【2】
こうして本戦への出場者が決まり、後は何位通過で本戦に進むかの戦いに変わった所でお昼になる。
例によって、いつものベンチでいつもの様に食事を取る私とルミ。
そこにフラウが加わる感じだ。
この辺は、ここ最近の日常になっていた。
「まずは、全員本戦出場、おめでと~!」
答えたルミは、パンをジョッキに見立てて乾杯をするしぐさだけをして見せる。
「おめでとー!」
私も合わせる形で答え、
「おめでとうです! みんなと私!」
フラウも喜びを分かち合う感じで声を返して来た。
「それにしても、まさかこの三人が全員学年代表で、本戦に行くとはねぇ」
白パンをかじりながら、私は言った。
こんな事を言ったら怒るかもだが、この大会が始まる前までは、ルミ姫様がここまでやれるとは思っていなかった。
フラウは、なんとなくだが上位四人までには入って来ると思ってたんだがね。
「そうだね~。私もまさか観戦組ではなく、出場組になるなんて、実は思ってなかった」
ルミ姫様はニッと笑い、私を見てから再び答えた。
「ありがとう、リダ」
「………は?」
何故かお礼を言われた。
私が何をした?
「貴女と言うお手本がいて、色々教えて貰ったから、私はここまで来れたんだと思う」
……う~ん。
なるほど、そうなるか。
実際、確かに少しはルミに教えたトコはあった。
けど、それは本当に細やかな物で、切っ掛けになる程度のレベルでしかない。
簡素に言うのなら、結局はルミのやる気がモノを言う。
「私がルミにしてあげた事は、言う程の事じゃないよ。ルミの実力だと思うけどな?」
「そうじゃないよ!………ほら、あたしってさ? いつもその、能天気じゃない? マイペースな感じだったから、自分でも本気でやってると思っていても、結局はまだまだ本気になれるトコがあって」
そこまで言うと、ルミは真剣な目で私を見た。
「それを、教えてくれたのがリダだった。だから、私はここまで来れたの」
「そうか」
私はルミに短く頷いてから、快活に笑った。
いやはや、人間ってのは短期間でここまで成長するモノなんだな。
身体だけじゃない、心まで成長している。
充実した時間をどれだけ送れるかで、やっぱり人間のレベルってのは違って来る気がするな。
「わ、私もリダに会えて光栄でした! いや、あの……学生として!」
妙な言い回しをするんじゃないよフラウ。
ただ、気持ちは分かるからツッコミは入れないで置いた。
きっと、フラウとしても私と一緒にいる事で、何か思う所があるのかも知れない。
炎神の祝福も、思えば私が紋様魔法から呼び出した事が切っ掛けだった。
なるほど。
こう考えれば、今の私がこの学園に来た意味は既にあったのかも知れない。
本来の目的は別にあるんだがな。
「ま、ともかく、だ? ここから先は負けても本戦には出場出来るんだ。気楽にやろう」
私は軽く笑った。
………が、ここでハタッと気付いた顔になるルミ姫様がいた。
「ああ………そうだ。あたし次はリダが相手だったぁ………」
とほ~って顔になる。
そうなのだ。
次の戦い以降は、とうとう同じ組代表も当たる様になる。
その最初の形として私とルミの二人が対戦するのだった。
「……相手がリダとか、もう私が勝てる可能性がないよぅ……本気の十分の一とかでも勝ち目ゼロだよ、わ~ん!」
いや、まだ戦ってもいないのに早くも泣いてどうするの!
「気を確かにルミ! 大丈夫! リダだって鬼じゃないから。きっと本来の力の百分の一も出さないと思うから」
「それで、私に勝ち目はあるかなぁ?」
「………」
フラウは押し黙った。
さりげなく、視線もそっぽを向けていた。
「うわ~ん! 負けるの分かってる試合とか、したくないよ~っ!」
その後、ルミを宥めるのに結構苦労させられたのだが、余談だ。
●○◎○●
昼休みも終わり、準決勝が始まる。
第一試合は私とルミ。
第二試合はパラスとフラウだ。
勝った方が決勝進出、負けた方が三位決定戦になる。
通過順位によって本戦の組み合わせが変わるので、出場枠に入っても適当に戦う訳には行かないのだ。
ま、私はそれでもいいがな!
「始め!」
審判のかけ声を受けて、試合開始。
さて、どうしたモノかね。
「お手並み、拝見といこうか」
特に様子見と言うわけでもなかったのだが、敢えて先制をルミに譲る。
「………」
ルミは無言のまま、こちらを見据えている。
とうとう、本気になって私に戦意を向けるか?
いいぞ……それはそれで楽しみだ!
しゅぅぅぅぅ!
………ん?
なんか、ルミの目がおかしい。
てか、口からエクトプラズムみたいなのが出てる!
いや、ルミ姫様!
あんた、緊張し過ぎだ!
もう、魂が口から抜けていた。




