第77話 そして もう一ぴき?
「シェーナ。この子が、さっき言ってた子なの?」
玄関のドアを越しに、中から顔を覗かせている若い女性がシェーナさんにそう聞いた。どうやら、マーレスとシェーナさんはこの人の家に尋ねに来ていたようだ。
「そう。ムクロンちゃんよ」
「はじめまして。私はミイヤよ」
ううっ、初対面の美人と会話するのに慣れてないから緊張してしまう。
「は、はじめまして。ムクロンと申します!い、今はプレイヤーという魔道具店で働いてまして……!」
「ウフフ、さっきシェーナから聞いたわ」
「そ、そうなんですか」
シェーナさんはゲームで見慣れているしプロフィールも知っているから話せるが、他の綺麗な女性とはあんまり話せないままだ。
そもそも女性とは何の話題で喋ればいいんだろう。
ファッションやメイクについては何もわからない。
「ミイヤとは幼馴染で、よく旅行に行くのよ。ついこの前温泉に行ったのだけど、別の場所も気になってるのよね。ムクロンちゃんも今度どう?」
「えっ!いや〜、え、遠慮します」
シェーナさんの裸を見たらまた鼻血を出してしまうので、迷惑をかけてしまい、せっかくの旅行が台無しになるだろう。
裸に対してもっと慣れたらぜひご一緒したい。
「そういえば、前は鼻血出してたものね。今は良くなったのかしら?」
「体調は回復したんですけど、長風呂するとまた出ちゃうのかもしれないです」
「そうなのね。治ったらぜひ行きたいわ」
「アハハ……」
シェーナさんもこう言っているから早く治したいんだけど、どうやったら慣れるんだろう。
他の人で耐性をつけても、シェーナさんが俺に対して特効を持っているせいで耐えられないかもしれない。
「ところで、今はなんのお話をしていたんですか?」
お話中に話しかけて失礼したなーと思いつつも、話を切り替える為にそう質問する。
「あー……」
すると、ミイヤさんは突然言葉に詰まり、シェーナさんとマーレスも困った様子で顔を見合わせていた。
――なにやら、ただならぬ事が起きた様子だ。
「どうする姉さん?」
「聞いたら不安になるかもしれないわね……」
「そうね。どうするのが正解なのかな」
三人して、何かを秘密にするか、それとも伝えるかで相談を始めた。
「えーっと、ムクロンさんってスービエ村の近くって行く?」
悩んだ末にミイヤさんから出てきたのは、まさかのスービエ村に関する質問だった。
「仕事で行きますけど、それがなにか?」
「あちゃー。……なるほどね。どうする?シェーナとマーレス」
一体何について相談しているんだろう。俺には言えない、不安になる、スービエ村に関する驚きの情報とは一体……。
あっ、モンスター連続惨殺事件の事だろうか?
「村人の方が、森でモンスターの死体がたくさん見つかったって言ってたのと関係ありますか?」
そう質問すると、三人の動きがピタッと止まった。
「ムクロンちゃん、もう知ってたのね」
「フォイユさん辺りが言ったのかな?」
どうやら俺の予想は当たっていたようだ。
この事件についてはトピエ団長にも報告していないし、まだ国も把握していないので三人も不安になっていたのだろう。
「でも、安心してくださいムクロンさん!犯人は俺達が倒しましたから!」
「へぇー……え!?」
いや、それはおかしい。犯人である鬼は俺が倒したはずだ。
それなら、マーレスは一体誰を倒したっていうんだ?
「ち、ちなみに犯人って一体?」
「全身が真っ赤で、頭に角が生えた人で――うぐっ!」
その時、シェーナさんが咄嗟にマーレスの口を手で抑えた。
「声が大きいわよ」
そう小声で注意すると、マーレスはハッとした後に大人しくなり、ミイヤさんは「やれやれ……」という表情で頭を抱えていた。二人とも、マーレスがやらかすのには慣れっこなようだ。
「マーレス、あんた女子の前でかっこつけようとし過ぎよ。騒ぎになったらどうするの」
「ごめん、つい……」
ミイヤさんもシェーナさんに続いてマーレスを叱る。すると、マーレスは反省した様子で二人に謝った。
今の話は本当だろうか?
今マーレスが言ってた犯人の特徴は、俺が倒した鬼と一致しているぞ。しかし、ヤツはもう黒い煙と化して消滅したので、この世からヤツに関する全ての異変が解決したはずなのだが……。
「それ、いつの話ですか?」
「ついさっきよ。それで、新種のモンスターかと思って、モンスターに詳しいミイヤに相談に来てたの」
「赤い肌で、剣を持ってて倒れたら黒い煙になるモンスターなんて聞いた事ないわ、きっと新種よ」
今朝遭遇しただと。しかも、持っているのが金棒じゃなくて剣だって?
一体どういう事だ。鬼は、もう一体居たのか?




