【3】
どの道、今の私がやらないといけない事は、このクラス予選をちゃんと突破して、クラス代表になる事だ。
「やったぁ~! リダと当たらない!」
超ご機嫌のルミ姫様。
どうしてなのかわかるけど、そこまで嬉しいものかねぇ……。
クラス予選は、まず四十人を八人のグループにして、総当たりのグループリーグ戦をする形となる。
良くあるスポーツのグループリーグなんかと同じだ。
八人のグループで一位と二位になった者が予選通過。
五つあるグループから十人だけが勝ち抜く事が出来て、その十人が二次リーグに進出する。
二次リーグは八人から五人になり、やはり同じ総当たり形式で戦う。
五人を二つに分け、それぞれ個別のグループで一位と二位を取った四名がクラス代表と言う事になる。
つまり、晴れてクラス予選突破だ。
この上で行くと、私とルミは互いに違うグループからのスタート。
二次リーグに入ると再抽選されるのだが、取り合えずはクラス一次予選に集中したい。
そんなこんなで初戦だ。
「……本当、運がないな」
対戦相手は早くも項垂れていた。
クラスメートだけに、私の実力は大なり小なり知っていた。
最低でも、授業で鳳凰出してたの見てるからなぁ……そりゃ、良い顔はしないよなぁ。
「安心しなよ、ニース。スペシャル手加減して右手しか使わないから」
私はそう答えて右手をヒラヒラさせていた。
これには、ちょっとカチンと来たニース。
同級生の子で、少し短気なトコもあるが、それなりに気の良い少年でもある。
そこまで仲が良いわけでもなく、別段会話をする事もないけど、守護霊を見ればわかる。
うむ、いいヤツだな。
「右手だけだと? 流石にそれはバカにし過ぎだろ?」
ニースは両手に持ってた模擬刀を構えた。
一応試合だから、殺傷力の低い武器しか使えない。
卵であっても冒険者になる事を前提とした人間の大会なので、武器を使ってはいけないと言う事はないし、魔法も許可されている。
但し、殺すないしそれに値する不必要な攻撃をすれば失格となる。
「おらぁぁぁっ!」
高い掛け声で、ニースは正面から私に模擬刀を振り抜こうとする。
素直な性格だけに、太刀筋も素直だな。
まぁ、これは悪いとは言わないけど、ちょっと素直過ぎる気もするな。
ガキッッ!
模擬刀は私の前で止まった。
まるで見えない壁でもあるかの様に。
実際に見えない壁があるんだけどね。
「……な、なんだと?」
「どうしたニース? 素振りなら、外でやったらどうだい」
「こ、このっ!」
ガキッガキッガキッッ!
何回も私に模擬刀を叩きつけて来るニースだが、全て見えない壁に当たるだけに終わる。
私が戦闘を意識すると、勝手に発動する自動スキルがある。
この壁がそれだ。
発動すると、見えない球体の壁が出来上がり、私を完全に護って見せる。
一定の物理攻撃と魔法攻撃、状態異常攻撃を無効にしてしまう見えない壁は、ニースの斬撃を全く寄せ付ける事はなかった。
「ニース。あんたもう少し鍛えた方が良いね。早さがあったとしても、攻撃力がこれじゃ、私に指一本触れられないよ」
「はぁはぁ……くそっ!」
模擬刀を振り回す様に何回も打ち付けた事で、無駄にスタミナを消費していたのか? 早くも息が上がっていた。
「仕方ない、とっておきを見せてやる!」
………おや?
何をする気だ?
ちょっと、不思議そうに私がみていると、ニースは右手を上に上げ、魔法を自分に掛けて見せる。
補助魔法ってヤツだな。
私も結構使う。
攻撃上昇魔法
防御上昇魔法
身体速度上昇魔法
「お~」
見る限り、戦士か剣士っぽいのに連続で補助を三つもかけて来た。
パチパチパチ。
ちょっと、拍手してやった。
「これが、俺の本気だ!」
ニースは得意気に叫んで見せた。
確かに剣士である事と、ニースが学生である事を考えれば、かなり優秀だと思う。
思うが、だ?
「補助魔法は、もっと学習した方が良いぞ? 剣士なら、きっと自分の強さに繋がる」
「なんだよ、ケチつけるのか?」
「いや、違う。お前は中々見所があると言いたいんだ」
「上から目線で物を言ってんじゃねぇよ!」
やれやれ、短気なのも減点だ。
短気は損気だぞ、ニース。
ガシッ!
補助魔法で強化され、威力と鋭さが増した斬撃を、私は右手で掴んだ。
まだまだ私の防御壁を破るには値しない威力だが、ニースの努力は認めてやりたいと思った。
よって、私も敢えて手を動かした。
「剣をメインとしているのに、しっかりと補助魔法を三つも即座に使える様にした、ニースの努力は称賛に値する」
よって、ニースを称える為に少しだけ見せてやろう。
会長の力をな。




