リダさんの追憶【5】
「このゲームに無理やり参加させられている訳か......」
誰に言う訳でもなく呟いた。
そして、元来の私は当の昔に天寿を全うしていた事実も知る。
「どうやら、俺の言う事を理解して来たみたいだな」
アインは再び穏やかな声音になって私へと答えた。
そこから、穏和な声音のまま、再び口を動かして行く。
「このゲームを終わらせる方法は一つしかない。ゲームと述べたが、そもそもこのゲームに目的はない......いや、正確に言うのなら、この世界を生き抜く事が目的と言うべきか。目的は生きている間に自分で好きに見出だすのが趣向のゲームだ。つまり、最初から与えられた何かがあるわけではないから、エンディングが最初からない」
......。
もう、それはゲームではないんじゃないのか?
「よって、自らゲームオーバーになるしか、このゲームを終わらせる方法はない......だから」
そこまで言うと、アインはどこからとなく剣を取り出して見せた。
「俺と一緒に、この下らないゲーム空間を終わらせないか?」
......そう言う事か。
この世界から逃れる方法......それは、自らの死。
自分の手で、このゲームを終わらせる事。
アインは全てを知った上で、その解決法を死に見出だしたと言う事になる。
「なるほどな。確かにその方法なら、自分でゲームオーバーになるのだから、この世界から脱出する事が可能かも知れない。やって見るだけの価値があるかも知れないな」
こんな下らない世界に、いつまでもご丁寧に付き合っている必要なんかない。
それが、アインなりの回答なのだろう。
そして、前世からずっと一緒だった私も、同じ気持ちになると思ったのだろう。
......あるいは、そう思ってもおかしくはなかったかも知れない。
自分でも気付かない内に、やる気もなかったゲームを無理やりやらされて......ふざけんなって気持ちになってしまうと、自分からゲームオーバーになってやろうかと言う気持ちも、やぶさかではないだろう。
実際、私もそう思った。
別に自分の意思でやろうとすら思ってもいないゲームだ。
むしろ、どうして私がクソ真面目にこのゲームをやる必要があるんだ?
答えは出ている。
やる必要なんかない。
そうは思う。
思うけど、だ?
「悪いが、私はまだ死ぬつもりはないぞ?」
今にも剣を振るおうとして見せたアインに、私はそのまま斬られてやるつもりも無かった。
「まだ分からないのか?」
「お前の言い分は分かったよ。理解もしたし、納得も出来たと思う」
ついでに言えば、アインの選択肢が悪いとは思わない。
けれど、だからと言って、
「必ずしも、私が同じ答えを出すとでも思ったのかい? ゲームを強引にさせられているのは遺憾ではあるが、それでもこの世界が嫌いにはなれない。この世界には、私にとって一杯の生きる楽しみがまだ残ってるからな」
私はゆるやかに笑って答えた。
もう、そこに涙はない。
無意識に、自分がゲームをさせらていた事。
理不尽な転生を、自分でも知らない内にさせられていた事。
そう言った、後ろ向きな思考は、既になくなっていた。
そもそも、こんな考えは私らしくない。
これは私なりのポリシーでもある。
例え、どんなに理不尽であっても、不合理であったとしても。
それでもなんとか前向きに頑張れば、何とかなる!
今まで、そうやって生きて来た。
そして、その生き方は、今後も変える事はないんだろう。
だから、私は考える。
ゲームの世界だから絶望する必要なんかあるんだろうか?
前にいた世界だって、そもそも生きる事に理由を求めていたのか?
生まれて来た事に何の理由があった?
世界は何の為に生まれ、世界はどうして創られたんだ?
答えは出ているだろう。
そんな物など、最初からありはしないのだ。
むしろ『ゲームの為に創られた』と言う、明確な答えがあるこの世界の方が、前々に生きていた私の世界なんかより、ずっと分かりやすくて生きやすいんじゃないのか?
前向きに考えれば、ここに生きる為の希望を見出だす事なんて、幾らでもあるんだ。
それを、単純に理不尽な事されたから、この世界その物を拒否してやるだなんて......余りにも短絡的で、後ろ向き過ぎるだろ?
「私は私だ。どの世界のどこにいても、私は私として楽しくやる。ゲームの世界だとか、そんな事は関係ない」
もう、迷わない。
思った私は、右手をスッ......と虚空に向けた。
同時に、私の右手に光の刃が生まれた。
私の魔力によって生まれた魔法の剣。
オーラブレイドだ。
剣聖杯でルミが使っていたのと同じヤツだな。
もっとも? 私の使うオーラブレイドは、ルミ姫様のよりもかなり段違いに強いけどさ?




