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第七話「夜明け前」

 どれくらい、気を失っていたのか。


 目を開けると、森は夜になっていた。


 梢の隙間から、わずかに星が見えた。風が冷たい。全身が、痛みの塊だった。折れた肋。裂けた皮膚。乾いた血が、肌に貼りついている。指一本動かすのも億劫だった。


 でも――生きている。


 息をするたびに肋が軋み、その痛みが、生きている証だった。皮肉なものだ。痛いほど、生きている。


 右手は、まだリアの紐を握りしめていた。固く。離せば、何かが決定的に終わってしまう気がして。


---


 仰向けのまま、星の隠れた夜空を見上げた。


 その向こうに、いるのだろうか。


 あの、声だけの神が。「感謝せよ」としか言わなかった、あれが。


 感謝など、しない。


 でも、もう怒りでもなかった。


 ただ、静かに決めた。


(生きてやる)


 最初に呟いたときの、諦めの裏返しでも、軽い決意でもない。リアが命を懸けて繋いだこの命で、普通に、当たり前に、しぶとく生きてやる。


 それが、神への答えだ。感謝の代わりに、私が返せる、たった一つの。


 壮大でも、英雄的でもない。ただ、生き続けること。この理不尽な世界で。


(それが、私の反抗だ)


---


 ゆっくりと、身体を起こした。


 骨が悲鳴を上げる。構わず、木に縋って立ち上がった。視界がぐらりと揺れる。それでも、倒れなかった。


 木々の向こうに、かすかな明るみが見えた。


 森の、端だ。


 その先で、空が白み始めている。夜明けが近い。


 そして――その明るみの中に、ちらちらと揺れる光があった。


 松明。一つ、二つ、いくつか。人の声もする。遠く、けれど確かに。


(人だ)


 誰なのかは分からない。盗賊の残党か、それとも別の誰か。でも、少なくとも、化け物ではない。


---


 光の方へ、一歩、踏み出した。


 足がもつれる。それでも、もう一歩。


 リアの紐を握りしめて。


 還らずの森から戻る者など、いないはずだった。


 でも、私は戻る。


 英雄になるためでも、復讐のためでもない。ただ、約束したから。あの子に。


 夜が、明けていく。


 生きている。


 それだけで、今は十分だ。

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