リダさん、地味に正夢を見てから、何故か襲われる【3】
もしかして、この先生は剣の腕こそ天才級だけど、頭のレベルはゴブリン並なのか?
全く、少しバカバカしくなって来た。
とはいえ、こっちにデメリットは皆無に等しい。
負けるとは全く思っていないが、万が一......いや億が一負けたとしても、こっちの台詞は決まってる。
学生です。
「......せめて、学食の白パンを先生が買うって事で手を打ちません?」
私は自分なりの妥協案を口にした。
するとアイン先生はニッと笑って頷いて見せた。
「良いだろう。それで行こうぜ」
アイン先生は好戦的に笑ってから模擬刀を構えてみせた。
その瞬間。
私は、アイン先生の真後ろに立つ。
「インチキ過ぎるスピードだなっ!」
インチキじゃないからな?
普通に動いてるだけだからな?
しかも、ちゃんと反応するアイン先生も、ある意味でかなりの反射神経の持ち主と言えた。
ガッ!
真後ろに立ったとほぼ同時にアイン先生の脳天へと振るった私の模擬刀は、しかしアイン先生の模擬刀で防がれる。
この一撃によって、アイン先生の両手は模擬刀ごと上にあった。
ボディは、当然ガラ空きで。
次の瞬間、正面に移動して来た私が、そのボディ目掛けて模擬刀で突いた。
ドゥゥッッ......
鈍い音がした。
「うぼぉぁっ!」
凄く地味ではあるが、喰らった方はその見た目の百倍はあるだろうダメージを受けていた。
「こ、ここまで力の差があるって言うのかよ」
油汗を額から流しつつ、アインは独りごちてから意識を失う。
意識を失った事で力無く前のめりに倒れた。
やれやれ。
まさか、こんな身近に私をアツくさせてくれる相手がいたとはな。
苦笑しつつ、私は頭の中で魔導式を紡いだ。
治療魔法
多分、必要ないと思ったんだが、取り敢えず回復魔法くらいは掛けて置いた。
治療魔法によって、アイン先生の意識が即座に回復した。
......と、言った所で授業が終了する。
私は模擬刀を軽く手にしながら体育館を後にしようとするが、間もなく思い出した感じでアイン先生へと答えた。
「あ、白パンよろしく」
●○◎○●
「それにしても、やっぱりリダって不可能がないレベルだよね?」
アイン先生からの戦利品でもある白パンをかじりながら言っていたのはルミだ。
「不可能はあるぞ? 少なくとも、イリやみかん達よりは不可能の数が多いと思ってる」
「......うーん」
割りと真剣に物を言ってた私に、ルミは苦笑して何も言えなくなっていた。
彼女からすれば、きっとこの二人も不可能がないに等しい存在だったに違いない。
まぁ、そこはさて置き。
時間は流れて、現在はお昼休み。
もう、最近の定番とも言える中庭のベンチにやって来た私とルミは、やっぱりいつも通りに雑談しながら昼食を取る。
いつもの定番であれば、ここから数分もしない内にフラウがやって来て、雑談仲間が一人増える。
最近は、更にユニクスがやって来て......強引に私の隣に座ろうと躍起になるんだが、今日はまだ来て無いな。
私個人で言うのなら、そっちの方が平穏な昼休みライフをまったり送れるから、来ないなら来ないでも良いと言うか、やぶさかではないのだが。
しかし、居ないなら居ないで気になる事もまた事実。
なんてか、元悪魔の現勇者様は、裏で何をしてるか分からない。
水面下で画策して、私を無駄に疲れさせる様な真似だって、予測の範疇内だ。
居ても居なくても、私の精神にダメージが入る人物と言うのも珍しい。
そんな事を考えていた私がいた所で、フラウと一緒にユニクスも私達の前にやって来た。
なんだかんだで仲が良い二人は、存外良く二人でいる事が多い。
正確に言うのなら、剣聖杯の一件から急速に二人は親密になった感じだな。
どちらにせよ、この二人の絆は仲の良い姉妹の様な間柄なので、私的にも暖かい目で見守ろうと考えている。
......が、だ?
「リダ様、ごきげんよう。そろそろ私の愛に応えてくれる心の準備は出来ましたか?」
「大丈夫だユニクス。それは永遠に出来ない」
ニッコリと変態発言をして来るユニクスに、私もニッコリと笑みで完全否定して見せた。
もう、最近は耐性が付いて来たせいか、特に精神的ダメージを負う事も無くなっていた。
こんなのに慣れたくもないと言うのが、私なりの本音なんだけどな!
「そうですか、困りましたね」
私は困らないから、それで良いんだよ。
ユニクスは言ってから、悩ましげな溜め息を吐いて来た。
妙に色っぽくて魅力のある溜め息なのだが、その対象が女と言う時点で残念な溜め息に変わる。
本当、多角面に残念だよ! この勇者はっ!




