Scene 2 『色欲』の乙女と『怠惰』の科学者
作者のみ人気女キャラランキングNo.1の美樹回です。
ゆくゆくはスタイリッシュエロスを極めていきたい所。
ルーカスの理論が分かる人いるのかなぁ。
「皆様、おはようございます。本日はGal航空をご利用くださいまして、誠にありがとうございます。この便はGal航空156便、オスロ行きで御座います。お座敷をお座りの際は、座敷ベルトをお締め下さい」
機内アナウンスが流れる飛行機内。
まだ見ぬ未踏の地への高揚感、はたまた故郷への望郷で緩める人々。
また、早速と座席に座り、厳しく顔を引き締めてノートパソコンを広げるビジネスマンもいる。
その中で、踏ん反りと席に腰掛ける少女は離陸前の滑走路を窓越しに見つめていた。
白いレースのブラウスに、真鍮色のスカート。
ハーフアップの髪型に取り付けた蒼色のリボン。
少女というより、大人びた色香を漂わせる彼女を見つめた男性達は、思わず目を釘にしる。
「ふう。色々と面倒な手続きがあるものだね。お父さんと海外旅行行った時は、もっとスムーズに搭乗出来たものだけど」
(くく。やはり、そんな堂々とした佇まいでも、『美樹』は高校生なのだな。しょうがあるまい。それに、パスポートの発行をするにしても、お前は『いない事になっているんだ』。偽名のパスポート製造及びその工作は避けては通れまいし、必要以上に面倒であるのは覚悟すべきだ)
「それに関しては、浅羽閣下に感謝しなきゃね。『捕縛結界』を伝って行っても良かったけど、これからの『任務』を前に、観光を息抜きで楽しみたかったし」
そう独り言の様に、『頭の中の悪魔』と会話しながら、少女──『葛葉美樹』は窓に映る蒼く、拡がっている空を望郷の眼で見つめる。
「失礼。お嬢様」
その美樹へ、隣に座った男が話し掛ける。
高級そうなスーツを身に纏い、そして綺麗にワックスで固めた整った髪は、その男がそれなりの『出来た』人柄であると推察出来る。
また、眼は碧眼で、そんじょそこらの日本人ならば、声を掛けられるだけで緊張してしまいそうな絵に描いた様な若い色男であった。
しかし、
「あら? 何か用?」
美樹は苦い顔をし、邪険の表情でそう答える。
「はは。僕に言い寄られた日本人女性は大抵は『即落ち』なんだけどね。流石、『黒炎魔王の淫魔女』。この手のアプローチには手馴れていると見える」
「ああ、そうだね。確かに、『頂くと美味しそう』だね。甘い顔に、雰囲気。足先を舐めてくれる『奴隷』としては申し分無いかも」
「『奴隷』、か。ははは! やっぱり、君は僕が思っていた以上に、『攻略し甲斐』があるよ! 噂通りの大物だ!」
喜々とした男の笑い声に、美樹は更に顔を嫌悪に歪ませる。
否、明らかな『敵意』の眼差しを美樹は男に向ける。
「あなた、『アダム』の人間だね?」
美樹の言葉に、男は頬の緩みを無くし、そのまま口元を歪ませる。
「ああ。そうだとも」
その言葉が早いか否か、空間は突然と紫と赤の骨肉で埋め尽くされる腸壁で囲まれた世界となる。
「『ランク』は?」
様相が様変わりした世界に、美樹と男は相見える。
興味があるのか無いのか、美樹は感情が籠っていないかの様な無機質な声色で質問する。
「『ドイツ支部』の『S』クラスだ。つまり、君と同等のランクという事になるね」
美樹の問いに、男はネクタイを締め直して告げる。
「──あは、」
堂々と自信あり気に告げる男の言葉に、だが美樹は甲高い笑い声を挙げる。
「あは、あはははっ! そっか、私と、同等のランクねぇ?」
嬌声と共に、美樹の腕から多数の血肉色の触手が生え出る。
「その精神力──私の中で、『搾り尽してあげる』よ」
艶やかな笑みと共に、美樹は禍々しい黒炎を手の平に発現させ、男へと駆け出す。
「皆様、本日はGal航空をご利用くださいまして、誠にありがとうございました。お出口は前方と中央と二箇所で御座います」
機内アナウンスと共に、乗客達は飛行機を降りてゆく。
「ありがとう。『美味しかった』よ」
そう、隣の座席に俯いて座っている男の耳元で囁き、美樹は男の持っていた名刺の裏側に『Thanks』と書いたものをスーツの脇に添える。
「もう、二度と会う事も無いけどね」
満足気な笑みを覗かせ、美樹は振り返る事は無く飛行機を降りてゆく。
男が白目を剥いて、涎や様々な体液を垂れ流して死んでいるのを目撃したCAの悲鳴を置き去りにしながら──
「ノルウェーの首都、オセロかぁ。また、随分と遠くに来たね」
空港の屋上で、景色を眺める美樹は独り呟く。
だが、まるで隣に人がいるかの様に視線を脇に。
「ねえ? 『アスモデウス』?」
(く、はは。それは、今のお前の『立ち位置』の事を言っているのか?)
その誰ともない様な美樹の声に、籠った男の声が頭の中を響き渡る。
「両方だよ」
不敵にほくそ笑んで、美樹は言う。
「まるで、周りに怯えてた自分が嘘みたい」
(そうだな。私を宿す前に吊るんでいたあんな不味そうな女どもといる時より、お前はお前らしく振舞っていると思うよ)
「それも、あなたの──そして『京ちゃん』のお陰だよ」
告げた美樹は、どこか寂しそうに眼を細める。
(『恋に臆病で純情なお前』は、全く変わってないのかも知れないがな)
とても愉快そうに笑うアスモデウスの声に、キッと虚空を睨み付け、美樹は口を開く。
「『あなたも同じじゃない』」
(ぬぐ……)
その言葉に、アスモデウスは何時もの達観した様相とは異なる明らかな動揺の口籠りをする。
「今なら分かる。あなた……『恋』してた。とても、とても大切な人がいた。だから、『私に興味を持って宿った』。そして、私に使役された。自ら……望んでね」
(だから、何だと言うのだ?)
「お互い、『色欲』として仲良くしましょうって事」
(ふ、ふふ。何だそれは。だが……そんなお前だからこそ、あの時、ある意味では完全な覚醒を果たしたのかも知れないな。色欲に塗れ、そして穢れを知り、尚も純情に縋り、濁らぬ瞳を持つお前は、誰よりも美しく、可憐で、異性を魅了する力を持っている)
「そうね。純真純情ってものは、だからこそ濁りやすい。白のキャンパスに汚れが目立つのと一緒。じゃあ、私は何色のキャンパスだろうね?」
(く、くく……差し詰め、『紺』ではないか?)
「紺?」
(そうだ。お前の愛しきものの色と我々の色を掛け合わせれば、そうなるであろう)
「ふ、ふふ……そうね。『蒼』と『黒』か。華々しい『紺』になると良いね」
面白可笑しく笑んで、美樹はスッと空間から消え去った。
ノルウェーから更に北にあるイェーベク。
特に観光名所も無い、その町から更に山奥。
鬱蒼とした山々に囲まれた湖の脇に、小さな一軒家があった。
それは、一見は寂れた空き家である。
だが、その下に隠された鉄の扉を開ければ、地下に続く階段が。
降りれば、ブツブツとした沸騰の音や、機械の稼働音が響く『研究設備』が拡がる。
「『ミスリル』、『アダマンタイト』……更に、『オリハルコン』、『ヒヒイロカネ』! ああ、素晴らしい! 『アビス』とは正に楽園だね! こんな人智を何度も覆す様な宝物がたくさんあるなんてっ!」
そこにいる人物は一人だけである。
大きな分析装置や、ビーカー、フラスコに囲まれた設備内で一人、喜々としてデータをパソコンで打ち込む人物──
「ルーカス・ビヤークネス……って言うんだよね? あなたの名前」
「おや。来客かね? これは気付かなかった! 一般人は認知不可能とされる『魔法鉱物』で埋め尽くされた空間にいるとなれば、『力の持ち主』だが、『力の察知』が出来ないとは、どういった理屈かね?」
突如として、頭上から降り立った妖艶とした美樹を前に、とても興味深そうに、ルーカスは問う。
「私は、『特別』なんだよ。それにしても、まるで敵意を感じないけど……私が、『味方』って確証があっての事なのかな?」
「何を馬鹿な事を」
美樹の問いに、ルーカスは鼻で笑う。
「それだったのなら、直ぐに気付かない私を殺す、若しくは拘束するだろう? もし敵だとしても、こうして面と向かって対話出来る程、『話せる』人物である事に変わりはない。私は、出来れば争い事は面倒臭いので避けたくてね。交渉の余地があれば、そちらに賭けるよ」
「へえ。やっぱり、飛び級天才の頭脳は早くて助かるね」
その美樹の言葉に、ルーカスはあからさまな不機嫌な表情を露わにする。
「過去の栄光だよ。今は妻に逃げられ、こうして興味のある研究のみをするだけの、しがないヲタクな中年男性だ」
その言葉に、美樹はルーカスの容姿を改めて見つめる。
無地の黒シャツに薬品で染まった緑や茶、紫の色がこびり付いた白衣を纏う。
やや白髪が混じった黒の長髪は、長い事切っていないのか、胸の辺りまで生え、更には無精髭も生えている。
だが、その痩せた身体の割にはルーカスの肌は若く、血色があった。
「そうだね。まるでお洒落なんて興味が無さそうなマッド・サイエンティストみたい」
「ご名答! 今の私には異性を口説くなんて面倒臭い行為はしたくないんだよ! 定期に稼いだお金で娼婦を雇って、性処理するぐらいだね」
ははは! と、明朗に下種な言葉を言うルーカスに、美樹は少しばかり嫌悪の表情を晒す。
「ああ……悪いね。こんな下種な変態男には幻滅しただろう。君の様な可憐で麗しく、そしてエロティックな雰囲気の素晴らしい女性が私の相手をする必要は無いのだよ?」
そう告げたルーカスは、既に美樹を見ていなかった。
長方形のセルへとピペットで薬液を垂らし込み、装置の格納庫へそれらを入れる作業をしていた。
そして、装置を作動し、また別の装置のモニターへと視線を落とす。
「ほほぅ? 成程、通常の原子吸光では駄目だったが、このICPの様な励起プラズマならば、まあそれなりの精度で溶解した『魔法鉱物』の分析は出来そうだ。ふむ、不思議だね! この『オリハルコン』は亜鉛として分析されるのか!」
モニターへと食い付き、ルーカスは只管に独り言を呟く。
「つまりは、オリハルコンを『この世界の法則』で当て嵌めれば、亜鉛原子と最外郭構造が一致する事になる! ううむ。『アダマンタイト』はそもそもがレーザーでさえも物質がビクともせず、励起すらしないという恐ろしい代物で解析不可であったが、これは大きな収穫だぞ!」
まるで目を輝かせた子供の様に、ルーカスは生き生きとした表情の緩みから、突如として鳴ったタイマーを押して、今度は真剣な表情でビーカーの液体から治具を引き出す。
「うは、うははは! 成功だ」
ルーカスは、口元を吊り上げ、その物体を眺める。
見ると、それは灰色の脳の様な繊維であった。
「それは、何?」
何やら、不気味なその物体に、思わず美樹は質問する。
「うははは! 聞いて驚け、麗しのレディよ」
ルーカスは、その美樹の質問が心底嬉しかったのか、興奮した声で続ける。
「これは、金とアダマンタイトの合金をナノレベルで被覆した『三次元水銀集積回路』だ! どうだ! 凄いだろう!?」
と、告げたルーカスの言葉に、美樹はキョトンとした後、難しく首を捻る。
「そうだね。凄そう」
「どう考えても、そんな態度ではないだろう!? 馬鹿にしてるのかね!?」
後に笑みを覗かして告げる美樹の言葉は、まるで態度とは正逆であった。
それを見透かしたルーカスは言葉を荒げる。
「私も、馬鹿じゃないから、言葉の意味は分かるけど、そんなに凄いものなの?」
「どう考えても凄いだろう!? 先ず、金とアダマンタイトの合金化は、アダムでも成し得なかった快挙だ! アダマンタイトは、先ず蒸着出来ず、また溶液中でイオン化する事も難しい! それを、私は『アビスの概念』から抽出した『氣』と錯体化させ、安定させた! これでも、偉業だ!」
「はあ……?」
また首を捻って美樹は言う。
その態度に腹を立てながらも、ルーカスは続ける。
「そもそも、アダムの『科学とアビスの混合兵器』は、この世界と矛盾した『アビスの概念』を、電気と精神力の親和性、どちらともに優れている金を贅沢に配線化させた適当な代物なんだよ! 『アビス側』と『科学側』の機能の切り替えに、有機ナノチューブから伝わらせた水銀をスイッチングする可変武器もあるがね? それでも、経験則や何より工学的分野を軽視した簡素な造りだ! 明らかに、開発者は『アビス寄り』の技術者である事は言うまでもない!」
一人、語り出すルーカスは、悲しそうに一人で『うん、うん』と頷きながら、再度、その脳の様な物体を見つめる。
「だが、私は『アビス』の力の根源である『氣』というものが、こちらにある『法則や理論』を個とした物質と置き換えられた代物である事を突き止めた! 全く、『理論や法則』が分子と同義であるなんて、相当にクレイジーな世界だね! そこで、今回検証実験でアダマンタイトと『氣』の相互作用……いや、この物質としての安定状態は錯体形成とも言えるね。それを証明したんだ」
最終的に一人納得した様な満足気な表情で、ルーカスは告げる。
「どうだね? 凄いだろう?」
『ここまで説明させておいて、分からない訳ないだろう?』といった表情に、
「あ、あはは……そうだね。確かに、凄いよ?」
美樹は、本当に久方ぶりの苦笑いを浮かべる。
まるで、理解出来ない。
途中からは、まるで暗号と化した言葉の数々に、美樹は思わず嘆息する。
「あなたも、インカネーターでしょ?」
「ああ、勿論だとも」
何を今更、とルーカスもまた首を捻る。
「じゃあ、テスト」
「っ!?」
開口一番、美樹は腕から生やした多量の触手でルーカスを串刺しにしようとする。
その美樹の突如放った殺気に、ルーカスは思わず身構える。
「『氣分子触針』」
ルーカスの言葉に従う様に、触手とルーカスの間にある虚空から水泡が吹きあられ、そこから灰色の杖が浮かび上がる様に出現する。
ルーカスはそれを握り締め、美樹が放った触手を瞬時に受け止める。
だが、それはあくまで一部のみである。
四方、多角の触手の襲撃は止まらない──筈であった。
「いきなり、ビックリするじゃあないか」
しかし、ルーカスは少し驚いたばかりの反応を示すのみであった。
『杖』となった『灰色』は更にその面積を拡げ、触手を受けるのみならず、蜘蛛の巣の様に取り込み、拘束をしていた。
「へえ。これは、何をやったの?」
「溶液に溶かしたニッケルとアダマンタイトの合金を瞬間的に構築し、君の触手を受け止めたんだよ」
「……化学反応で金属を生み出したって事?」
「そう。私の『氣分子触針』は科学とアビスの概念の構成物や理論を保管し、任意に反応させる事が出来る『研究室』なんだ」
「成程ね」
頷き、納得した美樹は取り込まれた触手を動かそうと試みる。
だが、微動だにしない。
普通のダイヤモンドすら、貫き切る威力を持つ美樹の触手。
美樹がよく知りえる『この世界』の物質ならば、抗いようのない異空間から授かった力である。
しかし、ルーカスは生み出した『この世界』と『アビス』の構成物質を掛け合わせた金属は、それすらも容易に受け止め、動きを封じ込めたのだ。
「ああ、無駄だよ。その金属は硬化した後、有機成分と化学的相互作用で尋常では無い程の密着力が生じる。一般人がセメントで固められた物を引き抜くぐらい無謀な事だよ」
「解除出来ないの?」
「解除も何も、『これ』は私の能力で生み出したが、私の能力ではない。君が、その触手への精神力の伝搬を絶つのが、最も安易な解決法だね」
「そう」
嘆息をし、美樹は拘束された触手を、新たに発現させた触手で切り落とす。
「どうだい? 君のお眼鏡に私の力は適ったかね?」
サラサラと粒状になって消えゆく美樹の触手を、興味深く眺めながらルーカスは言う。
「未だ、足りないね」
告げた美樹が手で振り払うと同時、その身体を発生した触手が包むかと思えば、服装は黒のチャイナドレスへと様変わる。
ぴったりと美樹の麗しい身体のシルエットが読み取れ、下半身のスリットの割れ目から僅かに見えそうな股目に、ルーカスは思わず目を奪われる。
「お、おぉっ!?」
同時、先程とは比べ物にならない程の縦横無尽の触手の雨が降る。
だが、美樹に見惚れていたルーカスは、抵抗が遅れ、雁字搦めに四肢を拘束される。
「『こっち』の方はどうかな?」
「ぬ、ぬあ!」
動揺するルーカスへと近付いた美樹は、その股間へと手を当て、囁く様に耳元で告げる。
「こ、これは驚いた。何かね、私に無償でサービスしてくれるという事かね?」
その美樹の放つ異様な程、妖艶な色香に完全に心奪われたルーカスは、息を荒げて言う。
そのルーカスの言葉に、美樹はふふ、と微笑して告げる。
「これは、『前金』だよ。従順な『奴隷』の為のね」
「という訳で、今回の任務からこの『王下直属部隊』、『渦』へ配属する事となったルーカス・ビヤークネスだ。食事、睡眠、性処理、研究! 私が生きる上でやる事はそれ以外に無い! 以上だ。極力、仕事はしたくないので諸君、よろしく!」
煌びやかな黄金と乳白色の装飾物が取り囲むアウトサイダー本部、その中にある『渦』の休息所。
ルーカスは、意気揚々とテーブルに座る者達へと自己紹介をする。
「……新島と同じ匂いがする」
その様子を見ていたセミロングの髪の少女は、如何にも嫌そうな表情の歪みと共に告げる。
「んあ? 夢子、でも、こいつ天才だろ? 俺、馬鹿じゃん」
対し、大柄で無精髭の大男は純粋な表情で首を捻りながら尋ねる。
「はあ……確かに、あんたは馬鹿ね。でも、それ以上に頭がイってそうな所とかが似てそうって言ってんのよ!」
ジト目で、悪態を付いて夢子は言う。
「うはは、凄い言われ様だね。だが、間違いではない」
その様子に、ルーカスは何故だか『うん、うん』と満足気に頷いて見せる。
「……また、随分と個性的な面子が増えたね」
ピンで金髪の前髪を止めた金髪の女性が、苦笑しながら美樹へと振り向く。
「そうね。いや、何というか、予想以上というか……」
「さあ、愛しの美樹よ! それでも、君のお願いならば、何だって聞くぞ! なんて言ったって、私は君の奴隷だからね。全身全霊を持って、君の要望に答えよう」
「特に無いよ」
「うむ。それは残念だ。お、そうだ。快適なマッサージチェア等はどうかね? 私の『固有能力』ならば瞬時に製造出来るが」
「いらないね」
「そうか。早速、奴隷となって、主の為に尽そうと思ったが……まあ良いね」
一人、頷くとルーカスは勝手に奥手のドアを開けて、部屋を去ってゆく。
それを、一同は視線で見送る。
「何か不満でもある? この上無く『誘惑の奴隷』が効いてるみたいだし、美樹ちゃんの『兵隊』として存分に利用出来るんじゃない?」
「そうだけど……従順過ぎて、やり辛いというか。ミシュリーヌみたいに友達感覚なら良いんだけど」
困惑した表情で、美樹は苦笑する。
「何にせよ、『雫』討伐の任務では活躍して貰わないとね」
だが、美樹はその後、口元を吊り上げる。
『王下直属部隊』、『雫』。
『暗殺部隊』と呼ばれる彼等は、ターゲットであるアダムの実力者を人知れず、殺してきた。
中には、次期SSランク候補までもすんなりと『暗殺』した事もあり、そこからも力量の高さが窺える。
「アルバート・テイラー……あの浅羽様が危惧する程の能力の持ち主。気を引き締めなきゃね」
だが、ある程度の情報を美樹は把握している。
今回加入したルーカスも、期待出来る戦力だ。
しかし、美樹の中で、只ならぬ不穏な空気を感じ取っていた事は、他の仲間にも言えなかった。




