第59話 そっけないエオル
俺とエオルが案内された店は、昨日の夜にエイダとも訪れた、シェーナさんの行きつけの西洋料理のお店だった。
「一度、エオルちゃんとも来たかったのよねー。ムクロンちゃん、昨日と同じ店だけど良いかしら?」
「私は全然構いませんよ」
また一緒にご飯を食べられるだけありがたいのに、文句を言うだなんてとんでもない。シェーナさんと食べられるならそれだけで最高で幸せだ。
「三名で」
二つの席がテーブルを挟んで向かい合わせになっている四人席に座ったのだが、エオルは俺の隣ではなく俺の反対側に座っているシェーナさんの隣に座った。
てっきり、いつも一緒に居る俺の横に座るのかと思ったが違った。
もしかして、あの二人ってそんなに仲良いのだろうか?
しかし、今朝までシェーナさんはエオルの事を「店長さん」と呼んでいたし距離が遠いように見えたが。
「私はサンドイッチにしようかしら」
「私はグラタンで」
昨日シェーナさんが食べてて美味しそうだったから、同じ物を頼んでみよう。
それにお店のは焼きたてだし、ポーチから取り出して熱風を魔法で出して温めた料理よりも格段に美味しいはずだ。
「僕はパスタにします!」
エオルが頼んだのは昨晩エイダが食べていたパスタか。アレも美味しそうだったが、昨日の事を思い出しそうで俺は頼めなかった。
「エイダちゃんも昨日、ここのパスタを食べたのよ」
「へ、へぇ〜。そうなんですね……」
エイダの事が話題にあがるとエオルの顔が曇る。エオルも昨日エイダがパスタを頼んだのを知っているから、あえて頼まなくても良かったのに。
それとも、美味しいってエイダも言ってたから気になったのか?
「おまたせしましたー!」
注文してからしばらく経ったら料理が届き、各々の前に置かれた。
「熱っ!はふはふっ、美味し〜い!」
グラタンはめっちゃ熱いけど、めっちゃ美味しかった。
舌をまた火傷してしまったので、ヒール使って治す。
「……うん!パスタも美味しいです!」
「うふふ。エオルちゃんも気に入ってくれたようで何よりだわ」
エオル、良い笑顔で食べているな。それに、シェーナさんとも会話が弾んでる……。
うっ。今、二人が会話しているのを見て、昨日のここでの景色を思い出してしまった。
昨日はエイダだったが、今日は代わりにエオルが居る。
そうか、俺はエオルやここに居る人達を守ったんだな。
モンスターでは無く人と戦うのは心苦しいが……せっかく転移して最強になれたんだ、これからも責任を持って守り続けなければ。
例えその先にどんな悲劇が待ち受けていようと、俺が一人で全てを受け止めないと。
「今日は私が奢ります!」
まず始めに、みんなの財布に入っているお金を守ることから始めよう。
「とても美味しかったです!このお店を紹介してくださりありがとうございました!」
「喜んでくれて嬉しいわ!また来ましょうね!」
店の外に出てシェーナさんと別れの挨拶をし、それぞれが家に向かって帰路についた。
そして、俺は食事中、エオルに対してずっと思っていた事を質問する。
「あのさ、エオル」
「なんですか?」
「おっ……私とあんまり話してくれなくない?」
シェーナさんと店で会ってから俺と全然会話してくれない。
避けられている感が伝わってくるというか……。なんだか、思春期の子供が居る親の気持ちが理解できた気がする。
「えっ、そんな事ないですよ?」
「ほら、今もそっけなく返した」
「別に……そういう気分なだけです」
明らかに普段と態度が違っていて、冷たく扱われている気がする。
きっと、ショッキングな出来事があって疲れたんだろう。
「今から風呂に行くか?」
「いえ……。一人で入ります」
「そっか。……あっ、じゃあ私はこっちだから。また明日なー。でも無理はするなよー!辛かったら休んでいいぞー!」
家に向かうエオルに対して大きく手を振る。明日もお店の仕事があるが、精神的にキツかったら無理せず休んでほしい。
「はい。さようならー」
エオルは小さく手を振り返してくれた。かなり衝撃的な体験をした一日だったが、心の傷がいつか癒えてくれるといいんだが……。
今は一人で色々と悩んでいると思うし、そっとしてあげよう。
いつも来ている銭湯に一人で到着したので風呂に入る。
「ふぅ……」
一人で温泉に入っている間も、「エオルも今入っているのかな。リラックスできてると良いんだけど」という悩みが頭から離れない。
それも人が豹変して襲ってくる事を経験してしまったので、疑心暗鬼、あるいは人間不信になっていなければいいのだが。
俺もあまりリラックスできず、周りの女性の体にも全く意識が向かないまま風呂から上がった。
家に帰って来てベッドに横たわる。昨日はここにエイダが居たんだよな。昨日は同居人が居たのだが、居なくなると途端に部屋が広く感じる。
……エイダとの思い出がフラッシュバックしてなかなか寝られないが、街のみんなの安全を確保する為にも、明日は絶対に国にマオウグンについて報告に行かなければ。
マオウグンと名乗る集団が街を狙っている事は国にも共用して、何かしらの対策をしてもらう必要がある。
マオウグン……ゲームには居なかった謎の存在……。
別の世界、特殊能力、それに会話ができるなど、その正体は全てが謎に包まれている。
「知りたい。俺は、何としても正体をこの手で突き止めたい」
もしかしたら、俺が異世界に来た理由を知っている人が現れるかもしれない。
これから、独自に調査を進めよう。
ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます。
基本はコミカルなのですが、基本的に本筋はシリアスですし、各章のラスト付近は絶対に悲劇が起こります。
そして、次話から第二章「マオウグン編」が始まります。
・第二章あらすじ 〜マオウグンの存在が判明した事で、黒曜の騎士もその仲間だと疑われる?〜




