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よろしくお願いします
なかなか更新できませんがじっくり進めていきたいと思います
未だに目覚める気配の見せない二人の美女たち。外はもう日が沈んでから結構経っている。
メニューを開き時間を確認すると午後十一時を回っていた。現実世界では午後十時二十分辺りだ。目を覚ますまで起きておきたかったが、現実でもゲームでも睡眠は必要だ。
リリーちゃんにも睡眠は必要だ、寝不足でお肌が荒れたら大変だもんね! ということでここは我が眷属たちに頑張ってもらおうかな。いや木偶にも看病を任せておかないと。目覚めて最初に目に映ったものが馬鹿でかいムカデや巨大なハエだったら心臓に悪い、もしかしたら本当に止まるかもしれない。
「頼んだよ、木偶子」
無表情のまま静かに頷くと無駄のない動きで水のはった桶や綺麗な布を探し出し、さっそく看病を始めた。気の利くいい女の子だ、話せないのはしょうがないけどさ。最初はモンスター相手に囮役というか、餌役みたいなことをしてもらおうかと思っていたけど今更そんなこと出来ないよね、見た目完全に私だし。
何か起こったらリリーちゃんを起こしてくれるだろうし、みんな優秀だから大丈夫だろう、みんなよろしくね!
ログアウトしたらすぐそばで香子さんが立ちこちらを覗き込んでいた。最近仕事が忙しいようで食事の時間に度々愚痴りに来ているのだがこうして夜に来ることはない。何かあったのだろうか?
「香子さんどうしたんですか? こんな時間に珍しいですね」
「美空に聞いたけど、まだあの子と会ってないのよね? 一応美空が使ってるキャラクターの写真を貰ってきたわ、はいこれよ。あの子と貴女のも持ってくるって約束しちゃったからお願いできるかしら」
ああ、そうだった、まあ私だけなのかはわからないけど別の場所からスタートだったからね。アメリアでもプレイヤーが多すぎて分からなかったし、忘れてたのも事実だ。その前にどんな姿で何て名前かもわからないのに会えるわけがない。実際の美空ちゃんは以前香子さんに写真を見せてもらっていたから知ってはいたが、ブレイブソウルではどんな感じなんだろうか、いま香子さんから私のオモイカネに写真が送られてきた。
「これが美空ちゃんのキャラクターですか、名前は「アヤメ」って言うんですね。小躯人か、小っちゃくて可愛い」
オモイカネの外部モニタに映し出されたのは小さい体の少女、皮装備に身を包み背には剣を担いでいる。市松人形みたいなおかっぱ頭と一重、小さい口に鼻。何もかもが小さい、可愛い、なでなでしたい、ハグしたい。
「そうでしょ~、幼いころの美空にそっくりだわ。あ、美空が『アメリア』ってところを拠点にしてるって言ってたわよ。あの子って人見知りが激しいっていうかさ、ほとんど一人で進めてるみたいなのよ。あんまりこのゲームのことは詳しくはないんだけど化け物と戦ったりするんでしょ? あんな優しい、大人しい子が大丈夫なのかしら」
確かに以前見た写真の様子では虫も殺せぬような、戦いとは無縁そうな可愛らしい娘さんだったからね、心配なのは無理もないだろうけどさ、このキャラ写真を見た限りでは心配なさそうだ。小さい体ではあるが背中にはその身長よりも長いであろう抜身の波打つ刃を持つ剣が。フランベルジュだっけか、斬りつけた相手の傷の治りを遅らせ殺傷能力を高めた脅威の剣、ずいぶんとまあ可愛らしい顔に似合わず物騒なものを持っている。
柄や鍔には細工が施され細かく何かが彫ってあるようだ、よくみるとその曲がりくねった刀身にも細かく彫られている、芸術品といっても過言ではない。見た感じ剣の質もいいようだしこの意匠だ、高かっただろうし結構このゲームを楽しんでいるようだ。あまり心配はいらなさそうだ。
その小さい体でこの長いフランベルジュをどう使って戦闘するのか見てみたいものだが、まだ時間がかかりそうだ。あのエルフたちのこともあるしね。
「まあまだ行けませんがじきに『アメリア』へ向かうとお伝えください。あと今そちらに私が使っているキャラの写真を送りました」
「……うん、確かにって貴女の姿どこか変じゃないかしら。少しだけデモムービーとかいろいろ見たことあるけどさ、獣人? とか精なんとか人とも違うようだし、もちろん美空とも全然違うんじゃない?」
意外だ、あまりゲームには詳しくないのにね。美空ちゃんと一緒に見たのかな、仲の良いことで。
「私の種族は蟲人って言います、ベースはカマキリです。結構レアなんですよ、珍しいんです」
私の言葉に眉間にシワを寄せ半歩ほど後ずさりしてしまった。
「げぇ、ハルちゃんって虫人間になってるの? 殺虫剤とかあったらすぐ死んじゃいそうね」
「そんな縁起でもない、医者が患者の前で「すぐ死んじゃう」とか言わないほうが良いですよ。誰が聞いてるともしれないし。それに良いもんですよ、虫人間。正確にはカマキリ女ですけどね!」
手で鎌を作っておどけて見せたのだが、若干引いてるようだ。その冷たい目、ゾクゾクするよぉ。
「そ、そう、カマキリ女ね。まあ楽しんでるなら何も文句はないけど。もう遅いから帰るわね、ありがと」
チュッ、と帰り際に私の頬に柔らかな感触を残し去っていく。その後姿を呆然と見送り、一時思考停止。寝ようか、いやお風呂というか体を拭いてスッキリしよ。顔は洗いませんがね!
興奮して寝付けなかったが慣れとは怖いものでなんとか午前六時前に起きれた。五分前にログインし神殿で時間を潰すとしましょう。サイトを流し見て情報をチェックしましょうか。おや、どうやらイベントを行うらしい。
『第一回武闘大会・生産品展示会及びオークション』
どちらも出場者・出品者は転星者つまりプレイヤーのみ参加可能のようだが、オークションはNPCも参加できると。武闘大会には興味はないのだが展示会には出品したいね。自分の作品が他人に評価されるというのはなかなか得難い経験だ、それがゲームの中のことであってもね。
展示会では作品毎にアンケートボックスが設けてありそれで評価を得られるとか。何を作ろうかな、まあ追々考えるとしましょうか。受付はもう開始されてるけど、まだ日にち的に猶予はある。ゲーム時間で九日後だ。
もうすぐ六時だが、この日も掲示板は見ていない。特に理由はない、前までは一人だったから寂しくなるとか思っていたけど、今はリリーちゃんやリーラ、我が眷属たちがいるからね。面倒というか、一度見てしまったら時間を忘れてしまうんだよなぁ。見てはいけない、魔の領域。さあ、もう時間だ、あの子たちは目を覚ましたかな?
「ふう、おはようリリーちゃん、木偶子。あの二人の様子はどうかな、起きた?」
めずらしくリリーちゃんが私より先に起きていた。起き抜けのゴスロリ美女というのも悪くない。
「おはようございます、フウカさん。彼女たちは未だ眠ったままです」
そう言いながら心配そうに口をきつく結ぶ。
「ん~、まあそのうち起きるでしょ。心配したところでどうなるわけでもないしね。それよりも展示会に出品するもの考えましょ。あの子たちは木偶子とグロリアに任せましょう」
そういいながらちょっと様子を見ましょう。エルフとダークエルフが寝ているが、おでこに手ぬぐいか何かをのせているようだ。あれ、手ぬぐいにしては分厚い、とか思ってよく見たらウネウネ小刻みに動いている。なんだ手ぬぐいじゃなくてリア子ちゃんか、うむよろしい。ここは君たちに任せた。
リリーちゃんは重位と訓練。レベルは上がらないが確実に強くなる、私もしてもらおうかな。
さて私は機織りだ、展示会用のものを織るとしよう。何を出すかは決めてある、白無垢にしよう。頭は綿帽子にするか角隠しにするかは決めていないけど。そのままでもいいけど白に染めて織っていこうか。
「懐刀と扇子と筥迫も作らないとね、懐刀はまあそれっぽくしとこうかな」
カタン、トントン、カタン、シュッ。この音はいい、落ち着くねぇ。
気分よく織っていたが、音もなく近くに寄ってきた木偶子に肩を叩かれた。
おや、どうやら起きたみたいだね。
「邪魔するよぉー」
ドアを開けると十二歳ほどの貫頭衣を着た少女が、上体を起こし何やら両手を見て呆然としていた。私の気配にようやく気付いたのか私と見つめ合うこと数秒。その垂れ目気味の潤んだ紅い瞳、うん超可愛い、じゃなくてやはりアルビノだ。
「も、もしそなたはここの主であるのか?」
おおう、なんと高貴そうな話し方。相当な身分なんだろうな、これタメ口じゃだめだよね。
「はい、今は私が使わせてもらっています。え~と、お体の調子は如何ですか、今甘くて栄養のある飲み物を用意させてますので、もう少しお待ちください」
「おお、それはすまないの。どうやら今の状況を見ると妾たちはそなたらに助けられたと見るべきだの、違うかえ? 」
口調が、ザ・平安って感じ。
「はい、その通りです。しかし、見ての通り未だにお連れの方が目を覚まされない状況でして」
「いや、礼を言う。妾がこうして目覚めておるのだ、ユーラも目覚めぬはずがない」
そうして、ダークエルフの「ユーラ」と言ったか、黒髪の短く逆立った頭を慈しむような穏やかな眼をしながら撫でている。まるでその場だけ見えない壁で仕切られているように近づけない、絶対的な信頼感と言うものを感じるし、無粋と言うものだ。目の保養でもあるがね。
木偶子がお盆に青いガラスでできたティーポットと真っ白なマグカップを載せて入ってきた。
「どうやらお飲み物の用意ができたようです、ゆっくりと味わいください」
ティーポットから黄金色のジュースを注ぎ込む。あたりに柑橘系の爽やかな香りが漂う、木偶子は何を混ぜたのだろうか、私には到底真似できないな。
「ほう、良い香りじゃ、甘さも丁度いいの。それになんだか力が湧いてくるようじゃ」
ひと口飲んでからはあとはもう止まらない。見るからに高貴と言うかそれなりのご身分だろうが、疑いもせずにこんなにバカスカ飲んでもいいのだろうか。
「あのぉこんな事自分で言うのもなんですが、そんな躊躇せずに飲んでもいいんですか? みたところかなり高貴なやんごとなき方だと見受けられます」
私の言の何にそんなにハマったのか、口に手を当てコロコロと笑い出した。上品だ。
「済まぬの、妾はこう見えても勘は鋭いほうでの。それに先程からの態度と今の言を聞いて確信したわ、そなた妾の事を知らぬということは相当の時が過ぎているようだの。これでも有名であったし」
笑ってはいるがその紅い瞳にはどこか寂しさが滲んでいる。確かにボスが少なくとも一回は交代しているのだ、かなり時間は過ぎているはずだが、知らないのは私がプレイヤーだからと言うのもある。
「申し訳ありません、わたくし転星者のフウカと申します。なにぶんこちらに来たのも最近の事でしてわたくしにはわかりませんが、もう一人のものをお連れします、しばしお待ちください」
木偶子にリリーちゃんを呼びにいかせる。まあリリーちゃんも知らないだろう、結晶化を解除したときにも知ってるそぶりは見せなかったからね。でも有名らしいから過去にそういう人がいたら思い出すかもしれない。
「そんなに畏まらなくてもよいぞ、妾は昔からこの話し方じゃからの気にすることはない。おお、そうじゃまだ名前も言ってなかったの、妾は「ウルメ・リーファ・エルヴァニコ」と申す。フウカ殿は命の恩人だ、是非「ウル」と呼んでくれ。」
「いいんですか? ではお言葉に甘えてウルちゃんって呼んでも? 堅っ苦しいのは苦手なんで」
一か八か踏み込んでみました。するとまた口に手を当て上品に笑い出す。漂う雰囲気は高貴で気品にあふれているがその表情は年相応の無邪気さが感じられた。
「面白い方じゃのフウカ殿は。ぜひそう呼んでくれ。それにしても転星者とはめずらしいのぅ。しかしフウカ殿は蟲人と見受けられる、妾の知る転星者は普人族しかおらなんだが」
普人族しかいない? βテストは今と同じでいろいろ選べられたらしいし、その前というと本当に初期のころと言うことかな。これは相当昔の予感。
「そうなんですか、最近はいろんな種族の転星者がいるんですよ。まあ私みたいに蟲人なんていう種族はいないらしいですけど」
少しの間たわいもない話をし、ようやくウルちゃんのオーラに慣れたころ、部屋をノックする音が響く。
「失礼します、お目覚めになられたんですね。私は「リリー・ナギア・ブラッドストーン」と申します」
「ほう、これはまた可愛らしい女子じゃな。妾は「ウルメ・リーファ・エルヴァニコ」じゃ。フウカ殿と同様ウルと呼んでくれの」
ウルちゃんの名前を聞いた途端、リリーちゃんは血の気が引くとはまさにこのこと、もともと白い肌がさらに白くなり青白くなっている。目を大きく見開いて口を半開きにし茫然自失としている。いや気絶してない? 白目剥いてる、貴重だ。
「え~とリリーちゃん、大丈夫?」
数分後、私の言葉に我を取り戻したのか慌てて片膝をつき首を垂れる。あれ、やっぱりウルちゃんって物凄い偉い人なんだね。ていうか知ってるんだ。
「も、申し訳ありません。まさかあの霊皇様とはつゆ知らず、無礼なふるまいの数々お許しください。ほらフウカさんも、頭が高いですよ」
「良い良い、フウカ殿にリリー殿は妾たちの命の恩人じゃ。気軽に接してくれるとうれしいのじゃがの」
「ほらほらウルちゃんもこう言ってるんだしね。リリーちゃんもさウルちゃんって呼んでみなよ」
「無理です、フウカさんは転星者だからこの方の偉大さがお分かりになられないんですよ」
「ほほ、まあ無理にとは言わないがの、あまり堅苦しいのは妾も嫌いじゃ」
それから数分の押し問答、結局リリーちゃんはウルメ様と呼ぶことになり過剰な敬語とかはしないように、ということになった。
「済まぬが、少し横にならせてくれぬか。まだ結晶化の影響があるようでの」
そう言うとベットに入り未だ目覚めぬユーラのほうを見ながら眠りについた。
約一時間ほど朝食のためログアウトし、大急ぎでまたログインしたが、二人ともまだ眠っていた。私はさっきの続きといきますか。
順調に織っていると、武器の手入れを終えたリリーちゃんが声をかけてきた。
「ウルメ様のことでお話があります」
「そうね、私は全然分からないけど、リリーちゃんのさっきの行動を見てるとなかなかの人物のようだけど」
「あの方は『精森の宝玉』『雪月の姫』、数百年前に突如姿を消したと言われる精霊帝神にお仕えする巫女様、または霊皇様とも呼ばれております。長寿の精森・邪砂族ですが、実際にウルメ様の顔を見たことのある方は片手で足りるぐらいだと思います。しかし今でも美しさの象徴として語られていますし、その魔法の技量、精森族では霊法と言うらしいですが、神童と言われ魔法の国ブルテトリッシュ導国では神の如く敬われておりますので、未だにその名前と特徴的な白皮紅瞳は知らないものはいないと思います」
うん、手に余る!!




