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「まぁ、元サヤに戻って良かったわね。」
「良かったです。」
「二人には、お世話になりました。」
居酒屋のん兵衛にて二人には、事の顛末と婚約したことを報告した。
「いつ、結婚するの?」
「卒業したら、すぐに。」
「あれ、就職して2年は結婚しないんじゃなかったの?」
「そのつもりだったんだけどね。
でも彼と、これからもずっと一緒にいたいから、なるべく早く結婚したいって思って。」
あれ以来、彼への思いをなるべく伝えるようにしたせいか、最近では恥ずかしいという気持ちが薄くなって、すっと言葉が出てくるようになった。
二人を見ると、夏木さんはともかく美里さんまで顔を赤くしている。
「あんた、その顔は反則だわ。
普段、割りと無表情ぎみなのに、何、今の全開の笑顔。
ギャップが半端ないわ。
これは、あいつ、心配でしょうね。」
「心配なんていらないよ。
私が好きなのは、誠だけだから。」
「はぁぁ、ごちそうさま。
恋愛ってのは女を変える、良い見本ね。
んで、心は順調そうだけど、身体の方はどうなの。」
「ちょっ、美里さん?!」
「良いじゃない。
私達の間で隠し事なんて、つれないじゃない。
舞が聞くなら、私と太一の馴れ初めから今に至るまで、それはもう事細かに聞かせてあげるわよ。」
「や、やめてくださいぃぃ。」
「遠慮しておきます、今は。
そちらも順調そうで何よりです。
その件は一、あ、誠からLINEだ。
もうすぐ着くって。
今日はこれで、またね。」
割り勘のお金を美里さんに渡して、そっと耳打ちをしてから出口に向かった。
「あはっ、高坂舞、やっぱり、あんたは最高に楽しい友達よ。」
後ろから聞こえる美里さんの笑い声を背に出口っへ向かうと、彼が出口の階段を降りてくるのが見えて、私は駆け出した。
「美里、どうしたんですか?」
「舞、あいつのプロポーズを受ける時に一つお願いしたんだって。」
「何だか怖いですね。
お願いって何ですか?」
「結婚式のバージンロードは、ヴァージンで歩きたい。」
「それは、その、何て言うか、すごいですね、舞さんて。」
「あれは、天然の小悪魔よ。
最近、よく笑うようになって、あのギャップにやられた男どもが結構いるのよ。
あいつも戦々恐々ってところかしら。
ほら、見て。
舞の腰に腕をまわして、男どもを威嚇してるわ。
それに、舞を見る目、あれはもう野獣のソレね。
気づいていないのは舞だけよ。」
「大丈夫ですかね。」
「大丈夫なんじゃない。
また、喧嘩することはあっても二人で解決していきそうじゃない。
まぁ、次からは周りを巻き込まないで欲しいわね。」
「そう言えば、舞さんの話で気づいたんですけど、桐生先輩の浮気相手、異動するらしいんです。
それで、その送別会でベロベロに酔っ払った挙げ句、桐生先輩の愚痴を言ったって同期が教えてくれたんですけど。」
「未練がましい女ね。
何て言ってたの。」
「それが、酔っぱらってるせいで大半は、支離滅裂。
よく分からなかったらしいんですけど、桐生のバカヤローとか私は、舞じゃない、やるなら最後までしろーとか言って、泣くは、暴れるわで大変だったとか。
彼女が桐生先輩にご執心だったのは有名な話で、舞さんには黙ってましたけど、桐生先輩、会社の上司や先輩、同期や俺たち皆に婚約したことや卒業と同時に結婚する事を今まで見たことがない、それはにやけた顔で報告してるので、失恋でよく分からない戯言を言ったんだろうって事でその場は収まったらしいんです。」
「・・・それって、つまり、そういうこと。」
「・・・多分。」
「うわぁ、浮気女に同情なんてしたくないけど、気の毒ね。」
「そうですね。」
「知らぬが仏、聞かなかった事にしましょ。」
小さく漏らした声は、周りの雑音に掻き消えて、誰の耳にも届かなかった。




