。
「その可能性はあるわね」
「そしたら、どこに逃げたかわからないですね……」
ワープを使えばここから魔力の安定していて行ったことのある場所まで一瞬で移動できてしまう。
これでは、犯人の追跡は不可能だ。
「そうでもないわ。国から許可を得た人は、ワープサーチを習得できるのよ」
「ワープサーチ?」
ゲームには無かったし聞き慣れない魔法だ。しかし、名前で効果はなんとなく予想がつく。
「人がどこにワープしたかを特定して、自身もそこにワープできるの」
「ええっ。スゴい!」
それを使えば犯人がどこに行ったのかを特定できるが、悪用されないように許可を得た人だけが使える制度になってるようだ。
「ただし、他の人がワープを使ってから数分以内じゃないと追えないわ」
どうやら、時間に制限があるらしい。
それなら、すぐに使える人を呼んでこなければ。
「ティエスカの警備団に使える人がいますけど、来てくれるかどうかは……」
マーレスは現場を注意深く確認しながら、警備団の到着を待っていた。
そうか、この世界には電話が無いから一百一十番なんてできない。それなら、どうやって警備団はここに駆けつけるんだろう?
「警備団の人を探しに行きますか?」
「来ないなら自力で見つけるしかない」と思い、シェーナさんやマーレスにそう提案する。
「そうですね!それなら、オレは警備団の人と知り合いなので探しに行きま」
「失礼、気を付けてくれ」
その時、俺達三人の間に誰かが降りてきた。下にいる俺達を心配して注意するその声は、以前にも聞いた事のある厳格な女性の声であった。
「警備団だ。マーレス殿、先ほど空を飛んで何かを探していなかったか?」
「トピエさん……!」
それは、ティエスカの警備団長であるトピエさんだった。
俺こと黒曜の騎士の事を怪しんでいる様子なので、今はムクロンなのに姿を見ただけでビビってしまう。
「トピエ団長!実は先ほど泥棒が現れたので、飛んで捜索いたしました!」
マーレスが経緯をトピエさんに教えてくれた。権力を持つ人が相手でも臆せずに話せる度胸には憧れるな。
「なるほど。そしてこの様子だと、犯人には逃げられたようだな」
トピエさんは鞘から剣を抜き戦闘できる姿勢になった。
なぜそうしたのかわからず、「もしかして斬られる……?」と気が気でない。
「ワープサーチ!」
先ほど話題に上がっていた魔法、ワープサーチをトピエさんが使用した。ウソッ、トピエさんはワープした相手を追っていけるのか。
よし、トピエさんとは絶対に黒曜の騎士状態で会わないようにしよう。前みたいに逃げられないから戦うしかないし、トピエさんは国一番の実力者だからボコボコにされて捕まってしまうかもしれない。
――あれ?昨日、俺が目の前でワープして逃げたのに追って来なかったのはなんでだろう?
「むぅ……。どこだ?」
トピエさんは目をつぶって意識を集中している様子。
「あれは、何をしてるんですか?」
「ワープする際にできる通り道を探っているのよ」
「へぇーー!ワープってそんな仕組みなんですね!」
ワープサーチでは、誰かが使ったワープホールを見つけ出して自分もそこを通っていける魔法のようだ。
……しばらく待っていると、トピエ団長は目を開いた。
「ダメだな、ワープした痕跡が見つからなかった。……犯人はワープを使っていないぞ」
どうやら、ワープサーチは失敗……、というか空振りに終わったらしい。
つまり、あの日本人の青年はワープを使わずに消えたってことになる。
なんだか怪しい。あの青年、もしかしたらマオウグンなのか?
疑い過ぎなのかもしれないが、人が急に消えるなんてワープ以外ではほとんど不可能なので、何か特殊な能力を持った人外の可能性はある。
「ワープじゃないんですか!?」
「それじゃ、犯人はどこに行ったのかしら……」
マオウグンの事を知らないマーレスとシェーナさんは、犯人の逃亡方法がわからずに悩んでいる。
「それについては、我々警備団が現場の付近を調査して解明しよう。被害に遭った店はどこだ?」
すると、先ほど泥棒を追っていた店員らしき男が息を切らしながら路地裏にやってきた。
「はぁ、はぁ……そこにある、私の営んでいる魔道具店です!」
魔道具店だって?よりによって、俺とエオルが働いているお店と同じじゃないか。
なぜマオウグンの疑いがある青年は、よりにもよって魔道具店で万引きをしたんだ?




