Last Scene さようなら
久し振りに大ボリュームな、約15000文字!
3話分の文量になってしまいました……
これでも、色々とカットしています。
これにて、一章は終了です。
『大日本帝国』、『世紀末』、そして、『さようなら』。
全ての答えがこのLast Sceneにあります。
激戦を潜り抜けた京馬ですが、まだ第二部のスタートラインです。
いつになったら終わるんだ……(´Д`)
ラストなのに、新キャラ二名追加という
東京都内にある宿舎。
その一室に、京馬が住む部屋がある。
いつもは、静かで、寂しく蛍光灯が照らし出されるのみのその部屋は、今夜は盛況していた。
「あーわれなネズミは、下水でのたうち回り、硝煙と共に贓物、曝け出すー♪」
ジャー、というシャワーの音と共に、弾む様な声色で、物騒な歌が響いてくる。
「ひえぇー、ヴェロニカの姉貴……またあんな歌、歌ってるわぁ……あ! ちょい、さっちん、ダウト!」
「へっへへーん! はーずれ!」
「ぐ、ぬぬ……!」
喜々とした咲月の声に、加奈子は恨めしそうに床に散在したトランプを掻き集める。
「じゃあ、次いくぞ」
トランプを全て手札にしまった加奈子のゲンナリした表情を意に介せず、京馬がトランプを裏向きに地面に置く。
「ぬぬ……究極のポーカーフェイス、京馬君相手に、このゲームを挑んだのが間違いだったよ……!」
その裏向きのカードをまじまじと見つめ、咲月は苦悶とした表情で悩む。
「ほい!」
「させん」
手を握り、京馬の心情を把握しようとした咲月。
しかし、その行動を読んでいた京馬は、瞬時にその一撃を躱す。
「さっちん! 京馬の手札は後、一枚……! どうにかして、奴の『嘘か誠か』を見極めないと!」
「っく! 分かっているよ、加奈っち! え、ええい! ダウト!」
「残念だったな。俺の、勝ちだ」
「ぬ、ぬああああぁぁぁっ! 負けたー!」
手札を放り投げ、咲月は悔しがる。
「はいはいー京馬、プラス百円追加ねー。ってか、レート低いのに、何で一万円も儲けてんのよっ! この、『能面の詐欺師』め!」
「何だ、その意味分からん肩書きは?」
無表情に首を傾ける京馬は心の中で苦笑する。
「……きょ、京馬、『お兄ちゃん』」
その京馬の服の袖をちょいちょいと引っ張る褐色肌の少女は、おどおどとした声色で京馬に声を掛ける。
「どうした、マリエ?」
「そ、そろそろ、始まる、と、思う……」
顔を伏せたマリエは、京馬の顔を見ずに告げる。
「……こんな可愛い子が、あのマシリフ・マトロフだったなんて、未だに信じられないや」
その様子に、咲月は、はー、と感嘆とした表情で呟く。
「そんな事言ってやるな。咲月も、マリエの『想い』を感じただろ?」
「うん。そう、だよね……」
複雑そうな顔の顰めを苦笑に変えて、咲月は言う。
「ごめんね。咲月お姉ちゃん……償いは、この身に変えて、絶対にするから……!」
マシリフ・マトロフであった時の記憶。
それは、マリエの精神の中にしっかりと刻み込まれていた。
多くの人の命を弄び、屠り、慰みものとしたかつての邪悪な自分。
その災厄と化していた自分の刃は、目の前の明朗活発な少女にも向けられていた。
その罪悪は、例え、一生かけても償い切れないだろう。
「そんな顔しないで」
だが、少女──咲月は優しく笑んで言う。
「『そんな事』、とっくに理解してるし、私は『許してる』。それに」
咲月は、屈託ない笑顔を振りまき、
「マリエちゃんの、『その想い』もしっかり分かってるんだから」
「……!」
不意に、目頭が熱くなる。
視界が滲む。
頬に伝わる、水の滴りが、床下にぽつりと落ちる。
「わ、私は、私はっ……!」
「いいんだよぅ。ほら、私達と一緒に、少しでも償おう? 共に、『皆が幸せになる世界の創造』を、目指してゆこう?」
大声で泣きじゃくるマリエを、咲月は抱き抱える。
「咲月……ありがとう」
「……いいの。昔の皆を殺しちゃった自分と、何だか……重なってる様にも見えるし。えへへ。これって、『偽善』かな?」
無表情に感謝を述べる京馬。
しかし、咲月はそんな短い京馬の言葉で全てを理解していたかのようであった。
「そうかも知れない。だけど、その『偽善』を咎める事はない。いや、そんな事、あっちゃいけない。『許しが許されない』、諦めなくちゃいけない……そんな『世界はあっちゃいけない』」
京馬は、自分に言い聞かせる様に、強く頷いて呟く。
「あれ、なんぞこれ? 釣られ泣き」
その光景を見ていた加奈子は、思わず自分も涙を流している事に気付く。
「お、皆、どうやら『例のニュース』が始まるようだぞ」
そんな中、一人、テレビを見ていたフランツが告げる。
放送していたバラエティ番組が突如、無機質なニュース画面に切り替わり、『臨時ニュースです』という、女性のアナウンサーの鬼気迫った顔がテレビに突然出現する。
「お、やっと始まりやがったか」
バスタオルで髪を拭きながら、ヴェロニカが顔を覗かせる。
「先程、内閣総理大臣から、異例の緊急記者会見が行われると連絡がありました。三十分前の急な連絡であり、我々、報道陣も詳細な内容を把握しておりません。現場の大垣さん」
深刻そうに、そして困惑した表情で告げるアナウンサーの声と共に、テレビの映像が切り替わる。
「こちら、内閣広報室です! 異例である緊急記者会見に、私達も非常に困惑しております。そして……」
一寸、大垣は声を詰まらせる。
その原因は、ズームアップされた映像から容易に把握する事が出来た。
報道陣のカメラと視線が集中する筈の壇上。
そこには、未だ誰も立っていない。
代わりに、その後続、周囲を取り囲む様に、各省庁の大臣、そして──総理大臣が立っていた。
しかし、誰もその壇上へと歩もうとしない。
顔を地面へと向け、『何かに怯えるように』顔を強張らせている。
女の大臣は、既に恐怖で目頭に薄っすらと涙を浮かべていた。
「この……様に、各省庁、総理大臣が後ろに控え、『誰か』を待っています。……皆、何かを怯えているかの様な、異様な光景です。まるで、この日本に何か重大な損失があるかの様な深刻な雰囲気です。あっ、間も無く、発表されるようです! えっ」
部屋内の異様な状態を大垣が伝えていると、『何か』の発表が直ぐに始まると連絡が入る。
だが、壇上にその姿を現した人物を見て、大垣は唖然とした表情となる。
「カシャカシャ、カシャカシャと……煩い音じゃのう」
カメラのシャッター音を煩わしいとした表情で呟き、壇上へと歩む『老人』。
その姿を見て、報道陣たちはざわざわと顔を見合わせる。
一同が感じた『心の声』は、皆、共通していたものであった。
『この老人は、一体、誰だ?』
堂々とした佇まいで壇上に立ち、周囲を見渡す老人に、だがその疑問をぶつける者はいなかった。
否、その老人が放つ圧倒的な威圧に、周囲は声はおろか、喉すらも詰まりそうになる。
それほどまでに、その老人は恐ろしい威厳を放っていたのだ。
「うっ、うっ……」
顔を歪ませ、後ろにいる内閣のメンバーは涙を流していた。
「くく……そうだのう。主らが困惑するのも分かるわい。儂が、誰だか分からんのじゃろう? 無理もあるまい。あんな大昔の画だけでしか容姿を把握出来なかっただろうからな」
口元を歪ませ、老人は口を開いた。
「では、初めに自己紹介をさせてもらおう……儂は、これから『神国統将軍』としてこの国を支配する『織田 信長』。そう、かつてこの日本を支配していた者だ。いや……厳密には、『今も支配して』おるがの」
織田の口から発せられた言葉に、報道陣は驚愕……と、言うより困惑とした表情となる。
『何を馬鹿な』
『本当なのか?』
多くの報道陣は、心内でそう呟いていたであろう。
だが、直接その呟きを問い掛ける者はいなかった。
否、その圧倒的な覇気を放つ超人に、言葉を失っていたのだ。
「儂は、日本にある『アダム』という『裏の世界政府』というべきものの一つに配属し、その日本支部の支部長の座に就いておった。ああ、主らは知らぬのも無理はあるまい。どう足掻いても、主らの様な『この世界の法則に従事』している輩には認識出来ぬ存在であったからな」
その織田から放たれる言葉に、更に周囲は困惑していた。
あまりに突拍子もない話に、ほとんどが猜疑の心情である。
織田は、その様子を本当に、どうしようもなく愚かそうに『見下す』。
「くく。本当に愚かだのう。自分が見てきた『全てが全て』だと勘違いしておる馬鹿者どもが。まあ、それも主達のお陰でもあるのだがな。歴代共々、今まで良い仕事をしてきたのう。矢部 『内閣総理大臣』?」
告げ、織田は後ろに立つ矢部を見る。
「……! いえ、滅相もありません……!」
その織田へ、深々とお辞儀をする矢部。
その矢部の態度に、報道陣全てが驚愕する。
この日本の頂点にいる存在が、緊張した面持ちで頭を下げる光景は信じがたいものであると同時、目の前に立つ老人が、如何に『特別』な存在であるかをはっきりと認識する。
「主も、アダムの『裏方』としてこの時期までよく働いてくれた。『今後のこの国』でも、それ相応の地位で活躍してもらう」
「有り難き……お言葉です!」
お辞儀の姿勢を崩さず告げる矢部。
その忠誠に、織田は満足気に頷き、そして首の位置を戻す。
「さて、続けるかのう。儂が会見を開いたのは、この日本という国で、その『裏世界の世界政府』を討つ為に、数十年かけて構想したものが達成出来た詳細を伝える為じゃ」
喜々として口元を歪ませた織田は、言う。
「銀二。『アビス・ミキサリング・システム』を発動しろ」
その言葉と同時、地が振動する。
「落ち着け。地震ではない」
一寸の大きな揺れで、報道陣が慌てるが、それを織田が言葉で制す。
「……さあ、見えるかの?」
告げた織田は、手を天井へと掲げる。
その手から紫の炎が迸り、報道陣の視線を釘にする。
「これは、主らが今まで見れなかった『アビスの力』という異能の力じゃ。『アダム』は、この力を使い、世界を裏から支配していた。この力で起こり得た『事象』は、別の『事象』へと置き換えられ、多くの世界の傷跡を、主らが知らぬ間に残してきた」
織田は、紫の炎を消し、続ける。
「だが、安心しろ。これからは、この『アビスの力』を主らにも感知出来るよう、儂達が細工をしておいた。理不尽な『事象』に振り回されぬ様になる」
くく、と再び不気味な笑いをする織田は、上空の手をそのままに指を鳴らす。
すると、陰から次々とまた別の人物達が顔を出す。
「こやつらは、これからこの日本を守り、そしてその『アダム』と対峙する隊の重要な戦力となる『アビスの力』を持ったもの。一部は背後にいる『表の存在』をフォローして国政を任せようとも思っている」
織田が手を動かすと、その隣にいた下手なモデルよりも整った顔つきの青年が一歩前に歩み、口を開く。
「初めまして。椎橋 桐人と申します。私達は、『元』アダム日本支部の幹部であり、そしてこれからはアダムの毒牙から皆さま、国民をお守りする『特殊異能対策室』のメンバーです。これから、この日本……いえ、世界は災禍に見舞われるでしょう。ですが、私達が全力で国民をお守りしますので、安心して下さい」
告げ終え、一歩下がった桐人を確認し、織田は続ける。
「この『特殊異能対策室』を中心とし、主らから『適正』ある者を選抜し、軍事強化を行い、今後はそのアダムと戦争をする事となる。それも、『世界の為』だ。暴虐とした『裏の世界政府』へと対抗する為、にな……そして」
織田に、桐人が長方の紙を手渡す。
織田は、ニヤリと口元を深く歪ませた後、その紙を胸元に拡げる。
「この日本は、かつての世界大戦の様に、多くの戦争に巻き込まれる事になる。今までの平和ボケで浸透した『流れ』を消し去り、一人一人が災禍と対峙する意気を持たねばならん。その為、『日本を日本から変え』、『新たな国』として立ち上げる……ふふ、ふは、ふはははは!」
笑い声を挙げて、織田は言う。
「『大日本帝国』! 再び、『戦国としての』我が国を振り返り、そしてその失敗を活かし、君臨しようではないか!」
意気揚々とした言葉の後、織田は笑みを止め、問う。
「儂の発表は以上じゃ。何か、質問はあるか?」
唖然とした報道陣達は、その言葉で我を取り戻し、がやがやと騒然とする。
「そ、それでは──」
凄まじい超越とした存在に、気圧されそうになりながらも、報道陣達は質問を問い掛けてゆく。
「この国を支配し、新たに軍事国家として君臨してアダムに対抗するってか。どんな原理か分かんねえが、国民全体に『アビスの力』を認知させて、数百万の大軍勢で一気に喧嘩をする……思い切った事しやがるぜ」
「ちょ、ヴェロちゃん! 服着てよ!」
テレビで放送された織田の会見が終わり、ヴェロニカが下着姿で告げる。
そのヴェロニカに、あたふたとしながら咲月は叫ぶ。
その手で覆うのは、京馬の眼。
「……それほどまでに、今回の事件で得た報酬は大きかったのだろうな。私が聞いた話によると『神生み』の『天之尾羽張剣』は使えなくなったと言っていたが……全ての国民に『アビスの力』を認識させるという、大規模な装置を作動させる程の強大な『何か』を手に入れたか」
顎に手をやり、思慮に耽っていたフランツは呟く。
「そうですね。恐らく、俺が話した『伊邪那岐』の『亡骸』から抜き取った塊だと思います。少し見ただけで感じました。あの膨大な『マナ』の輝き……並大抵のものじゃない筈です」
心の中で戦慄し、京馬は告げる。
その刹那、着信音が鳴り響く。
「ああ。すみません。俺のですね」
告げ、京馬は着信先を見、そして驚愕する。
「……桐人さんからだ」
その言葉に、周囲は息を呑む。
京馬はゆっくりと携帯電話を耳に当てる。
「もしもし、京馬君。会見、見てくれたかい?」
「はい。凄いですね。まさか、国そのものを乗っ取って、アダムと敵対するなんて」
「ふふ。それは、織田さんの手腕と、長い事支部長をやってきたコネクションのおかげだよ」
「そうなんですか。まあ、サイモンさんが来るまではずっと支部長をやられていましたからね。ところで、用件は何ですか?」
その京馬の問いに少し間を置き、桐人は慎重な静かな口調で続ける。
「ああ。今後の日本について補足したくてね」
「補足……ですか」
「そうだ。まあ見た通りにこの国は以前の様な戦争をする事になる。当然、『アビスの力』を認識する事が出来る一般人からも徴兵をするつもりだ。だが、選抜されるのは、成人を迎え、体力も衰えていない二十代が中心となる」
「それが……補足ですか?」
「うん。そうだね。つまり、君達の『家族』や『友人』は該当しない事になる」
「そうですか……ですが、俺が『救いたい』のは、人単体ではなく『人類』です。身内びいきに、『安心』とは思っていません」
「そうだろうね。だからこその『補足』だよ。それで、京馬君の気持ちが変わるとは思ってない。だけどね」
桐人は、声色を険に変えて言う。
「もし、俺達『大日本帝国』と道を違えるならば……もうそんな『表世界の縁者』達とは会えなくなる。それは、心して欲しい。『二日後』にはこの国は他の国との交流、通信機関も遮断し、連絡も一切取れなくなる」
「そう……ですか」
桐人の告げた『事実』は、京馬もおぼろげに理解していた。
『アダムに残る』という選択肢をすれば、この日本に別れを告げなければならない事を。
「だから、俺は期限を設けた。どうか、真剣に考えてほしい。友達や親族に別れを告げるのにも、充分な期間の筈だ。それこそ、身内びいきだが、君達の大切な人々は全力を持って守ると誓おう」
「ありがとうございます。だけど、何故、桐人さんは──」
桐人の言葉。
その真偽は定かではない。
だが、京馬は知っている。
裏切られたが、『そこ』は間違いなく信頼出来るであろう桐人という『精神』を。
「言っただろう? そこに、俺の計略や算段は無い。君には感謝してるし……正直、本当に申し訳ないと思っている。それだけだ。じゃあ、『二日後』、待っているね」
と、一方的に電話は途切れた。
「……京馬君」
そのやり取りは、聞く耳持った周囲にも聴こえていた。
咲月は、困惑の表情で京馬の名を呟く。
「と、言う訳だそうです。『二日後』まで、恐らくアダムとも連絡は取れないでしょう。だから……それまでに、俺は考えてみます。皆は?」
その問いに、初めに口を開いたのはヴェロニカだった。
「あたいは、とーぜんの事ながらアダムに残るぜ? 面白い博打をしやがるが、それにあたいが乗る理由も無いしな」
「私もだ」
ヴェロニカの言葉に、フランツは頷く。
「……私は、京馬お兄ちゃんの側なら、どこにでも」
顔を伏せ、マリエは告げる。
「同じく。京馬君の判断に任せるよ! ずっと前から私の覚悟は出来てる」
真剣に首を縦に振り、咲月は告げる。
「え、えーと、私はどうしようかなー……いや、アダムには世話になってるし、得体の知れない組織に一人で行くのも怖いかな。何より、さっちんと敵対したくないし。消去法で私も京馬に付いてくよ」
自分で自分に問い掛ける様に頷き、加奈子は言う。
「俺の、判断か……」
その言葉に、京馬は重圧と、それ以上の『決意』を灯す。
約束の日まで『あと一日』。
桐人と共に、『大日本帝国』に付くか。
アダムに残るか。
その二択を迫られる。
京馬は考える。
自分の『世界の創造』の為に、どちらが適切か。
「いいの? 京馬君?」
「ああ。決めた事だ」
住宅街の路地を歩く京馬。
その隣で手を繋ぐ咲月。
二人の後ろに縋る様に付いてゆくマリエ。
白昼であるに関わらず、他の人は歩いていなかった。
通りすがる家の中から喧噪や泣き声が時折、響く。
「皆、この『大日本帝国』となってからは、不安なんだろうな」
「当然だよ。日常が何もかも変わり、知りもしなかった『アビスの力』っていう超常の力を知ってしまったんだから。『この世界』の常識が根付いてる人は混乱するだろうしね」
顔を伏せて、咲月は答える。
「咲月の両親は……本当に、大丈夫だったのか?」
「うん。というか、実は結構前から『アダム』について話して、理解してくれてたし。可笑しいよね。認識出来ない理解し難いものも、パパもママも平気で信じちゃうんだもん」
「理解したふりとかでも?」
「ううん。パパもママも、直接アダム日本支部に行った事があったんだよ。桐人さんやエレンさん、後……サイモンさんのお陰。後は、私の我儘だけど。『さっちゃんが正義の魔法少女を目指すのなら、止めはしない』って言ってくれた。あの時は大変だったけど」
「うちの親なら全力で止めに入るだろうな」
「……冷たい親だなんて思わないで。あれは、血涙を流したくなる位、パパとママの苦渋の決断だったんだから」
告げた咲月は、笑んでいた。
死地に向かう娘の決意を送り出していった両親への溢れるくらいの感謝が、右手から京馬へと伝わる。
……ありがとう、パパ、ママ。
そう心の内で呟いた後、咲月は向日葵の様な笑顔を向けて、口を開く。
「だから、『アダム』が公になって、余計にパパとママは確信したんだ。『世界の創造』を応援してくれた。辛いだろうに、私、涙流しちゃったよ」
「……良い親だな」
「へへっ。パパとママが、パパとママで良かった」
そう告げた途端、咲月は「うっ」と顔を右手で抑える。
「そうだよな。だったら、絶対に『世界の創造』を成功させよう。俺達は、そんな人達の『想い』も背負っている」
「……ゔん」
頬を紅潮させ、顔を震えさせる咲月の声に、京馬は無言で頷いた。
「着いちゃったね」
「ああ。少し……ここで咲月は待っていてくれないか?」
「うん」
都内にある少し小さい一軒家。
それこそが、『表世界にいた』京馬の実家であった。
平日にも関わらず、父親の乗る車が駐車場に止まっており、人の気配が感じられる。
「いくぞ」
(うん。これで……『日常』は完全に手放した事になるわね)
ガブリエルの声が響き、心内で京馬は深く息を吸い込む様に頷く。
玄関のチャイムを鳴らすと、しばらくして恐る恐る女性が顔を出す。
「……どちら様ですか?」
だが、女性は実の息子である京馬に首を傾ける。
(そりゃ、そうだよな)
しかし、京馬はその反応を予測していた。
『現人神』となった京馬は、最早、もう『この世界の住民ではない』。
今更、人々が『アビスの力』を認識出来ようが、以前とは構成因子が異なる京馬という存在は、事実上、『消失』しているのである。
「……いえ、どこかで見た覚え、が」
だが、女性──京馬の母親である奈津江は、京馬にとって衝撃的な反応を示した。
「京馬、という少年を覚えていますか?」
その言葉に、更に奈津江は困惑として、何かを思い出す様に思慮に耽る。
「入って。思い出せない。だけど、君は……『思い出さなきゃいけない』気がする」
困惑の顔をそのままに。
しかし、奈津江は京馬に家に上がる様に促した。
「『大日本帝国』、『アダム』、『アビスの力』……? 馬鹿げている。だが……今の現状、信じるしかない」
京馬宅。居間。
京馬の父親である坂口信繁は、真剣な表情で新聞を広げていた。
「会社も休みになり……不安が続く。一体、世界は……俺達はどうなってしまうんだ」
眉間に皺を寄せ、一人、苦悶とする信繁は呟く。
「あ、あなた……お客さんです」
そんな信繁に、動揺とした表情で告げる奈津江。
「お客さん? 誰だ?」
この異常事態に来る客人。
まさか、部下や上司ではあるまい。
何かの説明をする為に、国の役人が顔を出したというのか。
難しく思慮に耽る信繁の前に、予想外の人物が姿を現す。
「……高校、生?」
「坂口、京馬と言います。……覚えていますか?」
まるで感情が無いかの様な無表情で告げる少年。
……見たことが無い。
信繁は、自分の記憶を辿ってみたが、一向にその少年の顔を思い出せなかった。
「済まない。思い出せない。君は……」
「……いえ。覚えていないのでしたら、結構です」
少年は、無表情で告げる。
「只、別れの挨拶をしたくて」
「別れの……挨拶?」
その言葉に、更に信繁は混乱する。
見た事の無い少年。
その少年が顔を忘れたと告げたのにも関わらず、『別れ』を告げたいと言う。
正直、訳が分からなかった。
「別れも何も、俺は君を知らないと答えただろう?」
「それでも……どうしても伝えたいんです」
間髪入れる少年の言葉に、信繁は思わず閉口する。
「小さかった頃」
少年は、続ける。
「よく、朝早く虫取りに行きましたよね。それで、NBAの試合なんかを見て、一緒にはしゃいで……それのおかげでバスケに興味持つようになったし、勉強でも、仕事で大変なのに、一緒に解いてくれたり、識との喧嘩も間を持って制してくれたし……皆で行ったディスティニーランドの光景、今でも忘れてません」
少年は、ふと奈津江へと視線を向ける。
「あなたも、バスケの練習の為に、いつもスポーツ飲料作ってくれて、バスケ帰りに美味しい料理も作ってくれて、部屋の掃除もしてくれて、『女とは何か』みたいな事をいつも俺に言い聞かせてくれて……あの時は正直ウザいと思ってましたけど、今はもう感謝でしかありません」
少年の言葉に、信繁も奈津江も唖然とする。
自分達には、『子供はいない』。
奈津江が子宮がんになり、子宮を摘出した為、子供が作れなかったのだ。
だから、信繁は会社を一部上場まで伸し上げ、体外受精の資金を稼ごうと気概を持って、これまで仕事をやってきた。
その二人を冒涜する様な少年の有りもしない過去話。
だが、だが……
「今まで、俺を育ててくれて、ありがとうございました」
少年の言葉が、『刺さる』。
目頭を熱くさせる何かが『刺さる』のだ。
京馬。
坂口京馬。
自分達と同じ姓の少年。
何か、自分達が忘れてはいけない、何か。
必死に思い出そうにも、一向にその姿が記憶から呼び覚まされない。
「……俺が、言いたいのはそれだけです。それでは、『さようなら』」
少年は翻し、二人へと背を向ける。
「あ、あなた……」
困惑、否、懇願だろう。
言葉が構築されない。
去りゆく少年へ贈る言葉を、そんな状態の奈津江は信繁に託していた。
奈津江は、眼を潤ませて、信繁に訴える。
ふと、瞬間──一瞬、ほんの、一瞬だけ。
「京……」
言い掛けた手前、バタン、と扉は閉められる。
「京、馬……?」
信繁の記憶の片隅に映った少年の姿。
分からない。
分からない、が。
「う、うう。京……ちゃん?」
二人は、泣き崩れていた。
まるで、少年が生き別れた子供の様に。
そして、手の届かない頂きへと行ってしまった様な……
(──いいの?)
「ああ」
ガブリエルに告げた京馬は、無表情であった。
無表情であったが──
「京、馬くん……?」
京馬の様子を見て、咲月は言葉を掛けるのを躊躇する。
「大丈夫だ。大丈夫……」
「嘘だよ。そんな、涙流して……私には、嘘はつけないんだよ?」
京馬は、無表情の顔をそのままに、頬に滴を垂らしていた。
そんな咲月の手を握り締めた後、溜まりに溜った、京馬の感情が爆発する。
「う、ああぅ、ああああああああ!」
世界に、京馬の『想い』が轟音とする。
周囲一帯を、『蒼』で染め上げ、その眩い世界の中で咲月は京馬を抱き締める。
「父さん、母さん……ごめん……! ありがとう、ありがとう!」
その咲月の胸の中、京馬は顔を歪め、感情を表に出すのであった。
──そして、『一日後』。
桐人との待ち合わせ場所である東京湾の港に、京馬達はいた。
「京馬君……約束通り、来てくれたんだね」
その京馬達の眼前には、桐人。
その後続にはエレン、剛毅、彩乃、静子、志藤。
いない者もいたが、数日前に刃を交えた者達が集まっていた。
「それはそうでしょう。じゃなきゃ、話が進まない」
無表情に、だが京馬は嘆息の気持ちで告げる
「俺が、色々な側面で嘘を付いている可能性もあったんだよ? それなら、思考を張り巡らせて、アダムとの連絡を試みたり、他にも『打開策』はあったはずだ」
「何を言ってるんですか」
しかし、京馬はさも当然の如くといった言葉を紡ぐ。
「桐人さんは、そんな事しないでしょう?」
きっぱりと間を置かずに告げた京馬の言葉に、桐人は呆れ声を漏らす。
「全く……君って奴は」
「それだけ、俺は桐人さんを信じていました。それに……『そんなみみっちい事をしない』ぐらい、『恐ろしく強い』って事も」
「そうか」
言葉に、自然と薄ら笑いを浮かべる桐人。
フッとした自分のか細い笑い声に対し、京馬が微笑んでいる様に桐人は見えた。
「……答えを、聞かせてくれないか」
そして、桐人は京馬に問う。
『大日本帝国』か、『アダム』か。
前者は、夜和泉 静子を始めとした『黄泉帰り』の軍勢、そして桐人、エレン、織田、ウリエル──日本支部の他のインカネーター。更には、『全国民』という驚異的な数の軍勢。
『アダム』には、SSクラスという化け物の化け物、その中で更に頂点に立つ化け物が複数人存在する。
だが、それすらも拮抗、或いは打ち負かす可能性のある『総合力』がある。
その軍勢に身を任せれば、『世界の創造』も幾らか楽になる筈であろう。
だが、
「ここの皆、満場一致で、『アダム』に付きます」
そう、京馬は答えた。
「……何故だい?」
「確かに、『大日本帝国』は強いです。『黄泉帰り』に、フランツさんから聞きましたが、エレンさんも『現人神』となったと。それに、『全国民』という圧倒的な数の戦力。アダムでさえも勝てるかも知れない」
「だったら──」
「それに、これは俺の意地でもあります」
「意地?」
「そうです。俺は……あなたとも『競い合いたい』んです。あなたという頂きを超えて……『世界の創造』をしたい。いえ、何となく分かるんです。『あなたを超えないと出来ない』って」
「そんな、根性論みたいな……」
「そう思ってもらって結構です。だけど……そういう気持ちを信じるのって、人として大切だと思っています」
きっぱりと断言する京馬の顔を、桐人は真剣な表情で見つめる。
だが、一寸の険の表情は、和らぎ、ふふ、という微笑を作り出す。
「済まない。意地悪したね。実は……既に、俺は君がそう言うと確信していたんだよ。茶番だったね」
告げた桐人が、指を鳴らす。
すると、禍々しい異空間を覗かせる扉が、突如として出現する。
「ここを出れば、外部との連絡が取れる孤島へと転送される。そこからならば、全域に拡がる力の遮断域が緩和され、アダムと直接連絡が出来るだろう」
京馬は、首を動かしてその扉を見つめる。
「どうした? 罠だとでも……思うのかい?」
「いえ」
首を振った京馬は、桐人へと眼を向ける。
「桐人さん。今まで、ありがとうございます。多分、あなたみたいな人に出会わなかったら、俺は……ここまで強くはなれなかった」
「それは、そっくりそのままお返しするよ。俺が『ルシファー化』し、止められない暴走を引き起こすという惨事は、実は君のおかげで回避出来た。礼を言う」
その桐人へ、京馬は右手を差し出す。
「『さようなら』。桐人さん」
その右手を見つめ、そして桐人は掴み取る。
「ああ。『さようなら』だ。京馬君」
頷き、ほぼ同時にその手を離す。
そして、京馬達は扉へと入っていった。
「そして、再び『待っているよ』。いつか、君と世界を賭けて争う事を夢見て」
告げた桐人は、満足気な表情で扉から背を向ける。
闇、そのまた次に拡がる闇。
地下に拡がる空洞の先の先、その合間には、異次元への境目で揺らぐ地が一つ。
「ほほう。『ゲヘナ』の貯蔵庫に幾らかアストラルが戻っておるの」
その長大なホール状の『池』には、『蒼』の灯が揺らめいていた。
その『池』と形容出来よう『アストラルの貯蔵庫』、『ゲヘナ』を、病的に青白い肌と血色の女性が眺めていた。
「どう、『モレク』? これでも、必死こいて『黄泉』からこっちに引きずり戻したんだけど」
そこには、三人の人物が佇む。
「だが、シモーヌよ。後、二%程、アストラルが足りん。こりゃ、子供を生贄に捧げてバランスを取らざる得ないよのぅ?」
「するわけないでしょ、このショタコン変態悪魔」
シモーヌの言葉に、さぞ残念気にため息を吐くモレク。
「総統だか何だか知らんが、わっちがこの世界にある死者の魂の管理者である事を忘れるなよ?」
「ふん。逆に『伊邪那美』に遥かに劣るあんたの存在意義なんて、その程度だと言いたいのだけどね」
「ぐ、ぬぬ……! わっちだって、『現界』すれば……!」
「じゃあ、しなさいよ。知ってるわよ。あんたが宿っているその『女の死体』を気に入ってる事くらい。死体の身体で慰めて、その上、男の子が大好きな極上の変態性癖の悪魔……そんなものに、私達の死後のアストラルが管理されていると思うとゾッとするわ」
「う、五月蠅い、五月蠅いっ! 人間の幅広い性癖に比べれば、わっちの趣向もマシだわ!」
「……いえ、どんなに見積もっても、モレク様の性癖は人間とひっくるめても極めて特殊な部類に属するかと」
「っう。マストゥーレに言われると、わっちもグサリとくるわぁ……」
項垂れる青白い肌の女性。
だが、その様子をまるで気にせず、シモーヌは口を開く。
「さて、静子のせいで均衡が崩れそうになったこの世界のアストラルのバランスは、これで保たれたわけだけど……」
「後、二%程足りんと言ったであろう? このままでは、世界はその均衡を保つ為に、『置換した結果』から二%分の命を搾取するぞ?」
「ふん。その均衡を保つ分の死者が出ても、これから起こる『戦争』と比べれば、取るに足りない犠牲者だわ」
告げるシモーヌは、戦慄とした表情を浮かばせていた。
「そうじゃのう……話では、あちらにあのラジエルもいるという話ではないか。奴の持つ『知識』は中々に厄介じゃぞ? 奴は『百聞は一見にしかず』を体現したあらゆる確かな情報を持つ賢者。その情報は、時に武力を勝る強大な武器として牙を剥くじゃろう」
「ふん」
モレクの言葉に、シモーヌは卑下の鼻息を鳴らす。
「『百聞は一見にしかず』? そりゃ、『愚者は経験に学び、賢人は歴史から学ぶ』と同じ、愚かな言葉だわ」
「総統が、日頃から忌み嫌われているオットー・フォン・ビスマルクの言葉ですね」
マストゥーレは、シモーヌが放つ言葉に、顔を沈める。
「聞いて、見ただけじゃ分からない事はたくさんある。そして、他人の経験から学ぶ? 物事を調査して取り組むのは当たり前でしょう。 それに、どんなに過去から学ぼうが、自身の経験を疎かにすれば、馬鹿を見るのは至極、当然の事」
「じゃが、それならば、其方は何が正しいと思える? 愚者が正しくも、賢人が正しくもない。ましてや、見て、聞くだけでは足りないと言う。では、其方は、何が必要で、何が不要と思うのじゃ?」
否定に否定を重ねるシモーヌの言葉に、モレクは首を傾けて問う。
「馬鹿ね。真偽、正負、零か一かの問答は、私にとって最も下らない議論よ」
そのモレクに対し、シモーヌは両手を頭上、水平に。
「先ず、『百見は一行にしかず』。行動しなければ、その物事を十分に把握したとは言えない。頭でっかちな研究者の机上の空論は実に愚かでしょう? そして、『成功者は経験に学び、歴史にも学ぶ』。どちらか一方が必要で、それだけに注力するのは、怠慢を言い訳する愚者だわ」
深いため息を吐いて断言とした口調で言葉を連ねる。
そして、その落胆とした表情をそのままに、
「ジーク! 『ジークフリート』!」
パンパンと、手を鳴らし、叫ぶ。
「ほほう。ほう、ほう。成程、至極全うな意見じゃ」
闇から出てきたのは、美しく、鮮やかな緑色の髪をウェーブさせたシルクドレスの幼女であった。
「その口調、わっちと被るんじゃが」
「小生を、貴様の様な穢わらしい死体と一緒にするでない!」
その少女の言葉に反応したモレクに対し、少女は毒づく。
そうして、舌を出して罵倒する少女の影から、更に巨躯の男が姿を現す。
「は。総統。何で御座いましょうか」
金で幾何学模様を描く、漆黒の鎧に身を包んだ男は片膝を地に付かせ、首を垂れる。
「ジークよ。小生をその身に宿す貴様程の男が……この様な娘に、その様な態度を取るとは。小生、ちと悲しい」
「黙れ、下郎がっ! そんなクリームヒルト様の幼き頃の現身をしおって……! 挙句に、貴様、『男』だろうが! この、女装癖が!」
「酷い言い草じゃのう……知っておるか? 今、日本とか言う大陸では、女装ショタという稀有なジャンルが中々に浸透しておるという事を」
「知らん! というか、貴様……何でスカートをたくし上げる?」
「むふ、むふふ……この見えるか見えまいかの境目。どうじゃ、どうじゃ? 前よりちーとばかし、裾を上げたのじゃ。ほれほれ、盛ってこんか?」
「む、むむむ……! 五月蠅い! 五月蠅い、五月蠅い! ぬ、ああああ! 違う、違うぞぉ……俺は、そんなアブノーマルでは……!」
煽る少女に、それに対して葛藤するジークフリート。
滑稽なその様子に、シモーヌはゲンナリと引き気味な引き攣りの表情となる。
「相変わらずですね。ジーク、そして『ファフニール』」
そんな中、マストゥーレは微笑んでその二人へと口を開く。
「相変わ……! らず、で申し訳ありませぬ! 『隊長殿』っ!」
深く、深く首を垂れるジークフリートに、「いいですよ。顔を上げて下さい」とマストゥーレは優しく告げる。
「ふう……天下のSSクラスの一人『放浪の剣星』が、よもやこんな間抜けな様子なんて、末端のインカネーターどもは信じないでしょうね……」
だが、シモーヌの引き攣りの表情は変わらない。
はあ、と再度ため息を吐いたシモーヌは、ジークフリートへと視線を向ける。
「ジーク。先程、連絡があってね。あの『候補』の一人、京馬とその他大勢が日本から解放されたわ。『特務隊』の顔合わせに丁度良い。あんたが迎えにいってやりなさい」
「……は? それは美龍の役割では……?」
「ああ、『星砕き』はダメージの回復で、ちょっと今は動けなくてね」
「あの『鬼神』が……? ははっ。では、直ぐに」
深くお辞儀をしたジークフリートとファフニールは、地に沈む様に消えてゆく。
「京馬様……ですか。やはり、というか、見事というか。流石、総統が目を掛けた事だけありますね」
「そうね。美龍の話を聞く限り、あいつはまた『管理者を殺した』。肩書きを付けた私も鼻が高いわ」
マストゥーレの言葉に、シモーヌは満足気に頷く。
「さて……これで、あいつの特務隊配属に、異を唱える者はいないでしょう。存分に、働いて貰うわ」
微笑し、シモーヌは想う。
果たして、少年は……その無機質な表情の裏で、何を望み、何を『想って』いるのか。
──色鮮やかな、多彩な波が押し寄せる。その中で、京馬という存在が生み出した『蒼』のうねりは、果敢に鬩ぎ合っていた。
END




