第1話 サ終する神ゲーの世界へ
一十年続く長寿コンテンツだったVRMMOゲーム「アンリミテッド・フィールド」のサービス終了まで残り一時間。
サービス開始からプレイしている古参プレイヤーの俺は、ゲームの全クリを目指して頑張っていた。
二時間ぶっ通しでラスボスを倒し続け、ようやく滅多に落ちないレアドロップを入手できた。
「よし。これが、このゲームで唯一俺が入手していないアイテム……!」
拾ってポーチに入れると、派手な演出が画面に出て称号を二つ獲得した。
"アイテムマスター(全てのアイテムを入手する)"と"UFマスター(全ての称号を獲得する)"。
――これで、このゲームの魔法、アイテム、装備を全てゲットできた。
「これで全クリだ。サービス終了まであと一時間だけど間に合った!」
あぁ、達成感がハンパない。一番ハマったゲームなので、人生で一番嬉しい瞬間だ。
「でも、あと一時間でこのゲームの世界に居られなくなるんだよな。魔法や技も全部使えて、全てのアイテムや装備を持ってて、モンスターも全種類討伐したのになぁ」
俺の一十年の頑張りが、たったの一時間で水の泡になると思うと涙が出てきた。
最後は拠点である王都ティエスカに帰って、集めたアイテムを眺める事にした。
そうするだけで思い出が蘇ってきて楽しいはず。
さて、マップを開いてワープだ。
NOW LOADING…
かなり距離があるからロードにも時間がかかる。待っている間に、思わず決して叶わない願望を呟いた。
「あーあ、この世界に行けたらなぁ。こんなに強いんだし、会社に通うだけの現実世界より上手く生きていけそう」
そう言った瞬間、ゲームが突然クラッシュした。
「あれっ、どうしたんだ?」
故障かと思って心配したが、画面はすぐに治った。無事に目的地である拠点にやって来れたが、今度は操作が上手できない。
コントローラーが手元から消えてなくなった。一体どこに行ったんだ?
「あっ、倒れる……」
足元を確認しようとしたら、バランスを崩して拠点のベッドに倒れ込んでしまった。
威力が強かった為か、ベッドは悲惨な音を立ててぶっ壊れた。
「うわ、やっちゃった。てかこのベッドって壊せるんだ……。あれ?UIとかの表示が一つも見えない。設定を変更した記憶は無いぞ?」
ゲーム画面では表示されていた地図やアイテムの選択画面が表示されず、実際に目に映っている情報しか見れない。
「それに、体が少し重たいような気がする」
呼吸をすると、息が何かに当たる。
顔にマスクを付けているのだろうか?
俺は今、ゲームで最強の装備である、まるで黒曜石のような美しい黒色をした伝説の装備、"黒曜の鎧"を装備している。
改めて自分の体を確認すると、全身が黒い鎧に包まれていたので、兜に息が当たっているようだ。
「なんだか様子がおかしい。ゲームの仕様が突然変わったのか?」
外の様子が気になったので、ドアを開けて外に出る。
拠点のドアを開くと、眩しく照りつける太陽や和気あいあいと話すNPC達の姿が見えた。
「おお〜!すごいリアルだな……!」
まるで本当に生きているような自然な動きに感動した。
その時、目の前をホットドッグを持った子供が走って横切った。その時に、とても美味しそうな匂いがしてきた。
「確かに匂いを感じたぞ。こんなの、ゲームじゃありえない」
VRゲームだったが、ゴーグルにはゲーム画面に合わせて匂いが出るなんて、そんな夢の機能は付いていなかった。
「……なるほど。俺はゲームの中に入ったんだな!」
日本人なので、異世界系に慣れ親しんでいる為そう決めつけた。
異世界転移して、大好きだったゲームの中に入るなんて夢みたいだ。
昔から何度も想像していたが、まさか本当に叶うなんて。
「アイテムは引き継いでいるのかな?」
ゲームで入手したアイテムを持ったままなのか気になったので、腰に付けている小さなポーチを覗く。
中には、小さくなったアイテムがぎっしりと詰まっていた。
ゲームだと「明らかに体積が大きい物でも入る事がおかしい」、とプレイヤーからツッコまれていたのだが、どうやらアイテムは小さくなって四次元空間に入っていたようだ。
一目では確認しきれないが、恐らくアイテムは全て引き継いでいるだろう。
それに、鎧を着ているという事はゲームのステータスのまま転移しているので、魔法や技も全て使えるはず。
――つまり俺は、最強の状態で異世界に来たのだ。
ゲームでは、実年齢の二十六歳よりも若い、普通な黒髪の青年のアバターを使っていたし、めっちゃ強い冒険者なので、女子からモテモテになるのは間違いない。
さっそく今ここで兜を脱いで素顔を出してもいいが、この鎧はカッコよくて気に入ってるので、しばらくは装着したままでいよう。




