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霧幻冬のヘキサグラム  作者: 宇野壱文
第4章 Ice × Fire
52/61

第一話 六日前――男と女の友情は成立するのか

 Six days ago 


「で、結局どうなってる?」

 ……ん?

 盤面を睨みながらウンウン唸っていたところで、ふと耳に入ってきたその言葉に顔を上げた。そしたら鳳と目が合って、

「……」

「……」

 伏せた。

「無視しないで」

「え、俺?」

 再び顔を上げるとこくんと頷かれる。どちらが優勢かって事だろうか。そういうの聞かれても困るんだけどな、勘打ちとしては。

「周防。と、副会長」

 違った。さらに獅子堂の名前が加わって、俺の隣で観戦していた当の本人も顔を上げる。そこには辟易とした表情(かお)が張り付いており、多分今鏡で自分の顔を見たらこんな感じなんだろう。

「……チェック」

 構わず白のナイトを動かした。話に付き合う気はないという意思表示。

 それは悪手だ、と獅子堂の目が語っていた。ただし、それはチェスの盤面の事ではなく、

「ははは、今この学園で一番ホットな話題だな、真砂クン」

 コイツに手番を譲り渡してしまった事自体が、だ。下向いて黙考中のポーズを取っとくべきだった。

「……なあ獅子堂、仕事も無いんだしもう帰っていいんじゃね?」

「駄目。待機だって生徒会(私たち)の仕事の内なの」

 知ってるよ何度も聞いたよこのチェス盤だって生徒会の備品で暇潰しの道具なんだろマジ帰りたい。

「……噂だって言うなら、私たちがそれにどう答えてるかも当然知ってるわよね」

「もちろんだとも。だが当の本人たちが目の前にいるのだ、ぜひ生の言葉を聞きたいと思うのが人情というものではないかね!」

「ただのゴシップ好きを人情とは呼ばん」

 身振り手振り交えてのキョウの訴えを獅子堂がバッサリぶった斬る。

「でも気になる。今週入ってからの二人の変わり様は異様」

 と、鳳からのフォローが入る。というか、言い出しっぺがこいつだったな、意外な事に。

 ふむ、と獅子堂と顔を見合わせる。

「「まあ、友達だし」」

「ウッソォ! 絶対そんな距離感じゃないですよ!!」

 なんて理不尽な。

「恋人の距離感とか言われても説得力ないぞ一年書記」

「ちょ、それ二重にヒドい!」

「失敗談を自分からネタにしてたんだから自業自得でしょうに。あと周防はいい加減名前覚えること。三条よ」

 うーい、と雑に返事したらデコを弾かれた。余談だが先週末の三条の逢引は見事に大コケしたらしい、いつもの事らしいが。目当ての男は大学生のボンボンで玉の輿狙いだったそうだ、いつもの事らしいが。どっから見つけてくんだろーな、そーゆーの。

「まあ、三条がどうこうはともかく、距離感とか雰囲気とかそんな形の無いモンで俺らの関係決められても」

「今の二人、近い感じだった」

 こっちの主張ガン無視ですかそうですか。

「副会長、基本的にボディタッチしない」

「ボディタッチって、デコピンじゃん」

 色気もへったくれもありゃしない。

「じゃれあってるようにしか見えない」

「ん? んー……まあ、そうかも?」

 マジ怒りだったらこんなに呑気にしていられるワケもなく、つまり事実である。ただそれだけの事なのに、認めた! と周囲がやにわにざわめき出す。どうすればこいつらの脳内フィルターをひっぺがせるんだろう。

「……本気で殴り合いでも始めて見せようか?」

「嫌だよ怖えよ何物騒な事マジ声で言ってんだよ」

 小声の提案に背筋が粟立つ。冗談と分かり切った台詞だが、込められている鬱憤だけは本物だ。

「はいはいはい! 一昨日の生徒会活動時に二人が肩寄せ合ってたの、わたし目撃しました!」

「うん、知ってる。皆いたから」

 畳み掛けると言わんばかりの三条の発言を鳳が冷静に返す。でも三条は止まらない。鳳に止める気が合ったとも思えないけど。

「いやぁ、もう驚きで作業の手止まっちゃったよ。御多ヶ原先輩なんてすごい髪うねらせてたし」

 横からパソコンの画面覗いただけの事をよくもまあ大袈裟に言えるものだ。あとミタガハラって誰?

「会計の女子の方よ」

 あ、ども。あの午前二時にワラ人形に五寸釘打ち付けてそうなヤツね。時々髪が蠢いてたように見えたのもそのイメージを助長してる。目の錯覚か、せめて『異質性』であって欲しい。

 なお「触れそうな」距離であって「触れて」はいない。ここ割と大事。曰く「乙女の肌に簡単に触れられると思わないでね?」だそうだ。獅子堂優姫はお嬢である。

「じゃれあいと言うならば、昨日一本のペットボトルを回し飲みしているのを目撃したぞ?」

「……ん?」

「あ、それ知ってます! スゴイナチュラルにやってたって!」

「うむ、既に熟年夫婦の雰囲気が」

「その程度の事で騒ぐ歳じゃないってだけよ」

 どんどんヒートアップしてるとこ悪いが、いやちっとも悪いと思ってないが、俺と獅子堂の心中はとっくの昔に冷め切っていた。

「だよな。さっきから色々言ってるけど、だからどうした?」

「……む」

 ああ、キョウ。敏感なのはいいことだ。

 ――さて。これが、例えば相手が輝燐だとしたら、面倒臭い、ただそれだけの事として放置しているだろう。所詮他人事だ、俺も含めて。

 しかし。

「友達だ、そう言ってる」

 その仲を、他人ではないその関係を邪推されて、不機嫌にならない理由があるか?

「お前らの言った事はその回答で全部解決だ――問題あるか?」

 その声音で全員黙らせる。黒のクイーンが動いた。これでこの話題は終わり、ということだ。

 やれやれ、と息を吐く。

「じゃあ、これからは?」

 終わんなかった。というか発展した。

「周防と副会長がただの友達なのは理解した。そこから発展の余地は?」

「知るか」

「否定はしない、と」

 今日は攻めてくるなあ、鳳。お前そんなキャラだっけ?

「ふむ、真砂クンは恋バナが好物だったのかな?」

「ううん、別に」

 そこで否定されても説得力なんてありゃしない。

「むふー、真砂っちも所詮は女子(おなご)でしたなあ」

「失礼極まりない。私はどこからどう見ても女の子」

 憮然とするでもなくむしろ胸を張る鳳。こちらに向き直る。

「それで、副会長に女性的な魅力を感じてる?」

 えっ、それ相手の目の前で訊いちゃうの!? と三条。

「……うーん。微妙」

 答えるんだ!? とまたも三条。

「ほう、私は女として微妙、と」

 硬い声に鳳と三条の顔が強張る。キョウは特段反応を見せなかったが、まあ慣れてるんだろう。自分自身に向けられたものでもないしね。

 ちなみに俺は、苦笑を返した。楽しげにしか聞こえなかったから。

「いやいや。お前はじゅーぶん魅力のある女だって」

 でなきゃ可愛いとか思ったりしないっての。まあ、それは言ってやらないけど。

 あと鳳。何おもむろにメモ帳取り出してメモってんの。

「たださあ。この場合、女性としての魅力ってより、異性としての魅力ってのを訊かれてるんだろ?」

「それは同じじゃないの?」

「いやあ、違うでしょ。その魅力が恋愛対象に求めているものとは限らないし? まあ、その辺憶測でモノ言ってるに過ぎないけどさ」

「いいわよ、なんとなく言わんとしてる事は分かるから。というか建前でしょ、それ。白状しなさい。私がどうこうっていうより貴方が恋愛感情ってものを理解できてないだけでしょう」

「バレたか」

「それはね。私自身偉そうに言える身じゃないけど、だからこそ筒抜けよ」

 つまりは『同類』って事だ。

「という訳で、その辺が微妙によくわかんないってことなんだけど……どうした?」

「どうしたも何もねえ……」

 何だか妙に気勢が削がれている。ふむ、何か今のやり取りに変なとこでもあったか?

「小気味いい、とは今のようなものを指すのだろうねえ」

 キョウの言葉に二人で首を傾げる。それを見て鳳がはあ、と息を吐いたが、それでも追及を続けるのは何と言うか、もはや使命感染みている。

「じゃあ、副会長相手にムラムラしたこととかは?」

 ただ、質問の内容はもう投げやりっぽかったが。

「あん? 何言ってんだお前」

 呆れを顔に出すとダヨネー、と同意の空気が広がる。

「こいつほどエ」

 ――ぽん。

 ロい奴なんてそうはいない。

 皆まで言い切るより早く、とても、とても軽く誰かの手が肩に置かれた。

「…………」

「ぎょわっ!?」

 周りの奴らが一斉に飛び退いた。無理もない。

 俺だって目の前の男の顔中からナイアガラみたいに汗が流れ落ちたらドン引く。

「ど、どしたの、病気?」

「いや……単に重さって奴は体重計で測れるのだけが全てじゃないって思い知っただけだ」

 何を言ってるのかわからないって顔だな? 俺もだ。

「そもそも意味あるのこの質問? 性欲を覚える相手イコール恋愛対象じゃないでしょうに」

「そうそう一分の隙なく獅子堂サンの仰る通り」

 だからその手をどかしてくださいお願いしますゴメンナサイ。

「……では」

 鳳の視線が俺から獅子堂に移った。おおい、まさか今の質問、この大魔王にもする気かい? 地獄が地上に顕現しちまうぜ? いや笑い事でなく。

 ――と、生徒会室の外、廊下から足音が響いてきた。会話の中に割り込んでくるほど耳に届くその音は一音一音の間隔が短く、またどんどん大きくなっていて、要するに廊下を走っている某かは生徒会室に近づいているという事。

「……全く」

 獅子堂が傍から離れて扉へと向かう。何処の誰がお急ぎか知らないが、哀れ、場所が悪かった。稼いだ分以上の時間を奪われる事は想像に難くない。

 扉の窓から姿が映る。獅子堂が扉に手を掛ける、前に、

「生徒会っ! あたしの役に立ちなさいっ!!」

 がらりと勢いよく扉が開くや否や、現れたのは急ブレーキをかけた体勢のままの女子生徒。

 女子にしても小さな背丈。トレードマークともいえる銀髪のツインテール。

 霧学で知らぬ者の方が少ないという隣席のクラスメート、明野心が傲然と言い放った。

「……その前に弁明を聞こうか」

 鋭い眼光に射抜かれて一転「しまった」という顔をする明野。一方、鳳が茶の用意を始め、キョウがゲーム盤を片づけ出す。

「さあ、遊びの時間は終わりだ。本日の生徒会を始めようじゃないか」

 ……面倒な、という言葉が溜め息とともに流れ落ちた。



 生徒会とは、学園に所属する生徒たちの自治組織であり、生徒たちの(おさ)である。

 なんて御大層な事を言っても、所詮は学生。そうそう大きな権限が与えられるはずもない。

 部活動予算の割り振りや学校行事の取り仕切り。まあ、せいぜいこんなものではないだろうか。

 問題を起こした生徒への処罰だとか、新たな行事の追加だとか、一部教師より発言力が強いとか、あと生徒を狙う謎組織に対する自衛行動とか。そんな権限(もの)普通の学校の生徒会は持ち合わせていないだろう。

 詰まる所、霧学(ウチ)の生徒会は普通じゃなかった。ていうか霧学が普通じゃないんだが生徒会が普通でないとだけわかってくれればそれでいい。

 で、だ。権限が強いという事は、その分いろいろな仕事が回されるということでもある。いや、仕事を回す為に権限を強くしてるのか。そんな卵と鶏のどっちが先かはどうでもいいとして。

 そんな霧学生徒会の仕事の一つに次のようなものがある。

 生徒のお悩み相談。

 そんなもんカウンセラーの仕事だろ、と思うがカウンセラーはカウンセラーでちゃんといる。ただ悩みを聞いてもらいたいだけの生徒は皆あちらへ行く。

 こちらへ来るのは精神的ではなく物理的な、つまり実働を伴う悩みの解決を望む生徒たちである。実例を挙げれば、この間の下着ドロの一件とか。

「要するに、便利屋って事だよな」

 自分たちの事は自分たちで解決しろ。

 生徒たちの自主性を尊重すると言えば聞こえはいいが、厄介事を丸投げされている感は否めない。犯罪沙汰にでもならない限り教師が出張ってくる事もないんじゃないだろうか。

 ともかく、机仕事も無いのに放課後残ってたのはそういう訳だ。来るかどうかも分からない飛び込みの相談者を役員全員で待つほどでは流石に無く、持ち回りの当番制。今日はキョウと三条、それに不本意だが俺。獅子堂は俺の付き合い、っていうかこいつが来なきゃ基本生徒会に行かないので、次回からキョウと獅子堂が入れ替わるだろう。鳳は……何でいるんだろう。

「はい」

「ありがと、真砂」

 明野が来客用のカップに口を付ける。その所作は、神秘的な銀の髪色も加えて、まさしく絵になっている。

「やー、ここまで地が違うと羨む気も起きませんよ……」

 それを見て三条がほう、と呟いた。

「――さて、明野女史。本日はどのような要件だろうか」

 落ち着いたところでキョウが切り出す。ええ、と前置きなしに鞄から数枚の紙が取り出された。

「何これ、怪文書?」

「ええ、大方間違ってないわ」

 適当に言っただけだがまさか肯定されると思わなかった。ふうん? と内一枚を手に取って見る。

 ――嗚呼、幻想の調べより産まれ出でしシルバー・ハートよ。

 ……丁寧に折り畳んだ。無心だった。

 そのまま横に流した。受け取った獅子堂が広げて見る。

 丁寧に折り畳まれた。無表情だった。

「怪文書ね」

「怪文書だな」

「いやいや、ラブレターでしょ。そりゃ内容はかなりアレですけど」

 別の紙を見ていた三条から突っ込みが入る。……ふむ。

「明野。お前、文才無い」

「あたしがこんなモノ書くワケないでしょう。腐ってるのはその目? それとも頭?」

 ジト目で見られる。これが一部生徒からはご褒美と呼ばれているらしいが、まったくもって理解不能である。

「随分と多いが、一体何時からだね?」

「週頭よ。これでも一部。あんまりワケわかんない文面だから始めは悪戯と思って捨てちゃったわ」

「確か人には捨てるなと言ってなかったか?」

「ええ、その場では捨てずに持ち帰ったわよ」

 茶を一口飲んでふう、と息を吐く。

「思えばこの対応が悪かったのよね……甘い対応で済ませずに芽の内に刈り取っておくべきだったのよ」

 目に剣呑な光が宿っている。沸々と、いやグツグツと怒りが心中で煮え滾っているのがよく分かる。それでいて優雅な姿勢を崩さないのだから大したものだ。

「何を調子に乗ったのか、翌日また置いてあったのよ。しかも日を追うごとに量も場所も増えていったわ」

「場所?」

「ええ。下駄箱の中どころか、机の中ロッカーの中、挙句の果てには自宅のポストにまで」

「うわ、引く」

 言葉だけでなく身も引き気味になる三条。

「そう。どうりでここ最近ピリピリしてると思った」

「悪いわね、気を遣わせて」

 ソーサーに置かれたカップに二杯目の紅茶が注がれる。この割烹着メイド、人の機微に聡い方らしい。

「ふむ……で、被害はこの怪文書(ラブレター)だけなのかな?」

 片やその紅茶に口を付ける寸前で質問を投げかけたキョウ。人の機微に疎い、訳ではなく単に意地が悪いだけだろう。

「……写真」

「何の?」

「あたしの、写真」

 相手のだったら都合がよかったが流石にそう上手くはいかないか。

「ふむ……盗撮かね?」

「ええ。……全く気付かなかったわ」

 カタカタとティーカップが震えていた。それは姿の見えない某かへの恐怖か。

 否。

「このあたしを出し抜いたつもり……? 自分の顔も見せられない不細工の分際で……!」

 優等生の外面が剥がれ落ちるほどの屈辱と怒りに打ち震えていた。

「……その様子だと他にも何かありそうだな?」

 何気なく一言発した。ただそれだけのことで明野がグアッとこっちを睨みつけてきた。

「こおり。今すぐこいつを探しなさい」

 そう言ってトントントンッと机の上の紙束を指で叩く。

「え、やだ」

 一分の誤解の余地なく断った。

「もう警察に任せていいじゃん、これ」

「馬鹿ね。警察に任せたらあたしがこのストーカー殴れないじゃない」

 その物言いに絶句すればいいのか、成程と納得すればいいのか迷った。迷って、結局溜め息一つ吐く。

「……俺にはどうしてこのチビがモテるのか、未だに理解出来ない」

「世界の真理よ。……誰がチビか」

 いつものように足元を攻撃するには距離があり過ぎたからか、さらに目を細めて睨むに留まる。

 と思ったら、腕を伸ばして襟を掴まれ、ぐい、と顔を引き寄せられた。

「やだ、じゃないわよ。出来るんでしょ? あたしに偏執的な欲望をぶつける相手を探すくらい」

 小声で、しかしドスの利いた声。小柄で、可憐と称される美少女の口から出たものとはとても思えないものだった。

 まあ、そんなことはどうでもよく、「無理」ではなく「やだ」と言った意味を正確に理解されてて何より、と思うだけだ。

 はい、出来ますよ。“Ripple”を使えばあっさり見つかるだろうね。この『異質性』について教えた事はないが、キョウと明野辺りには大体どんな能力か把握されてるようだ。

「何の事だか」

 だからといって俺の方から認めてやる理由はまるで無い。それに“Ripple”にはそこそこ「制限」をかけてる。こんな事で便利使いする気は全く無いんだよ。

「――さて、では具体的にどう対策するか。何か意見はあるかね?」

 そこへぱん、と手を叩く音とともに掣肘が入る。ふん、と鼻を鳴らしながら乱暴に手が離された。乱れた襟を雑に整えながら、隣に尋ねる。

「……止めに入ってくれてもよかったんじゃね?」

「女性の身体的特徴をあげつらう貴方が悪い」

 ちぇっ、と口を尖らせる。まあ、本気で言った訳じゃない。ちょっと甘えた台詞を口にしてみたくなっただけだ。それがわかってるのか向こうの声音にも叱咤するような響きはなかった。

「――ああ周防、もう帰っていいわよ。会長も」

 と、本格的に話し合いが始まる前に獅子堂がそんな事を言ってきた。

「ん? ありがたいけど何故に?」

「何故も何もない。いいから出て行きなさい」

 にべもなく生徒会室から追い出された。背中でぴしゃりと閉まる音により(おんな)(おとこ)が断絶される。

「まあ仕方ないだろう。内容的に男性がいては話せない事もあるだろうしね」

 そういうものか。ああ、そう考えれば明野が俺の言葉に過剰反応したのも納得がいくか。

「男手が必要になる事があればあちらから連絡してくるだろう。女性の秘部を覗き見ようとするのは男性諸兄の性だが、それも愛あってこそ許されるものだからね」

「はいはい」

「突っ込みにも愛は不可欠だぞ、こおりちゃんよ」

 アホな論法を右から左へ聞き流しつつ昇降口へ。割と早く終わったため校内にそこそこ人は残っている。

「反応、といえば」

 靴と一緒に取り出した紙切れをゴミ箱へぽいと捨てる。

「なんか獅子堂のヤツ、変な反応してたじゃん。ほら、お前が昨日の話した時。あれ、なんだったか分かるか?」

 多分キョウに怪訝な目を向けてたように思うんだが。

「ああ……。大したことじゃあない。僕がそれまでずっと黙っていたことに気付いたんだろう」

「……そう言われれば、そうかも」

 結構鳳ばっかり喋ってた印象があるが、普段ならもっとキョウが煽り立てているだろう。

「大した理由では無いよ。キミがはっきり「友達」などとあっさり言うから驚いてしまっただけだ」

 ……枕詞が全く信用できない口振りだった。少なくともしばらくの間呆然としてしまう程度には驚いたという事なのだし。

「お前だって一応俺の友人だろう」

「惰性とお情けで、だがな」

 その言葉に悲しみ、あるいは怒り、反発の感情は浮かんでこない。かといって積極的に同意する訳でもなく、そういうものか、と流されるような軽い頷きだけ心の裡に浮かんで、つまりどうでもいい。その思考自体がキョウの言葉の証明と言っていいだろう。

 友人の事なのに他人事扱い。ああ、こんな感じなのか獅子堂?

「正直、キミが新たに友を作るとは思っていなかったのだが……いや、彼女ならむしろ妥当な所に落ち着いたと言うべきか。よし。しっかり手綱を握り締めていてくれたまえ」

「え、無理。絶対無理」

 そうして何時振りか、二人で学園を出る。

 外は生憎の雨だった。

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